380. 角煮豆腐 ◎
料理写真挿入しました(2021/4/21)
″ドドン・ドン″ 「「ハッ!!」」
太鼓の響きと勇ましいかけ声が広場に響き渡る――
″ドドン・ドン″ 「「セイッ!!」」
かけ声に合わせて一子乱れぬ動きをみせ、型を刻む男達――
″ドドン・ドン″ 「「ソイヤ!!」」
精悍な顔つき、引き締まる体、力強い佇まい――
目の前で躍動する男達の体からはムンムンの精気の漲りを感じる。
迸る熱い気力、体力、精神力、、圧巻!!
胸が、きゅんとする……
(ふおおお///これが、男祭り!!!)
イケメン大量発生中!!!
感動で涙が出そうですよ~
イケメン旋風をうけ 顔がほころび ニヤニヤがとまらない!!
おかげさまで女性ホルモン活性化、お肌がツヤツヤになったようです、ありがとう!
サクラはこの光景を目に焼き付けようとぱっちりと目を開く――
「あれ?」
するとイケメン達は消え、日の光りの中に明るい天井がみえた。
「あれあれ?」
ここはどう見ても自分の部屋。
「……」
――イケメン大量発生は夢だった。
一瞬、大変勿体ない事をした気がして、もう一度今の夢をと思ったが、今日はオーガの男祭り初日です。
現物の方がいいに決まってる!
そして、お薬をもらいに現世の神に呼ばれる日です。
(そうだ、今日は現世から早く帰ってこなくては!)
サクラはベッドから出ると、着替えを済ませ、リュックを持ち、朝御飯の支度をするためにキッチンへ降りた。
イシルはまだ降りてきていない。
(おっ、勝った)
いつもはサクラよりイシルの方が早いので、先に来れたことがちょっと嬉しい。
(朝ごはんは何の予定なんだろう)
とりあえずポットに水を入れ、湯を沸かす。
すると、火にかけたポットの隣に昨日の角煮の鍋がそのままおいてあるのが見えた。
残念ながら角煮はランが食べ尽くしてしまったが、角煮のうま味の染み出た煮汁を使って、イシルが何か料理をしたのだろうか?
(なんだろう?鶏肉なら早く煮えるし、薄切り牛肉を入れて牛丼風、いや、発想をかえて、のばしてスープだったりして。)
サクラはうきうきと鍋の蓋をとり、覗いてみた。
すると――
「ん?」
どーん、と鍋のまん中に白いものが一丁浮かんでいた。
「……」
一丁
一丁て言っちゃったよ
いや、どうみても豆腐だもんよ。
ん?激しくデジャヴ……
そういえば はじめてイシルさんにふるまってもらったミルフィーユ鍋の中にも お豆腐が一丁浮かんでいたな。
今は見慣れてしまったけど、あのときの衝撃はなかったよ、異世界にお豆腐があるなんて。
「お早うございます、サクラさん、早いですね」
しみじみしていると イシルも二階から降りてきた。
「お早うございます、イシルさん、これ、お豆腐ですよね?」
「はい」
イシルも鍋の中を覗き込む。
「うん、いい感じで浸かってますね」
イシルは朝食のほうれん草の卵とじをつくりながら 角煮豆腐の鍋を弱火でことこと、ひと煮立ちさせる。
サクラが鮭を焼いていると、イシルが温まった角煮豆腐を崩さないよう 鍋からそっと皿に取り出した。
取り出されたお豆腐はほんのりオレンジ色に染まっている。
つるりと滑らかな表面は絹豆腐だ。
「昨日の夜、お豆腐を水切りして 崩れないよう弱火でことこと煮ておいたんです」
うつわに盛られた豆腐の上からさらに角煮の残り汁をすくってかけると、煮崩れして残った角煮が豆腐の上に飾られた。
これ、絶対おいしいやつだ!
冷めないうちに食べたいから チャカチャカ食卓を準備する。
「今日はなんだか張り切ってますね、サクラさん」
「はい、今日は薬を貰うだけなので、終わったらすぐにアスに頼まれた買い物を済ませて、昼までには帰ってきたいんです」
「昼までに?」
「はい!!」
サクラが元気に答え、また予定を確認する。
「診察が終わったら、東京駅に行って土産物を物色、たしか、9時頃から開いてた気がするんですよね。行くのに30分はイタイけど、う~ん、仕方なし。その後アキバの店も開くだろうから、アキバに行ってサイリウムを買って……」
サクラが食卓を整えながら、ぶつぶつとシミュレーションする。
「電車で地元に戻るのに30分、11時過ぎるかな。簪見てから薬局へ戻ると、昼?……いや、サイリウムって100均に売ってたかも!100均に売ってたらアキバは行かなくて良いから、もっと早く帰れる!如月さんにつかまらなければだけど……」
いつになく真剣なサクラを見て、イシルは苦笑い。
「……そんなに見たいですか?男祭り」
「(イケメン)見たいです!」
「そう、ですか……力、入ってますね」
きっぱり言い切り、ずいっ、迫るサクラに イシルがちょっと押されぎみだ。
「連れてってくれますか?」
サクラの中ではイシルが連れていく事が前提だとわかって イシルの顔が穏やかになる。
「勿論ですよ、貴女が行きたいと言うのなら、僕はどこにだって連れていきますよ」
ふわっと空気が一瞬で甘くなった。
おっと、朝から甘々攻撃!!
サクラはそれを回避する。
「私、ランを起こしてきますね」
二階に行こうとするサクラはをイシルがやんわり引きとめた。
「いえ、もう少し寝かせてあげてください」
「?」
「ランもサクラさんと一緒で、今日の警備隊の仕事のシミュレーションをしてて、昨日の夜は中々寝つけなかったようですので」
「ランが?」
なんか、意外だ。
ギルロスやリベラがいなくてもそつなくこなしそうなのに……
「ええ、自分が動く分にはいいんでしょうが、人を動かすとなると また違うんでしょうね」
ランは今まで、生きていくため、情報を得るために人を惑わせ、揺さぶりをかけ、時には力ずくで操ってきた。
人を操るのと動かすのでは違う。
相手の能力を見極め、理解し、良いところを伸ばせるよう指示する事が求められるのだから。
サクラが角煮豆腐とおかずを食卓に運ぶと、イシルがサクラの分のご飯とみそ汁をよそってくれた。
「僕は後でいただきますよ」
どうやらイシルはランと一緒に後で食べるようで、サクラが沸かしたお湯でお茶を入れ、サクラの向かいに座わり、くつろぐ。
「いただきます!」
一汁三菜。
みそ汁に、角煮豆腐、ほうれん草の卵とじと鮭ですね。
まずは白菜のみそ汁で寝ていた体をONにする。
「ずずっ、ふはぁ///」
白菜の甘めのお味噌汁は野菜食べてます!って気がするね~
かむと白菜の葉から じゅわっとみそ汁がしみだしていいお味!
どれどれ、早速お豆腐も食べてみましょ♪
崩れずにぷるん、つるんとしているこ角煮豆腐に 箸を入れるのがもったいない。
ちょっとの罪悪感を感じながら、角煮豆腐をに箸を入れると、加熱され固まった絹豆腐の微かな抵抗のあと、一口大、縦に割れた。
″ふるん、、″
表面はオレンジだが、切られた断面は白いお豆腐色。
一口を崩さないよう、そのまま口にもっていく。
″はむ、、″
つるん、と滑らかな絹豆腐の口当たり。
″むぐっ、、″
舌でつぶれる柔らかさと、熱でふくらんだお豆腐のふわふわ感!
「んふっ///」
麻婆豆腐みたいに崩したお豆腐だと 角煮の味が勝っちゃうけど、この角煮豆腐は、丸々一丁で、お豆腐に味が絡みみすぎていないから お豆腐のやさしい味がちゃんと味わえる。
そして、かけるだけでは味わえない味の一体感、、絶妙!!
「んんっ///」
なんて旨いんだ角煮豆腐!
しかも、細かい角煮がからんできて、じゅわっ、じわっと、口の中にうま味が広がる。
素朴で地味な感じだけど――
「ん~~///」
最っ高に旨い!
もう一口!と、角煮豆腐を食べようと口を開けたところで、サクラの目の前で顔を赤らめ、うっとり微笑むイシルと目があった。
「やっぱりサクラさんは美味しそうに食べますね」
「そう、ですか?」
いや、照れますねなんか
「ええ、官能的です」
イシルさん今日も朝から絶好調!
朝っぱらからさらりと口説いてきますね?
「うっ///ひ、一人でたべれますから、片付けもしときますから、イシルさんはリビングで休んでてくださいよ」
「はい。でも……」
「?」
「見ていたいんです。貴女が食べているところを」
「ぐっ///」
「一緒にいては、ダメですか?」
うわああ///朝っぱらからこんな攻撃を食らうとは!!
イケメン大量発生よりも破壊力が高い!!
きゅんとするどころか きゅーっ、と胸を締めつける。
ちょっと寂しそうに伺う目の前の美しいエルフが 首をかしげると、さらりとした金の髪がキラキラと朝の光に輝いてまぶしい!!
あなたの魅力に心も瞳も潰れそうです、イシルさん!
「いい、、です、ケド///」
今日の神の問診で血圧と心拍数が上がってたら イシルさんのせいですからね!!




