456. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 19 (ランvsチコ)
サクラをツバメに託し、時計ウサギのチコを追うランは 森を駆ける。
獣の時のような速さは出ないが、その分リーチが長い。手も使える。
警備隊で鍛えていたのが功を奏し、体力も十分だ。
(ギルに感謝だな)
これなら余裕でチコに追いつけるだろう。
(まったく、サクラめ、猫だったときはあんなにオレの事を触りまくってたくせに)
人の姿に戻ったとたん ランはサクラに距離をとられた。
髪の色が青くなっただけなのに人見知りしやがて、はっきり言って、寂しい。
(今度はオレが撫でまわして良いはずだ!)←違う
ランはサクラを忌々しく思いながら森を駆ける。
木の間をぬけ、折れた枝を避け、倒木を越える。
草むらの中に深目の水溜まりがあるような気がして、おもいっきり跳んだ――
何故か通りなれた場所のように木々の抜け道がわかり、走りやすい。
(ここ、ドワーフ村の近くじゃね?)
ハーフリングの村がそのままあったんだ、位置こそ逆だが、その隣がドワーフ村だってことはありえる。
それならランにとって、庭みたいなものだ。迷うこともないだろう。
(イシルの家、あんのかな……)
サクラとイシルと三人で過ごしていた森の家。
ただ2日前のことなのに、懐かしい。
(サクラは無事にイシルに会えたかな)
記憶のないイシルは サクラを見てどう思うだろうか。
知らない女にいきなり名前を呼ばれて、イシルはどうするだろうか。
(アイツ、イシルは知らない女に冷たいからなぁ……)
サクラが記憶をなくしていた時、記憶の置き換えが起こっていた。
出来事の記憶はそのままに、相手が違うのだ。
だから記憶をなくしていると気づかない。
イシルの記憶の中のサクラの立場にアリスがいるとしたら、イシルは全力でアリスを守るのだろう。
イシルがアリスとイチャイチャしてても構わないが、サクラがそれを見たら?
サクラが 傷つく。
(そんなの、許さねぇ)
サクラは、きっと泣かない。
泣きそうな顔をこらえて笑うんだ。
(そんな顔、させねぇ)
ランはスピードを上げる。
早くチコを捕まえて、サクラの元に行くために。
「遅刻遅刻~」
(いた!)
ランの走る先に 大きな時計を背中にしょったグレーのウサギがのたのた走っているのが見え、ランは更にスピードを上げた。
「ぴやっ!?」
ランの殺気を感じたのか、チコが驚いてランを振り向いた。
「なんだ、オマエ!見ない顔だな」
ランに向かって警戒を示すチコに対し、ランはしれっと嘘をつく。
「あ~、最近越してきた村人Aだ。帰り道がわかんなくなったから、教えろよ」
「なんだ、そうか、それは大変だね!、、って、信じるかよっ!その顔はJが狙っていた黒猫王子じゃないか!」
ランのテキトーな丸め込み作戦、ノリツッコミをありがとう、チコ。
しかしランは動じない。
「人違いだ。髪の色、違うだろ?」
「ホントだ!なんだ~人違いかぁ、、って、信じるかよっ!髪の色違っても顔が一緒じゃんかっ!息をするように嘘をつくな!」
「チッ、、」
チコはサクラより見る目ある。
「うわぁ、舌打ちとか、、イケメンなのに悪い顔するなぁ」
「おう、サンキュー」
「褒めてねぇっ!」
ノリがいいね、チコさんや。
「オマエ、どうやってワンダーランドに入った!?」
「月の光に導かれて、かな」
「そうか、昨日は綺麗な満月だったもんね、詩人だなぁ~、、って、お前と悠長に話してる暇はないっ!」
話を長くしてるのは君だよ、チコ。
「Jに知らせないと!」
「おっと、それは困るな」
ランは回り込んでジャックの所に向かおうとするチコの行く手を阻んだ。
「オレと一緒に来てもらうぜ?」
凄むランに、チコは間合いを取るため ぴょん、と一歩後退すると、戦闘態勢を取る。
「おっ、やる気か?」
「お前、オレを甘く見るなよ?いつもはただの可愛いうさちゃんだけどな、それは仮の姿、これでもジャックの片腕なんだぜ?」
チコは胸ポケットから懐中時計を取り出した。
意味深に、ランに問う。
「フフン、これ、なんだと思う?」
「万歩計だろ?」
「そうそう、何歩歩いたいたかわかるし、距離まで出してくれる優れもの!消費カロリー自動計算機能付き。これがあれば健康良好!1日目標一万歩、、って、ちが――う!どう見たって時計だろ!と・け・い」
力説チコちゃん、はぁ、はぁ、と、疲れて肩で息をする。
(……面白れぇ)
チコはランに時計を見せびらかせながら 気を取り直しておどけたように笑った。
「くくくっ、ただの時計じゃないもんねー、この時計は時を自在に操れるのさ!オレが時計ウサギたる所以は時の魔術師だからだよん。時を駆けるウサギとは俺様のことさ!どうだ、カッコいいだろー」
「アー、スゴイナ、カッコイイナ」
「だろう?、、って、なんだその棒読みは!バカにしてるのか!!」
「ソンナコトナイッテー、アー、カッコイイ」
「くっ、謝るなら今のうちだぞー、今謝るならオレの子分にしてやるぞー」
「断る」
「うん、即答ね。じゃあ、シネ!」
チコが懐中時計をランに向け――
「ターイム・ショック!!」
叫び声と共にカチッ、と、竜頭を指で押した。
ボムッ、と、何かが二つに割れ、ランの両脇で爆発する。
「へっ?」
チコは目をぱちくりしばたかせ、首をかしげる。
おかしいな、打った魔法は一発で、それで目の前の男は爆発するはずだった。
何故ハズレた?何故に二発??
「ターイム・ショック、ショック、ショック!!」
チコが続けて竜頭を押す。
ボン、ボン、ボン、と、やはりランの両脇で三連発、6つの爆風が起こる。
「ピギッ?!」
この世界に魔道具はあれど、魔力はないはず。おかしい。当たらない。
見ると、ランの手には短剣が握られていた。
「……そんな、、何?何なの!?時の魔法を、、切ってるの!?」
目に見えない時を切る!?そんなのあり得ない!
アワアワと慌てるチコに、ランが捕まえようと踏み込んだ。
チコは別の呪文を唱える。
「タ~イム・ストップ!!」
カチリ。
これで相手の動きが止まるはず。
しかし、ランは止まらずに、剣の刃ではなく、平の部分でこの魔法を弾き返した。
「うぴっ!?」
カチン、と チコがそのままの形で固まった。
自分の放った魔法が反射され、チコの回りの時が止まったのだ。
「お前は喋りすぎなんだよ。手の内をベラベラ喋る前に 仕掛けろよ。アホか」
ランが使ったのは 卵肌婦人からもらった、魔法を切り裂く『魔戻りの短剣』だった。
ランは固まったチコの首根っこを 首の肉ごとむんずと掴むと、魔戻りの剣の柄尻で ゴイン、とチコに一撃を入れ、チコにかかった魔法を砕いた。
「あいたーっ!!!」
チコがデコを押さえて悲鳴をあげる。
「なんだ、オマエ、何したんだ!?何で魔法が効かない!?」
教えるか、バーカ。
「アー、ソレハオレが伝説ノ勇者ダカラだ」
「伝説の勇者!!?」
棒読みなのに信じたよ。チコ。
「魔法が効かないのはわかったろ?」
「いぇす!マスター!!」
勝てないと踏んだチコはピシャリと背筋を伸ばしランに従ずる。
どうやらチコは日和見主義、長いものには巻かれるタイプ。
「じゃあ、結婚式場まで案内してもらおうか」
「よろこんで!マスター!!」
ランは時計ウサギのチコを抱えて チコの案内で結婚式場へ急ぐ。
いや、チコ、足遅いからさ。
「マスターは足が長いから速いねぇ~、楽ちん♪」
「……」
「マスターと一緒なら遅刻しないですむねぇ~」
自分で走らなくて済んでるチコはベラベラ口がまわるまわる。
「お前さ」
「何でしょ、マスター?」
「時を操れるなら 時間止めるとか戻すとかすれば遅刻しないんじゃねーの?」
「はっ!盲点!!」
盲点ではない、アホなだけだ。
ランに抱えられルンルンで楽しそうに喋りまくっていたチコが、ランの小脇でびくりと固まった。
「どうした?」
「ア、、アアッ、、」
チコの顔を見ると、青ざめ、恐怖に引きつっている。
「マスター、あれを……」
チコがわなわなと空を指差した。
ランがチコの指差す空を見上げると、前方上空に もくもくと黒い暗雲が立ちこめていた。
不気味な暗雲は どんどん広がり、青空を飲み込み侵食していく。
「大王だ……」
チコがランの小脇でブルブルと震える。
「恐怖の大王がやって来る……」
「ジョーカーか?」
ランの問いにチコが違う、違うよと否定する。
「ジャックでもジョーカーでも きっと勝てない。ヤツは全てを破壊する」
チコはランにぎゅっとしがみつき不安いっぱいの顔で懇願してきた。
「助けて、マスター!お願いだ!何でもするから!!この世界を壊させないで!!アリスを、、アリスを守って!!」
今までにない、悲痛なチコの叫び。
心からのお願い。
ジャックでもジョーカーでもない何者かが この世界にいるってことか?
暗雲立ち込めるその下は、サクラとイシルがいるであろう式場だ。
どちらにしろ、サクラを守りに行かなくては。
「とばすぜ」
ランはチコを抱え直し、更にスピードを上げた。
「ぴやあぁぁぁ、、ゆ、ゆ、ゆ、ゆれるうぅぅ~~~~」
「うるせぇ!我慢しろ!」
緊張感、ねえな!!




