443. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 6 (三月うさぎ) ★◎
挿絵挿入(2021/7/13)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用くださいm(_ _)m
あとがきに料理写真も入れました。
サクラは眠りネズミのレムさんに連れられて 三月うさぎのマーチが経営する『三日月亭』にやってきた。
サクラとレムが厨房に入ると、コック服にコック帽の茶色いウサギが 眉間にシワを寄せて人参とにらめっこをしているのが見えた。
「マーチ、木苺採ってきたよ!」
レムが声をかけると うさぎはその凶相のままこちらをむく。
「なんだ、レム!何でちゃんと仕事としたんだ!やらないならやらないで徹底してくれないと雨が降るじゃないか!!」
仕事したのに怒られたレムさん。
超理不尽。
しかし、これがこの二人の通常運転らしく、怒られたレムさんは 特に気にしていないようだ。
「全く、怒りんぼうだな、君は。ところでマーチ、人参見つめてどうしたの?眼光で穴でも開けるつもりかい?」
HAHAHA! とレムさんは アメリカンコミックの吹き出しのような笑い声でおどけみせた。
いや、特に面白いこと言ってないですよ、レムさん。
「いや、アリスがオトナになるから、人参食べられるように、今、この人参の魅力を最大限引き出した料理を考えているところなんだよ」
人参食べられないんだ、アリス。
でも、人参 食べられないオトナもいっぱいいるよ?
「しかし、困った。人参なんて『生』以外美味しい食べ方がわからない」
え~っと、、マーチさんは料理人でいいんですよね?
『三日月亭』は サラダ専門のお店ですか?
「ところで君は何者だい?むっちりマシュマロの国の王子かな?」
おおっ、ツッコミどころの多いマーチさんにつっこまれちゃったよ。
「サクラだよ。仲間とはぐれたらしくて、君の『三日月の杖』を貸して欲しいんだって」
レムさんは眠いのか、目を擦りながら またウトウトしはじめた。
吊るしたバナナに乗っかると ハンモックがわりにゆらゆら揺らされ、眠りにはいる。
「あの杖か。僕には必要ないからあげてもいいよ」
「ありがとうございます!マーチさん」
マーチの気前のいい返事にサクラは礼を言う。
三日月の杖は人探しの杖。
それががあれば、ランだけじゃなくイシルも探せる。
むふふ、怪我の功名、急がば回れ♪
「ただし、僕の代わりに 美味しい人参料理を考えてくれるかい?」
「はい?」
「そうか、やってくれるか!ありがとう」
いや、今の″はい?″は、聞き返しの″はい?″ですよ?
言葉って難しい……
◇◆◇◆◇
こちらはハーフリングの村の宿屋『小熊亭』のオズ。
椅子を引き寄せてイシルの様子を伺っていると、騒がしさを伴って部屋のドアが開き、数人の男達が乗り込んできた。
「な、なんや、どうしたんや、、」
倒れたイシルの事を サクラとランに頼まれたオズは イシルのベッドサイドでわたわたと狼狽える。
男達は 賊ではなく、大広場で荷物の見張りをしていた冒険者だった。
少し酒臭いが、オズが狼狽えたのはそこではない。
男達は人を背負っていた。
「何で?姐さん!?ランくん!?」
寄ってきたオズに冒険者達が何処に寝かせるか聞いてくる。
「三面鏡の前で倒れてたんだ」
「大事な客人って、あんた、言ってただろう?」
「そうや、おおきに、おおきに、、」
オズは ランをソファーに寝かせるよう指示をする。
息はある。
だが、意識がない。
(レイスや)
「姐さんは……」
オズは冒険者に背負われているサクラを見るが、やはり、意識がない。
(こっちもか)
さて、どこに寝かせよう。
別の部屋に寝かせるのは様子を見に行くのが面倒だ。
「イシルの旦さんの隣に……」
「えっ?ソファーかベッドか、もひとつ入れようか?」
あとから入ってきた宿の主人が提案する。
「かまへん、かまへん」
冒険者は オズの指示通り、背負ったサクラをダブルサイズのベッドのイシルの隣に横たえた。
(偉いこっちゃ、どないしょ!姐さんやランくんまでレイスになってしもうて……ミイラとりがミイラやないかい!やっぱ止めるんやったわ)
この三人で一番強いのはある意味サクラだが、一番怖いのはイシルだ。
イシルだけは敵に回しては行けない。
イシルは自分に何があろうが怒りはしないが、サクラに何かあったら――
(殺される!!)
オズの本能がそう告げている。
オズは″盛り上げ隊長″のたすきをとり、ラメスーツを脱ぎ捨てると、コートを羽織り、部屋のドアを開けた。
「おい、どこ行くんや、オズ!」
「あとは頼んだで!おっちゃん!!」
「おい!」
――逃げた?
◇◆◇◆◇
「人参料理、ですか……」
三月うさぎのマーチの提案で、三日月の杖をゲットすべく、サクラは人参料理を考える。
人参、、お子様が好きそうなのは、バターたっぷり甘人参グラッセ。
可愛いお花の形にカットする?
(美味しいけど、付け合わせなんだよな……)
それとも、卵とあわせて人参シリシリ?
かき揚げなんかもおいしいなぁ……
「人参の食感は残して料理して欲しいなぁ」
「むにゃ、、カリカリ、コリコリ、噛むと甘ぁいのがいいよね~」
レムさん、寝言で会話に参加、器用ですね!
レムさんもマーチさんも人参は硬めがお好みのようだ。
あなた達じゃなくアリスが食べるんだよね?
野菜スティックでも出してやろうか?
味噌マヨネーズつけると美味しいよね!
……味噌がない。
アンチョビとオリーブオイル、ニンニクでバーニャカウダ
……作ったことない。
(うーん……)
食感が欲しいなら、人参の他に堅いものを入れるとか?
人参とゴボウできんぴらにすれば、コリコリ、美味しい。
(醤油がない)
サクラは何かいい材料はないかとキッチンを見回す。
(ん?あれって……)
そして、外に吊るされている野菜を見つけた。
「あれ、あの干してある野菜って、大根ですよね?」
それは、丸干しの大根で――
「そうだよ。それ、歯が伸びてうずうずするときに噛むやつだよ」
歯研ぎ用ですか、二人とも齧歯類でしたね。
無限に延び続けるんですね、前歯。
「これって、薄くスライスできますか?」
「モチロン」
丸干しの大根なんて普通は堅くて薄くスライスなんて出来ない。
だけどマーチは見事な包丁裁きで 丸干し大根を千切り大根にしてくれた。
(さて、)
サクラは人参の皮をむき、千切りにする。
サクラが作ろうとしているのは キャロットラペ。
千切り人参のマリネ風サラダだ。
皮をむいた人参を千切りにし、ボールに入れ、塩揉みし、人参の水分が出てきたら、水洗いした切り干し大根を入れ、軽く和える
この時切り干し大根が人参の水分を吸って馴染むので、切り干し大根は戻さずに軽く水洗いするだけでいい。
食感を楽しみたいからナッツを入れよう。
サクラはマーチにクルミをみじん切りに砕いてもらう。
このキノコ、キクラゲっぽい。
これも入れよう。
「えっと、、お酢は……」
文字が鏡文字だからよ見辛くてしょうがない。
「これだね」
お酢、オリーブオイル、砂糖 でドレッシングをつくり、サクラはぺろっとなめてみた。
ふわん、と、お酢ので爽やかな香りがして美味しい。
なんだか、ふわふわする。
「フルーティーなお酢だね」
「リンゴ酢だよ」
「リンゴ酢……」
なんだろう、この感じ……
リンゴは食べちゃいけなかったような気がしてたけど、何でだったっけ?
うまく思い出せない。
サクラはドレッシングを人参と切り干し大根に混ぜ、クルミをちらし、塩コショウで味を整える。
「最後に、これかな」
途中で摘んだパクチーを飾れば出来上がりだ。
「うおおおっ///これはうまい!人参そのものの甘さが引き出されている!レム、レム、起きて!食べてごらんよ」
マーチがレムの鼻先に人参サラダを突きつけた。
やっぱりレムさん、寝ながら食べる。
「ウチューッ!?さっぱりしてて、ポリポリ食感、目が覚めるっ!」
マーチとレムはつくったそばから食べている。
アリスのための料理じゃなかったの?
「この草、なんだ?クセになる匂いだなぁ」
「キノコもいい!サクラも食べなよ」
二人がサクラにも食べるように進める。
「うん」
サクラは人参サラダを皿によそうと、フォークを持ち、ひとすくい。
口元に持っていき――
(あれ?私、こんなとこで何してるんだ?)
食べる直前で手を止めた。
何か、大切なことを忘れている気がする。
大事な用事があったような気がするのに、思い出そうとすると 頭の奥が じわん、と痺れてうまく思い出せない。
思い出そうとすると、切なさ込み上げ、苦しくなる。
「明るくて綺麗な色合いだね」
必死で思い出そうとするサクラのすぐ後ろで男の声がした。
口に運ぶ途中で止められたサクラの手に 大きな手が重ねられ、サクラのフォークが男の口元に運ばれた。
″あむっ、、もぐっ、、″
「ん……甘酸っぱくてフルーティー。恋の味がする。これならアリスも満足だろう」
サクラは自分のフォークからサラダを食べる男を見上げる。
そこには派手な帽子を被ったイケメンが立っていた。




