404. 祭りのなごり 3 (愛のままに) ★
挿絵挿入(2021/5/21)
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「シリュウさん、私の悩みを聞いてくれますか?」
リベラの事で苦しむシリュウにサクラが唐突に自分の話をねじ込んできた。
「なんだ、言ってみよ」
サクラの意図がつかめないまま、シリュウは返事をする。
「私、イシルさんが好きなんです」
それは、何よりだ。
祭りの時の二人はとても似合いだった。
見た目ではイシルが突出して目を惹くが、シリュウには二人の空気感がとても自然に感じられたからだ。
「恋人なのだろう?」
サクラが首を横にふる。
「祭りの時も常に一緒にいたではないか、村の女共も噂していたぞ?」
「好きだけど、ダメなんです」
むぎゅっ、とサクラが自分の腹をつまむ
「私って、こんなじゃないですか、イシルさんの隣にいるのに相応しくないとも思ってましたよ。だから、好きにならないよう、好きじゃないんだと自分の気持ちに蓋をしていました」
コンプレックス、、シリュウにもある。
この自分の女々しい部分を取り払ってしまいたい。
シリュウは黙ってサクラの言葉を聞いている。
「イシルさんの隣にいると、余計に引け目を感じますよ。カッコいいでしょ?イシルさん」
「惚気か?」
ふふふとサクラが笑う。
「好きな人に相応しくありたいと思いますよね、見た目も、中身も」
わかる。
シリュウもリベラの雄々しさの前に自分の姿が情けなく思える時がある。
リベラの前では 強く、逞しく、頼れる男でありたいと思う。
「それに、私、冬になったら国に帰らなくちゃいけないんです」
「また来ればよいではないか」
「んー、、私の力では無理ですね。シリュウさんで言えば、ヨーコ様が迎えに来るみたいなものですから」
「サクラは神の使いなのか」
「そんないいもんじゃありません、落とし物ですよ。何も出来ませんから」
神め、と、サクラはちょっと悪態顔をみせた。
サクラが気を取り直し、先を続ける。
「イシルさんは、″それでも恋をするなら自分と″と言ってくれました。でも、別れがわかっているのに、この世界で無責任に恋愛なんて、出来ませんよ、私」
サクラの瞳が憂いに切なく揺れ、諦めにも似た笑みを浮かべる。
「だけど、溢れちゃうんですよ、好きだっていう気持ちが。ダメだと思えば思うほど……」
そして、一度言葉を切って シリュウを見た。
「今のシリュウさんみたいに」
「は?」
「好きなんですよね、リベラさんのこと」
「なっ///何を!!」
突然のサクラの発言に、シリュウが真っ赤になってうろたえ、サクラがうりうり、とシリュウにつめよった。
「隠したって無駄ですよ~私にはわかります。神の使いですから」
「い///今何も出来ぬと言ったではないか!」
「そうでしたね、」
あはは、失敬失敬、と。
「でも、わかります。私もシリュウさんと同じで、自分の気持ちを受け入れるまで悶々としましたからね」
穏やかに サクラが語る。
「こうしなきゃ、こうじゃなくちゃと自分の理想にしがみついて、本当の自分を、心を、受け入れられずにいました」
本当の自分……
族長の息子として、男として、雄々しくあり、皆を率い、先頭に立つ。
弱音など吐くな、強く、正しく、潔くがシリュウの理想。
だが、実際の自分はこんなにも女々しい。
「理想に、夢に近づくために励むのは勿論良いことですよ。だけど、出来ない自分を否定しないであげてください」
だって、、
「自分を受け入れられない人が他人を受け入れられるわけないんですよね」
良いところも、悪いところもまるごと自分なのだと。
自分を許せない人間が他人を許せるわけがないのだと。
「今は受け入れられるのか?」
サクラがぶすっとふてくされたような顔をした。
「まだですよ。そんなに簡単に悟れません」
「正直だな」
なんだろう、サクラは 不思議な人物だ。
「頭ではわかっていても、性分って中々変えられるものじゃありませんからね」
「ははは、人とはそういうものだな」
サクラと話していて、心が 軽くなっていくのをシリュウは感じていた。
「私にだってプライドはありますからね。でも、変えられなくても、否定するのをやめたら楽になりましたよ。これが自分なんだって、しょうがないじゃん」
「しょうがない、か」
「イシルさんを好きなのも、しょうがないんです。イシルさん、カッコいいですから」
「二度目だな」
「何度だって言えますよ~本人にじゃなければ」
「ははっ、、確かに」
「リベラさんだって、カッコいいでしょう?」
「うっ///」
「シリュウさん、私、口は堅いですよ?」
「……」
「冬にはいなくなります」
「……」
「カッコいいですよね、リベラさん」
「ああ、カッコいいな」
「好き、ですか?」
「好きだ」
シリュウは噛みしめるようにもう一度その言葉を口にする。
「俺は、リベラが好きだ」
口に出したその言葉は、シリュウの中を駆けぬけた。
熱い想いが体を巡り、体が奮える。
溢れる気持ちが目頭を熱くさせる。
「なのに、俺は、、リベラに甘え、を傷つけ、遠ざけ、自身の心を守ろうと……」
それはサクラも同じ事。
イシルの気持ちに乗っかり、甘え、傷つけ、拒否をしている。
サクラは、涙をこぼさず泣いているシリュウの背中をさすりながら、私も、同じです、と 慰めた。
「でも、シリュウさんには時間があります。これから、時間をかけて、今度はシリュウさんがリベラさんを追いかければいいんじゃないですか?私には出来ないけど……」
言ってしまって、サクラはその現実を実感し、しょんぼりとうつむいてしまった。
「不憫だな、サクラ……」
今度はシリュウがサクラを励ます。
「イシル殿の隣にこれほど相応しい者はいないというのに」
シリュウがサクラの頬を手で包み、溢れ落ちそうになる涙の雫を親指でぬぐう。
「行くな、サクラ」
「シリュウさん……」
「今日の礼に、神に抗うならば助太刀しよう」
友として――
「ずっとここにいればいい」
″グイッ″
シリュウがサクラを抱き寄せる。
「ちょ///シリュウさん!?」
シリュウはサクラを抱き寄せたかと思うと、抱えあげ、ヒラリとドワーフの村の塀に飛び乗った。
″ザシュッ″
今までシリュウが居た場所が、水魔法で作られた刃によって大きく抉られる。
シリュウがサクラを抱き寄せたのはこの攻撃を避けるためだった。
「チッ、避けたか」
「貴様、何をする!!」
シリュウに攻撃を仕掛けてきたのは、赤い警備服を身にまとった黒い猫の耳を生やした男――
先程リベラの隣にいた若い男が 凶悪な目でシリュウを睨んでいた。
ランだ。
「……泣かせたな」
「「は?」」
「泣かせやがったな!!」
ランが地を蹴り、塀まで飛び上がりシリュウに襲いかかる。
″ガキーン!!″
ランの鋭い鉤爪がシリュウを襲い、シリュウはサクラを抱えたまま刀を喚んでそれを受け止めた。
刃を挟んでシリュウとランが睨み合う。
「お前には渡さない (←サクラを)」
ギリギリと牙をむき出しにするラン。
それに対してシリュウも、受けてたち、不敵な笑みを浮かべる。
「フン、いいだろう、いつか必ず手にしてみせる! (←リベラを)」
もしもし?話がかみあっていませんよ、お二人さん!!
競り合う二人。
「ちょ、二人とも、、」
「黙っておれ、サクラ、舌を噛むぞ」
「馴れ馴れしく名前を呼ぶな!」
ランが凶悪さを増し、獣人化していく。
「ちょ、落ち着いて、、」
サクラが口を挟むも、ランの獣の力は増すばかり。
ランがもう片方の手に剣を喚びだし、手にするのを見て、シリュウがランを力で押し返した。
「くっ、」
小さな呻きと共にランが後ろへ弾かれた。
シリュウも塀から飛び退き、地に降りると、抱いていたサクラを下ろして、サクラの前に立ち、守るように剣を構えた。
「やるじゃん、お前」
「貴様も中々のようだな、リベラが認めたのもわかる」
ランはヒラリと受け身をとると、すぐに地を踏み返し、間を置かずに サクラの前に立つシリュウに襲いかかった。
″ガツッン!!″
「ぬぐぅ!」
剣を奮い、体当たりをして、獣の力をもって、今度はランがシリュウを弾き跳ばすと、ランはサクラをひょいっと抱えて、シリュウに牙を剥き出した。
″ガルルルル……″
「辞めんか――!!」
″ばい――――ん!″
ランの腕の中で サクラの結界が ランに向けて炸裂した。
ランが尻餅をつき、きょとんとした顔でサクラを見上げる。
「ちょ、なんだよサクラ!何で弾くんだよ!?」
「だから、ヒトの話を聞けぃ!!」
「え?サクラ?」
ようやくシリュウも己の勘違いに気づき、サクラに向かい、知り合いか?と、目で問うてきた。
「ランは従魔なんです、私の」




