377. 日曜教室 3 (ミケランジェリの心の旅) ★★
挿絵挿入(2021/4/30)
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二枚とも、ザリガニですが……
一枚は後書きに。
ミケランジェリはトムとザムザを探しに シムズに教えてもらった三本杉へと歩く。
「まったく、世話がやける」
そう呟くも、嫌な気持ちではなかった。
ミケランジェリは 歩きながらズボンのポケットに手を入れた。
その手にひんやりと固いものが当たる。
すべやかなさわり心地。
手にしっくり馴染む大きさの川原の石。
水面を跳ねる石の段数を競う水切り遊び用の石だ。
「次はこれで記録更新だ」
クマのぬいぐるみのアークを誘って特訓しよう。
ドワーフのシムズには勝てないかもしれないが、唯一人間の子供のユーリには勝ちたい。
そんなことを思いながら、ポケットの石を握りしめる。
石をさわってるだけで心がウキウキしてくる。
大切な宝物を手に入れた気分だ。
(森はこんなにも自由で、美しく、誰にでも平等であったのか……)
トムとザムザを探して 森を見渡しながら歩いていると、枝に黄色い布が結んであるのが見えた。その先には赤い布が枝に結んである。
(なんだ?何かの印か?結界ではなさそうだな、、まじない?)
そして、その布の延長上にトムの姿が見えた。
(なっ!?)
ミケランジェリはトムを見て驚く。
なんと、トムの目の前には巨大な熊!
その熊が手を振り上げ、今にもトムに襲いかかろうとしているではないか!!
「トム!」
ミケランジェリはトムに向かって走り出した。
風魔法を作り出し、カマイタチを発動すべく 理論を組み上げる。
熱気と冷気を集め、圧縮し、ぶつけあって気流を生む。
普通の風の使い手なら 考えるまでもなく 感覚で繰り出せる技だ。
だが、頭の固いミケランジェリには感覚的というのがよくわからない。
成り立ちを順に組み上げなくては、納得いかない。
魔法は使えるが、遅いのだ。
(くそっ、)
こんな時、己の魔法の発動の遅さに腹が立つ。
繰り出せば威力は十分なのに――
「トム!!」
心ばかりが焦る。
「ミケ?バカ!来んなよ、そこ、罠!!」
「何!?」
ミケランジェリが踏み出した先、赤い布の真下には 猟師が仕掛けた獣用のトラバサミが――
「!!」
″ガチンッ!!″
ミケの踏み出した先で サメの歯のようなトラバサミが、ガチンと合わさった。
「うわああぁぁ!!!」
ミケランジェリは思わず悲鳴をあげる。
「……?」
痛くない。
「あっぶねーなー、ミケ、足が粉々になっちまうとこだったぞー」
「ザムザ?」
ミケランジェリは ザムザに抱えあげられていた。
瞬時にザムザがミケランジェリを引っ張り、助かったのだ。
「ミケは知らなかったんだな、赤い布の意味を」
ザムザがミケを下ろしながら、これは罠の仕掛けがある目印だと教えてくれた。
黄色は注意、赤は危険。
「ああ、すまない、ザムザ……はっ!それよりトムは!?熊に襲われて――」
ミケランジェリがあわててトムを見れば、トムは、襲うと思われた熊と肩を組んでいる。
「こいつ?こいつは友達なんだ。こいつが子供の頃、大蛇に襲われてるとこを助けてやったことがあったんだよ、それからたまに力比べして遊んでるんだよ、な!」
″ガウ、ガウ″
さすがドワーフ、トムの倍以上の熊もなんのその。
「なんだ……」
「ミケ?」
「なんだ、良かった……」
ミケランジェリはホッとしてその場にヘタりこんだ。
トムがミケランジェリに寄ってくる。
「俺達がやられると思って 助けに走ってくれたのか?」
「まあ、私の早とちりだ」
トムはミケに手を差し出して立ち上がらせる。
「サンキュー、ミケ」
「……いや」
「お前、いいやつだな」
トムとザムザが ミケランジェリの服についた泥や葉っぱをはたいてくれる。
「ああ、大丈夫だ」
ミケランジェリは 上着のボタンを外すと、チェックのシャツを脱ぎ、Tシャツ姿になって 上着をはたく。
″バサッ、バサッ″
「ミケ、、」
「なんだその服の柄……」
トムとザムザが ミケランジェリのTシャツの絵に釘付けにはる。
「これか?」
秋葉系ミケランジェリのTシャツの胸にプリントされたソレは――
超剛金ロボ、マ○ンガーZ!
「カッコいいな、それ」
「ほしい……」
トムとザムザの瞳がキラキラと輝く。
ミケランジェリは フッ、と笑う。
これは、、これをエサにうまく使えば、勉強させることが出来るのでは?
「見るだけでいいのか?」
「「え?」」
「これくらいのカラクリ人形くらいなら、勉強すれば実際に創ることだって出来る」
「「おおー!!」」
「私と一緒にトライしてみるか?」
ミケランジェリがドヤ顔をしてみせる。
「問題解決能力を身につけるために私と一緒に数学の世界に飛び込もうではないか!基本的な算数は必須だ。運動力学、物理学、学ぶこなとはやまほどある!こんなカラクリ人形、動かすのもたやすいことだ!フハハハハ!どうだ!魅惑的であろう!?」
しかし、帰って来た言葉は――
「いや、ミケが作ってくれればいいよ」
「は?」
「ミケの言ってることわかりにくいしよ、そのカッコイイの、作ってくれよ、な!」
「う、うむ」
(やはり人を動かすには 人質をとったほうが確実だったか?イヤ、この村でそれはしたくないな……)
ああ、ミケランジェリ
根本的に間違ってるよ。
先生への道のりは遠い……
まずは子供達にわかる言語を話さなくては……
◇◆◇◆◇
大量に捕獲したザリガニは メリーさんが組合会館でゆでてくれた。
「はっ!ブルー・インフェルノ!!」
ミケランジェリの釣った青いザリガニ、ブルー・インフェルノは、救出が遅く、思い出した時には既に鍋の中だった。
「せめて、食べてやらなくては……」
そして、残念なことに、ゆで上がったザリガニは 全て美味しそうに真っ赤赤。
青いザリガニも 茹でると赤くなる。
「ブルー・インフェルノ……」
安らかに眠れ、地獄の青い炎……
泥を吐かせ、ハーブで茹でたザリガニは 身はエビと似た味で、爪はカニのような味がした。
胸の部分にあるミソの濃厚な風味が鼻に抜ける。
中々クセになる味わいだ。
甘みがあって柔らかい。
エビとは違い、その身はふわっと柔らかい。
「これもつけてみて」
メリーさんに進められて ソースをディップして食べてみる。
「これはまた……」
アンチョビの塩気とニンニクの香りが食欲をそそるこれは、バーニャカウダソース。
まったり、濃厚なのは ザリガニのミソをまぜてあるようだ。
あわないわけがない!!
「野菜も食べるのよ」
生野菜もバーニャカウダソースにつければ贅沢な味わいに早変わり。
女子も一緒にみんなでワイワイランチを食べ、ミケランジェリの初めての日曜教室は無事終了した。
◇◆◇◆◇
子供達が帰ってしまった後、ミケランジェリが帰り支度をしていると、クイッ、と袖を引かれた。
見ると 人間の男の子 ユーリがミケランジェリを見上げていた。
「なんだ、ユーリ」
ユーリは ちょっと口ごもりながらミケランジェリに話しかける。
「……この後、時間ある?」
たしかユーリは この組合会館に兄のレオと一緒に住んでいるはず。
寂しいのか?
「ないこともないが、それがどうした」
ユーリがミケランジェリに拒否されたと思い、引いたのがわかった。
多分、こんな言い方ではだめだ。
だけど、ミケランジェリには他の言葉が思い付かない。
言葉が思い付かなくて……
子供の頃、自分がどうだったかを思い出す。
どうしたらわかりやすい?
どうして欲しかった?
ミケランジェリは考えて、しゃがんでユーリと目線を合わせ、笑って見せた。
すると、話を聞いてくれるとわかったのか、ユーリが遠慮がちに言葉を続けた。
「……算術を、おしえてほしいんだけど」
「算術を?」
「うん。早く算術を覚えて、レオに……にーちゃんに楽をさせてやりたいんだ」
ミケランジェリは言葉ではなく ユーリの頭に手を当てた。
優しくユーリの頭を撫でる。
「偉いな、ユーリは」
自分が欲しかった言葉。
撫でて欲しかった、大きな父の手。
ユーリが嬉しそうに笑い、こっち、こっち!と、ミケランジェリの手を引く。
「オレ、がんばるよ、ミケ先生!」
ミケランジェリの 初めての生徒――




