表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
421/557

421. ハーフリングの村へ




「あれ?ドワーフの村から行くんじゃないの?」


ハーフリングの村まで てっきり門前の道を歩いていくのかと思っていたのに、イシルとランは森の方へと歩いて行く。


「慣れた道歩いたってつまんないだろ」


ドワーフ村のまわりはアスの魔方陣が描かれた石畳がひいてある。


その先も、ドワーフとハーフリング、オーガの三つの村は 同盟を結んだため、大がかりな道路整備が行われていて、道幅が広がり、地が慣らされ、途中まではなかり歩きやすくなっているハズだ。


歩きやすい道ならまだしも、隣村まで山道はキツいでしょ!?

鍛練遠足なんて聞いてない。

それならズボンに履き替えないと!


「いや、私初めてだし、山道そんなに長く歩けないよ」


「歩く道はそんなに険しくないですよ。途中からボートで川を下りますし、険しさはこのあたりの獣道程度です」


「へぇ」


イシルさんが言うなら大丈夫だろう。

ライン下りか、楽しそう。


「ムリそうなら僕が抱えて歩きますから」


イシルがニコニコと笑顔を向ける。

いや、やっぱり大丈夫じゃないかも……


「疲れたらオレの背中に乗っけてやるよ」


ラン、お前もか。

どっちも信用ならねぇな……





四月の終わりの森は 若草の香りに溢れていた。

秋の枯葉の匂いも好きだが、若々しく、生命力に満ち溢れたこの時期の若葉の香りも また良いものだ。


歩いて川まで出ると、川原には降りずに獣道を川にそって歩く。


うん、いい運動!

ハイキング気分でウォーキング、ヤッホー♪


ランが青い卵を拾った橋まで来ると、イシルが亜空間ボックスからボートを取り出した。

サンミが『イシルがいると冒険が楽だった』というのは こういうとこだろう。

ありがとう!ド○えもん!


「サクラさん、どうぞ」


イシルが先に乗り、サクラの手をとってボートにのせると サクラの後ろにランが乗って、ぐいっ、と ランが橋を蹴り、ボートを川の流れへと押し出した。


そこからはボートに乗ってゆるゆると川を下る。

ボートは水面に波紋を広げながらゆっくりと流れて行く。


″キラッ″


水の中で何かがキラリと日の光に煌めいた。


(魚?)


()()はボートに添って泳いでいるようだ。


(結構大きい?)


ボートの脇に黒い影が大きく盛り上がり、その()が 勢い良く跳ねた。


″ザバッ″


「うわっ!?」


()は飛び上がると、ボートの上を輪を描いて、通過する。

長く美しい体をくねらせ、反対側の水の中へ向かって。


″キュイ――――ン……″


シャララン、、シャララン、、と、美しい鈴の音のような羽ばたきと共に。


「リンスゥイール!!」


それは、ランの青い卵から生まれたドワーフの村の豊穣神、リンスゥイールだった。


″キュイ――――ン……″


リンスゥイールは嬉しそうにボートの周りを泳ぎながら、楽しげな声で歌う。


「たまに遊んでやってんだよ」


ランがちょっぴり照れ臭そうに笑った。

何て素敵なサプライズ!

ランはサクラをリンスゥイールに会わせたくてこのルートを選んだのだ。


リンスゥイールが ピョコンと水面から顔を出して サクラに頭を寄せてきた。

手を伸ばし、頬の下を撫でてやると、嬉しそうに目を細めてキュキュッと鳴き、ちょんっ、と サクラの口にキスをする。


「……飼い主に似るんですね」


イシルがチロリとランを見て嫌みを言う。


「オレはまだしてねぇ」


()()とか言うなし。





河岸の桜は散り、既に緑の葉を繁らせていた。

代わりに遅咲きの八重桜が こんもりとした濃いピンクの花をつけて サクラ達を見送っている。


ドワーフの領域を抜けたのか、リンスゥイールは三人を見守るように空へ舞い上がると、村へと帰っていった。


「ハーフリングの村までこんなルートがあるなら、みんなもっと活用すれば良いんじゃないですか?」


「それは――」


サクラの前に座るイシルが質問に答えようとして、言葉を止め、立ち上がった。


「?」


「サクラ、しっかり捕まってろよ」


サクラの後ろでランも立ち上がる。


″シュッ、ガキンッ!″


「なっ、わっ!?」


何かが飛んできて、イシルが剣でそれを振り払う。

その衝撃でボートが揺れ、サクラはボートの縁にしがみついた。


″シュッ、キィンッ″


今度はランが飛んできたモノを弾く。


「何なの!?」


「アイアンフィッシュ、魚の魔獣ですよ。こいつらがいるからこのルートは誰も通らないんです」


″シュッ、ガツッ″


弾丸のように飛んできているのは鋭い歯と硬い鱗を持つ魚、アイアンフィッシュ。


″ボトッ″


「ひいぃぃ」


ボートの中に落ちてびちびちと跳ねている。

ランが素早くそれを拾い、ボックスにしまう。

ピラニア!?

飛び魚型ピラニアですかぁ!?


「鱗と歯はいい値で売れるからな。縄張りはすぐに抜けるから大丈夫だぜ」


ニカッといい顔でランが笑った。


何が大丈夫!?

小遣い稼ぎですか!?

やっぱり信用ならなかった!!


「ボートに穴開けられたらどうするんですか!」


「普通のボートは通れませんが、強化してあるので心配いりません」


サクラを守るように前と後ろで剣を奮い、飛んでくる魚を打ち落とすイシルとラン。

二人は飛んできたアイアンフィッシュを器用にボートの中に弾き入れながら 捕獲し、無事に アイアンフィッシュの縄張りを抜けた。


あざみ野、ローズへの旅の時は、ランの背に乗ってしがみついてただけだったから(←必死)何もなかったけど、やっぱりここは魔物がいる異世界なんだと実感した。


(この旅、不安しかない……)


隣村に行くだけなのに……


サクラの予感を後押しするように、ボートは 切り立った崖の間に吸い込まれるように流れていく――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ