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397. オーガの村の男祭り 14 (アイリーンの婿取物語 6) ★

挿絵挿入(2021/5/18)


イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用くださいm(_ _)m




サクラとイシルは合戦を観戦した後、遅めの昼を食べるために出店の出ている通りへとやってきた。


通りは旅人や『ラ・マリエ』から流れてきた貴族で賑わっており、ドワーフの豊穣祭りと同じように 広場には旅芸人や音楽家なんかも来ている。


その中でもひときわ目を惹いているのが――


「おおっ!」

「危ない!!」

「落ちる!?」


オーガの村の子供達による 梯子芸。


″ドドン″

「はいっ!」


高さ5メートルはあろうかと思われる梯子の上で、手放しポーズを決めているのは、運動会でスッ転んで、ルヴァンと友達になった ひとつ角のダン。

太鼓を叩いているのは 同じく巻き込まれてスッ転んだ 二つツノのササメ。


(可愛い!)


ショタもえ 萌えもえ万歳!

全員鯉口シャツに腹掛けという 祭り定番の衣裳にハッピを羽織り、伝統芸の″火消し″を思わせる出で立ちでそろえ、現世でいう、出初め式のような雰囲気だ。


″ドドン″

「はっ!」


梯子の上でポーズを取るダンだけではなく、梯子を支えている子達の顔は真剣で、その回りを囲み、太鼓と(まと)い(火消し棒)を持つ者、かけ声をかける子供達も 梯子の上のダンを見守る。


子供の連帯感、信頼、仲間を守る心が見える。


(あれ?)


サクラは、子供達の梯子芸の演技の向こうに、見知った人物が通りすぎるのを見つけた。


「アイリーン?」


アイリーンが屋台の方へと歩いていく。

サクラは駆け寄って声をかけた。


「アイリーン!」


「あ、サクラ!」


アイリーンはサクラを見て笑顔をくれ、、


「と イシル……」


イシルを見て眉をひそめた。

大抵の女の人は 逆の反応を示すんですけどね。


「アイリーン、来てたんだ」


「今日は休みだからね。こんなチャンス、逃すわけないじゃない?」


「チャンス?」


「出会いのチャンスよ!!」


あー、、婚活女子アイリーンは 結婚相手フィッシング中でしたか。


「でも、アイリーン、今日の服装地味じゃない?」


サクラの疑問にアイリーンがチッチっと 指をふる。


「分かってないわね、サクラ、こういう時は着飾っちゃダメなのよ」


「え?」


()()()を狙うなら『町娘風』が一番いいの。女の子が一人で旅をしてるなんてありえないから、着飾ってたら()()がいると思われて声なんてかけてこない」


「成る程」


説得力あるね、アイリーン。


「それに、相手が『案内してくれますか?』って声をかけやすいでしょ?」


色々考えてるのね、アイリーン。


「勉強になります」


「勉強しないでください、サクラさん」


サクラの隣で黙って聞いていたイシルが 呆れた口調で口を挟んできた。


「すみません」


「なんで謝るのよ、サクラ、サクラだってこれからまだまだ出会いがあるんだから!これからさ、アタシと一緒に――」


()()は釣れたんですか?アイリーン」


アイリーンがサクラを誘おうとするのを イシルが言葉を被せて邪魔をする。


「見りゃわかるでしょ、今一人なんだから、ボウズよ、ボ・ウ・ズ!」


一匹も()()()()()ってことだ。


「失礼」


そう言ってイシルはクスリと笑った。


「嫌みなヤツ」


アイリーンがイシルを睨む。

睨んでも可愛いな。


可愛いいアイリーンが ふむ、と口を尖らせたまま頭をひねった。


「でもおかしいのよね、今日は。まだ一人も声をかけてこないなんて」


「そりゃあ、、」


サクラは言いかけて口をつぐんだ。


「何?」


「いや」


「何よ、何か変?今日のアタシ」


「変じゃないよ、いつも通り可愛い」


「でしょ?」


「……」


アイリーンは可愛い。

可愛いよ。

だけど、アイリーンの後ろにどす黒い影が見える。


(……とり憑かれてる)


黒い影のようなものが アイリーンのうしろにふわふわと浮いている。

それは ヨーコの隣に控えているはずのテンコの姿。


テンコの生き霊がアイリーンの後ろで睨みを効かせてるんだから、いくらアイリーンが可愛くとも 誰も声をかけられないだろう、()()()なのだから。


「すまぬ、お主ら、、」


そんなお狐様の憑いている集団に声をかけて来たツワモノがいた。


「あれ?シリュウさん!?」


勝利をおさめた青軍大将シリュウだ。


「何?サクラ、知り合い?」


アイリーンが一瞬で天使バージョンの声音に変わり、可愛く小首を傾げてくる。

ぐはぁ、可愛いね、アイリーン!私がやられそうだよ。


シリュウがアイリーンの婚活レーダーに引っ掛かったようだ。

サクラはあわてて小声でアイリーンに注意した。


(ダメだよ、シリュウさんは)

(何でよ)

(何でって、、ヒナのお兄さんだし)


やたらめったらリベラとの事を言えるわけもないので、そんなことしか言えません。


(ヒナのお兄さん?てことは、、族長の息子!?やだ、顔良し、家良し、真面目そう、、超優良物件じゃない!!)

(だから、ダメだって)

(意味分かんない、アンタ狙ってんの?)


んなわけあるか!!


(まあ、ドSエルフ以外を見るのも良いわね、あんた、この村でスッゴい睨まれてるし)

(ううっ、やっぱり)


それには諸々ございまして……


サクラとアイリーンがゴニョゴニョやり取りをしていると、シリュウがイシルに言いにくそうに聞いてきた。


「その、、リベラを見なかっただろうか」


「リベラ?」


″リベラ″の言葉に アイリーンが反応する。


「リベラならさっき会ったけど、、」


「何処に!?」


「どこって、、″もう帰るの?″って聞いたら″ああ″って言ってたから、ドワーフの村に帰ったんじゃないかしら……」


「そうか……」


(おや?)


サクラの目にシリュウは明らかに落胆してみえた。

もしや、これは シリュウさんリベラさんと話したかったのかな?


「教えて貰い助かった。礼を言う。ではオレも帰るとしよう、テンコ様に伝えておいて貰えるか?桃の髪の娘よ」


シリュウはアイリーンに礼を言うと、テンコへの伝言を頼んできた。


「え?テンコ?何で?」


「何でって、、そなたの後ろに……」


″ガルルルル……″


言いかけたシリュウに対して、アイリーンの後ろの影が 鼻にシワを寄せ、牙を剥きだしにして赤く目を光らせ、シリュウを睨んだ。




挿絵(By みてみん)





「……いや、何でもない、失礼した」


シリュウは余計なことを言ったと、バツが悪そうにそそくさと退散する。


ちょ、、爆弾回収してってくれよ!シリュウさん!!

化け狐連れて帰ってよ!


アイリーンが笑顔でサクラに聞き直す。


「ねえ、サクラ、アタシの後ろに テンコがいるの?」


「……」


アイリーンのセリフが 口裂け女の『あたし、きれい?』を思い出させる。


言えねぇ!!

言ったらテンコに喰われる!!恨まれる!!

しかし言わなければアイリーンに殺される。

アイリーンは『ポマード×3』では去ってくれないだろう。

金持ち×3なら去ってくれるだろうか……


サクラから回答を得られないと踏んだアイリーンは、イシルに向き直り、やはり笑顔で質問する。


「ねえ、イシルさん、あなたなら言えるわよね?アタシの後ろに テンコが見える?」


「見えますね」


イシルがさらりと答えて、アイリーンの後ろのテンコが″ゴーン!?″と、びっくり顔でイシルを見た。


「あのバカ狐、、何処にいるの?」


アイリーンの後ろのテンコの影が″やめて!師匠、言わないで!″と、イシルに身振り手振り、手をあわせて懇願している。


「テンコは今、グラウンドでヨーコさんの隣にいるはずですから、、その()は 意識だけ飛ばしてきてるんですかね」


″ゴーン!!?″

あっさりイシルに売り飛ばされ、涙目テンコ。


「ありがとう」


アイリーンの笑顔が怒りに震え、邪悪に満ちる。

そして、スターウルフ″ナイツ″を召喚すると、宴の最中のグラウンドへとかっとんでいった。


サクラとイシルは遠くなるアイリーンの後ろ姿を見つめている。


「いいですね、()()


「アレって、ナイツですか?」


もふもふに乗りたいですか?イシルさん。


「いえ、如鬼(ニョッキ)が使う 意識を飛ばす()です」


そういえば古竜ラプラスも使ってたっけな。


「僕も教えて貰おうかな……」


「え?」


そんなことまで自在に出来たら もう人と呼べなくなりそうですよ、イシルさん。

















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