410. リベラと料理 ★
挿絵挿入(2021/6/14)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m
サクラはヒナと別れて警備隊駐屯所へとやってきた。
「こんにちはー」
あれ?誰もいない?
暫くすると リベラが奥のキッチンから顔を出した。
うわ、リベラさん、もう料理作り出しちゃったかな?
「サクラ、いらっしゃい、どうした?ランは今日は森のほうだよ」
うん、知ってる。
ランがそう言ってた。
だけど知らないふりをする。
「そうなんですか、今リベラさん一人ですか?」
「ああ。もう一人いたんだが、アタシがキッチンに入ったら、何やらホルムの葡萄園で呼ばれてたとか言って、慌ててさっき出ていったからね」
「そう、ですか……」
逃げたな。
リベラの料理が個性的なのは周知の事のようだ。
「今お茶いれるから」
「あ、私いれますよ」
とりあえず、キッチンを見たい。
サクラはリベラと一緒にキッチンに入った。
(あれ?)
キッチンはどんな惨状かと思いきや、意外なことに綺麗だった。
ジャガイモは皮つきのまま四当分に切られ、玉ねぎは短冊切りに、人参は乱切りにしてボウルに入っている。
「食材、綺麗に切られてますね」
「刃物使うのは好きだからね」
成る程、イシルさんもそうだ。
器用に飾り切りまでこなす程に。
キッチンの中には麦の炊ける匂いがしている。
シリュウがリベラは麦は炊けると言っていたから、これも問題無さそうだ。
(てことは、リベラさんは作る過程に問題アリってことだな)
この材料から想像すると、またカレーかな?
これから肉を切るところ?
食材は「野菜」→「肉」→「魚」の順で切っていくのが基本。
こうすると、肉や魚などについていた雑菌が包丁やまな板によって野菜に付着するのを防げるから。
リベラが知っていたとは思えないけど、効率なんかを考えて料理する事は出来てるってことだ。
「カレーですか?」
「うん、昨日シリュウが旨いって言ってたからさ」
ああ、シリュウさん……
せっかく快調に向かっている胃に スパイスの効いたカレーだと、また負担をかけることになる。
何か、胃に優しいメニューに変えなくては……
「昨日と同じじゃなく、趣向をかえて和食にしてみたらどうですか?」
「和食?」
あ、和風じゃわからなかったんだ。
カレーの材料なら肉じゃがとかかな?
いや、もっと簡単に、簡単に!
「オーガ産の味噌があるんだから、ジャガイモたちはそのまま味噌汁にしてはいかがでしょう?」
ここにはランがサクラからもらって持ってきた現世の調味料がある。
味噌汁なら顆粒ダシを入れて、オーガの村産の味噌をとけばOKだ。
「味噌汁に合うのはおにぎりだから、おにぎりも作って、、」
「おにぎりって、弁当に入ってた麦を丸めたやつだっけ」
そう。にぎるだけ。
これ以上ないシンプルな料理。
基本です。
リベラがじっとサクラを見つめ、ふむ、と考え込んでいる。
うわあ、強引すぎたかな!?
『なにそれ、″おにぎり″ってにぎるだけでしょ?料理なの?』とか思われてるかな……
「サクラと、二人で?」
「ええ、手伝いますよ!おにぎりは個数にぎる手間がかかりますからね!」
「楽しそうだね」
よっしゃ!!
断られるかと思いきや、リベラは機嫌良く返事をしてくれた。
「楽しいですよ!やりましょう!」
ミッション1クリア!
刺激物回避でシリュウの胃への負担を軽減!
一緒に作る許可をもらった!
「じゃあ味噌汁から作りましょうか」
まずは麦が炊ける前に 味噌汁を作る。
リベラが鍋に湯を沸かし、サクラが顆粒ダシを――
「ダシはこれでとるんだろう?」
「え?」
サクラが顆粒ダシを探している間にリベラがこん棒のようなものを取り出した。
「それは、、」
鰹節?
ハーフリングの村のお好み焼きで使ってる鰹節だ。
(ダシ、とるのか)
簡単に顆粒ダシで済ませるはずが難易度をリベラがあげていく。
「そう、ですね、じゃあ使いましょう。薄く削ってもらえますか?」
大丈夫、簡単にやろう。
昆布を戻したり煮干しを使ったりするわけじゃない。
サクラに言われて、リベラがしゅるり、しゅるりと、剣で器用に鰹節を削っていく。
「いいにおい……」
リベラの削る鰹節は、薄く、長く、向こうが透けそうな美しさだ。
サクラはそのかぐわしい香りにうっとりと ほほえみをうかべる。
そして、香りにつられて削りたての鰹節をつまみ、ひとくち、口に入れた。
″はむっ″
口に入れると、ふわっと華やかな香り。
「うわ///」
雪の様な口どけと至福の香りに包まれる。
「うきゅぅ///削りたて、うまっ!」
このままご飯にかけて食べたいくらいだ。
リベラがサクラのその顔を見てクスリと笑った。
「リベラさん上手ですね!」
「そう?」
「職人さんも真っ青ですよ」
「そんなに喜んでくれると嬉しいな」
「リベラさんも食べてみてくださいよ」
サクラの言葉にリベラがあーんと口をあけた。
サクラは躊躇することなく リベラの口に 削りたての鰹節をぽいっと入れる。
女の子同士ですからね!
「どうですか?」
「うん、旨い」
「でしょう?美味しい味噌汁が出来ますね!」
削ったのはリベラなのだが、何故か得意気に わくわくするサクラを見つめて リベラが更なる微笑みをサクラにむける。
「ふふふ、可愛いね、サクラは」
リベラさんのイケメンスマイルもご馳走さまです!
リベラさんも楽しそうにしているから、このままイケる!
シリュウさん、イケますよ!期待しててください!!
こうやって手伝うふりして教えていけば押しつけがましくなかろうぞ(←小心者)
「削り節は一掴みあればいいので、それくらいの量で十分です」
鰹節は削って30分が命!
酸化が始まる前に調理してしまおう。
「リベラさん、ダシの取り方知ってますか?」
「これを湯に入れて、材料入れて煮込めばいいんじゃないの?」
鰹節は知ってても、ダシの取り方は知らないのね。
ぶっこみ料理、野営ばかりしてる冒険者なら仕方ない事なのかな?
「どうせなら、プロっぽくいきましょうよ、お湯が沸騰したら火を止めて削り節を入れてください」
サクラの指示通り、リベラが火を止め、がわさっと削り節を入れる。
すぐに ふんわりと優しい匂いが立った。
「ん~///」
やっぱり顆粒だしとは違う深い香り。
「2分ほどすると鰹節が下に沈みますから、そしたら網ですくってください」
鰹節は煮立たせたり、しぼったりすると雑味がでる。
折角だから、最高に美味しく食べたい。
リベラが削り節を網ですくってペーパーにのせると、黄金色の綺麗なだし汁が出来上がった。
もう、飲みたい!!
「ジャガイモは時間短縮のため、銀杏切りにしてもらえます?こう、3ミリぐらいの厚さで切って、、」
「へぇ、こう切るの、銀杏切りっていうんだ。ほんとだ、銀杏の形に似てるね」
ストン、ストン、と、リベラがジャガイモと人参を切っていく。
(なんだ、料理大丈夫そうじゃん、リベラさん)
切った材料をだし汁の入った鍋に入れてコトコト煮込む。
『すいませーん』
味噌汁の具を煮ていると、入り口で声がして、リベラが対応に向かった。
リベラは 訪問者に村の地図を渡してすぐに帰ってきたが、昨日カレーのジャガイモが炭になってたというのは、こうやって仕事に呼ばれて料理から離れるからかもしれない。
次はキッチンから離れる際は、火を止めてから行くように進言しよう。
もしも表に出る用事だったら火にかけたままでは危ないしね。
そろそろ麦が炊けるからと、サクラは保冷庫に何かおにぎりの具がないかと覗き込みながらリベラに話しかけた。
「すくったダシがらは醤油と砂糖で味付けして炒めればふりかけになりますから――」
「醤油だな」
サクラが言い終わらないうちにリベラは醤油を取り出し――
″どぼどぼっ、、″
ダシがらにかけた。
「……」
やられた。
目を離した隙にこれだ。
醤油でびたびたになったおかかは姿が見えず、明らかにかけすぎ。
「え、塩分とりすぎちゃいますねリベラさん」
「ん?体を動かすんだから塩気は必要だろう?飯も進むし」
料理に慣れてないのに目分量。
原因はこれか。
「……血管切れちゃいそうな量だから、すくいますね」
「あはは、サクラは例えが面白いね」
いや、本当に、塩分過多で血管破裂しますって、醤油飲む気ですか、リベラさん。
サバイバルでは塩が命。
それはわかりますが、この量は逆に命に関わります。
ダシがらふりかけはあきらめて、おかかの混ぜ込みおむすびに変更です。
混ぜ込みおにぎりはご飯がまとまりにくくて 初心者には握りにくいから白にぎりにしようと思ってたんだけど仕方がない。
おかかにぎりはサクラがにぎるとして、リベラには塩にぎりを作ってもらうことにしよう。
そして、リベラから目を離すと、何をするかわからなくて危ないから、味噌汁を作り終わらせてからおにぎり作成にかかろうかな。
麦は炊けたようだけど、ジャガイモが煮えるまでリベラとお話しすることにする。
「冒険してる時は料理どうしてるんですか?」
「ん~、一人の時は獲物狩って焼いて食べることが多いかな」
「野菜は?」
「香草くらい」
野菜じゃねぇし!
ランもはじめの頃は肉しか食べなかったっけな。
「やっぱり味付けは塩味ですか?」
「そうだね。でも、次からは醤油もあるから味にバリエーションが出来ていいね」
「そう、ですね」
かけすぎないで下さいね。
「パーティー組んでるときは鍋が多かったかな」
「皆でかこむ鍋は楽しそうですね」
「面白いことに、アタシが組んだパーティーには何故か必ず料理好きがいてさ、アタシは鍋に触らせてもらえなかったんだよね~」
いや、それは 料理好きがいたわけではなく、皆で鍋を死守してたのでは?
「サクラとも 冒険したいな」
リベラは ついっ、とサクラの目にかかりそうな前髪を指ですくって耳にかけ、微笑む。
「アタシと、冒険してみない?」
グラッときそうな艶やかなイケメンスマイル。
女子だということ忘れそう。
「いいですね!リベラさんがいたら怖いもの無さそうですしね!鍋も一緒につくりましょう!」
リベラが目をぱちくりさせ、一瞬フリーズした。
「そう、だね」
そして、何がおかしいのか、クスクスと笑う。
(あれ?)
「ジャガイモ煮えたみたいですよ、味噌汁を溶きましょうか」
ジャガイモが黄色く色づき、玉ねぎが透明になったところで鍋の火を止めた。
(今、もしかして、口説かれてた?)
気のせいかな。
「じゃあ、リベラさん おたまに一杯分の味噌を溶きましょう」
「わかった」
リベラがお玉に味噌をすくう。
「……すみません、リベラさん、お玉にいっぱい(沢山)ではなく、1杯でお願いします、すりきり1杯くらいで……」
リベラのすくったお玉の味噌は 山盛りてんこ盛りいっぱいだった。




