438. ѕαкυяα ιи ωσи∂єяℓαи∂ ★
挿絵挿入(2021/7/6)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m
イシルはリビングのソファーに座り、何気なく外を見ようとして、また違和感に襲われた。
イシルが窓だと思って目を向けたのは、リビングの入り口だったからだ。
窓はリビングの入り口の反対側にある。
住み慣れた家の筈なのに、何故?
イシルはリビングを見渡し、部屋の様子を伺う。
本棚も こんな位置だったか?
いや、リビングで直射日光の当たらない、この場所で合ってはいるのだが……
イシルは立ち上がり、本棚へと向かう。
「イシルさん」
本に手を伸ばし、一冊抜こうとするイシルの背にアリスが声をかけた。
「本ばかり読んでないで、体調がいいなら私と少し森を散歩しませんか?」
首をかしげて 子ウサギのようなつぶらな瞳でイシルにおねだりする。
「外の空気を吸いに行きましょう」
「そうですね」
アリスがイシルを本棚から遠ざけるようにイシルの手を取り 外へと連れ出した。
森へ出ても イシルの気分は晴れなかった。
愛しいアリスが隣にいて、自ら手を繋いでくれる。
こんなに嬉しいことはないはずなのに、なんだか心がついていかない。
「雨期がきたら 1つのパラソルを差して一緒に歩きましょうね」
「ええ」
アリスがキラキラと楽しそうに笑顔をうかべてはしゃぐ。
「夏になったら海にも行きたいです」
″夏……赤……サソリ……″
何かが、イシルの頭を掠める。
「イシルさん?」
アリスがイシルを不思議そうに見上げる。
「え?ああ、海……行きたいですね」
何だ?
「秋は果物狩りに――」
″秋に……銀杏……茶碗蒸しが……″
「冬は氷の国を旅して――」
″エルフは……雪……本当……か?″
アリスの言葉と一緒に、記憶の欠片が降ってくる。
デジャヴ?
前もアリスと似たような会話をしたのか?
それを思い出そうとすると、ざわざわと胸が波打つ。
「ずっと、一緒ですよ?」
アリスがイシルを見上げて笑った。
「勿論です」
ずっと、一緒。
それはイシルが切に望んでいることだ。
得られないと思っていた。
何故?
来年も、再来年も、彼女の隣にいられること……
この不安な感じは、何だ?
「そして春は、桜――」
「サクラ――」
サクラの、花、、
「っ///」
花の名前を聞いたとたん、きゅうっ、と、 胸が 締めつけられた。
鼻につくん、と刺激を感じ、目頭が熱くなる。
″イシルさんっ!!″
「!?」
イシルは誰かに呼ばれたような気がして、振り向いた。
だけど、そこには誰もいない。
今のは――?
イシルは記憶の中から声の主を探す。
しかし、思い当たらない。
とても、大事な事を忘れているような気がする。
息が荒くなり、イシルはかきむしるように胸に手を当てた。
焼けつくような、狂おしいこの感情は――
「イシルさん」
それが何か、手が届きそうになったところで、イシルはアリスに呼び掛けられ、引き戻された。
ふわん、と、再び頭の中が痺れるような 甘い霧の中に包まれる。
「やっぱり具合、悪いですね、戻りましょうか」
「大丈夫です、もう少し――」
森を歩けばまたあの声が聞こえるかも、そう思ったが、アリスが首を横に振る。
「私のせいです。ごめんなさい、私が無理を言って連れ出したから」
不安な顔のアリス。
こんな顔をアリスにさせるなんて、恋人失格だなとイシルは反省する。
「いいんです、戻りましょう」
イシルはアリスの頭をそっと撫でた。
アリスはそれを嬉しそうに受け入れ、イシルの懐にもぐり込むようにすり寄った。
◇◆◇◆◇
「あいてててて、、」
三面鏡を通って イシルを探しにきたサクラは、地面におもいっきし膝小僧をぶつけてしまった。
(もう!ランも支えてくれたっていいじゃんか、この歳で怪我したら治りにくいんだから!)
いや、異世界だからヒールの魔法で一発で治るか。
怪我してないけど。
立ちあががり、スカートを払うと、辺りを見回す。
「あれ?」
別世界にきたのかと思いきや、さっきと同じ ハーフリングの村だった。
(ラン、何処行ったんだろう)
一緒に来たはずなのにランの姿がみえない。
近くにいるだろう、と、サクラはとりあえず ランを探して歩く。
色んな仏像、石像が並ぶハーフリングの中央広場。
一人で歩くのは、、ちょっと不気味だ。
しかし、おかしいな、何だか歩きにくい。
昼間来た時と同じ風景なのに、違和感がある。
「ラン?ラーン、、」
そして、人がいない。
夜中だったはずなのに、日も出ている。
(パラレルワールド、的な?)
サクラはランを探して歩きながら、ふかふかオオイタチのテントまでやってきた。
呼び込みの香具師もいないし、物が溢れているのに 物音ひとつせず、耳が痛い程だ。
静かすぎるって不気味……
(閉館した遊園地とかってこんな感じ)
賑やかな装いな分、余計に淋しく感じるよね。
今ピエロとか急に出てきたら死ぬ程コワイわー
″YЯUTИƎ⊃ ƎHT ᖷO T§ƎᎮᎮIᙠ″
(なんだ?昼間呼んだ看板、読めないぞ?)
習った異世界の文字と違う、変な文字が書かれていた。
サクラはジーっと文字を眺める。
ここには『オオイタチ』と書いてあったはず
『TƎЯЯƎᖷ ᎮIᙠ』
あれ?これって、、
鏡文字!?
それは、、
″BIGGEST of the century″⇔″YЯUTИƎ⊃ ƎHT ᖷO T§ƎᎮᎮIᙠ″
今世紀最大
『BIG FERRET』⇔『TƎЯЯƎᖷ ᎮIᙠ』
オオイタチ
の、鏡文字だった。
(やっぱりここはあの鏡の中なんだ!)
サクラは再び辺りを見回し、違和感の正体に気がついた。
昼間はここから右に道が延びていたはずなのに、今は左に道がある。
右にあるはずのものが左にある。
イッツ、ア、ミラーワールド。
(あ、、)
そして、サクラはもうひとつ気がつく。
(ラン、探すまでもなく喚べばいいのか)
魔法慣れしてなくてすみません。
現世に従魔なんていませんからね。
飼ってた猫ですら呼んだって来やしませんでしたから、召喚することをいつも忘れる(←猫は気分屋)
なのにこっちが何かやり始めるとかまってくれとのしかかる(←猫は気まぐれ)
猫はそのわがままが可愛いのだけど。
サクラは心でランを呼んだ。
″ラン!!″
シ――ン
(……あれ?)
反応がない。
一緒に来たと思ったのは間違い?
″ラン、おいで!″
シ――ン
やっぱり反応無し。
″カサカサっ″
テントの奥の茂みが揺れる。
(ひっ!ピエロ!?)
″ニャー″
「なんだ、猫か」
黒い子猫は、とととっ、と、サクラの足元に寄ってきて、スリスリとサクラの足にまとわりつく。
(ん?猫?しかも、黒猫?)
「もしかして、ラン?」
″ニャーア″
そうだ、やっぱりランだ。
え?どういうこと?もしかして、人になれないの!?
ランが人になれない時は魔力が少い時。
サクラは試しに生活魔法『火』を手のひらに集めてみた。
″シーン″
発動、しない。
特別な銀色キラキラ魔法はどうだろうかと、集中する。
″シーン″
やっぱり!
「……魔法が 使えない」
◇◆◇◆◇
白いウサギが ぴょこんと跳ねる。
散歩から帰ったイシルは 木にもたれ 可愛い子ウサギ達が遊ぶのを眺めながら 木陰でくつろぐ。
イシルの膝に頭をもたげるアリスの髪をさらりと撫でながら。
「ウサギは一人ぼっちだと寂しくて死んじゃうのよ」
「そうなんですね」
実際そんなことはない。
だけど、アリスは信じているようで、たくさんのウサギを飼っている。
「死んじゃうんだから」
イシルが信じてないのがわかったのか、アリスが体を起こしてイシルの手をきゅっ、とにぎって、イシルを見上げた。
「みんなでここにいれば寂しくないし、死んじゃうこともない」
永遠に続く時の中で、何に煩わされることもなく。
「それに、やっと、夢が叶うわ」
アリスが小さな手をイシルに伸ばしてくる。
「やっと、、オトナになれる」
嬉しそうに、眩しそうに 目を細め イシルの胸に手をつくと
背伸びをして……
くちびるに キスを――




