407. 舞茸とゴボウの牛丼 ★◎
挿絵、料理写真挿入(2021/5/24)
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ランを森に放り込んだイシルはサクラをラ・マリエではなく、家に連れて帰った。
お茶をいれ、ソファーに二人ならんで仲良く読書をする。
イシルは何やら難しそうな本を、
サクラはイシルが買ってくれた子供向けの童話を開き、わからない文字があると、イシルに聞きながら読んでいる、、のだが……
″ふわっ″
イシルは本を片手に読みながら、長椅子ソファーの背もたれに手をまわし、指にサクラの髪を絡ませ、指先で遊ばせている。
「///」
あまりにも自然体で行われるので、突っ込みにくい上に恥ずかしい。
時折 サクラの首や耳に触れるイシルの指にドキリとする。
″すうっ″
イシルの手がサクラの頭を撫で、、
″ぷにっ″
指の甲を サクラの頬のうぶ毛を撫でるかのようにすべらせていく。
イシルの小指が、サクラの目元をくすぐり、親指が あごをなでる。
「……イシルさん」
「なんですか?」
「あの、、手を、、」
「もの足りませんか?」
何をおっしゃるイシルさん!?
「……本に集中出来ないんですけど」
「僕に集中して貰っても構いませんよ?」
私が構います!!
「……いえ、本が読みたいです」
「そうですか、頑張って下さい」
イシルは何事もなかったかのようにサクラの頬への ぷにぷに攻撃を続行し、片手で器用にページをめくった。
「……」
えーっと、、拷問?
何かのオシオキですか??
(む、ムリ///)
サクラは目の前のコーヒーをぐいっと一気に飲み干し、口実を作ると、″お茶のおかわりいれてきます″ と、席を立とうとした。
だが、サクラの肩にまわされたイシルの手に力がこめられ、ぴくりとも立ち上がれなかった。
「サクラさん」
「……はい」
「シリュウとは何の話をしたんですか?」
「えっ!?」
何故ソレを!?
ぱたんとイシルが本を閉じ、サクラを見つめる。
「動揺してますね、何かやましいことでも?」
ないない!無いけど、恋話を 本人には言えないよイシルさん!!
「コロッケバーガーご馳走して、リベラさんの事をちょっと話しただけですよ」
「そうですか、リベラでしたか、原因は」
「?」
「いえ、メイの治療院の前で シリュウが力尽きて倒れていたので、何かあったのかと思いましてね、シリュウから貴女と一緒だったと聞き、ランが何かしたならと……」
いや、ランは何かしましたが、それは解決済みです、イシルさん。
てか、あの後何があったの?シリュウさん、
リベラさんとバトルですか!!?
「怪我してたんですか?シリュウさんは」
サクラが心配して尋ねるも、返ってきたのは予想外な言葉だった
「いえ、どうやら食べ過ぎのようです」
「食べ過ぎ?」
「ええ、吐けと言っても吐かないんですよね、消化薬を飲ませて寝かせてあります」
まったく、と、イシルがため息をつく。
「頑固者ですね、シリュウは。昔のサクラさんを見ているようでしたよ」
ああ、おからクッキー食べ過ぎ事件ですか。
ええ、吐きたくなかったんです、勿体ない。
思い出したのか、イシルがクスリと笑う。
「間違えました、サクラさんは今も頑固でしたね」
サクラは笑顔でイシルにディスられた。
◇◆◇◆◇
森を彷徨ったであろうランが帰ってきたのは 丁度夕飯時だった。
「イシル、てめぇ、、」
方向感覚を狂わせる魔法をかけられ、迷路を抜け出す思いで動きまわったのだろう、ランはかなりお疲れのご様子だ。
そして、ドロドロ。
「ああ、ランお帰りなさい、丁度夕飯できましたよ、今日は牛肉です」
イシルは第一声でランの胃袋に訴える。
「牛、、肉、、」
イシルはランが牛肉に気をとられた隙に捕まえると、そのまま風呂場に放り込んだ。
「に″ゃ――――(怒)!!!」
イシルにやられっぱなしのランは、風呂場で暴れながらも汗を洗い流し、泥を落としてさっぱりしたら、やっぱり気持ちがいい。
でも、このまま大人しくあがるのはしゃくにさわるので、ランはビタビタに濡れたまま、真っ裸で風呂からあがった。
″ガチャ″
風呂の扉を開けたとたん、ふわっと暖かいものに包まれた。
「君の考えはお見通しです」
イシルがタオルと着替えを持ってスタンバイしていて、タオルですっぽり包まれたのだ。
「うにゃああ″(逃)!!」
逃げようとするも、森で体力を使い果たしたランはイシルに敵うわけもなく、わしゃわしゃとタオルで拭かれ、てきぱきとガウンを羽織らされてしまった。
そして、リビングへ放り込まれる。
「クソジジイ!!」
悪態をつくランをよそに、イシルはキッチンへ。
そして、ランは後ろから声をかけられた。
「おかえり、ラン」
選手交代、今度はサクラがブラシを持ってスタンバっていた。
「髪、乾かしたらごはんだよ」
「おう///」
これは、、抗えない。
悔しいが、イシルの作戦勝ちである。
サクラの柔らかい手がランの髪を透きながら、温風を送りかわかし、ブラッシングしてくれる。
気持ち良くてうつらうつらしていると、キッチンから甘い匂いが漂ってきた。
甘い醤油のタレの匂い。
「できましたよ」
イシルに呼ばれてキッチンに行くと、既に食卓が整っていた。
上げ膳据え膳、はらへった!!
「「いただきます!!」」
ランはいただきますの言葉と共に 牛肉の乗った丼を持つと、豪快に口にかきこんだ。
″あぐ、はぐっ、、″
ダシと醤油で甘じょっぱく煮込まれた薄切り牛肉は、生姜と唐辛子でピリッと味つけ。
麦飯と一緒にかきこめば 空っぽの胃袋が喜びに震える。
「旨っ!!」
ダシのきいたつゆは濃くなく、これだけでも飲めそうな旨さだ。
疲れた体に甘さがしみる。
玉ねぎはとろとろに煮込まれ、柔らかい。
″コリッ″
歯応えがあるのは舞茸とごぼうのせいだ。
「ゴボウの味が濃いですね!美味しい」
サクラもお気に入りのようだ。
「ええ、ゴボウは皮をむかずに 酢であく抜きしただけでまるごと使ってますからね」
「だからかぁ、、ん~、いい味出てます///」
サクラのトロ顔もごちそうさん。
くそっ、オレがあの顔させるはずだったのに……
「おかわり」
ランはイシルに丼を差し出す。
「つゆ、いっぱいでな!」
イシルがおかわりをよそってくれる合間に 豆苗の塩昆布サラダをつまむ。
程よい塩気の昆布の旨みとシャキシャキの豆苗で口直しすれば、また新たな気持ちで牛丼が味わえる。
「ランは牛丼汁だく派かぁ」
サクラが七味をかけながら何やら感心している。
ホカホカ麦ごはんにイシルが牛煮込みをたっぷりよそい、汁を追加してかけてくれた。
″ずるずるっ″
麦と牛と汁をかきこむ。
「もぎゅっ、むぐっ、、」
使われている牛肉はばら肉。
牛の赤身はぎゅぎゅっと噛み応えがあり、肉の旨味が感じられ、脂身はぷるんと甘くて、口の中でじんわりとけだす。
「ぱく、ぱく、もぐっ、」
副菜のほうれん草の玉子とじは 鶏ガラベースでふんわりやさしい。
薄切りスライスされたカボチャは胡麻油で香ばしく炒められ、これでもかというくらいゴマがふりかけてある。
表面はかりっと、中はほっくり。
旨い!旨い!運動のあとは野菜だって旨い!
サクラとイシルは ランの食べっぷりに笑みを浮かべながら、食事を楽しむ。
そして、何杯目かのおかわりの後、ランは――
″ゆら、ゆら、、カクン″
座ったまま寝てしまった。
サクラがそーっと、ランの手から箸を抜き取り、、
イシルが優しく椅子から抱えあげ、ランを部屋へと運んで行く。
残念ながらサクラとハッスルはできなかったけど、ランは幸せな眠りについた。




