419. 爆弾にぎり
警備隊がお休みの今日、ランは イシルご所望の豚肉をゲットすべく、ハルを伴って 森に狩りに来ていた。
″ピギ――ッ!!″
「よっ、、」
″バチッ″
肉を傷めたくないから、雷魔法で効率良く獲物を仕留める。
電流が大きすぎると肉が焦げるし、弱すぎると効かないから、結構な魔法コントロール力がいるのだ。
「ハル、こっちも血抜き頼むなー」
ランが仕留めた後、ハルがブラッドソードを使い、血抜きをする分担作業。
「はーい、ラン様、こっちの血抜き終わった、、ですけど、処理、どうします?」
「俺やるよ」
解体はイシルがやるだろうから お湯で綺麗に洗って、火で毛をあぶっておけばいい。
「これで12頭目だけど、まだ狩る、、ですか?」
ハルがブラッドソードに血を吸わせながら ランに声をかけた。
「いや、十分だろう、そいつが終わったら昼にしようぜ」
獲物はハルと半分に分けても6頭ずつ。
ハルは警備隊の食糧調達として来てるから、午後は場所を変えて別のものを狩ろう。
ランとハルは獲物の洗浄を終え、ランの亜空間ボックスにしまうと、川辺に降りて手を洗い 手頃な石に腰かけた。
「午後は魚でも獲るか?」
そう言いながら、ハルに丸くて黒い物体を投げる。
「?」
ソフトボールほどの黒いもの。
「何?これ、食べ物??」
「おにぎり」
それは一枚海苔でくるんとにぎられた 特大真ん丸おにぎりだった。
(イシルめ、手抜きだな)
ランは透明な包み(ラップ)をむくと、おにぎりにかぶりつく。
鮭のおにぎり。
まあ、好きだけど。
もご、もぐっ、と麦を食むと、塩鮭のフレークが絡まり丁度いい塩気だ。
ふた口目。
「はむっ、、んんっ!?」
ふた口目はおかかだった。
「なんだこれ」
違うおかずが顔を出す。
イシルが作ったのは、現世で言う、爆弾にぎり。
真っ黒で丸い外見が爆弾や連想させる、数種類の具材を詰めた、大きくて食べごたえがある破壊力の強いおにぎり。
三口目はじゃこ。
なんて楽しいおにぎり。
イシルは手抜きなんてしていなかった。
魚肉ソーセージに、すっぱ!!梅干し。
「楽しいおにぎり、ですね!」
ハルがパリポリ音をさせながらおにぎりを頬張る。
沢庵のいい音。
ハルのおにぎりの中身は沢庵、塩サバフレーク、甘い岩のり、赤いウインナーにチーズ!?
ランとハルは二個目のおにぎりに手を伸ばす。
″はぐっ、もぐっ″
ぱりっ、
麦飯に塩気のある青菜が混ぜてあり、ぽりっ、しゃくっ、と した噛み応え。
とろ~り、、
その中に入っていたのは、醤油漬けの味玉だった。
「うは///」
味玉の黄身は とろりとオレンジに輝く半熟で、黄身の味が濃い。
青菜ご飯にまったりと卵の黄身が絡み、そこに醤油の風味と青菜の漬物の塩気がきゅっと味をひきしめてくれる。
淡白な白身は茶色く染まり、だし醤油がしみて香り高い。
ぷりぷりと口の中で踊る。
「こっちはハムと卵ですよ」
ハルのおにぎりはハム(スパム)とスクランブルにされた卵。
麦飯にまぜられている黒い点々は、ゴマではなくブラックペッパー。
「ひと口くれよ」
ランとハルはひと口ずつ食べさせっこ。
「うめぇ///」
焼き目のついた厚切りのスパムはそれ自体に味があり、こんがり焼かれて風味が増している。
マヨネーズとブラックペッパーがいい仕事をしている。
ご飯に絡んで、口の中で胡椒の粒がぴりっと弾け、洋風混ぜご飯になる。
「うわぁ!新しい味わい!卵とろとろ~」
ハルもランの煮卵にぎりをひと口食べて、顔がとろける。
三個目は甘めのタレの牛の焼き肉に、紅しょうが、小松菜のナムル。
これは、もう、麦のおにぎりが弁当箱の代わりのようなものだ。
食べられる弁当箱!
「ラン様のは牛ですか!僕のは鶏肉とゴボウですよ~」
鳥とゴボウの甘辛煮に、焼いたネギが香ばしい。
何がでてくるか齧るまでわからない真っ黒なおにぎりはわくわくがつまっていた。
「四個目!僕のは、エビ!エビマヨネーズ!むふ///ぷりっぷり♪」
「オレのは、、焼きタラコだ」
焼きタラコ、シソ昆布、これは、ちくわ、色んなものが一個のおにぎりの中に入っている爆弾おにぎり。
そして、、
「はむっ、、ん″!!?」
ランの爆弾にぎりが、ランの口の中で着火した。
″みよ~ん″
爆弾の火薬、、それは、納豆。
Σ(@◇@!!?≡;☆∝( ; ロ)゜ ゜
グニャリとした食感とともに納豆が潰れ、えも言えぬ臭いが鼻に抜ける。
「ヴニ″ャ――――ッ!!?」
大爆発。
「ラン様!?うわっ、くさーい」
悶絶するランに ハルがお茶をいれて渡してくれる。
″ごくっ、、″
「ニ″ャ、ニャ、ニャ、ニャ、ニャ!!!」
Σ(@Д@;≡;>д<)ノシ
再び悶絶。
「熱″――――い!!!」
( ;゜皿゜)ノシ
「あ、ごめんなさい、、です」
猫舌ランには熱かったようだ。
「何ですか、コレ」
ハルはランが食べていたおにぎりをもらい、興味本意で納豆を一粒ぱくり。
「苦っ!臭っ!」
「だろ?そんなの人が食うもんじゃねーよ、全く、イシルは、、」
ランは水をがぶ飲みしながら ハルに同意を求める。
しかし、ハルはもうひ粒、パクリ。
「ハル、食わなくていいよ」
「いえ、、ぱくっ、このネバネバ、、ぱくっ、なんだか、クセになりますね」
「ハル?」
「ネバネバ……つぶつぶ」
ハルの目が据わってくる。
ぱくり。
「臭いネバネバ、つぶつぶが 1つ」
ぱくり。
「くさ~い ネバネバ、つぶつぶが 2つ」
ぱくり。
「くさぁ~い ネバネバ、つぶつぶが 3つ……」
ハルが数を数えだした。
「あ″――!!」
ランは納豆を数えるハルの口に、おにぎりをいっぺんにぶちこんだ。
「むぐ、、くさい、、もぐっ、 おいひぃ、、むぐ、つぶつぶ、口の中、つぶつぶ、いっぱい」
ハルはうっとり、ご満悦。
「イシル~~~~!!!」
ランの恨み節が 森に木霊した。
「あれ?」
ドワーフの五の道の奧、旧イシル邸に、サクラと一緒にウォーキングで来て、庭で爆弾にぎりを食べていたイシルは、呼ばれたような気がして顔を上げた。
「どうかしましたか?イシルさん」
隣で爆弾にぎりを頬張るサクラがイシルをみあげる。
サクラが食べているのは 豚のしょうが焼きに高菜炒め、モヤシのナムルと、サクラの好きなマヨネーズを入れて。
それは、いい。
しかし、イシルの食べている爆弾にぎりは、醤油唐揚げと鳥の南蛮漬け、鳥の磯辺揚げ、レタスを入れたトリプル肉。
これは、ランに作ったものだ。
(僕の納豆は何処へ?)
「いえ。」
まあ、いいか。
「お弁当、ついてます」
イシルはサクラの口元についている麦を指でつまんで取ると、そのまま ぱくっ、と 口に入れた。
「す、すみません///」
イシルは照れるサクラに微笑みを返しながら、肉々しい爆弾にぎりにかぶりついた。
◇◆◇◆◇
サクラとイシルは 旧イシル邸で休憩をし、強制的に甘いひとときを過ごした後、ドワーフの墓地で墓守りチビうさぎの使兎たちと戯れ、五の道を下ってきた。
薬草園の前を通りかかった時、ザガンとばったり鉢合わせた。
何やら慌てている。
「どうしたんですか、ザガン」
「ああ、イシル殿とサクラ殿!」
ザガンの腕にはエリザが抱かれていた。
「エリザ殿がクッキーを焼いてきてくれたのだが、急に倒れられてな、、」
「診ましょうか?」
「いや、治療は致した。これから送っていくところだ」
「そうですか、お気をつけて」
「では、失礼」
ザガンは大事そうにエリザを抱えて ラ・マリエへと走っていく。
「大丈夫ですかね、エリザさん」
「ザガンが治療したなら大丈夫でしょう」
ザガンは言わなかったが、あれはギックリ腰だ。
「……幸せそうでしたね、エリザさん」
サクラがふふふと笑う。
「ですね」
真っ赤に頬を染めてザガンの腕の中に収まっているエリザはとても嬉しそうで、大変可愛らしかった。




