401. ドライカレー ◎
料理写真後書きに挿入しました(2021/5/16)
オーガの村のお祭りが終わり、日常が戻ってきた。
サクラは気持ちよく目覚め、朝食の支度のためにキッチンへと向かう。
ドアを開けたところで、ランも部屋から出てきた。
「おはよう、ラン、早いね」
「おう」
ランは昨日遅くに帰ってきたはずだ。
リベラがオーガの村からたんまり串焼きを買って帰り、警備隊駐屯所で、お休みを貰ったお礼にリベラが飲み会を開いたみたいだったから、昨日はしこたま酒を呑んでるはず。
いつも飲み会の後は起こしても中々起きないのに、珍しい。
″..*゜¨・*:.. ホワン″
「ん?」
「あれ?」
サクラとランは 階段を降りようとして、漂う匂いに反応する。
この匂いは、、
「「カレー!」」
サクラはランと共に階段を降りてキッチンへと入った。
フライパンをふるイシルがサクラとランに気づき振り向く。
「おはようございます。おや、二人一緒とは珍しいですね」
「俺が珍しいんだろ」
「まあ、そうですが、ハロルドは帰ったんですか?一緒にうちで呑んでいたようですけど」
ハロルド、ハルのことだ。
ハルくん来てたんだ。
「朝方帰ったよ。出勤まで部屋で寝直すだろ、あいつ今日遅番だし」
しまった、ランとハルのベッドでツーショット見逃してしまったよ!(←実際はソファーで雑魚寝)
ランがイシルの手元をひょいとのぞくと、イシルは具材を炒めてカレー粉を加えたところだった。
「朝からカレーかよ」
「ええ、なんだか無性に食べたくなって」
「ありますよね、そういうの」
サクラがイシルに同意する。
「ランは嫌いですか?カレー」
「……好きだけど」
「それはよかった」
イシルはランに微笑みを返すと、カレー粉で炒めた具材の中に、スープではなく麦ごはんを投入した。
カレーピラフ、、いや、正確にはカレーチャーハンか?
「もうできますよ」
イシルの言葉にランがあわてて食卓を調え、サクラがスープをよそい、保冷庫からイシルが作ったらサラダを出す。
チャーハンは出来立てをたべたいですからね!い・そ・げ!
ランが用意したお皿に イシルがカレーチャーハンを盛り付け、朝食開始。
「「いただきます!」」
サラダはちょい苦フリルレタスにお馴染みキャベツの千切り、トマトにチーズ。
ワカメの塩味スープで口を潤し、いざ、カレーチャーハンへ。
″はぐっ、もぐっ″
う~ん、ピリ辛スパイシー!
朝から目覚めの一発いただきました!
具材はシンプルにハムと卵、そして、玉ねぎではなくネギだ。
この、ちょっぴり和風感が、カレーピラフではなく、カレーチャーハン!
炒めてあるから香ばしい~
「うは///」
スパイシーな中にふんわり卵が優しいです!
″あむ、むぎゅ、、″
麦の弾力、チャーハンに合うわぁ~
このパラパラ感が何とも言えない。
麦は粘りけが少ないからパラパラにしやすいんですよね。
むぎゅっ、むぎゅっ、と麦が口のなかを押し返してきて、一粒一粒の主張が激しい。
一粒一粒がちゃんとカレー味をまとっている。
カレー粉で具材を炒めた後にご飯を投入したから、ダマダマや粉っぽさがありません!
さすがイシルさん~
ドライカレー、、いや、カレーピラフ、、じゃなく、カレーチャーハン、、ああ、ややこしい!
米をスープで炊くのがピラフ、
炒めるのがチャーハン、
そして、ドライカレーは、汁気のないカレー全般を指すので、カレー味のチャーハンも、カレーピラフもドライカレーだ。
ドライカレーというと、キーマカレーのように水分を飛ばしたカレーをご飯の上に乗っかっているのを想像してしまうが、現世日本では水分の少ないカレーは 全てドライカレーで間違いないからややこしい。
因みに、キーマカレーの『キーマ』は『ひき肉』を意味するので、水分があろうがなかろうが、ひき肉を主に使ったカレーはキーマカレーとなるそうな。
(これは、巻いて食べても美味しそう)
サクラはサラダからフリルレタスを1枚抜きとると、ドライカレーをのせ、サラダに乗ってるブロックチーズものっけて、くるりと巻いて口にいれた。
″しゃくっ、もぐっ″
フリルレタスはレタスより少し固く、葉肉が厚いため、歯ごたえ、食べごたえがあり、ぱりっとしていて苦味がある。
その苦味がドライカレーによく合うわ!
ああ、そうか、ドライカレーにピーマン入れたりするもんね、苦味野菜とドライカレーって相性いいんだね。
「ん~///」
そこにキャラメルサイズのブロックのゴーダチーズがはいり、バターのようなコクと香りが加わった。
マイルドなうま味をプラス!!
「俺さ、休みもらったんだよね」
ドライカレーをもぐもぐしながら ランがサクラとイシルに報告する。
「ギルロスが帰ってきたら連休くれるって」
「頑張ってたもんね、ラン」
「おう」
だからさ、と ちょっと恥ずかしそうにしながらランがチラリとイシルを見て切り出す。
「ハーフリングの村の『骨董市』は、その、、三人で行かねーか?」
ぐはぁ!
『行こうぜ』ではなく『行かねーか?』ときたもんだ!!
相手の予定も伺えるようになったんだね、ランよ、成長したなぁ~
うちと警備隊での共同生活は ランをめきめきと『人』にしていく。
いや、これはランの策か?
いや、素だな、可愛い。
「なんだよ、サクラ」
ニヤニヤするサクラにランが怪訝な顔をする。
いや、だって、お父さんが遊びに連れてってくれるか心配する子供みたいな顔してたよ、今。
「別に、何も」
サクラはニヤニヤ顔をすまし顔にかえる。
せっかく素直で可愛いのに、へそを曲げられたら勿体ない。
こんな可愛らしいランにイシルが落ちないわけがない。
「それは楽しそうですね、行きましょう」
ランの口のはしがきゅいっ、と上がる。
「おう、じゃあ今日リベラに言っとくな」
イシルの返事にランが嬉しさを隠ながら答えた。
隠してもしっぽが嬉しそうにひよひよ動いてるよ、ラン。
「あ、そうだ、バトルフィッシュとってきたんだよ、ラン」
あの美しい五匹のバトルフィッシュをランにも見せてあげようと口を開いたら――
「おう。旨かったぜ、サンキュー」
と、とんでもない答えが帰ってきた。
「やっぱ効くな~」
は?
「自分で加工できたんですね」
え?イシルさんも、何言って――
「ハルがいたからな、血抜きもバッチリだったし、干物にするのは魔法で簡単だからな」
干物って、酒のつまみか!
「ヒレの大きいのを選んですくいましたからね」
ヒレ、、エイヒレ!?
「高いだけあってやっぱ効くなぁ」
「バトルフィッシュは味だけでなく、二日酔い知らずの意味でも人気ですからね。五匹すくったところで店主が泣きそうな顔してましたから、それ以上はやめておきました」
漢方薬か何かですか?
ユ○ケルですか?
ウ○ンの力ですか?
そうか、だから屋台広場ではなく市場に屋台が出てたのか……
「バトルフィッシュ……食べちゃったんだ」
眉根を寄せるサクラを見て、ランが笑顔でサクラをなぐさめる。
「そんな顔すんなって、ちゃんとサクラとイシルの分は食わずにひとつずつ残してあるからさ」
♪ちがうちがう、そうじゃ、そうじゃなーい♪(←鈴○雅之)
「……ありがとう」
縁日でゲットした金魚は、次の日の飼い猫に食われてしまいましたとさ。
◇◆◇◆◇
朝食後、いつものごとく、ランは警備隊駐屯所へ出勤し、サクラとイシルは家の事をすませると、イシルはメイの薬草園へ、サクラはアスの館『ラ・マリエ』へと向かった。
村の門を出て、ラ・マリエの遊歩道に向かおうとしたサクラは、塀の外側にもたれて ブツブツなにやら呟いている人物がいることに気がついた。
高い身長にがっしりとした体躯、ナイス筋肉!
漆黒の黒髪は濡れ羽のようにつややかで美しい。
そして、その黒髪に負けぬ精悍な顔つきと、真っ直ぐな瞳。
あれは――
(シリュウさん?)
オーガの村の族長ザガンの息子、ヒナの兄の シリュウだった。




