464話 ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 27 (再会) ★
挿絵挿入(2021/8/20)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m
「お腹空いたんですか、サクラさん」
硝子の棺から半身を起こして、硝子の棺の縁に片手を乗せ、子首をかしげてサクラを見つめているのは、紛れもなく、イシルだった。
棺の傍らで座り込んで、七匹の小人に怒られ反省中のサクラに語りかけてくる。
「何か、作りましょうか?」
「あ、う、、」
なんだかとっても久しぶりに会ったようで、うまく言葉が出ない。
白いバラで飾られた硝子の棺に白いタキシード。
なんですか、アナタ、限定モノのドールですか!?
素敵すぎて涙が出そうです。
「サクラさん」
イシルがもう一度、サクラの名前を呼んだ。
(私の、、名前、、)
「イシルさん、私がわかるんですか!?」
「はい」
「どうして?リンゴを、忘却の実を食べたんじゃ……」
「僕は毒物に耐性があるんです。一度取り込んでしまったら、その毒、二度目は効かないんですよ」
凄い免疫作用ですね、イシルさん。
記憶を戻すための満月のコンパクトいらなかった!?
「すみません、心配おかけしましたね」
おいで、と、イシルが両手を広げ、サクラをその胸に呼び込む。
サクラは目に涙をにじませながら、ふらふらとイシルに手を伸ばした。
サクラの手にイシルが触れ、握りしめる。
その存在を確かめるように、二人は手をとった。
「イシルさん……」
逢いたかった。
サクラはイシルに迎えられるまま、イシルの胸に 飛び込んで――
″じーっ″ U(ФㅅФ)U
(はっ!ガン見されてる!!)
イシルの胸に飛び込んでしまいたいサクラの気持ちに、二つの目×7匹=14の瞳がブレーキをかけた。
(ギャラリー多すぎ!!)
「サクラさん?」
恥ずかしさに サクラが ぱっ、と イシルの手を離す。
「あ、いや、無事で良かったです。ランも心配してますよ、帰りましょう」
サクラの羞恥心が発動し、感動の再会のはずが、おあずけくらうイシルさん。
イシルはそんなサクラの腕の二の腕辺りをつかむと、ぐいっとサクラの上半身を棺の中に引っ張り込んだ。
「ちょっと///イシルさん!?」
倒れこんで来るサクラを 抱えるように膝の上に乗っけると、サクラの顔を覗き込んで見つめる。
「顔くらいちゃんと見せて」
いや、顔見るだけじゃ済まないですよねこの体勢。
馬乗りですよ!?
「王子様の衣装ですね」
まじまじとサクラを見るイシルさん。
ああ、吸い込まれそう///クラクラしますわ。
「はい、紆余曲折ありまして」
「可愛いです」
「///」
翡翠色の綺麗な瞳がサクラをうつし、イシルが切なそうに微笑んだ。
「こんな可愛いサクラさんを忘れるなんて……」
するり、手の甲でイシルがサクラの頬を 慈しみをこめて撫でる。
その手がサクラのアゴにかかった。
次に来るアクションは もちろん――
″ゴクリ″
サクラがイシルの行動に息をのむ。
まわりの七匹の小人も固唾をのんで見守る。
イシルの顔がサクラに近づき、くちびるを寄せたところで――
″きゅるきゅるぐぐぅ~″
やっぱりサクラのお腹が盛大に鳴った。
「……」
「……」
イシルはキスの手前で身を固くしピタリとフリーズし、見まもっていた小人達は はあ~、と 呆れたように脱力した。
「ああっ!もう、台無し!」
″せっかちファスティー″が業を煮やし、″おこりんぼアンガー″より先に怒り出した。
それを皮切りに、七匹の小人がキーキーと身悶え、地団駄をふむ。
「なんて主張の激しい腹の虫なのさ!」
「前代未聞の王子だよね~」
「ね~、旦那様が王子の失敗を取り戻そうとしてくれたのににぶち壊しだね♪」
「恥ずかしくて///他の物語に顔向け出来ないね」
″怖がりフィアー″は『恐ろしい子、、』と 驚愕し、
″楽しげハッピー″と″お気楽ファニー″は、陽気に笑いながら上から突き落とす物言いをサクラにぶつける。
″はにかみやシャイ″が 控え目な物言いで毒を吐いた。
「……すみません」
もはや『王子様』ではなく『王子』と呼び捨て。
七匹の小人には再び怒られ、サクラの目の前では、笑っちゃ悪いと、イシルが声を殺して笑いをこらえて肩を震わせている。
どんなおとぎ話だよ、喜劇です。
「どうしてくれるの、この雰囲気!ロマンチックの欠片も持ってないの!?」
″おこりんぼアンガー″はぷんすか 痛いところをついてくる。
「ふふっ、まったくお笑い種で語り継がれるね~」
お気楽ファニーは笑えない出来事にも笑えるようだ(←そういう意味じゃない、嫌みだから)
「キスじゃなく腹時計で目覚めさせるなんてね……」
悲しみサッドの悲痛な嘆きの言葉がサクラを突き刺した。
そんな悲しそうに言わなイデ……泣きたいのはこっちだよ。
「ああ、そうか」
イシルが呟き、ぱふん、と 後ろに倒れ込み、もう一度横になった。
再び閉じられた瞳に サクラはビックリしてイシルの顔を覗き込む。
「大丈夫ですか!?イシルさん、どうかしましたか?どこか痛い!?」
「……」
「イシルさーん!!」
狼狽えるサクラに″はにかみやシャイ″がトコトコっと サクラによってきて、恥ずかしそうに こしょっと耳打ちした。
(王子様からするんです///)
「えっ///」
″する″って……キスを!?
(旦那様がお膳立てしてくれました。『据え膳食わぬは王子の恥』、キスできないなんて王子の内にはいらないから、頑張って)
シャイに可愛く頑張ってと応援されても、私は王子様じゃないし、イシルさんはフグじゃない。
↑※『男の恥~』は、掘え膳と河豚汁を食わぬは男の内ではない(←毒にビビってんじゃねーよコノヤロウ)←歌舞伎のセリフが元という説アリ。
イシルが横になったまま、目を開けてサクラを見つめる。
その目が″してくれないの?″と訴えかけてきて、再び静かに閉じられた。
(う″~っ///)
イシルはサクラがキスしてくれるまで起きないはらづもりだ。
(いけ!)←アンガー
(やっちゃって~♪)←ファニー
(ふふっ、おとぎ話の決まり事だから、ね?)←ハッピー
(早よせい!)←ファスティー
(大丈夫、怖くないよ)←フィアー
(このままじゃいつまでたっても帰れないよ?)←サッド
小人達がサクラを励ます。
最後は悲しげなサッドの言葉。
(励ましじゃなく脅迫に聞こえるよ、サッド。)
七匹のウサミミ小人の強制後押し、物語の脇役も物語を進めるの大変なんです。
サクラは小人達に後押しされ、イシルに乗っかったまま、寝ているイシルに顔を近づける。
″ギシッ″
サクラの体重が移動して、ベッドが軋んだ。
棺の中は思ったよりもスプリングが効いてて、ヘタなベッドより寝心地良さそう。
何よりですね、イシルさん。
イシルの枕元に手をつくと、ちりばめられた白バラの花びらがふわん と舞い、ベッドを囲む白いバラからは良い香りがした。
サクラの脳裏に式場でのハネムーンベッドがよぎる。
(あれ?私、イシルさんを襲ってる?)
(余計なことは考えるな!)←アンガー
(そのままいっちまえ!)←ハスティー
また止まりそうになるサクラに 全員の声がひとつになった。
(((お仕事だよ!王子様!!)))
仕事をサボれない悲しき現代日本人サクラ。
仕事が出来ないヤツと思われるのは嫌だ。
サクラは覚悟を決めた。
(やってやる!)
ロマンチックの欠片、サクラは持ってないけど、イシルさんがきっと持っている。
サクラが″ちゅう″を決意したその時――
風を切り、最大の強敵が現れた!




