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423. ハーフリングの村へ 3 (vs レイス)




三人はボートに乗り込み、再び洞窟の中、川を下って行く。


「この洞窟に住み着いていた大蝙蝠の姿が見えくなっていたので、おかしいなとは思っていたんです。日の当たらないこの場所に、まさか、カニバル・イーターが住み着いていたなんて……」


イシルはまだ少し元気がない。


「あのデカさは異常だよ。きっと外まで蔦を伸ばして光合成してるんだろ」


弱っているイシルさんもレアもので可愛いけれど、折角の旅なんだから、気にせず楽しんでもらいたい。


ランが続けてイシルにフォローの言葉をかける。


「何もなかったんだから気にすんなよ、サクラがオレをすぐに喚べば済んだ話だぜ?」


あれ?私が悪い?

いや、でも、そうだ。


「次からすぐランを喚びますから、ね、イシルさん、イシルさんが楽しくないと私達も楽しくないですよ」


「そう、ですね、ありがとうございます」


力なく微笑むイシルさん。


「でも、駆除しなくていいんですか?あの、カニバル・イーター?」


「ええ。カニバル・イーターは植物ですから、土から栄養をとっていて、基本的には移動しません。ここは人は来ませんし、水を浄化してくれ、蝙蝠やネズミなんかを補食してくれるので、村にとっては有意義なんですよ。村まで大蝙蝠が飛んでくる被害が無くなりましたから」


なるほど、あんななりしていいやつなんだ、肉食植物(オードリー)

自然保全を(うた)うだけはあるね。

害虫駆除してくれるから、益虫ならぬ益草?近寄らなければ問題ないってことだ。


「しかし、塩が有効とはね……」


「サクラは魔法の使い方が変わってんな、基準が全て食い物(笑)カニバル・イーター食うつもりだったのか?」


「いや、食べたくないし、あんなの」


ランに対してのサクラの反論にイシルが言葉を返す。


「美味しいらしいですよ?」


カニバル・イーターの漬け物?


「え~、でもヤだ。()()()てことは、イシルさんも食べたことがないってことですよね?」


「はい、あんなの口にするのはごめんです」


くすくす、と イシルが笑った。

やっと、笑った!イシルさん!


イシルがいつもの調子に戻ってホッとしたサクラは 洞窟内を見回す。

隙間か穴があるのか、所々に外からの光の筋が入り、苔が青く光っていて美しい。


ボートの通過に驚いて 小さな蝙蝠がパタパタと飛び立った。


″ガクンっ″


「ひゃっ!」


下りに差し掛かり、水の流れが一気に早くなったせいで、ボートが加速する。


「捕まってろ、サクラ」


上下に揺れるボートに振り落とされないよう、ランがサクラを庇うように捕まえ、抱え込んだ。


ジェットコースターですか!?激しいですね!?


「吐くなよ」


「頑張る」


サクラは遠慮なくランにしがみついた。

頼るところはちゃんと頼らないと また迷惑がかかるから。


イシルは船頭に立ち、ボートが岩にぶつからないようコントロールしている。


「そろそろ出口です」


前方に光が見え、徐々に大きくなっていく。

そして、大きな水音。


″ドドドドド……″


(え?この音……)


大きな水音に嫌な予感がした。

ぱああっ、と、視界に光が広がり、ボートが洞窟を抜けた。


″スッポーン″


洞窟を抜けると、そこは――


(空!?)


そして、あの水音は、やっぱり――


(滝―――――!!?)


洞窟の出口は滝で、ボートは空へと放り出される。


(ひいぃぃぃ!!)


「大丈夫だ、サクラ」


必死にしがみつくサクラに ランが笑いながら声をかけた。

どうやらイシルが重力魔法をかけたようで、ボートは風船のようにゆっくりと落下している。


「後ろを見てください、サクラさん」


「え?」


イシルに言われて顔をあげ、滝のほうを見た。


「うわっ!綺麗~」


サクラ達が抜けた洞窟から流れる滝には幾重にも虹がかかっていた。


緑の中に、輝く水飛沫をあげる滝壺は白く煙り、ドウドウと流れ落ちる水は 岩に当たり角度を変えて流れ、弾け、虹を作り出している。


マイナスイオンも大発生!


三人は落下するまで しばし 言葉なく 自然の芸術を鑑賞した。





ボートを岸につけ、陸に上がると、浮遊感が残り変な感じがした。

地面が揺れてる気がしてフラフラする。


「大丈夫ですか?」


イシルが笑いながらサクラを支える。


「ここから小一時間程歩けば キャンプ予定地に着きます」


望むところだ、運動を兼ねて来てるんだからね!


細い獣道なのでイシルが先頭を歩き、続いてサクラ、そして、ランがしんがりを勤める。


なるほど、RPGゲームが縦に並んで歩くのはこういうことだったのか。

なかなかリアリティーがありますね?


サクラは後ろを歩くランをちらりと振り向いた。


「……何だよ」


「いや、、」


この後ろに棺桶を引きずる某ゲームを思いだし、棺桶を引きずって歩くランを想像して、サクラは思わずニマニマしてまった。


ちらりともう一度振り向く。


(あれ?)


「なんだよ、サクラ」


「いや、、」


おかしいな、今 ランの後ろにもう一人見えたような……


「こいつか?」


目を凝らすサクラに、ランがひょいっと後ろを親指で指差す。

四人目の人影。

それはぼんやりと青白い人影。


「レイスだよ」


「幽霊!!?」


ひいぃぃぃ!透けてらっしゃいますもんね!?


サクラは思わずととっ、と、前を歩くイシルの側に寄る。


「レイスは生き霊ですよ、サクラさん。何処かで寝てるか気絶して抜けてしまったのでしょう、人を見かけたからついてきたんですね」


えっ!その方もご一緒にウォーキングですか!?

あ、でも、ラプラスに会ったときの私って、この状態だったのかな?

生き霊??


「ゴーストは実体がありませんが、レイスには触れることが出来ます」


「そうだぜ、こんなふうにな」


イシルの言葉に、ランがバン、バン、と、半透明のレイスを叩いた。


″ふにゃっ″


「ん?なんだ、柔らかいな」


″もみっ″


「あれ?胸??女???」


胸に置かれたランの手に レイスがうつむき震えている。

白い影だから表情はわからないが、多分、顔を真っ赤にしているのだろう。

そして――


″バチンッ!!″


レイスはランに平手打ちを放つと、ふわっと飛び上がり行ってしまった。


ラッキースケベ、おめでとう、ラン。


「いってーな、意外と馬鹿力、、」


「まあ、良かったじゃないですか、()()に戻ったなら」


「戻らないとどうなるんですか?」


「1日で戻らなければ、身体との繋がりが切れて 自力では身体に入れなくなり、49日が過ぎると生き返れなくなります」


「焦ってたまに間違った身体に入っちまうヤツもいるからな」


「入れちゃうの!?」


「波長が合えば入れますし、空っぽの身体には入れます。動く屍(ゾンビ)がそうです」


「ゾンビって、じゃあ、言葉が通じるんですか?」


「はじめのうちは。しかし、長い間自分の身体を離れた魂は 人であった時の事を忘れて 悪霊化します。残念ながら」


そうか、、ゾンビって、迷子の魂が入った悲しい魔物だったんですね……


「治せないんですか?」


「治せますよ。ただ、蘇生術は高等魔法なので 使える者が少なく、中には高額で術を施す者もいますから、中々大変です。白魔導師のいる僧院や教会を探して行かないといけません」


「そうなんですね」


因みにイシルは治せて、ランは未習得らしい。


「王都にはいたけどな」


ランがぼそりと呟いた。


ランの母、大魔法使い、マリアンヌだ。

マリアンヌは各地をまわりながら、孤児や病人、困っている人を助けてまわっている。


レイスについてもマリアンヌから聞いたことがある。

サン・ダウルの国王、今は亡きランの父と、ランの母マリアンヌが出会ったのも、各国を放浪していた父が マリアンヌの村に来て、レイスが入り込んで困っている者を助けたのがきっかけだった。


その時 父は、幼いマリアンヌに 魔法使いの才能を見いだし、導いてくれたのだ。

そして、マリアンヌは第三王妃となり、ランが産まれた――


「ランは、王都にいたの?」


「えっ?いや、、」


ゴニョゴニョ口ごもるランに サクラがハテナ顔で見つめてくる。


「サクラさん、前を見て歩かないと転びますよ?それとも、手をひきましょうか?」


「……前を向いて歩きます」


困っているランに、今度はイシルがランに助け船を出した。






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