433. ハーフリングの村へ 13 (入村) ★
挿絵挿入(2021/7/2)
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ディオの店を出た三人は、馬車道に戻り、しばらく歩くと ハーフリングの村へと到着した。
骨董市のために人が結構来ている。
皆、掘り出し物目当てにだ。
元々貴族の出入りがある村だから、ドワーフの村より門構えが立派で、入村手続きもちゃんとしている。
塀はドワーフの村の方が頑丈そうだけどね。
因みにオーガの村は 獣侵入防止の竹柵のみで、だれでもウェルカムだったな。
入村順番待ちの貴族の馬車や、会話している商人達の合間から、村の門前で、オズが待っているのが見えた。
(何、アレ)←サクラ
(すっげぇな)←ラン
(……素通りしたいですね)←イシル
オズは 空港出迎えよろしく、「イシル家ご一行様、大歓迎!」と書かれた派手なプラカードを手に、どこの演歌歌手!?と言う程の、キラッキラのラメスーツに、「盛り上げ隊長」と書かれたたすきを斜めにかけている。
(一緒に歩きたくないですね)←サクラ
(塀を越えましょうか)←イシル
(行こうぜ)←ラン
こそこそと脇にそれようとする三人の背に、明るい声がかけられる。
「ここや!姐さん、サクラ姐さん!待っとったで~、いらっしゃ~い!!」
一歩、遅かった。
オズが走り寄ってくる。
その手には三本のたすき。
″本日の主役″
″超ド級大金持ち″
″史上最強の色男″
「遠路はるばるよう来ましたなぁ、ようこそ、ハーフリング村へ!」
歓迎の言葉と共に、オズがランの首にたすきをかけようと、背伸びし、手を伸ばした。
″ボワッ″
「わぁ!」
ランは首にたすきをかけられそうになると、火魔法を使い、たすきとプラカードまとめて燃やしてしまった。
「何しますんやー!?」
「てめぇ、オレに何のたすきをかけようとした?」
「え?、、え――……」
オズがランから目をそらす。
間違いなく″史上最強の色男″のたすきだろう。
「いややわぁ、ラン兄さん、可愛いオズちゃんの ちょっとした洒落やがな~」
オズがきゅるんと上目使いをしてみせた。
「お前の方が年上だろ」
「てへぺろ♪」
このあたりがオズとディオの違いかな。
オズは最大限自分の子供サイズの見た目を活用している。
「姐さん、助けて~ランくんがわてをイジメよる~」
オズは形成不利を察知すると、ランから逃げるように素早くサクラの後ろに隠れた。
「あれ?姐さん、甘い匂いしとりますなぁ、もしかして、ディオの店に行きはりました?」
サクラから小麦粉とミルク、バター。バニラのような甘い香りがする。
「え?うん」
「あいつもなぁ、あんなことせぇへんかったら儲けられたのに、アホやなぁ」
もしかして……
「なんか、したの?ディオ」
「貴族のお茶会に、けったいなクッキー納品して、大パニックやったで~」
うわぁ!やっぱり!そんなことしたんかい!
「お陰で村から追い出されたんや」
それであんな村外れ、しかも塀の外に店構えてたんだ。
「気持ちはわかるけどな。あいつら貴族連中は、ハーフリングをバカにしとるんや。足元見よるし。しかし、そこをグッとこらえてこそ商売人や。あいつらと同じ土俵におりたらアカン、あいつら貴族は そういう考え方しか出来ん、可哀想な人達や思うとったらええ」
オズはそんな風に割り切っていたんだ。
オトナだな……
「でも、スッとしたわ~、ハーフリングを代表して、ディオが仕返ししてくれたようなもんやしな。裏では『ようやった』て、村中大喝采やったわ」
ああ、だから今でもギランさんとの、、村との交流はあるんだね。
「ああいうアホも必要や、、て、イシルの旦さん!入村手続きはいらんでー!そのためにわてが来とんのやー!ちょ、待ってーな!」
オズの存在事態をスルーして村に入ろうとしていたイシルにオズが慌てて声をかける。
オズのおかげで、大変賑やかな入村となった。
◇◆◇◆◇
ハーフリングの村には二つの宿屋がある。
一般客が泊まる『穴熊亭』と、貴族のための『鹿鳴館』
「堅苦しくないほうがええと思うたから、穴熊亭にしたんや。煮込み肉がうまいでぇ~」
ああ、早く食べたい!
サクラ達は オズが予約してくれた穴熊亭へと向かう。
宿は村の入口付近にあるが、その短い道の途中の間にも、ところ狭しと骨董品の店が広がり、物が溢れかえっていた。
「これは魔法のランプや!中には魔神が封印されとる不思議なランプや!」
「この宝石は、行方のわからなくなっていたかの有名な乙女の涙、本物やで~」
「これは万能キー、これ一つでどんな鍵をも開けられる世にも便利な道具やで~」
どれもこれも胡散臭いんですが?
「本当にどんなものでも開けられるのかね?」
「へい、しかし、たった一つ開けられないものが、、」
「それはなんだ?」
「それは、奥様の心の鍵や~」
「わっはっは、、なるほど、一つもらおうか」
「お買い上げありがとうございます~!!」
それもこの骨董市の楽しみのようで、お客も面白がって物色している。
年代物の壺や小物入れ、装飾品、絵画や本、食器や仏像、遺跡の柱のような石に、剣に鎧に何でもある。
「すげぇな!また当てた!」
「おおーっ!」
人々の歓声に、何事かとサクラが目を向けると、雑多に並ぶ物達に紛れて、白いローブを被った女が 水晶の珠を前に座っていた。
ローブの下にチラリと見える素顔は、正しく聖女といった感じだ。
「オレも昨日失せ物を占ってもろたら、ピタリと当たったんや」
「出てきたんか?」
「いや、かーちゃんに内緒で売りとばして酒代にしたんやったわ」
「なんやねん、それ」
わははと笑いが起こる。
どうやら女は流れの占い師のようだ。
(キレイなお姉さん)
女はサクラを見留めると、白く細い手をあげ、小さく手招きした。
それを黒い陰が遮る。
「サクラさん、見ないで」
イシルだった。
イシルが女とサクラの間に立ち、視界を遮ったのだ。
「あれは、夢魔です」
「夢魔、、悪魔ですか?」
「ええ。悪魔は人の感情が味となってわかる。だから当たるんですよ。相手の味を見ながら答えを導き出せばいいのですからね。加えて夢魔は思いどおりの夢を見させることができます。その人の夢に入り、あたかも占いが当たったように体験させることも」
「なるほど」
「夢魔は現では誘惑くらいしかしてきませんが、夢の中では仕掛けてきます」
「夢の中に入ってこられたらどうしたらいいんですか?」
「そうですね、自分をしっかり持って、これは夢だと自覚しておけば大丈夫ですよ。所詮夢ですから」




