461. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 24 (アリスの場合/サクラの場合)
ずっと夢見てきた王子様とのキス。
優しく微笑む蒼い瞳の王子様に、アリスは胸をときめかせる。
王子様が アリスをオトナにしてくれる。
でも――
アリスはキュッ、と唇を引き締めた。
「怖い?」
アリスの行動に王子様がいたわるように聞いてくれる。
アリスは小さく首を横にふった。
「オレじゃ、ダメ?イシルがいい?」
王子様はアリスの行動を拒否と受け取ったようで、慌ててアリスは大きく首を横にふった。
「ダメとか、そうじゃ、なくて、、」
アリスは意を決して王子様に思いを伝える。
「オトナには、自分で、なるの」
アリスの言葉に、王子様が驚いた目でアリスを見た。
「お姉さん、、サクラが言ったの。誰かがオトナにしてくれるんじゃない、自分でなるものだって。じゃないと、大切なものを守れないから。私、皆を守りたい。皆に、たくさんもらった分、私もお返ししたいの。だから、オトナには 自分で、なる、、の///」
最後の方は声が小さくなるアリス。
だって、王子様が、輝くような笑顔でアリスを見つめていたから。
「君はもう既に立派な大人だよ、アリス」
王子様のあたたかな眼差しにとろけそうになる。
王子様はアリスの前に片ひざをつくと、恭しくその手をとり、手の甲に唇を落とした。
「///」
大人の女性を扱うように、王子様がエスコートしてくれて、嬉しくて涙が出そうだ。
アリスは王子様に誘われるままに、王子様と一緒に控え室の扉を出た。
◇◆◇◆◇
サクラはジャックの後を追い、聖堂への扉を開けた。
(どこ!?)
聖堂壇上の真ん中に 祭壇があり、その影にジャックが滑り込む。
サクラもそれを追って、祭壇へと走った。
(イシルさん、どこ!?)
祭壇の下には、地下に続く暗い穴がぽっかりと開いている。
サクラは迷わずジャックに続き、暗い穴の中へ階段を降りる。
すると、階段下に ジャックが呆然と立ち尽くしていた。
ぼうっと薄暗い地下の中は、燦々たる状態で、割れたビンや倒れた棚、粉々に破壊された椅子が散らばり、戦いの激しさを物語っていた。
だけど、そこには 何者もいなかった。
「ジャック、イシルさんは……」
「イシル……?」
上の空でジャックが言葉を返す。
「旦那様は、ここにはいないよ」
イシルじゃなかった。
じゃあ、ジャックは何を探してここにきたんだ?
「戦ってたのは ジョーカーさ」
ジョーカー、、もう一人のジャックだ。
「動ける傷じゃないのに、どこ行ったのかな、アイツ」
ジャックが、悲しそうに呟く。
『悲しい』というより、罪悪感いっぱいの、申し訳なさそうな顔で。
「じゃあ、早く探して手当てしないと……」
ジャックは諦めたように首を横にふる。
「ジョーカーの傷は、治せない」
「え?何で?さっきアリスがジャックを治したように、ジョーカーも――」
アリスの名前が出ると、ジャックが泣きそうに顔を歪めた。
「アリスはジョーカーの事を知らない。だから、ジョーカーは治せないんだ」
そして、苦しげに言葉を吐き出した。
「僕だってジョーカーをアリスに会わせたいんだ。でも、ジョーカーが嫌がるんだよ。お前がいればいいだろうって。自分は汚れている、アリスには見られたくないって」
まるで、懺悔でもするように ジャックの言葉はとまらない。
「僕が、悪いんだ……僕がジョーカーを生み出した。僕の弱い心が望んだから。僕の代わりに、弱音をはかず、強くて、勇ましく、戦えるジョーカーを。僕が、僕がジョーカーに無理をさせてしまったから――」
ジャックが声をつまらせる。
「ジョーカーが一人ぼっちになったんだ」
自分を責めるジャックに、サクラは手を伸ばし、そっと頭を撫でた。
「ジャックも、頑張ったんだね」
イイ子、イイ子と 頭をなでる。
「僕は頑張ってなんかないよ」
「いいや、頑張ったよ。考えて、考えて、一人でアリスを守って、ジョーカーを生み出した。ジャックは弱くなんかないよ。さっきだって、アリスを守るために戦ってた」
偉いね、頑張ったね、と サクラがジャックを抱きしめる。
「ジョーカーは一人ぼっちなんかじゃなかったよ。だって、ジャックがいたでしょう?ここで二人で一緒に戦ったんだよね?」
「でも、僕は弱いから」
「そんなことはないよ。たとえ戦う力が弱くても、『アリスを守りたい』と思う気持ちは誰よりも強いでしょ?その『強さ』は凄いと思うよ。本当に強いのはそういう人の事を言うんだと思う。ジャックは、素敵だよ」
「そうかな」
サクラがジャックの顔をみて微笑む。
「うん。だから一緒にジョーカーを探しに行こう。そして、二人で説得して、アリスに傷を治してもらおうよ」
ジャックはサクラの申し出に、すまなさそうに下を向いた。
「人が良すぎるよ、サクラ。君がこんな目にあってるのは僕らのせいなのに」
「そうだけどさ、ジャックもジョーカーも、大切な人のためにやったことでしょ、そりゃ、間違いもやり過ぎもあったけど、終わり良ければ全て良し!ていうか、色々考えるの、めんどくさいだけなんだけどね、私。」
たはは、と サクラが自分に苦笑いをした。
「僕らの敗けだ」
「へ?」
「旦那様は家にいるよ」
「家って、、」
「サクラもよく知っている森の家だよ。ジョーカーが旦那様を迎えに行ったけど、夢魔が来たのがわかって、ジョーカーはすぐにここに帰ってきちゃったから。だから旦那様、いや、イシルさんはまだ森の家にいるよ」
サクラは何を言われたか一瞬わからなかったが、ジャックはサクラにイシルに会うことを許してくれたのだ。
「ジョーカーのことは僕が探すから、サクラはイシルさんのところに行ってよ」
「……ありがとう、ジャック」
サクラとジャックは 一旦アリスのいる部屋へと戻った。
部屋へ戻ると、時計ウサギのチコが なにやらうっとりと夢見心地で ソファーに座っていた。
「チコ、大丈夫?顔がおかしな事になってるけど」
おかしな顔って、ジャック、それは悪口だよ?言えないんじゃなかったっけ?悪口。
「あ、ジャック」
チコがジャックを見てにへらっと笑う。
「どうしちゃったの、チコ、笑顔がだいぶ気持ち悪いよ?具合、悪い?」
うん、ジャックはどうやら天然さんのようですね。無垢って怖いわぁ。
「アリスは?アリスはどこ?」
チコの顔に気をとられていたが、部屋にはチコしかいなかった。
あれ?ラン様、どこ行った?
「うふふ、ジャック、オレいいもの見ちゃった///」
ジャックの質問に、チコはゆるみきった顔で、ほうっ、とため息を吐いた。
「それはまるで絵画のようだったよ、ジャック。とても美しい光景だった。マスターがアリスのアゴに手をかけてさ、アゴをくいっと持上げて、見つめ合う二人は、甘~い、甘~い空気でさ」
(は?)
「うっとりと瞳を潤ませるアリスに、『オレがオトナにしてやろうか』って、マスターが顔を寄せてさぁ、『オレじゃダメ?』『そんなことない』って。うきゅうぅ///オレもやりたい!!」
(なっ、、)
「マスターがささやくように、優しく『怖い?』なんて、アリスに聞いてあげててさ、、ぴやあぁぁ///」
(なんだって!?)
「あんな美しいキスシーン見られたなんて夢みたいだ~」
(何やってんだよラン様!!)
卵肌婦人でさえ手玉にとってしまうラン様、
アリスが危ない!!
サクラはバンっ、と部屋を飛び出し、二階に駆け上がる。
そして、あのバラの花ビラの寝室のドアをバンバン叩いた。
「ラン!アリス!!いる?いるの?」
返事はない。
ドアノブを回すと鍵はかかっていなかった。
開ける?
いや、でも、どうしよう……
これ、弟が彼女を部屋に連れ込んで、これからナニしようとしているのを邪魔する余計な姉状態?
今更だけど、二人が合意ならほっとくべき?
いや、しかし、純粋なアリスは男が狼であることを知らないだろう。
中から悲鳴は聞こえないけど――
「開けるよ!?開けるからね!!」
従魔のしつけは主人の役目!
頼む、服は着ていておくれ。
″がちゃり″
サクラは恐る恐るドアを開けた。
(あれ?いない)
バラの花びらもあのままだ。
シーツに乱れもない。
部屋の中に入り、バスルームの扉に耳を近づける。
音はなし、人の気配もしない。
一応声をかけてドアを開けるが、やっぱり誰もいなかった。
(あれぇ?)
ラン様、どこ行った?
サクラは一階に降りて ジャックとチコのいる部屋に戻った。
部屋ではチコが まだニヤニヤと悦に入っている。
今度はジャックがいない。
「チコ、ジャックはどこ?」
「ん~?ジャックはねぇ、アリスのとこに行ったよ~」
だから何処だよ!?
「三人はどこ行ったのかな?」
「ああ、えっとね、マスターが『大人にしてやろうか?』って言ったけど、アリスは『オトナには自分でなる』って言ったんだよ。オレ、感動しちゃったよ」
「アリス……」
サクラはじ~んと胸が熱くなった。
ちゃんと、届いてたんだ、サクラの言葉が。
「それで?」
「それでね、感激したマスターが、アリスの手に美しい姿でキスをした後にね、」
(キス、手にか!
紛らわしい言い方しないで、チコちゃん。
ラン様疑っちゃったじゃないかよ~)
早とちりのサクラが悪い。
そして、ラン様は日頃の行いが悪い。
「マスターはエルフの居所を聞いていたよ」
エルフ!イシルさんの居場所!
てことは、森の家か。
(でもまあ、アリスにはジャックがついてるし、心配ないか)
サクラも後を追おうと、チコと一緒に外へと出た。
見覚えのある道、森のイシルの家まで、道はわかる。
サクラは念のため三日月の杖で方向を確認して、チコと一緒にイシルの家へ歩き始めた。
(何で待っててくれなかったんだろう、ラン様、満月のコンパクトは私が持ってるのに……)
魔法使えないんだから、満月のコンパクトがないとイシルの記憶は戻せないはず。
(あれ?もしかして――)
サクラの頭に不吉な言葉が思い出される。
ランがチェシャ猫に言っていた言葉――
″オレがイシルを丸坊主にして――″
(もしやラン、魔法発動させるためにイシルさんのエルフの髪を使う気じゃ!?)
アリスは無事だがイシルのピンチ!?
「チコ!走るよ!!」
「へっ?」
「イシルさんの頭髪が危ない!」
サクラが勢いよく走り出す。
「待って、待ってよぅ~」
もった、もったと、サクラを追いかけてチコが走る。
う~ん、私より遅い。
しかし、置いていくわけにもいかない。
すると、目の前に 子馬が草を食んでいるのが見えた。
馬じゃなく、ロバかな。
その背には 鞍がつき、荷物を乗せている。
飼い主はいなさそうだ。
「あれ?ケロッグのとこのロシナンテじゃないか」
ケロッグさん、そう言えば仕立て屋に結婚式のための礼服を取りに行く途中でロバから落ちてしまって、干からびそうになってたんだっけ。
じゃあ、あれが逃げたロバか。
「あれに乗ろう。チコ、乗れる?」
「乗れない」
「……」
「……」
「オレが土台になるから、サクラ、乗って行きなよ、急ぐんでしょ?」
「だけど……」
「オレもちゃんと後から行くからさ。マスター、怖いし」
チコに何したんだラン様。
「わかった、ありがとう」
サクラはありがたくチコを土台にロシナンテに乗る。
「ロシナンテ、森のアリスの家まで頼むね」
チコはロシナンテに行き先を告げると、、
「サクラ、頑張ってしがみついてね、速いから」
「へ?」
ピシャリ、チコが ロシナンテの尻を打った。
「うわっ!」
ロシナンテは、馬のように前足を上げ いななくと、凄い勢いで走り出した。
(ひいぃぃぃっ!!)
サクラは頭の中に注意書きを加える。
″夢の中では常識を捨てよ″と。
(わ、わ、わ、わ、、ワンダーランドのロバ、超っ早!!)




