450. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 13 (試練・ランの場合)
本日も少し暗い話になります。
人によっては残酷描写かもしれません。
ご了承下さいm(_ _)m
暑い……
空気が重く、暑苦しい……
″ワ―――――……″
″ウォ――――……″
暗闇の中、人々の怒号と叫び声、剣の交わる音に、魔法による爆音が鳴り響く。
徐々に闇に目が慣れてきて、ランは目を凝らす。
入り交じる群衆、
目の前に、赤と黒――
(何だ……これは……)
閉鎖された大空間に幾つもの美しく大きな柱が立っている。
しかし、その柱の元には 血に赤黒く染まり、動かなくなった人の山。
何も映さなくなった瞳がランを見ていた。
(戦場――)
生々しい戦いの様子。
血に、泥にまみれて お互いを傷つけあう。
背中に嫌な汗が流れる。
ドワーフ、ハーフリングも、オーガもいる。
獣人、鳥人、竜人、、いろんな種族の混合軍。
対しているのは――
(人族!?)
人間だ。
圧倒的な数の人間。
その人族の軍に向かう混合族軍の中に、ひときわ輝く金の髪の戦士がいた。
「イシル!!」
イシルは金の髪をなびかせながら双剣を操り、まるで、自分に敵を引きつけるかのように、自分はここだと主張して戦っているように見えた。
イシルは恐ろしく強かった。
だが、いつもの余裕さは感じられず、必死なのが見てとれた。
「800年前のミスリルをめぐる戦いなのねん」
ランの隣に チェシャ猫の口と目だけが浮かび上がった。
「これが……」
キャンプ地の焚き火の前で サクラが寝たあとにイシルの口から聞いた、希少金属ミスリルをめぐっての戦い。
人間の繁栄を妨げようとする他種族と人間との戦いで、人族が恐れずに洞窟に攻め入り、長寿種族に怯まず、勝利を収めた輝かしい英雄憚として、まだランが呪いを受ける前、城にいた幼い頃家庭教師に教えられた、サン・ダウル国が出来る前の伝説。
母、マリアンヌ曰く、英雄憚などではなく、人間が傲った末に起きた 悲しい争いだったのだと。
だが、ランが目にしているのは、最早どちらがどうとかというものではなかった。
始めて目の当たりにする大きな戦場は、お互い、何と戦っているのかすらわからない状態のように見えた。
「……」
酷い惨状に言葉がでなかった。
代わりに涙が溢れた。
怖かったわけじゃない。
深い悲しみに襲われたのだ。
相手が憎くて戦っているわけではない。
国のため、仲間のため、愛する家族のために――
(イシルは こんな中にいたのか……)
母 マリアンヌの言うように、悲しい 戦だった。
混合族軍は人族の数に圧され、徐々に後退し、撤退を余儀なくされる。
歴史の伝えるとおり、人間の勝利だった。
イシルは 散り散りになった仲間と共に 最終的に人間の王の元へと向かい――――その首を取った。
そして、″魔王″と呼ばれる。
「イシルが、、魔王」
血にまみれてなお美しく、雄々しい魔王。
魔王はミスリルの採れなくなった坑道に再び帰って来た。
名実共に死んだ山に。
そして、友の亡骸を弔いながら神殿を彷徨う。
死んだような暗い瞳で――
涙なんて とうに枯れ果ててしまった。
心も、動かない。
「彼はもう、解き放たれても良いと思わない?」
チェシャ猫がランに問う。
「これから先も 彼はこうやって大切な人を見送りながら生きていくのねん」
そうか、ここは墓なんだ。
イシルがドワーフの村から離れないのは 大切な者達の墓守りだからなんだ。
「呪縛から解き放してあげたくないのん?」
再びチェシャ猫がランに問う。
不老不死ともいわれるエルフは 結局最後まで一人ぼっち――
「……知ったこっちゃねぇよ」
「へ?」
「イシルの過去がどうだろうが、一人になろうが、知ったこっちゃねぇっつってんだよ」
「何を言うのん、君は、、彼が気の毒ではないのん?」
「うるせぇな、サクラがイシルを連れ戻してぇんだよ。オレはサクラの望みを叶えるだけだ」
ランは 迷わない。
「君はそれで良いのん?彼がいなければサクラを独り占め出来るんじゃないのん?」
けっ、と、ランは吐き捨てるようにチェシャ猫に言葉を返す。
「あのヘンテコ帽子屋と一緒にすんなよ。オレはイシルがいたって サクラを奪ってみせるさ。ライバルがいなきゃ燃えないだろう」
ニヤリとランが嗤った。
「イシルの幸せなんて関係ないね。オレが幸せになりてぇんだよ」
「君は、、」
チェシャ猫が呆れたように目をくりくりさせる。
「素直じゃないのねん」
結局ランも イシルを連れて帰りたいのだ。
ランの言う″幸せ″の中に イシルの存在も含まれているのだから。
友の亡骸と過ごすイシルの元に、探検家風の一人の男がやってきた。
男は 死体がゴロゴロ転がる中、柱を見て 大興奮。
(なんだアイツ、頭おかしいだろ)
ランは訝しげな顔で男を眺める。
ふと、誰かに似ていることに気がついた。
(親父に似てる)
今は亡きランの父親、国をあけてばかりの、冒険三昧、放蕩者の女好き。
幻の獣 ネッシーだか、ヨッシーだかを追い求めてそのまま遠いお空の彼方に旅立った大馬鹿者。
(そうか、、あれが――)
あれが勇者ギルサリオ。
魔王を倒し、サン・ダウル国の 初代王になった男。
ランの祖先。
(うちは変人しかいねーのかよ)
ランはまた イシルの言葉を思い出す。
″彼は過去の僕を殺してくれました。やり直すきっかけをくれたんです。だから――″
(そういうことだったのか)
イシルがキャンプの炎の前で言っていた事と かっちりと重なった。
イシルは己の髪を切り、ギルサリオに渡す。
城の宝物庫には、魔王の髪の一部が厳重に保管されている筈だが、あれはイシルの髪だったのか。
(えっ?)
ギルサリオがランを見た。
(オレが、見えてる?)
ギルサリオはランと目が合うと、目を細めて笑った。
ランと同じ蒼い瞳が 語りかける
『行け、己の信じるまま、自由に――』
そう、聞こえた。




