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386. オーガの村の男祭り 4 (二日目/ルヴァンとトトリとカナルの運動会) ★

挿絵挿入しました(2021/4/28)


イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m




「位置について~」


係員の号令と共に、ルヴァンは白線の前に立った。


「用意――」


横に並ぶのは お祭りの()()()を着て、頭にハチマキ、足にタビをはいた同じ年の頃のオーガの少年達。


「ドン!!」


スパーンと黄色い旗が振られ、六人の横並びの子供達が 一斉に地面を蹴った。


(何で、俺が――)


オーガの子の中に人間の子、ルヴァンが一人混じり、走り出す。


オーガの村の男祭り二日目は 村をあげての大運動会。

『赤軍』『青軍』に別れて競い合う。


朝に修練者達が御竹山(おんたけさん)の頂上を目指し出発したのを皮切りに、村人達による競技大会が始まった。


ルヴァン、トトリ、カナルは、″行って参れ″と ヨーコに放り出されたのだ。


いつか三人が巣立つときに役立つように、村に馴染んでいた方がいいというヨーコの親心だが、幼い三人にわかるはずもない。


(どうせ負けるのに、、)


迦寓屋(かぐや)で白狐たちに混じって仕事しているせいか、ルヴァンは少し筋肉がついてきた。

人の中でなら運動神経のいいルヴァンはかけっこで一番になれるだろう。


けれど、オーガ族と人間では元々の身体能力の差がある。

ドワーフが怪力を持ち合わせているように、オーガはバネのようにしなやかな筋肉を持つ。


「いけ!ダイヤ!」

「いいぞ、ゴウシ!!」


他の子達の家族だろう、応援の声が飛んで来る中、ルヴァンは最後尾になんとか離されずについて走った。


(ビリだけはゴメンだな)


最後尾、ルヴァンが目の前のオーガの少年を抜きにかかると、その子も負けじと速度を上げる。

後尾三人が団子になり、コーナーに差し掛かったところで――


「やべっ!!」

「!?」

「うわっ!!」


内側を走っていた子が足をもつれさせて倒れてしまった。


″ズザッ″


(いって……)


ルヴァンも巻き込まれて倒れ、膝を擦りむく。


先頭の走者が遠くなる。

まあ、はじめから勝てるとは思ってなかったけどね。

今なら転んだこともあり、負けてもしょうがないと面目が立つ。


「立つんだ!ジル!」

「ファイトだ!ササメ!」


倒れた子を応援する声。

そうだ。

どうせ俺には声援をくれる家族も期待してくれる親もいな――


「立って!ルヴァン!!」


(……え?)


ルヴァンの名を呼ぶ女性の声


「立つんだ!ルヴァン!!」


(……サクラ?)


姿は見えないけど、サクラがいる。

ルヴァンは立ち上がり 走り出した。


他の二人も立ち上がり走り出す。


「走れ!ササメ!」

「抜け!ジル!」

「がんばれー!ルヴァン!!」


ルヴァンはサクラの声援に後押しされ、走る。


(はぁ、はあっ、、)


「負けるな!ルヴァン!」

「がんばれぇ~、ルヴァン!」


(苦し///くそっ、、)


トトリとカナルの声もする。


ルヴァンは、なんだかうれしくなって、ただただ がむしゃらに走った。


結局、ビリだったけど。


転んだけれど、諦めずにゴールした三人の男の子、ルヴァン、ジル、ササメの三人に、健闘を讃える 温かな拍手が送られた。


「わりーな、ころんじまって」


転んでルヴァンとササメを巻き込んだ一本角のジルが 二人に謝ってきた。


「人の子なのに、やるね」


二本角のオーガ、ササメが握手を求めてくる。

ジルもルヴァンに手を差し出す。


「おまえ、根性あるな」


ジルとササメはルヴァンを讃えてくれ、三人はがっしり握手をした。

ルヴァンに新たな友達ができた。


ジルとササメの親が迎えに来て、救護テントにルヴァンも一緒に行こうと言ってくれた。


だが、歩きだしたところでルヴァンは名前を呼ばれた。


「ルヴァン!」


ルヴァンは呼ばれて振り向く。


「サクラ……」


ああ、やっぱりサクラの声だったんだ。


「諦めないで良く頑張ったね~、エライ、エライ」


「子供扱いすんなよ///」


頭を撫でるサクラに対し、やめろよ、とルヴァンはぷいっとよける。

本当は、うれしかったけど。


サクラの後ろ側では ()()エルフ――イシルが、ジルとササメの親に挨拶しているのが見えた。


″ルヴァンがお世話になりました″


俺のために礼を言ってくれてるの?


「擦りむいたんですね、診ましょうか」


挨拶を済ませたイシルがやってきて、ルヴァンの前にひざまづき、ルヴァンを見上げた。


「肩に手を……」


「///」


ルヴァンは恥ずかしかったけど、自分の前に片足をつくイシルの肩に手を置き、支えにすると、擦りむいた片足をあげた。


ルヴァンが寄りかかってもびくともしない。

″お父さん″って、こんな感じなのかな……

ルヴァン達のいた盗賊団の(かしら)マフガインとはまったく違う。


イシルがルヴァンの傷を見て 痛い顔をする。


「痛いですね、良く頑張りました」


誉められて、照れくさいな……


イシルが擦りむけたルヴァンのひざにクリーニングの魔法をかけ、そっと手を当て、治癒の魔法をかけてくれた。

ふわん、と、膝があったかくなり、痛みがひいていく。

こんなに完璧な治癒魔法なんて、高くて 今までかけてもらったことない。


「サンキュー、、イシル」


ルヴァンは色々含めて 礼を口にする。

ルヴァンに初めて名前を呼ばれたイシルが、ふわっと微笑んだ。


あったかい、笑顔だった。


「サクラさん、何考えてるんですか?」


「えっ///」


なんだかニヤニヤしているサクラに イシルがつっこむ。


「顔がゆるんでますよ」


「いや、別に……(ひざまづいて少年に肩を貸すイケメン、、美しい光景をありがとうございます!!ゴチソウサマデス!!)」


「まったく、、人の趣味に色々言いたくはありませんが――」


イシルが小言を言い出したので、サクラは慌てて話をかえた。


「トトリとカナルはどこにいるのかなぁ~」


「次、トトリが出るんだよ」


傷が治ったルヴァンが、応援に行こうとサクラを誘う。

ルヴァンのハチマキとはっぴは『青』

どうやらルヴァンは『青軍』のようだ。


『青軍』のテントに行くと、カナルが一人で待っていた。


「サクラ!」


カナルはサクラを見ると、嬉しそうにサクラにぴちょりとくっつく。


「カナル、青いはっぴ似合うね~」


サクラはカナルをひざの上に乗せて応援開始だ。


「さて、トトリは――」


グラウンドを見るとやっぱりオーガの少年達に混ざって トトリが出てきたところだった。


「位置について~」


トトリの動きはかたく、緊張しているのか、手足が同じになってるよ?


「用意ー……」


係員の者が黄色い旗を振り上げ――


「ドン!」


スパーン!と振り下げる。

オーガの子供達はスタートをきったが、トトリはオロオロと、出遅れて走り出した。


「うわあ!がんばれ!トトリ!」

「がんばれー!」


サクラとカナルが声を張り上げ応援すると、トトリはヘラりと笑って手を振り応える。


いや、走れよ。


トトリはもたもたと走り出し、第一関門へ。


そう、トトリの出場した競技は 障害物競走。

はじめはネットの障害物。

魔物捕獲用のネットが低く張られ、その下を這ってくぐって通り抜ける。


オーガの子達は到着は早かったのだが、ツノが網にひっかかり、網の中でもたつきだした。


(よっ、ほっ、、ほいっ、と。)


オーガの子達が苦戦する中、小柄で華奢なトトリはスルリとネットをくぐり抜け、意外なことに、いきなりビリからトップに躍り出た。


「こっからのトトリは結構見ものだぜ」


サクラの隣に座るルヴァンがニヤリと笑う。


「見もの?」


トトリのすぐ後に、オーガの子達もネットから出てきた。

人間の子に負けてたまるかと、凄い形相だ。


(うわああああああ!!こわいいぃ!!)


「逃げ足だけは早いんだよ、()()()


「成る程」


ルヴァンの説明に納得するサクラ。


窮鼠猫を噛む――

危機を感じたトトリは本能的に必死で逃げ走る。

ネットを抜けたら第二関門 平均台。


″ひょいっ″


盗賊団にいたころ、塀を伝って逃げてたトトリにとっては低すぎる障害物。

軽々と渡りきり、ぴょいっと降りた。


平均台の次は第三関門、バランス勝負。

()()()に卵を乗せて 落とさないように走ります。


盗んだものは大事に運びましょう、傷をつけたら値が下がる。

こんなところで盗賊団の頃の技術が役立つなんて、フクザツだ。


第四関門、飴食い競走。

真っ白な小麦粉の中から 手を使わずに飴を食べてゴールを目指す。

食べ物は食べられるときに迷わず喰う!


トトリは迷わず小麦粉に顔を突っ込むと 顔を真っ白にしながら飴を咥えた。


(あ、うまい)


一個、二個、三個、、

一人一個とは言われなかったから。


わははとギャラリーからの笑いが起こったが、かまやしない。

笑われたって、痛くも痒くもないからね!

腹がふくれればそれでいい!

美味しければさらにいい!


最終関門、麻袋。

麻袋に両足を突っ込み、ぴょんぴょんはねながら進んでいく。


手足を縛られ、捕まってもこうやって生き延びてきたトトリのど根性物語。


圧巻の、一位であった。


「トトリ、かっこいいね」


サクラの膝の上でカナルが嬉しそうにはしゃいでいる。

そして、ぽつりと呟いた。


「僕も、出たいな……」


「カナルは出ないの?」


サクラの疑問にルヴァンが応える。


「カナルの年の子の競技が無いんだよ。遊戯だけだから、練習に参加してないカナルは出られない」


「そっか……」


可愛そうだが仕方がない。

しょんぼりしているカナルを見て、イシルが配られたプログラムを差し出してきた。


「これなら出られるんじゃないですか?」


サクラは頑張って、イシルが指で示した異世界の文字を読み取った。


「おや、、こ、、にに、ん、さん、きゃく……親子二人三脚?」


「はい」


イシルがカナルに笑いかける。


「僕とでますか?カナル」


「うん!」


ああ、イシルお父さん!!




挿絵(By みてみん)
























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