388. オーガの村の男祭り 6 (運動会のお弁当) ◎
後書きに料理写真挿入(2021/5/1)
イシルが亜空間ボックスからふろしき包みを取り出す。
″しゅるり″
ふろしき包みをほどくと、三段重ねの重箱がでてきた。
イシルがつやつや、黒塗りのお重の蓋をとり、一段、二段階、三段と並べていく。
「すげぇ、」
「うわあ!」
「きれい!!」
ルヴァン、トトリ、カナルが 重箱を覗き込んで顔を付け合わせる。
運動会のお楽しみ、お弁当タイム。
お重の中に 綺麗に詰められた行楽弁当。
おにぎり、卵焼き、ミートボールぽん!
「これ、全部食いもんか!?」
「うまそう!」
「いい匂い~」
キラキラのお弁当に キラキラの笑顔。
「食っていい!?」
「早くたべたい!」
「イシルさん、いい?」
「勿論です」
皆で手を合わせて――
「「いただきます!」」
おにぎりは小さな俵形。
ふた口サイズで、真ん中に海苔が帯のようにひと巻き巻いてあるのだが、トトリとルヴァンはひと口で食べる。
古古米入りのピンクのおにぎりと、麦飯の白にぎりで、めでたい紅白のおにぎり。
それと、もう一種類、茶色いおにぎり。
「むぐ、、うめぇ!なんだこれ」
「もぐっ、肉の味がする~」
「もぐもぐ、、、甘~い!」
早くも茶色いおにぎりを食べたルヴァン、トトリ、カナルが感激の声をあげ、二個目のおにぎりを手にする。
サクラも手にとり、海苔の部分を持って、海苔の手前までひと口、半分を食べた。
″あむ、もぐっ″
甘い、肉の味、うまい、これは――
「ん~///」
角煮だ!この間の角煮の煮汁の炊き込みご飯!!
角煮→角煮豆腐→炊き込みご飯の三段階ですか!イシルさん、主婦の鏡ですね!!
″もちっ、むちっ″
豚の角煮の煮汁の旨味を吸った麦飯の美味しいこと!
旨味の凝縮された角煮の煮汁が 麦飯に吸わせることよって、ほどよい濃さになり、そこに細かく崩れた角煮がなじんでこれだけでご馳走だ。
サクラは残りの二口目を口にいれる。
″ぱくり″
巻いてあった海苔は 焼き海苔ではなく味付け海苔!?
ほんのりあまじょっぱくて、角煮にぎりが ちょっぴり味変され、二度美味しい!海苔の塩気が角煮ご飯の甘みと旨みを再確認させてくれる。
「おいひぃ///」
涙がでそうです、イシルさん!
「サクラ、自分が作ったのに、旨そうに食うな」
ルヴァンがちょっと頬を染めながらサクラにつっこみをいれた。
「私は手伝っただけで、料理はほぼイシルさんが……」
「えっ!」
「マジで~」
「私は切ったり、揚げたり、片付けしただけだよ」
ルヴァンとトトリが驚いてイシルを見た。
だよね、意外だよね。
サクラが卵焼きを口にいれる。
「はぐ、もぐ、、ん///んん~」
卵焼きはお砂糖入り。
焦がさないよう、気をつけながら ふんわりと巻いてある。
ルヴァンは とろけるサクラの顔と イシルの顔を交互に見つめた。
(オレも、、サクラにあんな顔してもらいたい……)
いつも食べることばっかりで、作るなんて考えたことなかったなと、ルヴァンは思った。
(イシルに聞いたら教えてくれるのかな……)
「どうかしましたか?ルヴァン」
ルヴァンに見つめられてるのに気付いたイシルが、首をかしげる。
「別に///」
ルヴァンは自分の考えに気恥ずかしくなって、ごまかすようにサクラに話をふった。
「サクラ、それ、卵?」
「卵焼きですよ」
口に卵焼きが入っているサクラのかわりにイシルがルヴァンに教えてくれる。
「僕も食べたい!イシルさん」
イシルが ねだるカナルのお皿に卵焼きをのせてあげると、カナルは卵焼きを食べ、ぱあっと笑顔になる。
「お菓子みたいに甘~い」
カナルの美味しい顔につられてルヴァンとトトリも卵焼きを口にいれた。
「何回も巻いてある、、面白い食いもんだな」
そう言いながらも ルヴァンの顔はほころんでいる。
「美味しいなぁ……美味しいなぁ……」
トトリに至っては″美味しい″しかでないほど感動している。
うん、わかるよその気持ち。
本当に 美味しいんだもん!
卵焼き巻いてるときのイシルさんの笑顔も感じられるほどに。
手が汚れないようにピックに刺さったミートボールは 王道のあま~いケチャップ味。
タコさんウインナーは定番ですね!
飾り切りの技術があがってますよイシルさん。
ウサギにネズミにライオン、、ですか!?
レタスとブロッコリーの森の中は花畑。
お花の形にカットされた人参グラッセ、マッシュポテトフライ、ラディッシュに、フラワーキュウリカップに入っているのはツナコーンサラダ。
メニューが甘めなのは 運動で疲れる子供達のために。
サクラの糖質制限とは合わないが、今日は子供達が主役だからね。
「これ、好き!」
カナルはミートボールがお気に入りのようだ。
ちょっぴりチープな感じがサクラにとっては何とも懐かしい味。
ふんわり、柔らかくて、甘酸っぱい味付けに食欲をそそられる。
「オレはやっぱり、肉、かな~」
トトリのお好みはチーズササミカツ。
チーズササミカツはその名のとおり、鳥のササミの中にチーズを入れて、衣をつけて揚げてあるのだが、イシルのチーズササミカツは焼き海苔も一緒にまいてある。
ササミは脂身がなく、淡白なあじわいだけど、その肉質の噛みごたえは独特で、肉、食ってる!と思える弾力。
噛むほどに鶏肉の旨味がわいてくる。
そこに加えてチーズだ。
チーズが鶏肉に濃厚に絡まり、海苔の風味と、さっくりころもの香ばしさが鶏肉の旨味を包んで、ハイカラで誰もが好きな味になっている。
「おれ、これ」
ルヴァンはエビのマヨネーズあえ。
プリっプリエビの甘味をマイルドなマヨネーズでコーティング。
ブロッコリーと一緒に食べるのが、最高に美味しい!
ぷりぷりエビの食感とゴリゴリ、くしゅっとブロッコリーの歯応え。
ブロッコリーはクセがない食材だけど、ちゃんと野菜の味がして、エビの旨さを引き立ててくれる。
カナルはすっかりイシルに懐いてしまい、サクラの膝の上ではなくイシルの膝の上に収まってしまいちょっぴり寂しいが、それはそれで目の保養だから、いいかな。
口の周りをミートボールのソースで染めたカナルの口元をイシルが拭いてあげる。
ああ、お母さん!
サクラがニマニマしながら ベーコン巻きをぱくり。
「んふ///」
まいてあったのはヤングコーン。
見た目の断面も可愛らしいが、コリコリ美味しいねぇ~
「サクラさん」
イシルのお弁当に舌鼓をうっていると、サクラの後ろから声をかけてくる者がいた。
この涼やかな可愛い声は――
「ヒナ!」
バーガーウルフのバイト仲間のヒナだ。
「ヨーコ様にお弁当を託されたのですが、もうお昼食べてたんですね」
どうやらヒナはルヴァン、トトリ、カナルに弁当を持ってきたようで、葛籠を手にしていた。
イシルがそれを見て、ヒナに礼を言う。
「それはありがたい、僕も作っては来たものの、五人で食べるには少し足りないかと思っていたんです。ありがとう、ヒナ」
ヒナはイシルの言葉に嬉しそうに口元をほころばせ、それじゃあ、と イシルに葛籠を渡す。
もう、イシルさんのこういう気遣いのひと言、ほんと、好き。
ほんとは足りなくない事くらいヒナだってわかっている。
イシルは用意してくれたヨーコと、持ってきてくれたヒナの心遣いをありがたく、受け取ったのだ。
お互いを尊重し合う心の表れ、古いといわれるかもしれないが、イシルのそうゆう奥ゆかしさが サクラの心にささるのだ。
「ヒナも一緒に食べようよ」
「いいんですか?」
サクラがヒナを誘い、ヒナが加わわって サクラの隣に座った。
イシルがヒナが持ってきた葛籠の蓋をあける。
「うわあ!」
「おいなりさん!」
「色々のってる!」
「豪華!!」
「これは美しいですね」
これまた美しい いなり寿司のお弁当!
黄色に緑にピンクに赤――
おいなりさんは上を向いており、そぼろやほうれん草がのってたり、錦糸卵とエビがのってたり、桜でんぶでかざられてたりと、見目鮮やか!
サクラ達は皆でわいわいと、お腹いっぱい、運動会のお昼を堪能した。




