435. 骨董市
穴熊亭で昼を食べたサクラとイシルとランは オズの案内で ハーフリング村の中央広場へとやって来た。
ここには石碑や彫刻などの、大型の商品が並んでいる。
まず目にはいってきたのが、古い遺跡、神殿の柱のようなものだ。
今にも崩れそうで怖いですよ?
しかも、予約済みの札が貼られている。
「……これ、何に使うの?」
「ああ、貴族の物好きが 家の門柱にしたり、庭に飾ったりするんや。一定率需要があるんよ」
大きなお庭をお持ちですね?
清廉な女神像やダビデのような男性像、木彫りの獅子にあれは、、ガネーシャ?
阿修羅像に風神雷神、カメハメハ大王にモアイ!
節操なく、なんでもあって、カオスです。
「随分売れてるね、予約済みの札が結構かかってる」
「ああ、それな、ダミーも混ざっとるさかい」
「ダミー?」
サクラの疑問にオズがこっそり耳打ちする。
(人の物は欲しゅうなるのが人っちゅうもんや。せやからああしとけば値段より高う売れるんや)
なるほど、勉強になります。
しかし、見てるだけでも十分楽しい。
「ラン、真実の鏡だって」
サクラが白い台座に嵌め込まれた三面鏡を指差してランに示した。
「″鏡に写った13番目のあなたの顔が 本当の顔″らしいよ、本性がわかるんだって、ラン、覗いてみてよ」
「何言ってんだよ、顔なんて全部一緒だろうが、鏡なんだから」
「いいえ」
すいっ、と、イシルが ランの耳元でささやく。
「本当は 13番目は黄泉の国と繋がっていて、青い顔した自分の死に顔が映るらしいですよ」
「うわっ!怖ぇこと言うなよ、イシル、嘘つくなよ」
「嘘だと思うなら覗いてごらんなさいな」
イシルがにこやかにランにすすめる。
「……」
ランがサクラを見る。
サクラは無言でフルフルと首を横にふり、拒否を示した。
″ガツッ″
「わっ!ランくん、何を、、」
ランはオズを掴むと、ぐいっと三面鏡の前に押し出した。
「13番目だ、オズ」
「いやや、離してぇな!」
「目つぶってたら見えないだろ」
ランがオズの目を開かせようとし、オズが抵抗を見せ、ジタバタと暴れた。
「ギャー!ヤメテ ランくん!わてかて見とうないわ!」
「あばれんなよ」
ランがオズの顔に指を当てて、ぐぐっと見開く。
「止めや!小僧!いてまうぞコラ!!年上は敬わんかいっっ!」
「あはは、鏡見なくても本性見えてるよ、オズ」
「上手いこと言うとらんで助けてーな、姐ぇさんっっ!!」
結局オズは目を開けずに、鏡の真偽はわからずじまいだった。
剣と魔法の国、異世界だからね、あっても不思議じゃないよね。
「今回は旅芸人みたいな人達は来てないんですね」
サクラは辺りをキョロキョロと見回す。
ドワーフの豊穣祭やオーガの村の男祭の時は 旅芸人や動物使いなんかが来ていたけれど、こんなに物が溢れていたら場所がない。
「吟遊詩人を雇って道具にまつわる話をしてる店とかはありますね、それに、見せ物小屋はありますよ」
ほら、あれです、と、イシルが前方を示す。
見ると、テントがはってあっり、受け付けに香具師が一人立っていた。
「お代は見てからで結構だよ!さあさあ、入って入って~」
(サーカス、とかかな?)
サクラは近づいて看板の文字を読みとる。
(えーと、、)
″今、世紀、最、大、、お、、、お?″
『オオイタチ』
「……」
えーと、、
これは、あれかな?
六尺の板に血糊がベットリ塗ってあったりするのかな?
大板血てか!?
洒落好きのハーフリングだから、ありえる。
しかし、香具師はハーフリングではなく、人間だ。
「入ってみましょうか」
「ええ?」
もったいない気もするが、騙されるのもまたいいかな、旅先の古びれた博物館とか、結構好きだし。
サクラ達は入ってみることにした。
「か~わい~い///」
結論から言えば、オオイタチは、いた。
さすが、異世界。
「ふっかふかぁ///」
きゅるんとかわいい真っ白な特大フェレットが、どーん、と テントの真ん中に鎮座していた。
その毛皮に埋もれて お昼寝タイム。
10分300¥
″買い物に疲れたアナタに癒しタイムを″
サクラはばふんと抱きついて ふかふかの毛皮に包まれる。
イシルもランもオズまでも、毛皮に埋もれて癒され中。
オトナ5人くらいは余裕で受け止める大きさです。
「オオイタチは害獣でもなく、おとなしいのですが、この毛皮のせいで狩られて数が少ないんですよ」
「そうなんですね」
「大変、貴重な体験です。来て良かった」
私も、イシルさんのデレ顔見れて満足ですよ。
「この毛皮を着ている貴族なんか見ると 代わりに生皮はがしてやりたくなりますね」
癒され顔で怖いこと言わないでくださいイシルさん。
もふもふ愛が過ぎますよ?
本当にやりそうですからアナタ。
同感ですが。
オオイタチに30分程癒された後は 広場から小道へと入り、道の片側にズラリと続く露店を物色。
小さなタンスや花瓶、小箱、置物と、部屋の内装小物が揃っている。
「この辺りは食器が多いですね」
メインプレートやベリー皿、スープのチュウリンにカップ。
ソース用のグースネックにココット、、
素材も木製、銀製、銅聖、陶器と様々だ。
「イシルさんこれとか好きそうですね」
サクラが優しい乳白色の皿を示す。
シルバーの小さな蔦模様に淡いグリーンのラインが入ったシンプルな皿。
「皿なんていっぱいあるじゃん」
ランは興味なさそうだ。
「そうですね、でも、これにお肉を乗せたら美味しそうですよ?」
イシルが示したのは石焼きの皿。
「オレ熱いの食えねぇし」
「ええ、でも石焼きで焼いたお肉は美味しいですよ~」
「うっ///」
「石焼きで煮たシチューもいいですね」
「ぐっ///」
「でも、ランがいらないっていうなら、仕方ないですね」
″ガシッ″
「え?サクラさん?」
「買いましょう、イシルさん」
石焼きビビンバ、食べたいデス!!
ランではなく、サクラが釣れた。
◇◆◇◆◇
日も傾き、オレンジ色に空が染まり、夜の帳が降りてくる。
露店の商人達が片付けをはじめ、店をたたむ準備をしている。
「骨董市は夜はやってないの?オズ」
「夜は盗難が多いんや。商品はしまって、ひとくくりにして、各グループ交代で見張るんよ」
骨董市一日目の終了です。
いや~、堪能した!
「明日は本も見たいですね」
「オレは剣かなぁ、、普段使い出来る手頃な短剣が欲しい」
イシルとランの会話を聞きながら、サクラは暮れてゆく空を眺めていた。
(ん?なんか落ちてる)
片付け忘れの商品か、誰かの落とし物か、四ツ辻に別れた通路真ん中に横たわる黒い影。
(ウサギのぬいぐるみ?)
サクラは近寄って、落ちているウサギの縫いぐるみに手を伸ばした――
「サクラさん!駄目です!!」
「え?」
イシルがサクラめがけて走ってくる。
″キ――――ン″
「ひやっ!」
「うわっ!」
「なんや!?」
「くっ、、」
耳鳴りが響き、サクラは顔をしかめ、思わず首をすくめて目をつぶった。
ランやオズも同様に耳鳴りを感じたようで顔をしかめる。
暫くして静寂が訪れ、サクラはゆっくりと目を開けた。
空は紫とオレンジが乱れ入り、夜が昼を浸食し、不思議な色合いを見せている。
こういうの、何ていうんだっけ?
「何だったんですかね、イシルさん」
サクラは庇ってくれたイシルを見上げた。
しかし、いつもの高さにイシルの姿が見えない。
(あれ?)
目のはしに入るのは、イシルの緑の服。
ドキリ、心臓が止まる。
サクラはゆっくりと視線を地に向けた。
サクラの足元に――
「イシルさん……?」
地に伏せるイシル。
返事はない。
「イシルさん!?」
サクラはイシルにすがりつき、仰向けにする。
ぐったりとした体を抱き起こした。
「イシルさん!!」
息は!?息は、してる!?
「誰か、、誰か!!救急車――――!!!」
逢魔が時。
それは、魔に遭遇する、あるいは大きな災禍を蒙ると言われる時刻――




