415. 冷やしおでん ◎
料理写真挿入しました(2021/6/4)
サクラは食卓におかずを並べながらぶつぶつ文句をたれる。
まったく、スキンシップが過ぎますよ。
甘い甘い砂糖のようにとろとろに溶かされたあと、当たり前のように″ご飯にしましょうか″と言われても、どうしろってんだ!
顔みれないだろう!!
ご飯の時間になっても ランは帰ってこないし、何やってんだあの不良猫!
サクラはよそうご飯に八つ当たり。
「「いただきます」」
サクラは顔をあげられなくて目の前の銀だらに集中する。
焦げすぎる手前で救出された銀だらの西京漬けは、ふっくら艶やかな焼き上がりで、ひろがる白味噌の上品な香がサクラの心を和ませる。
中骨がついたまま焼かれた銀だらは、骨付き肉同様、骨から旨味がでるのと、身から出て下に流れるうま味も中骨を受け皿にし、流れ落ちるのを食い止めてくれている。
さらに、中骨があることで、柔らかな銀ダラの身も崩さずきれいに焼けている。
″ぺりっ″
太っい中骨をはがすと、トロッとした旨味が骨から染みだし、てらてらと骨回りにまとわりついているのがみえる。
なんて食欲をそそるビジュアル!
(ごくり、、)
行儀悪いけれどこれは逃せない。
″ちゅるっ″
中骨を口にふくんで逃さず吸いとる。
骨についた細かい身も。
「うわぁ///」
これだけで味覚が刺激され、脳に期待値伝わり、食欲が一気に膨れ上がる。
銀だらの身に箸を入れ、ひとくち大に切ると、、
″ねっとり″
しっとりとした柔らかな身が、少しの粘りけを持ち、箸にもたれかかるように抱きついてきた。
″はむ、あむっ″
口に運び、舌で潰すと、ねっとりと舌にからみつく。
「うふ///」
高級娼婦かッ!!
サクラを虜にする味と技と美貌を持つ銀だら様……
じんわり、じわじわ、上品な味わいが、口の中に浸透してゆく。
銀だらの程よい食感と細かい身質、脂のり半端ない!
そこに絡むのは優しい白味噌、本格派の味わいに震えがきますよ!
「くぅ~///」
さすが銀だら、白身のトロと言われるだけありとろっとろ!
西京焼き、最強!!
西京焼きに気をとられていましたが、今日のメインはおでんです。
ただのおでんじゃないですよ、冷やしおでん。
おでんは冷たくても魅力がある。
練り物は意外と冷たい料理にも向いている。
肉と違い、冷やしたときに脂が固まらないからね。
お馴染みの大根、卵、こんにゃく、魚と豆腐をすり潰し揚げたふわふわあげ。
そこにそろそろ時期が終わる蕗や姫竹、今や冷やしおでんには定番となっているオクラにミニトマト。
サクラはまず出汁をひとくち。
″ゴクリ″
すっきりと涼しげな味わい。
トマトの酸味が染みでてるかと思いきや、そこまでではない。
それよりも強く感じるこの風味は、、
「ミョウガですか?」
「はい」
出汁にミョウガの香りが移り、清々しい。
まずは、大根。
″かぷっ″
かぶりつくと、じゅんっ、と出汁がしみだしてきた。
「んふっ///」
温かいおでんと違って少し硬めの大根は 大根本来の辛みが少し感じられ、しゃっくり歯応えがたまらない。
そこに時間をかけて吸い上げられた出汁が しゃくっ、しゃくっと噛むたびにじゅわっと溢れて、口の中を潤してくれる。
姫竹、蕗――
″ホク、ポクッ、″
″シャク、モクッ″
春から初夏にかけて採れるこの時期の野菜。
おでんにも合うんだぁ~
オクラにゼンマイ
″コリ、プチ、、″
″コリッ、コリッ″
どれもこれも出汁を吸い上げて瑞々しい!
冷やしおでんはこの歯ごたえが魅力です。
″はむん、むちっ、″
魚のすり身とお豆腐を合わせたふわふわ揚げはむっちり、らわらかく、いくらでも食べれそう。
この練り物のふわふわ揚げからおでんに味がでてるんですね~
こんにゃくは生芋こんにゃく。
少しざらりと目が荒い。
その分歯で噛んだときの食間がぶりんぶりんですよ~
そして、今や冷やしおでんと言えばトマト。
出始めた頃はおでんにトマトなんて、と思っていたけれど、食べてみたら、トマトの酸味が出汁によってまろやかに包まれて、上品な味になってるんです!
今日のトマトはミニトマトだけど、大きいトマトを丸ごといれても美味しいの!
トマトは最後に入れて3分程煮れば大丈夫。
湯剥きしていれたほうが味がよく馴染みます。
今日のトマトはミニトマト。
″ぷちっ、じゅわっ″
ミニトマトはかわつきのままだけど、ちょっと崩れるくらい煮てあるなぁ。
このスキッとした透明感のある酸味がたまらん!
こんだけ煮てあるのに、おでんスープはあまりトマト感をかんじなかったけど?
「トマトとオクラは別で煮たんですよ」
なるほど!だからオクラの色もキレイな緑色なんですね!
イシルさんの素敵配慮!ありがとう!
サクラはごくりごくりとスープまで飲み干し、完食する。
「やっぱりイシルさんのおでんは最高ですね!」
サクラとイシルの食事が終わる頃、ランが帰ってきた。
『ただいまー』
玄関でランの声がしたとたん、イシルがガタン、と立ち上がった。
ランを風呂にいれるために玄関へと走る。
「飲んでたんですか?」
「ああ、ギルが帰ってきたからな」
それにしては酔っていない。
あまり飲まなかったのか?
「……何かあったんですか?」
「なんだよ、急に」
「いえ。その状態なら風呂に入れますね」
「うわーっ!!」
ランはいつも通り風呂場に強制連行された。
ランが風呂から上がり、リビングに入ると、文字の勉強なのか、サクラが絵本を読んでいた。
サクラはランを見て、顔を見た瞬間、目をぱちくりさせた。
なんだか、ランがいつもと違う気がして、イシルと同じ事を聞く。
「ラン、何かあった?」
「なんも」
「……そう、ならいいんだけど、、トリミング、しようか」
「おう」
サクラに髪を乾かしてもらっていると、イシルがキッチンから戻り、1人掛けソファーに座り、本を開く。
「なあ」
ランの問いかけにイシルがゆっくり顔をあげた。
「ハーフリングの村の骨董市、のんびり歩いていかねーか?」
隣の村だ、ランとイシルならすぐについてしまう距離だが、徒歩だと半日以上かかる。
「昼過ぎから歩いて、野営して、次の日の昼につく感じでさ」
「キャンプ!?」
サクラがわくわくと反応する。
「歩きましょう!」
サクラは体重75kg(-5kg)を切ってからから計るたびに体重がかわらず、停滞期に入っているようで、歩くの大賛成だ。
「いいですね、折角のお休みですからね、近場でも楽しそうです」
三人の意見がまとまって、骨董市の前の日に、ハーフリングの村まで歩いて行く事になった。




