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457. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 20 (恐怖の大王)




花嫁の控え室に入ったサクラは 真っ白なウェディングドレスに身を包んだアリスの可愛さにK.O.され、真っ白な灰状態。

HP0、もう一歩も動けません。


ましてや、泣いている美少女なんて、ほっとけないデショ!

勝てる要素なんてひとつもみつからない。

むしろお仕えしましょうか!?


「助けて……」


アリスがサクラに抱きつく。

アリスの華奢な手が サクラにすがり、すっぽりとサクラの胸におさまった。


(うわ、細っそい!やわらかい!しかも、いい匂い///)


不安なのか、アリスが人肌を求めて すりっ とサクラに甘える。

小さく身を寄せる 子ウサギのように。


これは、、男じゃなくてもやられますな!

ロリ可愛いくて、守ってあげたくなる。

鼻血でそうです。


「どうしたの?一人?誰もいないの?」


サクラはアリスの背に手をまわし、大丈夫だよと安心させるように トン、トン、と 背中をさすりながら声をかけた。


「ジャックが……」


「ジャック?どこに?」


「聖堂の、地下……」


あそこに地下なんかあったんだ。


「今呼んでくるから」


しかし、聖堂に向かおうとするサクラをアリスが離さない。


「ダメ!行かないで!」


「すぐ戻るよ」


それでもアリスはサクラを掴んだまま、首を横にふる。


「危ないから!」


何?


「ジャックが、″逃げろ″って」


逃げろ?ただ事ではない。


「ジャックの他にも誰かいるの?」


「『恐怖の大王が やってきた』って、地下に誘い込むから先に逃げろって……私、怖くて……どうしたらいいかわからなくて……」


恐怖の大王!?ヤバそうですね!

それならこんなとこに隠れてないで逃げるべきだ。

建物の中なんて袋のネズミじゃないか!

ゾンビが溢れる世界でないなら ホラーは外に逃げるべし!


この世界を仕切っているジャックが逃げろと言うんだから、サクラがジャックを助けに行くのは無理だ。

サクラが敵う相手じゃない。


″アリスが安定しないとこの世界が崩壊しちゃうからね″


果樹園でチコがそう言っていた。

仕切っているのはジャックでも、ここはきっとアリスの世界。

アリスさえ無事なら何とかなる。

だからジャックはアリスを逃がしたのだと思う。


サクラが出来る最善は、アリスを連れて逃げる事。


「行こう、助けを呼びに」


卵肌婦人のイケメンツバメ達なら戦える?

ランが持つ魔法の剣があればジャックを助けられる?


サクラはアリスの手をとり、ドアへと向かい――


ドアの前でギクリと足を止めた。


「どうし、、」

「シッ!」


サクラは人差し指を唇にあて、話しかけてくるアリスを止めると、耳を澄ませた。


″カツン……カツン……″


誰かが廊下を歩いてくる。


(恐怖の大王ってどんなヤツ?見た?)

(いいえ……)


″カツン……カツン……″


(このドア以外に出口は?)

(ないわ)


こちらに歩いてくるのは ジャック?

じゃないよね。


サクラとアリスは息をのむ。

出口はひとつ。

窓ははめごろしステンドグラス。

割ったら音がしてすぐに踏み込まれてしまうだろう。

アリスだけなら逃がせるか?

バリケードになりそうなものは、、ソファーぐらいしかない。

あれじゃ弱いな。


″カツン″


ドアの前で足音が止まった。


″コン……コン″


(ビクッ!)

(ひっ!)


ご丁寧にドアをノックしてきた。

恐怖が募る。


どうする!?

どうしたらいい!?


″コン……コン″


考えろ!

考えろ!!


サクラは 隠れる場所がないかと部屋を見回した。

トイレ?クローゼット?そんなとこ見つけてくれと言っているようなものだ。


(どこか……あっ!)


サクラは大きなノッポの振り子時計に目を止める。

アリスの手を引くと、時計の扉をあけ、その隙間にアリスを中に押し込んだ。


(貴女も……)


サクラが入れるスペースはない。


(私が大王を引き付けるから、隙を見て逃げて、アリス)


(そんなの、無理!)


(出来なくてもやるの!)


サクラはアリスのドレスまで入れると、カチリと時計の扉を閉めた。

そして、自分は入り口ドアの横に立ち、息を潜める。


(扉があいて 中に大王が入ってきたら飛びかかるか、外に誘いだそう)


″キュ……キュキュ……キュル……


金属の擦れる音がして、ドアノブが ゆっくりと回る。

怖いじゃないか、こんちくしょう!

やるならひと思いに開けやがれ!


サクラはドアノブを凝視したまま、三日月の杖を握りしめた。


″カチャリ″


ノブが回りきり、ドアがゆっくりと開く。

サクラは三日月の杖を振り上げた。


大王が 入って――


(えっ!?)


サクラは大王と、目があった。


サクラがドアの影に潜んでいるのがわかっていたようで、開けたドアからこちらを覗き込んでいた。


(あ、、)


サクラは大王から目が離せずに 杖をふりあげたまま固まる。


大王は、そんなサクラを見つめたまま、笑いかけてきた。


――綺麗な 翡翠色の瞳で。


さらり、金色の長い髪が 大王の肩から流れ落ちる。

そして、優しげな声で、サクラに語りかけてきた。


「こんなとで何してるんですか?サクラさん」


「あ、、う、、」


イシルだった。

あまりの驚きに、サクラは声をつまらせる。

会いたかった イシルの姿を目の当たりにして――

その声で 名前を呼ばれて――


「イシルさん!」


時計の中に隠れていたアリスが イシルの登場に 嬉しそうに駆け寄ってくる。


「ダメ!」


サクラは我に返り、両手を広げ、アリスの前に立ちはだかった。


「退いてよ!イシルさんが来てくれたんだから!恐怖の大王を倒して、私をオトナにしてくれるために 迎えに来てくれたんだから!」


「ダメ!行かせない!」


サクラが強引にアリスを抱き止める。


「アリス、おいで」


イシルがアリスの名を呼び、右手を伸ばす。

アリスがイシルを求めて両手を伸ばす。


「離してよ!イシルさんっ!」


求め会う二人――

サクラはそれを引き離すよう、アリスを引きずり、イシルから遠ざけるよう、ソファーの後ろに押し込んだ。


「駄目!あれは、イシルさんじゃないっ!!」


「えっ?」


アリスがイシルを見る。


「アリス」


イシルが笑みを浮かべ、アリスを誘う。


「嘘よ、イシルさんだわ」


「嘘じゃない!イシルさんが私を覚えているはずがないもの」


イシルは忘却の実を食べたはず。


「思い出したんですよ、サクラさん」


イシルが自力で記憶を取り戻し、アリスを選ぶというのなら仕方がない。でも――


「イシルさんなら自力で記憶を取り戻すかもしれない。でも、()()()とイシルさんには決定的な違いがある」


「ほう?」


サクラはドアに隠れている、アリスからは見えない大王の左手を見る。


「ジャックを、返して」


キイッ、と、ドアが全開になり、大王の左手に ズタボロになったジャックがアリスにも見えた。

大王はジャックの耳をひとまとめに、鷲掴みにしていた。


「ひっ!」


千切れそうな耳、飛び出す綿毛、もげた右足……白兎のぬいぐるみのジャックの無惨な姿に アリスが息をのんだ。


「イシルさんは 倒した相手にも敬意を払う。そんな乱暴な扱いをしたりはしない」


サクラの声が怒りのために震えている。


見た目だけを似せても、イシルには及ばない。

似ても似つかない。

そんな浅いイシルをたかちどっている相手に腹が立つ。

イシルを汚されているようで我慢ならない。


「なぜならイシルさんは、命の尊さを知っているから」


800年前のミスリルを巡る戦争で、敵であったはずの人族をも手厚く弔ったイシル。


「儚さをなげいているから」


人より長く生きるイシル。

イシルは一体幾つの死を見送ってきたのだろう……

言ってて泣きそうになる。


「重さを、、背負っているんだから!」


サクラは怒りに声を荒げる。


イシルが今もドワーフの村から離れないでいるのは 仲間のためだけじゃない。

殺めてしまった人のため自分が墓守りとして 鎮魂の役を重んじているから。

自分を戒め、背負った十字架を下ろせないでいるのだから。


「じゃあ、この人は、誰なの?」


「コイツは――」


ワンダーランドの住人ではないのなら、外から来た人物。

人の夢の中に自由に出入りでき、夢を食らう、夢の世界の恐怖の大王、それは―――


「夢魔よ。そうでしょ、ジャスミン」


大王が ニヤリと嗤った。
































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