439. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ 2 ★ (時計ウサギとスローロリス)
挿絵挿入(2021/7/7)
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「ま、いっか」
(いいのかよ!?)
魔法が使えないことに あっさりみきりをつけるサクラに子猫のランがつっこんだ。
残念ながらサクラには ″にゃぁ″ としか聞こえていないけれど。
″にゃぁ″と鳴いたランに サクラが答えを返す。
「元々魔法なんて生活魔法以外使ってなかったからね、大丈夫だよ」
安易なサクラ。
(それはオレやイシルが代わりに使っていたからだろうが!)
ツッコミも虚しくやはり ″にゃぁ″
「それよりラン、何でついてきたのよ、魔法も使えないのに」
(魔法が使えないなんて知らなかったんだよ、人の夢の中なんて入ったことねーし)
″にゃうん″と ランが抗議する。
「可愛く鳴いたって駄目だからねっ!」
メッ、と、サクラがランに返す。
駄目だ、会話が成立しない。
「私なら 最悪 神(医者)に呼ばれたら帰れるけど、ランは出られなかったらどうすんのよ」
(ああ、悪かったよ!足手まといですいませんね!クソッ、、)
イシルが倒れてからケンカ続き。
オレじゃやっぱりダメなのか。
「でも……」
(なんだよ、まだ文句あんのかよ)
キッ、と睨むランに、サクラがちょっぴり照れた顔で言葉を続けた。
「こんなとこ一人じゃ心細かったかな……ありがとう、ラン」
(ぐっ///可愛いじゃねぇかよ)
あんまり弱音を吐かないサクラの気弱な言葉。
自分に甘えてくれたことが嬉しくてデレるランの耳に、タタタッ、と 走る音が聞こえてきた。
ランはピンッ、と耳を立てる。
「どうかした?ラン」
『ニャウン』
「え?何?」
ランが短く鳴いて走り出し、サクラも慌てて後を追った。
中央広場から奥へ進み、農道を少し入ったところで、ランが獲物を狙う猫のように(←猫だけど)ソロリと身をひそめながら 茂みに入っていった。
サクラも身を低くして ランについていく。
″ガサガサ″
『ニャッ!』
音を立てたサクラにランが くわっと牙をむき、短く、鋭く鳴く。
……怒られた。
(無理言うなよ、猫じゃないんだから)
服や髪に葉っぱやおなもみのような、トゲトゲひっつきむしがくっついている。
ボサボサだ。
(果樹園?)
ランが忍び込んだのは 美味しそうなリンゴの実る果樹園で、人の影がみえた。
一人は麦わら帽子を被っているサル?いや、、リス?
顔は平たく、大きな目を持つ動物だ。
で、もう一人は――
(あれは、、あのウサギ!?)
いや、違う。
あのウサギのぬいぐるみかと思ったが、ここにいるウサギは白じゃなくグレーのウサギだ。
背中にリュックのように特大の時計を背負っている。
「はやく、早くしてくれよ、遅れっちゃうよ~」
「あははぁ~大丈夫だよぉ~チコ、、結婚式にはまだ時間があるだろう?君はせっかちすぎるよぉ~」
せっかちウサギに のんびりおサルさん。
「何言ってるんだよ、結婚式まであと12時間しかないんだよ、君がのんびりすぎるんだよロリス」
ロリス……
そうか、スローロリス!
毒をもつ霊長類だ。
「兎穴の抜け道を使えばぁ~アリスのとこまですぐに着くじゃないかぁ~今回は一つでいいのかい~?どれが良い~?」
(アリスさんの、結婚式……結婚式に出す果物かな?)
時計ウサギのチコとスローロリスのロリスは リンゴの木を見上げて物色する。
「ん、、ん、、今回は大層魔力の強いエルフだからね、たっぷり毒を吸い込んだものじゃないと効かないんじゃないかな、どれがオススメだい?ロリス」
(ここにあるのは毒リンゴ!?しかも、エルフって、イシルさんの事だよね!?)
「ん~、、じゃあ~、、あれかなぁ~」
スローロリスは ゆっくり、リンゴの木をのぼってゆく。
スローロリスが お目当ての毒リンゴに到達するまで、時計ウサギのチコは一人で喋りまくる。
「今回は村人は増えなかったけどさ、アリスの花婿が見つかって良かったよ。白兎のJは黒猫王子の方に目星をつけていたみたいだけど、あのエルフに邪魔されちゃってさ、大層悔しがってたよ」
(黒猫王子……)
サクラはランをチラッと見る。
ランは獲物から目を離さない。
「でも、かえって良かったかもね。アリスには優しく包んでくれるような うんと年上の方が良いとオレは思ってたからさ――」
「ずっと~、、ベッドの上だったからねぇ~」
「うん。友情も、恋も知らずに終わったんだ。うんと甘えてほしいよ」
「そうだね~」
「何より、アリスが嬉しいとこの世界が潤うから!アリスが安定しないとこの世界が崩壊しちゃうからね」
サクラは頭の中で今の話を整理する。
ここはアリスという女の子の夢の中で、あの 呪いを発動させた白いウサギのぬいぐるみがJ。
Jはアリスの従魔なのかな?
今の会話から察すると、アリスは、多分……もうこの世にはいないのだ。
ゴーストとなり、Jの中に入っている。
Jはアリスのために、自分の体に――この世界に人(の魂)を集めているようだ。
(それじゃあ、アリスに会いに行かないと……イシルさんも、そこにいるはず)
「てか、まだ?まだなの?」
「そうだね~」
「……」
スローロリスは たっぷりと時間をかけて真っ赤、、というより、熟れすぎて紫がかったリンゴの実まで到着すると、一つ、ぷつんと、落とし、それを時計ウサギが下で布を広げてキャッチした。
「これは、見事な『忘却の実』だね!この前のは効果がイマイチだったけど、これなら花婿も 今までの事をきれいさっぱり全て忘れて 新しい生活を始められそうだ 」
どうやら毒リンゴは食べても死ぬわけではなく、記憶をリセットするものらしい。
(花婿って、、イシルさん!?イシルさんの記憶を奪うの!?)
「じゃ、また頼むわ!」
「あれぇ~もう行っちゃうの~?」
「だから、急いでるんだってば!」
「リンゴジュースはぁ~?のまないのぉ~?」
「……君、オレの記憶奪ってどおすんだよ、村人に飲ませろよ」
「あはは~、そうだねぇ~」
↑音を立ててランに怒られるサクラ
時計ウサギのチコは『忘却の実』の毒リンゴを布に包むと懐へしまい、走り出した。
ランもその後ろをついて走り出し、サクラも続いて後を追う。
時計ウサギは 背中の時計が重いのか、幸いにも足は早くなく、難なく後をつけることができた。
あんなにせっかちなのに、もう少し小さい時計はなかったのかよ!
「い、そ、げ、、い、そ、げ、、」
時計ウサギのチコは 自分を急かしながら 村を出て、森の中へと入っていく。
そして、大きな木の根本までやって来ると――
″ぴょんっ″
大きく口を開いている木のうろへと飛び込んだ。
「あれが、兎穴ね」
″がしっ″
『ニャッ?』
サクラは子猫のランを抱えると――
(まっ、待て!サクラ!)
″ぴょょ~ん″
躊躇なく ウサギを追って 先のみえない真っ暗な木のうろへ ダイブした。
(うわーっ!考えなさすぎだろ!?魔法使えないんだぞ――!!)




