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43. 帰路 (チャイ) ☆

『魔物資源活用機構』をお書きになっているIchen様より、FPいただきました(2021/12/2)

あとがきに添えさせていただきました。

是非ご覧いただきたい!



糖質制限をはじめて、半年ぶりにポテチを買いました。小さいやつ。が、怖くてまだ食べてません……強迫観念?





「ここで食べる気にはなれませんが、何かお腹に入れたほうがいいでしょう」


そう言って イシルは 亜空間ボックスから 小鍋を取り出した。


鍋に水をいれ沸騰させると、沸騰したら砕いたシナモン、カルダモン、ナツメグ、ターメリック、黒コショウを入れる。

そこに紅茶を加え 一煮立ちさせ、

茶葉がひらいたら 牛乳を入れて中火でもう一煮立ち。

それを茶漉しでこしながら カップに注ぐ。


『チャイ』だ。


「温まりますよ」


イシルがカップを渡してくれた。


スパイシーな香りと ミルクの柔らかな香りが 心を落ちつけてくれる。


甘いのは飲んだことあるが、甘味がなくても美味しい。

ミルクを入れずに ストレートのスパイスティーでも美味しそうだ。


「それと……」


イシルは亜空間ボックスから紙袋をとりだした。

こ、これは……


おからクッキー!!


「次は一緒に食べる約束でしたから」


一度食べすぎて失敗した、あのおからクッキーだ。


サクラとイシルは 二人で並んで 仲良くティータイム。

今 何時かわからないけど。


突然、クスッとイシルが笑った。


「?」


「罪を憎んで人を憎まず、ですか」


イシルはサクラが泣きながら口走った言葉を思い出してクスクスわらう。

ツボったのかな?


「シズエも言っていたんで、思い出して」


「シズエさんも?」


……あれ?


今、なんか…………モヤっとしたぞ?





「そろそろ行きましょうか」


亜空間ボックスにお茶セットを片付けてイシルが立ち上がった。


そして、(ひつぎ)にむかって 穏やかに声をかける。


「次は 酒でも持って来ますから」





サクラとイシルは (ひつぎ)()を後にすると 帰路へついた。

再び 坑道の迷路を歩く。


「イシルさんは 冒険者だったんですよね?」


サクラは気なったことを聞いてみた。

魔王で、冒険者?


「サンミから聞いたんですね?」


「はい」


イシルが灯す光を頼りに、二人は前へ進んでゆく。

同じような道、同じような通路。

まるで、堂々巡りをしているような気分だ。

その時のイシルの心のように、迷路の出口はまだ見えない。


「僕が ここで 皆を弔っている間に 一人の男がやってきました」


「魔王を 倒しに、ですか?」


「いえ……彼は、探検家のようでした。色んな国を旅している、と。」


王が倒され、争いは一時鎮静を保っていた。

小さな小競り合いはあったが、それでも平穏になっていた。


「こんなところに一人で来る物好きがいるとは思いませんでしたから、驚きましたよ」


死の充満するこの場所には 誰も近寄らない。

うかつに入れば迷い、出られなくなる。

身内を探しに来る者も、火事場泥棒さえも。


「土地勘のない者が単身で 柱の宮殿に辿り着けたのだから 実力はある者でしたね。不可能に近いことです」


「何しに来たんでしょう」


「宮殿を 見に来た と。」


ドワーフの技術の集大成 あの 巨大で美しい大広間を。

観光かよ!?


「おかしいのかと思いましたよ。死体がゴロゴロ転がっているのに 柱を見て 大興奮してたんですから」


それは……おかしい。間違いなく変人の部類だ。


「僕のことも 魔王だとは思ってなかったみたいです」


変人、だけど、いい人だったんだろう。

イシルの口振りから 親しみを感じた。


「不思議な人でした。久しぶりに 楽しいと感じましたよ。そこで僕は その人に賭けてみたくなったんです」


「?」


「僕は、魔王を殺すことにしました」


なんだって?殺すって、自分を?


「彼が旅立つ日に 髪を切って渡しました。これを持って王都に行け、と」


「髪を、ですか?」


「はい。エルフの髪には魔力が宿っています。持ち帰れば それがどれくらいの力を持つ者の髪かわかるでしょう。だから……」


彼に髪を渡し『魔王は死んだ』と。





長い迷路を抜けた。

抜けたはいいが、目の前には 巨大な吊り橋。しかも崩れそう……

もう、お腹いっぱいですよ、なんですかこのイ○ディー・ジョーンズてんこ盛り。ネズミの国ですかっ!!

最後に岩が転がってきたりしないですよね?


サクラが硬直していると、イシルが 吊り橋手前でニコニコしながら両手を広げていた。


……え?


なんですか そのポーズは


まさか、私に その胸に飛び込め と?


自ら 抱きつけ と?


イシルさんの破壊力が強すぎて 私のHP残り少ないんですけど……持つかな、心臓。


橋の下に飛び込むわけにもいかず、どうせ死ぬなら イケメンの胸の中で死のう、と、イシルに近づく。


サクラは遠慮がちに イシルの首に手をまわす。

自分から抱きつきに行くって 恥ずかしすぎてムズムズする……

イシルの顔が近いので、さっきのキスを思い出してしまい、慌ててイシルの肩に顔を(うず)めた。


イシルは満足げに笑うと サクラの腰を抱え、抱き上げた。

サクラを抱えてつり橋を渡る。


(私はコアラ、私はコアラ……抱きついているのはユーカリの木……)


サクラは自分を洗脳する。


(わっ!)


吊り橋がゆらゆら揺れる。

サクラはイシルにしがみつく。


(もう、吊り橋効果 必要ないよ!!)


吊り橋の下は 底が見えない。


「下は見ないで」


イシルがサクラに声をかける。


「僕だけを見て」


違う意味に聞こえてしまいドキドキする。


「僕は貴女を放さないから 大丈夫。たとえ貴女が放したとしても」


このユーカリの木は甘い……甘すぎる。


吊り橋を渡りきるとまた上り階段だ。

イシルはそのまま階段も サクラを抱えたまま軽く上りきってしまう。


「もう少しです」


アスレチックのような場所をいくつも過ぎると、ようやく普通の洞窟みたいなところに出た。


「それで、魔王は死んだことになったんですか?」


サクラは 下ろしてもらい、イシルの後を歩きながら、話の続きを促す。


「ええ。彼は 髪を王都に届けました」


髪を売れば一生遊んで暮らせただろうに、と。


え!?そんなに!?


「しかも、ここではない、全く違う場所に 魔王はいた、と」


ほんと、イイ人だったんだ。変人でも。


「隊をなして討伐に来るなら それでいいとも思っていたんですけどね」


戦友(とも)の眠るこの場所で終わるなら、それでもいい。

イシルに 戦う気は もうなかった。


「でも、賭けに勝ちました」


前方に光が見えてきた。


「彼の名は 勇者ギルサリオ」


ギルサリオは 魔王を倒したとして 国を一つもらう。

彼の手腕により 平和は約束され、種族間関係も良好なものへと変わっていった。


『魔王』は死に『イシル』になった。

戦友(とも)の弔いが終ると この地を離れ、ギルサリオがしていたように 世界を見てまわった。冒険者になったのは その時からだ。


洞窟を抜ける。


「魔王を殺したのは 大陸にあるサン・ダウル国の 初代王です」


朝日がまぶしい。












『魔物資源活用機構』をお書きになっているIchen様より、チャイをいただきました!





挿絵(By みてみん)




シナモン、カルダモン、ナツメグ、ターメリック、黒コショウ。

物語の中のものをそのままに。




挿絵(By みてみん)


はぁ(〃▽〃)美味しそう!

Ichen様は普段からスパイスを料理に使いこなす、スパイスの魔術師(*^^*)

FPありがとうござます!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 私この話大好きなのです。ギルサリオと過去に魔王と呼ばれたイシルさんの、それぞれが抱えた時間、悲喜こもごもの末。後に大きな縁が巡る、この部分。何度読んでも、鳥肌が立つんです。 [一言] チャ…
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