373. 味噌ラーメン
サクラをつかんだ竜体ラプラスは オーガの村が見えはじめると、着地のために人化して 鉤爪で掴んでいたサクラを胸に抱えた直した。
ラプラスの背中にコンパクトな翼が見える。
「うははは、早いであろう?もうついたぞ、サクラ」
「ラプ、、」
閉じた瞳でラプラスがサクラを見た。
ナイス!イケメン!
目をつぶっててもイケメンだね!
眠りについて この世界の動向を視て記憶し続けて来たラプラス。
TVの前で一日過ごすような、無気力、出不精な生活。
ベッドに入ることすらめんどくさがっていたラプラスが、今は旅行を楽しむ子供のように無邪気にはしゃいでいる。
「楽しみであるなぁ、粉をこね、竹で打ち、煮込んだスープに浸して食すあの長いメンはどんな味がするのやら」
今では生き生きとした表情で 大変楽しそうだ。
(良かった、良かったよラプラス、でも――……)
「おお!あの建物だ!我が視たロータスの娘がいる場所」
サクラの返事も聞かずにウキウキと喋り、シャナの麺工房の前に スタッと降り立ち、翼をしまう。
工房のまえには ラ・マリエの執務室にいたはずのアスが二人を待っていた。
「もう、魔方陣使えばいいのに~」
「うははは、良い良い、食事の前の軽い運動だ。行くまでの道のりも、また楽し。なあ、サクラ」
サクラはラプラスの言葉を無視し、ラプラスの腕から抜け出すと、アスの背中にぴっちょりとくっついた。
「子ブタちゃん!?なぁに?怖かったの??」
珍しく自分からくっついてくるサクラにアスが驚き半分、嬉しさ半分で問いかける。
「ア、、ス……」
アスが アスの背にいるサクラを振り向こうと動いたが、サクラはアスの動きに合わせて一緒に動き、背中にはりついたまま離れない。
「やだ///寂しかった?」
首をかしげ、少し頬を染めながら背中のサクラに問うアスに サクラが小さく答えた。
「さっ、さむ、、い……」
「え?」
寒くてうまく喋れない。
体の内側から寒気がして、どんどん冷えていくレベルだ。
「うはは、我に抱かれるのは まだちと早かったかな」
(寒くて凍え死ぬかと思ったわ!)
ラプラスに抱き抱えられて体が冷えたサクラは、手を前に組んだまま、ガタガタ震えてアスの背にぴっちょりくっつき、今一番手近な暖をとる。
「子ブタちゃ~ん///」
アスが振り返り、くっつき虫サクラをガバッと抱き寄せ包み込み、きゅうきゅうと 抱きしめた。
寒くてガチガチのサクラ。
今は少しでも温まりたい!
でないと、、ホントに凍死する!!!
「子ブタちゃんから誘ってくるなんて///」
(誘ってない!誘ってない!!)
「人肌のほうがより暖かいけど、脱ごうか?アタシ」
(いらんわ!背中だけ貸してくれ!)
と、言いたいが、歯の根が合わない。
サクラはアスが間違っても服を脱いでしまわないよう アスの服にしがみついた形で見上げて、ブンブンと首を横にふった。
「あは♪かわいい~」
珍しく抵抗しないサクラに、アスがここぞとばかりにサクラをかいぐりまわす。
「ん~///らわらか~い」
(むに、、ヤメレ、アス!)
「はっはっは!寒いとラーメンが美味しく食べられるなぁ、サクラ」
(うっさい!ラプラス!)
「どれ、お主のために早くラーメンを作ってもらうとしよう」
お前のせいだろ。
しかもラプラスは自分が早く食べたいだけだ。
「たのもー!」
ラプラスが工房の前で声を張り上げる。
道場破りか!?ラプラスよ。
ラプラスの声に応えて工房の中からシャナが顔をだした。
ラプラスを見て訝しげな顔をし、ラプラスの後ろの、アスとアス腕の中にいるサクラを見てびっくりする。
「シャナ、さん、、ずずっ、、さむ、、」
鼻水をすすりながら 紫の唇をして凍えるサクラの様子に シャナは三度目の驚きをみせる。
「どうしたの!?サクラ、今の時季に凍えるなんて、、今温かいスープを……」
「いや、スープよりラーメンを頼む、ロータスの娘よ」
ラプラスがずいっ、と シャナの前に進み出る。
「え?」
さっさと工房の中へとはいる。
「子ブタちゃんはアタシがあっためてるから大丈夫♪、小鳩ちゃん、ラーメン三つね」
「え?」
アスもサクラを抱き抱えてシャナの前を通過し、工房の中へ。
「シャナ、、たすけ、、」
サクラがシャナに手を伸ばすが、 ″いい子で待ってましょ~ね~″ と、アスがその手を掴んで 有無を言わさずサクラを強引に工房の中に連れて入ってしまった。
ああ、無情。
イシルがいない今、このメンツではサクラに抗う術はない。
◇◆◇◆◇
ラーメンの丼に手をそえると 冷えきった指先に、ジンジンと熱が伝わってくるのがわかる。
指先の血管が温まり 熱を伝えようと拡張し、走り出す。
″じんわり、ほかっ、ふわっ、″
かじかみ、固まってうまく動かなかった指先が ほぐれてきた。
レンゲがあるにもかかわらず、そえた両手で丼を持ち上げると、迷わずその縁に唇をつける。
″ふーっ、ふーっ、、″
顔にかかる湯気と共に スープの香りが鼻腔をくすぐる。
柔らかい 味噌の香り。
傾けたラーメン丼から用心してスープをすすり、ひとくち。
″ズズッ……ゴックン″
「あ~///」
熱いスープが喉を通り、食道を通り、胃の腑に落ちてゆくのがわかった。
冷えきった体に 極上の癒し――
「これがラーメンの醍醐味ね///」
そう言葉を発したのは サクラの動きに合わせて 一緒にラーメンのスープをすするアスだった。
「何、それを味わいたかったから シャナが勧めてくれたスープを私に飲ませなかったわけ?」
ようやく解凍され 人心地ついたサクラがアスをジト目でにらむ。
「折角だから一番いい状態でラーメン味わいたいじゃない?ラーメンの味と子ブタちゃんの気持ちがブレンド、上乗せされて……最っ高///逝けちゃいそう」
「バカアス(怒)」
「んふ///美味しいから、なんでもいい」
確かに、美味しいは全てが許される。
「我のおかげぞ?」
「そうね、ありがと、竜ちゃん♪」
今日シャナが出してくれたのは『味噌ラーメン』
肉野菜炒めの出汁とニンニクが効いた濃い味噌味は 期待を裏切らない美味しさ。
これぞ味噌ラーメン。
スープの中から箸で麺をすくい上げる。
″ふー、ふーっ″
寒い日には味噌ラーメンがよく合う。
いや、寒いのはサクラだけなのだけれどもね。
勿論、醤油だって、塩だって、トンコツだって、寒い日に食べると美味しい。
だけど、冬には味噌ラーメンが似合う。
北海道のイメージだから?
味噌ラーメンの調味料は勿論味噌(←あたりまえ)
発酵食品であるみそは、消化吸収されやすい状態で酵素を含んでいるので、新陳代謝を促して、血の巡りを良くし、体温を上げるのに効果的なポカポカ食材。
味噌ラーメンはやはり他のラーメンよりも身体を温めやすい傾向にあるのだ。
シャナは知ってて味噌ラーメンにしてくれたのだろうか?
いや、理屈なんて関係ない。
寒い日は、体が味噌ラーメンを求めている!
それでいいのだ!!
″はむっ、すぞぞっ、、″
味噌スープの中からすくい上げた むっちむちの太麺を口にふくみ おもいっきり啜り上げる。
「いい音だな、サクラ!」
サクラは口いっぱいに麺をふくんだままラプラスにうなずいてみせた。
この音はラーメンを食べるときには必須です!
ラプラスもサクラの真似をして″ズゾッ″と麺をすする。
太い縮れ麺が″ちゅるん″とスープを滴らせながら 踊るように跳ねた。
″もちっ、もぐっ、むぎゅっ、、″
口の中でも麺が踊り、跳ね、押し返してくる。
″ゴクリ″
そして、その喉ごし足るや!!
「うは!これは、愉快!!」
ラプラスもご満悦。
豪快に、がっつき、すするのが ラーメンの美味しい食べ方だ。
″あむっ、もりっ、″
シャキッと炒めたキャベツにもやしで野菜たっぷり栄養満点!
コリコリのメンマはオーガの村のタケノコですね!?
トンコツ鶏ガラベースの味噌ダレに、炒めたひき肉からスープに香ばしい香りとコクがつく。
味噌ラーメンは、トッピングではなく、スープ、具材、味噌ダレを中華鍋で一緒に調理するからしっかりと馴染み、格段に味に深みが出るのだよ。
「今までこの旨さを知らなかったなんて~///」
「うはは、悪魔をも虜にするとは、何て罪深き食い物だ……」
うっとりとラーメンを堪能するアスとラプラスに サクラがドヤ顔をみせ、フフンと笑った。
「侮ってもらっては困りますよ、二人とも。味噌ラーメンの秘めたポテンシャルは こんなものでは、なあ~いのだ!!」
サクラはシャナにお願いして、あるものをもってきてらった。
それは、、
『バター』
″ぽとん″
バターをひとかけ ラーメンの中に。
ラーメンの熱でじんわりとバターがとけだし、ミルクの香りが立つ。
そして、バターが溶けてしまわない、少し白いうちに バターのマクに くぐらせるように麺を通過させ持ち上げた。
″ずっ、ずぞっ、ズルズル、、″
テラテラと バターのマクをまとった麺をすすり上げ、食む。
「むぎゅっ、もぎゅっ、」
バターのミルキーな風味が味噌にプラスされ、鼻に抜ける。
「はうぅ///」
味噌の塩気がマイルドになり、味にぐっと奥行きが出て、濃厚なのに飽きがこない。
「なに///コレ、やだぁ~」
「もはわひ(おかわり)」
アスもラプラスもバター入りラーメンにメロリン♪メロリン♪
サクラはこの後、コーンもトッピングして、最終的に『味噌バターコーン』を堪能した(←但し麺は半玉で)




