374. ロマンス ★
挿絵挿入しました。(2021/4/17)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用くださいm(_ _)m
食後にシャナがお茶を出してくれたので サクラはお茶を飲みながら『ラ・マリエ』でアスとするはずだった打ち合わせをここで済ませる。
何故って、ラプラスがまだラーメンを食べているからだ。
味噌コーンバターラーメンを食べた後も、
シャキシャキ食感とネギの辛みがクセになる白髪ネギ盛りラーメン、
やわらかお肉で麺が見えない程に埋めつくしたチャーシュー麺、
黄金色に輝く黄身が、こぼれそうでこぼれない、とろとろ味玉入りラーメン等を食べ――
今はシャナいち押し麻婆麺をうはうは言いながら食べている。
「長老達とも話したんだけどさぁ」
アスが話を切り出した。
「折角三つの村が同盟むすんでるんだから、何か、こう、観光客向けの目新しい土産物が欲しいわけよ、思わず買ってしまいたくなるような――」
「また漠然としてるなぁ~」
「貴族だけじゃないから、買いやすいものがいいのよね~」
「ちょっとしたものってことね」
「本当はさぁ、もっとお祭り前に欲しかったんだけど、なんかない?子ブタちゃん」
土産物の良いところは実用性ではなく、その土地に行った事の証、いわば思いでのアルバムのようなものだ。
昔の定番と言えば ペナント、Tシャツ、キーホルダーや置物。
修学旅行の木刀。
何故、木刀?
今はもうペナントなんて売ってないんだろうなぁ……
うちの叔父さんが集めていて、あの三角の旗を見る度に、旅の記憶が鮮明によみがえると言っていた。
しかし、異世界の人があれを集めるだろうか?
「明日の朝は現世に行くでしょ?何か良さそうなもの買ってきてよ」
「わかった」
すっかり忘れていたけど、明日は通院日、検査はないけど、神に薬をもらいに行く日だった。
明日からオーガの男祭りが始まるってのに!
気になる、、非常に気になる男祭り!
さっさと用事を済ませて祭に連れてってもらおう!
お土産物なら――東京駅かな?
「あと、『簪』のサンプルも欲しいわね、良さそうなの買ってきてよ」
「えっ!」
「ダメ?」
ああ!早く帰りたいのに如月さんの和小物やさんに寄るのか……
捕まると長い。
いや、振り切れば良いだけだ。
如月さんの話が始まる前に、買い物済ませたら用事があるからとぶっちぎろう。
「うん、わかった」
「おかわり」
サクラとアスの話が一段落したところで ラプラスがおかわりを所望した。
シャナがラプラスにおかわりのラーメンを出す。
今度はトンコツラーメンのようだ。
トンコツのこってりした背脂の白湯の中にがっつりと青ネギが入っていて、その上に短冊に切られたキクラゲがこんもりと盛られている。
これは、、見ただけでそのコリコリ、シャキシャキ、もっちりが想像できる。
「私、組合のほうに顔を出してくるけど、ゆっくりしていって」
シャナはエプロンを外し、出掛けていった。
「む、最後のラーメンか、どれ」
ラプラスが箸を突っ込み 麺とキクラゲ、ネギを一緒にすくい持ち上げる。
麺は細いストレート。
その隙間にトンコツのスープを存分にふくんでいるのがわかる。
ラプラスは 口を近づけ、すくい上げた麺からスープが滴り落ちてしまわないうちに 勢いよくすすり上げた。
″ずぞっ、ズズズ、、″
うわあ、お腹いっぱいだけど美味しそう!
もっちゃ、もっちゃ、コリッ、コリッ。
美味しそうにラプラスが食べている。
まろやかなトンコツスープに青ネギの香りに、かために茹でた細い麺の歯応えと小麦の風味を味わう。
他にはあまりない特徴的な食材のキクラゲが、プリッ、コリッとからみ、塩みを軽減してくれる。
″ゴクリ″
喉にはりつき後引くトンコツの油がたまりません!
「なんだ、サクラ、食したいか?」
ラプラスが今にもヨダレを垂らしそうな顔をしているサクラに問う。
「やらんがな」
「じゃあ聞くなよ」
「はっはっは」
サクラはラプラスをほっといてアスに向き直った。
「そうだ、ミケちゃんは何であんな格好してるわけ?」
ドワーフで会った立派な秋葉系ミケランジェリ。
大した意味がないなら、是非とも元に戻して頂きたい。
「ああ、ミケに会ったのね?」
アスはどこからともなく雑誌を取り出す。
「子ブタちゃんがくれたこの雑誌、ほら、ここ」
アスが指差してみせたのは、やっぱり 秋葉原のホテルのページで、中央通りや電気街、メイドカフェや地下アイドルのライブの写真なんかが乗っていた。
「みんなこの格好してるから、流行ってんのかと思ってさ、村での反応見るためにミケに着せたんだけど」
なるほど、そういうことか。
それならミケちゃんの格好は今日で終わるだろう。
ウケないと思うから。
「この光る棒を持って変なポーズしてるのは何だ?」
ラーメンを食べ終わったラプラスが 話に参加してきた。
「踊ってるのか?」
「まあ、そうだね」
ラプラスが指差したのは『オタ芸』『地下芸』『サイリウムダンス』と呼ばれている、独特のポーズの写真だ。
ヲタ芸(オタ芸)とは、アイドルやアーティストの応援のためにファンが行うもので、掛け声と共にペンライトなどを振り回して踊る、キレッキレのパフォーマンス。
もはや新しいダンスのジャンルと言っても過言ではない。
「どれ、踊ってみせよ」
「おどれるかっ!」
ラプラスは立ち上がって腰を横に曲げ、片手を上げ、天に向かって弓を引くようなポーズをとる。
「こんな感じか?」
たしか、あんな形の、″ロマンス″という技で、ブンブンと体を揺さぶってる動画があったな。
「そうそう、そんな感じで、振り子みたいに左右交互にやってごらんよ」
「こうか?」
ラプラスが腕を伸ばして、ダイナミックに左右に振る。
仕方がないから、サクラは合いの手で″オイ、オイ、オイ、″といれる。
「わはは、わはは」
ラプラスはサクラのかけ声にあわせて楽しそうにブンブンとおどる。
「……うまいね、ラプラス」
「うはは!愉快!愉快!」
暫くすると、満足したのか、ニコニコ顔で席に戻ってきた。
「サクラ、我はこの光る棒を所望する」
所望すんなよ~
あ″ー、また変なお土産が増えた。
秋葉原に売ってんのかな?
東京駅から秋葉原へ行って、如月さんとこ寄って……うわ~ん、男祭が遠退いていく~
「ところで少し汗をかいた。迦寓屋とやらの温泉に入りに行こうではないか」
「汗かくほど踊るってどんなよ……てか、行かないよ。帰らないと、ミケちゃんの様子も見に行きたいし」
「ミケ?なんで?」
ラプラスだけでなく、アスも迦寓屋に行くのに賛成のようで、サクラに聞き返してくる。
「だって、心配だもん。ちゃんと子供たちに教えられてるか」
「あら、ミケは教えに行ったんじゃないわよ」
「え?だってミケちゃん、先生って……」
「教えられるのは、きっとミケの方だから」
ふふん、と アスが意味深に笑った。
「???」
「よいではないか、サクラ。ミケのことは視えておる、心配するな」
ラプラスが行こうではないかと サクラの肩を抱く。
折角ラーメンで温まったのに、また寒くなってはかなわんと、サクラはそれをするりとかわした。
「だってラプラス、視てるだけでしょ?」
「はっはっは――」
否定しないのかよ。
「イシルさんにも出掛けること言って来なかったから(←そんなヒマなかった)帰るよ、私」
「健気だな、サクラは、そんなに好きかぁ~」
「そんなんじゃなくて、礼儀として……」
「寝室に忍び込みぐらいだからなぁ~」
「わあ!!」
サクラがラプラスの口を塞ぐ。
が、冷たくてすぐに手を離した。
「何?忍び込んだの?子ブタちゃん」
「ないない!」
「大胆~」
「忍び込んでない!!」
「しかし、覗いたであろう」
「うっ///」
「覗いたの?」
「ううっ///」
「覗いたんですか?」
三人目の問いにサクラとアスとラプラスがハテナを浮かべた。
「「ん?」」
三人目?
サクラとアスとラプラスは声の方を向く。
「覗いたんですか?サクラさん」
工房の入り口に イシルが立っていた。
↑ラプラスのロマンス
◇◆◇◆◇
「いたたた、、まったくイシルは容赦ないんだから、アタシ今回悪くないのに~」
チャポン、と音をさせて アスが頭をおさえる。
「『竜殺し』の剣まで持ってるなんてね」
「はっはっは、お揃いのたんこぶも悪くない、温泉はキズに効くというからよかったではないか」
どこまでもプラス思考のラプラスが、湯のなかで寛ぎながらアスに答えた。
「今の時間は人気もなくちょうど良いなぁ、お主もゆっくり羽を伸ばすと良い」
「そうね」
アスとラプラスはお互い大きな翼を広げ、物理的にものびのびと温泉を堪能した。
余談だが、この時に 脱衣所に浴衣やタオルをしまいに来たトトリは、温泉につかるおばけを見て、夜トイレに行けなくなり――
夜中にミツバをおこしてついてきてもらうはめになった。
ヲタ芸に詳しくないので違ったらごめんなさい。
弓を引くようなポーズは「アマテラス」というのもあるようですが、よく見かけるポーズをご想像くださいm(_ _)m




