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426. ハーフリングの村へ 6 (vs 猪熊族 3)




「はじめッ!」


試合開始の合図と共に ターニャが地を蹴り サクラに襲いかかる。


(ひいぃ!)


サクラは逆に、開始早々、合図と共に横に逃げた。


「ははっ、賢明だな」


ターニャが楽しそうに笑う。

猫がネズミを弄ぶように、瞳にサディスティックな色を浮かべて。


(捕まったら終わりだ!)


ターニャが再び襲いかかり、サクラはまたしても横に逃げた。


幸い、イシルが靴にかけてくれたクイックの魔法のおかげで、すぐには捕まらないで済んでいる。


「おっと」


ターニャが サクラのいた場所で振り向き、不適に笑った。


「何も考えてないって訳じゃないんだな」


何故ならサクラは土俵際、サークルの線ギリギリのところに逃げているからだ。

あわよくば、ターニャの場外退場を願って。


「だが、そんなに甘くはない!」


簡単には外に出てくれなさそうだ。


サクラに襲いかかるターニャは、観客を煽るように余裕をみせながら、ジリっ、ジリっと、徐々にサクラを追い詰めていく。


観客は 間一髪でターニャの手から逃れるサクラに、『いいぞ!』『逃げろ!』『やれー!』『あはは!』と、大盛り上がりだ。


「危なっかしくて見てらんねー」


ランがヒヤヒヤしながら、サクラを見守っていた。


「君のために戦ってるんですから、ちゃんと応援するんです」


「……おう」


イシルに言われて、『サクラ!頑張れー!』と、ランが声援を送った。


(……おかしいな)


しかし、イシルは サクラの動きに違和感を覚える。


(もっと早く動けるはずなのに……)


イシルがサクラにかけたクイックの魔法は、微力ながらも、もう少しスピードが出るはずだった。

しかし、サクラはターニャの攻撃を()()()()で回避している。


体力温存のため?

場を盛り上げるため?

それとも――


(わざと?)


サクラに何か()があるのだろうか。

既にサクラの息はあがっているように見える。


「だいぶお疲れだな、そろそろ本気でいくよ」


ターニャがスピードを上げる。

サクラは相変わらずスレスレでかわし、サークルギリギリを逃げ惑う。


ターニャの集中力があがり、サクラが捕らえられる、その時――


″パァンッ!!″


大きな音がして、ターニャの集中が散らされた。

急に目の前に何かが現れて焦点が合わず、チカチカする。


″ガクンッ″


次の瞬間、ターニャは膝から崩れ落ちた。


(やばっ、膝つき!!)


ターニャは咄嗟に立ち直し、膝を地につくのを免れた。


(あぶなっ!)


ターニャはすぐさま振り返り、ターニャの後ろにいるサクラに襲いかかる。

しかし――


「勝負あり!それまで!」


「えっ!?」


「ターニャ、場外だ」


「何ッ!?」


ターニャは膝から崩れた時、体制を持ち直すために ()()()に足をついたのだ。


サークルのギリギリから、一歩、前へ。

その ターニャの踏ん張った足跡は、くっきりと サークルの線を踏み越えていた。


「何が、、起こった、、?」





ターニャが集中し、サクラを追い詰め、捕らえようとした瞬間、サクラはターニャの目の前で柏手を打った。


″パァンッ!!″


集中していたターニャは、目の前に現れたサクラの手により視点を変えさせられ、大きな音により、一瞬、怯んだ。


次の瞬間、サクラは今までより素早く動くと、ターニャの後ろに回り込み、己の膝で ターニャの膝の後ろを小突いたのだ。


″ガクンッ″


ターニャの体が膝から崩れる。

そして、体制を立て直すため、ターニャは足を一歩踏み出す――


「あの技は、何だ……」


魔法ではなかった。


「″猫だまし″です」


申し訳なさそうにサクラが答える。

そして、決め手は膝カックン。





窮鼠猫を噛む。

まさにネズミが猫を噛んだ瞬間だった。


「勝者、サクラ!」


猪熊族の男がサクラの手首を取って手を上げる。

勝利ポーズ。


大穴、形勢逆転、まさかのサクラの勝利に観客が″ワーッ″と沸いた。


「いやー、面白かったよ、ネーチャン」

「あんな隠し玉を持っとるとはな」


陽気な部族なのか、仲間のターニャが負けたというのに、猪熊族の男二人は楽しそうだ。


「いえ、実は、靴に特殊な力が、、」


サクラの詫びに 当のターニャが口を挟み止めた。


「いや、アタシはアンタの力を見くびってたんだよ、サクラ。その靴に幾つかの強化魔法がかかっているのは最初ッからわかってた。見た目に似合わず、機能的ないい靴だと思ってたからさ。だけどアンタはスピードを抑えて逃げてただろ?アタシはそれに気づかなかった。アンタの作戦勝ち。アタシの負けさ」


いい経験させて貰ったよ、と、ターニャが手を差出し、握手を求める。


「ありがとう、ターニャ」


サクラも手をだし、固く握手をする。


「独り勝ちだな、エルフの旦那」


猪熊族の男が 掛金をもって、イシルに渡そうとした。


「いえ、靴の性能のおかげですから、この試合はドローですよ」


しかし、イシルはそれを断り、その中のから自身が渡したターコイズとラピスラズリの腕輪だけを受け取った。


「はっ、欲のないこって!」


猪熊族の男は 集めた金を返してまわる。


″いい余興だった″

″面白かった″

″ありがとうよ″


商人たちは、見物料だと、チップを猪熊族の男に渡し、サクラとターニャに声をかけ、散らばっていった。


「サークラッ♪」


ランが跳んできて、ガバッとサクラに抱きつく。

サクラはそれをひょいっ、と避けた。


靴に素早さの魔法がかかってますからね、今はランだってかわせます。


「なんだよ、逃げんなよサクラ!」


「やだよ、厄介ごとばっかり持ってきて!」


「なんだよ、″やだ″って」


「寄るな、厄神!」


今度はランと追いかけっこが始まった。


イシルはそれを眺めながら、返してもらったターコイズとラピスラズリの腕輪をターニャに差し出す。


「もらえないよ、こんないいもの」


突き返すターニャにイシルがいいえ、と、もう一度差し出す。


「ランはあげられませんが、お詫びの印として、受け取ってください。旅の御守りですから」


もらってください、と。


「うちの子が失礼をしてしまって申し訳なかったです」


「あんたんちの子か……」


「はい」


今度はターニャがイシルに詫びる。


「アタシこそすまなかった。アンタから()()を力ずくで奪おうとして」


ターニャがイシルの手から旅の御守りの腕輪を受け取る。


「じゃあ、代わりにこいつをもらってくよ」


″にゃ――!″

″ギャー!!″


向こう側では獣化してスピードをあげたランが 疲れてへばってきたサクラを捕えたところだった。


「賑やかな家族だね」


「ええ。毎日楽しいですよ」


″すぱ――ん!″

″う″にゃ――っ!!″


結局サクラの結界が発動し、いつものごとく、ランは弾き跳ばされた。




















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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫だまし!!素敵~!舞〇海の、楽しい相撲思い出す~ いや~素晴らしい。楽しかったです! [一言] お見事でした~!サクラちゃん、頑張りましたね! スピードと間合いと、一瞬のひるみ。 光景が…
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