444. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 7 (帽子屋とお茶会) ★
挿絵挿入(2021/7/16)
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三月うさぎのマーチが サクラの後ろに立つ男に話しかける。
「なんだ、帽子屋、またサボりか」
ふわりと長い前髪を右眼の前にたらし、タキシードのようなロングコートを羽織り、派手な装飾のついた帽子を被る、仄暗い瞳の 流し目の似合うイケメン。
「商売する気ないねマッド」
マーチにあわせて 眠りネズミのレムも毒づいた。
そんな二匹にマッドと呼ばれた帽子屋の男は、何処からともなく紅茶のセットを取り出し、笑顔を作る。
「なんだ、二人とも。折角美味しい紅茶を手に入れて持ってきたっていうのに、いらないんだね」
笑顔がちょっとコワイですよ?
瞳の奥に闇が見える。
マッドの手元を見て マーチとレムは目をキラキラと輝やかせた。
「おおっ、お茶か!」
「やった!お茶!」
「今何時だ?」
「ここはいつだって三時だ!お茶の時間だ!」
三月うさぎと眠りネズミは わちゃわちゃと毒づきながらお茶会の支度の為にキッチンを走り回る。
「チーズトーストにハチミツをかけよう!」
「パウンドケーキを出せ!マーチ」
「指図するな!レム!お前が出せ!」
息があっているのかいないのか、それでも二匹は楽しそう。
「スコーンにはジャムもいいけどやっぱりクロテッドクリームだな」
「アップルパイもあったろう?」
「あれは客にだすヤツだ!レム」
「客なんて来ないだろう!」
HAHAHAと二匹が笑う。
君達も商売する気 ないよね?
「君も、お茶にしよう」
二匹の様子に呆気にとられているサクラに、マッドが声をかけ、ダイニングへと誘った。
「いえ、私、杖をもらって結婚式場に――」
急いでいたんだ。
焦っていたんだ。
お茶なんかしてる場合じゃなかったはず。
でも……
「何だっけ?」
帽子屋はクスリと笑ってサクラの背を押しソファーへと促す。
「まずは一杯飲んで落ち着いたら?」
マッドはサクラをソファーに座らせると 隣で美しい手付きで紅茶をいれて差し出した。
「ありがとうございます」
マッドから受け取った紅茶は、明るい透明感のある綺麗なオレンジ色。
そして、フローラルで蜜のような 華やかで甘い香り。
ダージリンだ。
「一緒にお菓子もどうぞ」
マッドがサクラにケーキを差し出す。
たっぷりと砂糖のアイシングのかかった、カラフルで可愛いカップケーキ。
(……ゴクリ)
「どうしたの?違うのがいい?シュークレームがいい?それとも、ババロア?」
「いや、糖質が……」
「糖質?」
「えっと、砂糖は体に良くないから控えていて……」
「アハハ、おかしな事を言うね、サクラは。生身じゃないんだから関係ないよ」
「え?」
生身じゃないの?私!?
「サクラはまだ来たばっかりなんだね。可哀想に、向こうの記憶が残ってる」
マッドの言葉を受けて 三月うさぎのマーチが 特大ホットケーキに顔を突っ込みながら言葉をはさむ。
「最近はゴーストだけじゃなく、レイスも取り込んじゃうからな、Jは。レイスは向こうに帰りたがるからね」
ハチミツとバターで全身ベタベタですよ、マーチさん、後が大変そうですね?
レイス、、そうか、私は今レイス状態なんだ。
「オイラはちょっと怖いよ。前はあんなじゃなかったのに、変わっちゃったよね、J。お茶しにも来なくなっちゃったし、別人みたいだ。ウサギだけど」
別兎!別兎!と、眠りネズミのレムが紅茶カップの中でクッキーを齧りながら嗤った。
「まあ、どっちにしても、僕は住人が増えるのは大歓迎だけどね」
帽子屋マッドが、『ねっ?』と サクラに微笑みかける。
「マッドさん達は、ゴーストだったの?」
「いや、僕たちはアリスが読んでた本の住人だよ」
「Jがアリスのためにこの世界に封印したんだ」
「封印……」
「永遠に終わらない、アリスのためだけの世界にね」
月のソファーに、星屑のようにキラキラと揺れるランプの光。
狂った帽子屋と眠りネズミに三月うさぎ、
ここはアリスの本の世界。
Jが命を与えた世界。
「じゃあ、その物語は もとの世界からは消えちゃったの?」
「そうだね」
それは、寂しくないのかな……
不思議の国の物語、他の誰も読めなくなった物語。
それよりも気になるのが――
「記憶って?」
やっぱり私、何か忘れてるんだ。
「気にすることないよ、どうせ全部忘れちゃうんだ。ここで愉しいことだけ考えて僕らと新しく始めればいいよ」
(愉しい事だけ考えて……)
「生きるのなんて大変だろう?」
マッドがずいっ、と サクラに詰め寄る。
三日月のソファーは弧を描いてゆらゆら揺れる。
「わっ///お茶、こぼれる、、」
マッドは紅茶の波打つカップをサクラの手から取り上げた。
「心配するのは紅茶でいいの?」
「へ?」
マッドが月のソファーの上部を押すと、ぐらりと三日月が船のように倒れた。
「ひゃあ!!」
「このソファーの良い所はね、ベッドにもなるとこだよ」
体を起そうとするサクラにのしかかり 怪しく嗤うマッド。
「全部忘れて、僕と、新しく始めよう、サクラ」
仄暗い闇を宿した瞳で押し倒したサクラの髪を イイコ、イイコと マッドが撫でる。
「アハハ、ビックリした顔しちゃって、かーわいーいなぁ」
マッドは手にフォークを持ち、その先に乗ってるのは、リンゴのタルトタタン。
「美味しいから、食べて―――」
あーん、して?と、マッドがサクラにフォークを近づける。
キャラメリゼされたリンゴからはシナモンが香り、見た目にもサクサクなパイ生地がサクラを誘う。
アイスのせたい!
生クリームかけたい!
ここにいればいくら食べても問題ない!
でも……
サクラはきゅっと唇を引き締める。
「食べて、愛しい恋人。これからもずっと、僕とここで美味しい料理を楽しみながら暮らそうよ」
愛しい恋人、、
私、マッドさんの事、好きだったっけ?
リンゴの香りに頭の奥がほわんと痺れる。
マッドはサクラを見つめ、誘うように、念を押すように言葉を紡ぎ、記憶を刷り込んで行く。
「愛してるよ、サクラ。君がマーチの店で働きはじめて、初めて逢った日から」
私、ここで働いてたの……?
そう言えば、記憶にある。
森の中の一軒家、美味しい料理とイケメンともふもふ。
彼の事が好きだった。
一緒に料理して、毎日楽しくて……
あれは マッドだったっけ?
サクラはマッドの顔を見つめる。
(綺麗な顔をしているなぁ……)
ハッキリ言って自分はイケメン好きだ。
マッドの顔は好きな顔であるのは間違いない。
彼の事が好きだった。
そうだった気もするし、違うような気もする。
優しくて、ちょっと強引で、いれてくれるお茶も美味しくて……
清廉潔白かと思いきや、腹黒さや打算的なところもある、ヤンデレ気味なイケメン。
合っている。
なのに、この胸の切なさは何だろう。
何でこんなに胸が苦しいの?
ずっと気持ちを言わないように隠していたから、気持ちが通じて嬉しいのかな、私。
「口を開けてよ、サクラ」
だけど、この違和感は何だろう。
サクラは更に唇を引き締める。
「リンゴより僕の方が食べたい?」
何言ってるんですかオニイサン!?
「心より先に唇をほぐしてあげる」
押し返そうとするサクラの手にマッドの手が重なり、長い指が捕らえるようにサクラの指に絡められ――
マッドがサクラに唇を近づける
「僕と 愛し合おう、サクラ――」
終らない時の中で、永遠に――
″ア″、お″、お″、オ″、オ″ォ″ォ″ン――――″
「「!?」」
突然、茶会の席に 地の底から唸るような声が響き、サクラ、マッド、マーチは声のする方を振り向いた。
「ひっ!!」
眠りネズミのレムだけは、声を聞いた瞬間に ティーポットの中に滑り込み、身を縮こまらせる。
あの、赤子の泣くような唸り声は レムの天敵だ。
″う″、あ″、あ″、ア″オ″ォ″――――″
姿を表した黒い獣は 毛を逆立たせ、背をを大きく引き上げて怒りをあらわに、サクラの上にのし掛かるマッドを睨みつけている。
「猫?」
黒い猫は、タンっ、と地を蹴ると、マッドに向かって飛びかかった。
「くっ、、」
小さいながらも、あまりの迫力に、マッドは慌ててサクラの上から飛び退いた。
黒い猫は 月のソファーに押し倒されたサクラの前に 守るように立つと、シャーッ、と マッドを威嚇し、再び唸った。
″ヴニ″ア″ア″ぁ″ぁ″オ、ン――″
サクラのピンチにラン、登場!
しかも、かなりのご立腹。
(イチャイチャしてんじゃねー!!!)




