391. オーガの村の男祭り 9 (迦寓屋にて) ★
挿絵挿入しました(2021/5/5)
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「あ、サクラさん、イシルさん、いらっしゃいませ」
迦寓屋につくと ビャッコのジジ(No.22)とミクニ(No.39)が出迎えてくれた。
48匹もいるとね、中々すぐには覚えられない。
「本日はお泊まりですか?満室ですが、一部屋くらいならなんとか――」
ジジがイシルに御用を聞く。
「いえ、桜を見に来ただけです、案内は無用です、忙しいでしょうから」
「お気遣い、ありがとうございます、庭園へどうぞ、行ってらっしゃいませ」
ジジとミクニがぴょこんとお辞儀をする。
サクラとイシルは 母屋には上がらずに、玄関の脇の通路からそのまま庭園へとまわった。
ピンクの桜は満開で、迦寓屋の庭園は天上の楽園のような装いを見せている。
客は多そうだが、広いせいかそれほど込み合ってはいない。
「綺麗ですね~」
うん、綺麗だ。
サクラは 桜並木の中を イシルの後ろをついて 上を見上げながら歩く。
するとイシルが振り返り だんまりのサクラに伺うように尋ねた。
「サクラさん、まだ拗ねてますか?」
「……」
別に もう拗ねてなんかない。
そりゃあね、自分でもちょっとどうかなと我に返ったよ。
さすがに子供達もいたしね。
ただれた大人の道楽を純粋な子供達の前でさらけ出してしまう前に止めてくれたイシルさんにも感謝してますよ。
だけど、人前で機嫌を損ねるなんて――拗ねるなんて甘えたことしたのが久しぶりだから、機嫌を直すタイミングがわからない。
「仕方ありませんね」
イシルが自らの上衣の首のボタンに手をかけた。
サクラは、ハッとして、思わずイシルの手の上に自分の手を伸ばし重ね、それを阻止した。
これは″じゃあ、僕が、、″のパターンだ。
「脱がなくていいんですか、残念です」
おいおい
「まあ、満室で部屋もとれてませんしね」
こらこら
「せっかく『恋人』同士になれたんだし、いっそ外でも……」
「なっ///何言ってんすか!?」
シカトスルーしていたらどんどん既成事実を積み上げられそうなので、サクラはようやく反応する。
「あれは″お食事券″ゲットのための方便で――」
イシルがクスリと笑う。
「やっと喋りましたね」
「あ――……」
引っかけられた。
「わかってますよ、そんな事くらい」
イシルはちょっと寂しそうに微笑んで再び歩き出す。
「でも、オーガの村での虫よけにはなりますからね」
サクラも並んで歩き出す。
「私に寄ってくる虫なんていませんよ、アイリーンじゃあるまいし、むしろ外敵を増やした気がします」
「あはは、面白いこと言いますね、サクラさんは」
いや、マジで。
お姉様方に締め殺されますよ 私。
「大丈夫です。外敵からは僕が守りますから」
それ、逆効果じゃない?
呪い殺される……
「しかし、サクラさんがああいう肉体美が好みとはね~」
「別に好みじゃありませんよ、遠くから見ていたいだけです。私はどちらかと言えば――」
「どちらかと言えば?」
おっとイカン、、
「……何でもないです、とにかく、そういうものですよ、心の栄養なんですー」
見てキュンキュンしたいだけだ。
異世界にはテレビもないし、アイドルもいない。
だから、わからないと思うけど、イシルがもふもふを見て心がなごむのと同じ。
感性は人それぞれ。
オーガ族の美しい筋肉は、すごいとは思うし、見たいけど、実際には普通に健康的な人の方が好きだ。
(イシルさんくらいの――)
なんて、言えるわけもない。
結局サクラはイシルが好きなのだ。
桜並木を抜けると 広い空間に桜が垂れ下がるように枝を伸ばし、その木の下には ポツリポツリと野点のための赤い布をかけたベンチが設けられていた。
サクラとイシルは そのうちの一つに腰かけて 桜の園を満喫する。
ただ、二人すわって 同じ景色に浸っていた。
「いらっしゃいませ、サクラ、イシルさん」
程なくして ビャッコのミツバ(No.38)があらわれた。
ヒナに似ているミツバは、近くを流れる清流を汲み、茶をたてる。
ベンチに敷かれた赤い毛氈の手触りを感じながら、桜の花を愛で、ミツバが茶を煎れる音を聞く。
大自然の解放感の中、茶の香りが立ち、さらにほっと癒される。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚を刺激され、次にくるのはやっぱり味覚。
ミツバが出してくれたのは、笹茶とピンクのお饅頭だった。
「もしかして、桜まんじゅう?」
「うん、料理長がサクラに教えてもらった温泉まんじゅうをもとに考えたって言ってた」
手のひらにちょこんと乗るくらいの 小さなピンクのお饅頭の上には 桜の花の塩漬けが飾られている。
「かわいい、いただきます」
桜葉塩漬けを生地に練りこんであるようで、ピンクの生地にポツポツと茶系の緑色が見える。
半分に割ると、中はたっぷりのこし餡だ。
口元に近づけると、桜葉独特の爽やかな匂いがする。
″はぐ、あむ、、″
食べた瞬間、春の香りに包まれた。
「んふ///」
桜の葉の香りは皮だけなのかと思っていたら、こしあんからもほんのりと桜の香りがする。
塩漬けされた桜の葉の塩気が 餡の甘さを引き立て、美味しい!
春ならでわの桜まんじゅう。
″ズズ、、ゴクン″
お茶とも合うわぁ~
「はぁ///」
まったりとお茶をいただきながら、サクラとイシルは トトリ達の運動会での活躍をミツバに話して聞かせた。
「ところでミツバは 何でヒナの姿を真似てるの?」
「オレ、人化が得意じゃないんで、、苦労してたらヒナが″私をまねてごらん″て言ってくれたんだ。ヒナなら産まれた時から知ってるから 真似しやすくて……」
「仲良いんだね」
「でも、ドワーフの村に行っちゃったから」
「リベラさんを追って、でしょ」
うん、とミツバが頷く。
「リベラはさ、凄いと思うよ。村に来てからまだ五年くらいだけど、″ハオウ″の教えを一番理解していると思う。ヒナが心酔するのもわかるよ」
「リベラさんはこの村の出身じゃないんだ」
「うん。修練者だった。リベラはね、守りたい人なんだよね」
それは、わかる。
ギルロスに似たものを感じるけれど、もっと優しい。
それは、リベラが女だからかもしれない。
「でも、村のために、すぐに出ていっちゃったんだよ。今回返ってきてくれて、ドワーフの村にいるのも 隣の村から見守るためだと思うんだ」
「リベラが村にいると良くないの?」
「うん、シリュウと揉めてね」
「それは、ヒナの事?」
「違うよ、リベラはヒナの事妹みたいにしか思ってないから。かわいそうだけど、あれはヒナの一方通行だ。恋というより、憧れだと思うよ」
だよね。
「シリュウはねリベラがこの村で唯一口説いた男なんだ」
「リベラさんが?シリュウさんを??」
リベラはシリュウさんが好きで、シリュウさんは極度のシスコンでヒナが好きで、ヒナはリベラさんが好き。
見事なトライアングル!
「シリュウだって、まんざらでもなさそうだったよ。リベラのことは認めてたし、よく一緒に酒も飲んでた」
はたから見たらイケメンが二人……
「リベラは女の子が好きだけど、シリュウって、見かけによらず女々しいところがあるから、リベラの″守りたい″センサーにひっかかったんだと思う」
そういえばシリュウさん、ヒナにズタボロに言われてしょんぼりしている姿は、どこかほっとけない雰囲気を醸し出してたな……
「自分が村をひっぱるんだと頑張ってるシリュウの姿が可愛いいんだって」
なるほど。
「あのかわいい天然素材を守ってあげたいって」
扱いが女の人ですよ?シリュウさんの。
「でも、うまくいかなかった?」
「うん、まわりも認めるくらいお似合いだったんだけど、リベラの言い方が良くなかった」
「告白の仕方ってこと?」
「そう。リベラはシリュウに″アタシに抱かれろ″って、迫ったんだよ」
へ?
「シリュウは自分を男らしいって思ってるからね、そんな事言われて衝撃だったみたい。自分が″まもられる側″だったなんて」
一般的に、男の人ってそうだよね。
「リベラは『女』だけど『漢』だからね。逆にシリュウは、自分の中にある『女』を感じて戸惑い、異様にリベラに反発してるってわけ。」
誰にだって男性的な部分と女性的な部分はある。
だけどシリュウは それを認められず、恥ずかしいと思っている。侮辱されたと思っている。
(だからリベラさんにあんな態度をとったんだ)
「実際、シリュウがあんな風だから村人が助けようって纏まっていけてるんだけどさ。シリュウは強いし、カリスマ性もある。リベラと二人で村を引いていってくれるのが理想だけどね」
BLのようだけどBLじゃない複雑な恋愛事情を聞かされ、ちょいとびっくりしちゃいましたよ。
お茶をいただきながらミツバとお喋りし、そろそろ、、と おいとましようとしたら、ミツバがサクラ達にお風呂をすすめてきた。
「今日の銭湯は″桜の湯″だから、入っていくといいよ」
運動会で走ったし、サクラとイシルは お風呂をいただいてから返ることにした。
↑人化練習するミツバと手伝うヒナ
「お兄様を騙せたら成功です」
「ヒナはもっとかわいいよ///」




