396. オーガの村の男祭り 13 (リベラvsシリュウ)
シリュウは刀を右手に持ち、上段に構える。
振りかぶった姿勢は、振り下ろせば、即攻撃となり、片手で打つため、遠い間合いでも打突を決めることが可能な、最も攻撃的な構えだ。
対するリベラは抜刀の構えで重心を低くし、すぐに動けるように対峙する。
上段に構えたシリュウの足や胴を狙いやすい。
そんな隙を見せてはくれないだろうが。
「せいっ!」
真っ直ぐにリベラを見据え、シリュウが木刀を撃ち込んでくる。
その濁りなき視線と同じように 真っ直ぐな美しい太刀筋。
シリュウの性格そのものだ。
「何がおかしい」
「……別に」
シリュウに言われて気がついた。
リベラの顔は笑っていたようだ。
この、気持ちが良い程の清廉潔白な男を、リベラはやはり欲しいと思う。
このまま、真っ直ぐでいて欲しい。
眩しすぎる純真な輝きのままで。
戦闘に置いて シリュウはリベラに引けをとらない実力の持ち主だ。
が、竹のような柔軟性を持ち合わせていない、一本木なこの男の気質は、さもあれば折れてしまうだろう。
リベラはそれを守りたい。
だが、リベラには他の女性がするような愛し方は出来はしない。
女の子を思うようにシリュウを可愛いと思ってしまう。
この手で守りたいと思ってしまう。
一歩引いて尽くすことなど出来ないのだ。
「やっぱりアタシのものにならない?シリュウ」
「まだ言うか、リベラ!俺を動揺させようとしてもそうはいかん!」
「本心なんだけど」
「うるさい///」
シリュウが踏み込みリベラに木刀を打ち下ろした。
リベラは身を引き、皮一枚でかわすと、ワンステップ、タンっ、と後ろに下がり、すぐに前に踏み込み、シリュウの額めがけて下から上へ抜刀する。
″ガツッ!!″
リベラの剣はシリュウの額には届かずに、胸の辺りでシリュウが左手に持った采配を盾に抑さえ込まれた。。
「前回 俺がお前に負けさえしなければヒナはお前に惑わされることなどなかったのだ!」
リベラの剣を采配で押し返しながら シリュウが苦しげに言葉を吐いた。
「何故村に戻ってきた、リベラ!」
「何故って、、」
リベラがぐっと剣に力を入れ、シリュウに顔を近づける。
「あんたがアタシを避けるから」
「何?」
「こうやってアンタと話せるのは 戦いの中で対峙してる時しか出来ないだろ?」
「うぐっ///」
「敵として剣を交えている時は アンタがアタシを見るから、、アタシだけを」
ガツッ、と、シリュウがリベラを押し返し、リベラとの間合いを取る。
「そんなセリフを吐くな!ヒナだけではなく俺の心をも惑わすなど!!」
「惑わされたの?」
「だまれ///」
ナチュラルに口説いてくるリベラにシリュウが動揺を見せる。
シリュウは誤魔化すようにリベラに突進し、何かをぶつけるように剣を奮った。
(リベラの言葉に胸が高鳴るなど、、
トキメキを感じるなど、、
頼もしく思うなど、、)
「あってはならん!!」
リベラの中の『漢』に惹かれる。
いっそリベラが男であってくれたなら、良き友として傍にいられたのに……
シリュウは、自らを戒めるように木刀を奮い、想いを蹴散らした。
「俺が勝ったら、ヒナは返してもらう、そして、二度と俺の前に現れるな!」
「ヒナの事は約束できないよ、ヒナ自信の問題だ。だけど、、アタシが勝ったら、アタシのものになる?」
「ならん!!」
「だよね」
シリュウとリベラの闘気が膨れ上がる――
◇◆◇◆◇
サクラはグラウンドのはたで イシルと一緒にオーガの合戦を観戦していた。
(……なんじゃこりゃ)
ビリビリとした空気が 合戦の中のグラウンに充満し、その闘気の余波を肌で感じられる程になっている。
「ウオォォォ――」
「グアァァァ――」
凄まじい咆哮と共に オーガの兵士達が達が次々と変身し始めた。
″ムキッ、ムリっ、、メキメキ、、″
(ひいぃぃぃ!!)
血管が浮き出て男達の筋肉が膨れ上がり、服が破け、体が大きくなる。
(あわわわわ、、)
目つきが鋭くなり充血し、口が大きく裂ける。
手足は太く、指には凶悪な黒い爪――
超コワモテ!
全員、ザガンさん!?
サクラは思わず隣のイシルの上着の袖を きゅっと掴んだ。
「怖いですか?」
「……何ですか、これ」
「鬼神化、ですよ。戦いの中で闘気が練り上げられ、力と化し、肉体を強化するオーガ族特有の力です。バーサーカーとは違い、意思ははっきりありますが、狂暴性は増しますね」
地獄絵図!?
いやあぁぁぁ!鬼が笑いながら殴りあっとる!!
オーガ以外の兵士さん達、無事ですか!?
「大丈夫ですよ、グラウンドには結界が張ってありますから、観客席には……」
″ビタ――ン!″
「ぎゃ――!!」
オーガの兵の一人が投げられてサクラの目の前に飛んできた。
結界のせいで、ガラスにへばりついたカエルのような血まみれの顔に驚き、サクラがイシルの腕にしがみついた。
「大丈夫、僕がついてますから」
イシルは怯えるサクラの肩を引き寄せて ホクホクしながら合戦を鑑賞した。
◇◆◇◆◇
「何故打ち返してこない!シリュウ!」
「くっ、、」
鬼神化してからのシリュウはリベラの攻撃を防ぐ一方で、攻撃をしてこない。
「アタシに勝つんじゃなかったのか?」
「やめろ、リベラ、、」
リベラは構わず攻撃を続ける。
シリュウと闘うのを 楽しみにしていたのに、一体どうしたというのだ。
「頼む、リベラ、、、服を、、」
「は?」
「服を着てくれ///」
「服?」
「何でアーマーを着けてないんだよ!!」
鬼神化し、服もサラシも破れてしまったオーガ達は素肌に甲冑。
それはリベラも同じ事。
「ああ、忘れた」
「忘れるな!!」
シリュウは一足飛びに陣羽織を自陣へ取りに行き、リベラに差し出す。
「着てくれ」
「戦の最中に何を……」
「頼む」
「鎧もアーマー変わらんだろう」
いや、いつも見慣れた戦闘用のビキニアーマーと裸に甲冑つけただけのお姿ではレア度が違う!
彼シャツ、濡れT、裸エプロンくらい破壊力がありますよ!
男心にはそういうものです。
「他の者に見せたくない」
「……」
「いくら雄々しくても お前は女なのだ」
シリュウにとっては。
「わかったよ」
リベラがシリュウから陣羽織を受け取ろうとしたその時、、
「シリュウ!覚悟!!」
シリュウの額のシンボルを打ち破るために、赤軍の兵士が飛び出してきた。
″バキッ″
「「!!?」」
パラパラと せんべいが砕け散る。
リベラの頭上の。
「リベラ!?」
リベラは飛び出してきた赤軍兵士を殴り付け、その上、自分の額のシンボルを叩き割っていた。
「リベラ、お前、一体何を――」
シリュウに対し、リベラが頭を垂れる。
「戦いの最中、敵に情をかける高潔な武将に対し、礼をわきまえずに攻撃を仕掛けるなど言語道断!ハオウの精神に反するものだ。赤軍大将として、この者にかわり、非を詫びる。許してくれ」
リベラがシリュウから陣羽織を受け取り 羽織る。
そして、一言
『まいった』と。
″ブオォ――″
″フォォ――″
″カンカンカン″
″ドドドン!″
鳴り物が一斉に打ち鳴らされ、戦の終わりが告げられる。
「此度の勝負、青軍の勝ちじゃ!」
ヨーコの傍に控えるテンコが 青軍の勝利を宣言した。
「うおおぉぉ!」
「うああああ!!」
ヨーコは玉座に座り、オーガ達の練り上げた 溢れる精気を吸い上げ、恍惚な表情で 満足そうに賛辞をのべた。
「両者ともに見事、天晴れな戦いぶりじゃった。誉めてつかわす。美酒を楽しむが良い」
「わあぁぁっ!!」
「ヨーコ様!!」
「シリュウ様!」
「万歳!」
「万歳!!」
戦場には酒が運び込まれ、ヨーコを崇める声の響く中、シリュウの胴上げが始まり、赤軍、青軍手を取り、酒を酌み交わし、宴の場と化した。
リベラは楽しげな祭りの賑わいの中、そっと、その場を後にした。




