469. Return from the ″ωσи∂єяℓαи∂″ ー目覚めー
ふかふか、ふわふわおふとんは幸せ。
人の体温であたためられたおふとんの中は 最高の寝心地、最適温度。
(うふふふふ///)
″起きらんねー!″
お母さんが階段の下から大声でサクラを呼ぶ。
お母さんは階段を上るのが面倒で二階のサクラの部屋までは上がってこない。
いつも階下で起きろと声をかけるだけ。
(むふぅ///)
サクラは微睡みを楽しむ。
まだ寝ていたいと、おふとんのぬくもりをかみしめる。
″起きらんと、遅れるとよー!″
遅れる?遅刻、、学校?
遅刻しそうになったらきっとお母さんが車で学校まで送ってくれる。
一石二鳥!もうちょと。
(くふふふふ///)
ぬくぬく。幸福。大満足。
邪魔しないでよ、お母さん。
″ご飯、食べんで行くとねー!″
サクラはぎゅうと枕を抱きしめる。
ごはんは魅力的だが、この枕、放したくない。
(むはぁ///)
なんて気持ちいいんだこの抱き枕。
あったかくて、抱きつきやすい上に、すっごくいい匂いがする。
(大好き///)
すりすり。
食欲にも勝る魅力。
猫にマタタビ、サクラに抱き枕。
ん?
学校なんて遥か昔に卒業したはずだけど、、はて?
なんだっけ?
サクラは意識を集中させ、微睡みから徐々に覚醒してゆく。
お母さん?
ここに母がいるはずもない。
卒業して、上京して、仕事して、、
あれ?
そうだよ、サクラは異世界に飛ばされたはず。
イシルを助けに鏡の中に飛び込んで、アリスにあって、ワンダーランドは解放されて――
(イシルさん!)
ぼんやりしていた頭か徐々にはっきりとしてきたサクラは目を覚ました。
「うっ///」
そして、抱きついていた枕をみてフリーズする。
人だ。
顔を見なくてもそれが誰だかわる。
(いいいイシルさん///)
何で一緒に寝てるんだ!?
ハーフリングの中央広場の三面鏡に飛び込んだのだから、サクラ達は鏡の前に倒れていたはず。
きっと見回りの冒険者達が運んでくれたのだろう。
そこはハーフリングの村の宿『穴熊亭』のイシルの部屋だった。
それは、わかる。
わかるが、何故サクラの部屋ではなくイシルの隣に?
(これは、オズの仕業か)
ちらりと見上げると、イシルはまだ寝ているようだった。
ああ、イシルさん、生身のイシルさんんっ///
(……もうちょっとだけ)
サクラはイシルが起きてないのをいいことに ぴっちょりと横についてもう一眠り。
(むふふ///ありがとう、オズ)
オズから免罪符をもらいイシルの隣を堪能する。
あー///幸せ♪
(……いやいや、そうじゃなくて、確かめなきゃ!)
残念だが己の欲望を満たしている場合ではない。
イシルがちゃんと帰ってきたか心配になったサクラは、ベッドから出て、イシルを覗き込み 声をかけた。
「イシルさん」
名前を呼ぶが、反応がない。
「イシルさん!」
揺さぶってみたが駄目だ。
どうして!?
ワンダーランドは解放され、全員あの場所から旅立ったはずだ。
途中で迷ってる?
まだ、夢の中?
不安がこみ上げてくる。
(ランは!?)
一緒にワンダーランドに行ったランはどうしたかと、部屋を見回すと、ソファーに寝ている黒髪のランが見えた。
「ラン!」
サクラはランに駆け寄り、肩を掴み揺さぶった。
「ラン!起きて!」
ランも起きない。
戻れたのはサクラだけ!?
「ラ――……」
じわっと 不安に目が潤んできた時、ランの口が むにっとつき出された。
「!?」
チューの形だ。
「……」
サクラはペシッとランのおでこをたたく。
「いてっ!」
「脅かさないでよ!起きないかと思ったじゃん!」
ランは叩かれたデコをさすりながら目を開けた。
澄んだ蒼い瞳がサクラを写し、その顔が微笑んだ。
「ただいま、サクラ」
サクラも安心して微笑みを返す。
ランはサクラの手を掴むと、引き寄せてぎゅう、と サクラを抱きしめる。
サクラも控えめにランを抱きしめ返した。
「おかえり、ラン。いっぱい、ありがとう」
「うん。サクラも、おかえり」
お互いを労いあう。
「サクラ……」
そろそろ離してくれるかな?
「ラン、イシルさんが――」
サクラが離れようとするのを、ランがぎゅうっ、と サクラを強く抱きしめる。
「サクラ」
「ラン、あの、苦し、、イシルさんがまだ――」
ランはサクラを離さない。
「サクラっ、、」
今まで避けられていた寂しさをこめて ランはサクラをかき抱き、サクラの首筋に スリッ、と頬を滑らせ、はあっ/// と 耳に熱い吐息をもらす。
「うっ///どこさわってんのよっ!!」
″スパ――――ん″
ランの妖しい手つきに サクラの結界がランを弾いた。
「うにゃーん(TωT)」
魔力が戻っている。
ちゃんとワンダーランドから戻ってこれたようだ。
「どうしよう、ラン、イシルさんが起きないの」
イシルの枕元で サクラが不安な顔をして 隣に立つランに聞いた。
「間に合わなかったのかな」
「イシルがレイスになってからまだ1日たってないはずだ。おい、起きろよ、イシル」
ランは 眠るイシルの顔に手を伸ばすと、ペシペシ、と イシルの頬を叩いた。
「乱暴にしないでよ」
「お前はオレのデコをたたいただろうが」
「それはランが寝たフリしてたからじゃん」
「あんだけ頑張ったんだからご褒美くれてもいいだろ」
「帰ったら『ぢゅ~る』あげるよ」
『ぢゅ~る』はチューブに入った猫大好き液状オヤツ。
「そんなんじゃオレは騙されねぇ」
「ランがまだ食べたことない『はまぐろ×ほたて貝柱』の黄金のダシバージョンなんだけど」
ぴくり、ランの耳がしばたいた。
「……」
脈あり。
もうひと押し。
「『黒毛和牛と鳥ささみ』の高級食材ミックスも あげちゃおうかなぁ~」
ピシ、ピシ、と 耳がぴこぴこ。
「……いいだろう///」
ラン、まっしぐら。
「イシル、起きねぇか。なら気つけ薬、飲ませてみるか?」
「え?だって、お医者さんが飲ませようとしたけど 飲み込まなかったじゃない」
「方法がないわけじゃないさ」
「?」
「しょーがね、口うつしだ。無理やりでも喉の奥に流し込んでみよう」
「///わかった」
イシルのためだ。
恥ずかしがっている場合ではない。
サクラはサイドテーブルの上に置いてある 緑色のドロリとした液状の薬ビンを手に取った。




