372. 祭と祭の合間 ★
挿絵挿入しました(2021/5/1)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m
次の日、サクラは今後の打ち合わせをすべく『ラ・マリエ』へと向かった。
ラ・マリエの遊歩道の屋台の様子も見たいから、イシルとランと一緒に魔方陣を通ってドワーフ村へ。
イシルはメイの治療院へ行き、サクラは駐屯所へ行くランと一緒に 村の入り口へと向かう。
祭のあと、いつもの村の風景。
村を出る前にバーガーウルフを遠目に見ると、今日も朝から行列が出来ていた。
(そういえば、テンコ帰ったんだっけ)
温泉宿迦寓屋が始動し、オーガの『男祭』が明日から始まることもあり、予約でいっぱいだ。
花見とあわせて、庭園や銭湯を目当てに立ち寄り客も多いだろうから、テンコは大忙しになるだろう。
テンコテンテコマイだな(笑)
「あれ?バーガーウルフに見慣れない人がいる」
「ああ、新しい人を雇ったみたいだな。今日の夕方にはヒナもオーガの祭のためリベラと一緒に帰るし、キツネその①もいねーしな」
″ありがとうございましたー″と 爽やかな女の子の声が響いてくる。
「ドワーフじゃないし、村の人じゃないよね?」
見た事ない人だ。
貴族でもない 人間の女の子なんて珍しい。
「サクラ、知らねーの?『ラ・マリエ』の裏んとこに人が移り住んできてて、ちょっとした集落になってんだぜ?」
なんですと?
「アスの結界内だから警備隊には関係ないけどな。サクラ、ラ・マリエまで送っていこうか?」
「ううん、一人で行けるよ、ありがとう」
ランは″じゃあな!″と 警備隊駐屯所へ入っていった。
行楽地に人が集まるのは自然なことだ。
人気が出ればこれからもっと移住してくる者は増えるだろう。
ドワーフ村は村から町へと変わっていくのだろうか……
「いや、アスの城下町だな」
「サクちゃん!」
バーガーウルフを見つめながらぼんやり考えていたら声をかけられサクラは振り向いた。
サクラを『サクちゃん』と呼ぶのは 異世界ではミケランジェリだけ。
「あ、ミケ――……ちゃん?」
サクラはミケランジェリを見て驚く。
サクラの目の前に立つ人物はサクラの事を″サクちゃん″と呼ぶのだからミケランジェリなんだろう。
しかし、その出で立ちは――
チェックのシャツはタックイン、ダボダボのケミカルジーンズの丈は短め、頭には赤いバンダナ。
背中には大きなリュックに、巨大な紙袋を手に持ち、その手には黒い指貫グローブがはめられている。
服のサイズが合ってないのか 全体的にシルエットがおかしい。
「なんだその立派な秋葉系ファッションは……」
おい、コラ、イケメンどこ行った?
何がどうしてどうなった!?
てか、どっから持ってきたそのアイテム!!
もしや中のTシャツは萌え萌えキャラとかじゃないだろうな!?
ミケランジェリはチャキッとメガネのブリッジを指で押し上げる。
仕草がイケメンなのが余計にアンバランスだ。
「ふはははは!この出で立ちはアス様が私のためにあつらえてくださったのだ!」
「アスがぁ~?」
「うむ、アス様は今新しいファッションを開発中のようでな、日々サクちゃんがくれた本で研究なさっているのだ」
その結果が秋葉系?
迷走してんな、アス。
「服は動いてみてこそその真価が問われる!そこで、是非私に一番に着て欲しい、、と!」
「そう、よかったね……」
いや、迷走してんじゃなく 遊んでるんだな、アスは。
くそう、私の楽しい観賞の瞬間、イケメンミケちゃんを返してよ~!
「大丈夫か?サクちゃん、顔色が良くないが……」
ミケランジェリが心配してサクラを覗き込む。
ああ、近くで見ると ちゃんとイケメン!
「大丈夫だよ、立ち直ったから。ところでミケちゃんはどこ行くの?ドワーフ村?」
「ん?そうだ。日曜教室を開くのだ」
「え?ミケちゃんが?」
「うむ、ドワーフの村では『メリーさん』というご婦人が 日曜に子供達に読み書き算段を教えているようだが、アス様が行ってこいと私を頼ってくださったのだよ」
メリーさんはメイ先生の治療院にいる羊の獣人さん。
「それでそんなに荷物が多いんだ」
「備えあれば憂いなし!」
フスン、と鼻息荒くミケランジェリがドヤ顔をしてみせる。
アスに頼られて嬉しいんだね。
(子供達ってことは トムやユーリ達に教えるってことだよね?)
大丈夫なんだろうかと不安になる。
服装もだけど、ミケランジェリの性格が。
「おっと、教師の私が遅れるわけにはイカン、ではまたな、サクちゃん!」
ミケランジェリはいそいそとドワーフの村へと入っていった。
(教材、ムダにならないといいな……)
トムやユーリが素直に机についてる姿が想像できない。
(おっと、私も行かなくちゃ)
サクラはラ・マリエの遊歩道へと入っていく。
(アスに文句言ってやる……)
イケメンマッドサイエンティスト風エリートサラリーマン系銀縁眼鏡様ミケちゃんをかえしてくれ!!
◇◆◇◆◇
ミケランジェリの事も気になるし、サクラはアスに文句(と打ち合わせ)を済ませたら 日曜教室を覗きに行こうと、屋台を見ずにまっすぐアスの執務室へとやって来た。
「ババンバ!!」
「へ?ラプラス??」
ノックしてドアを開けると ラプラスが満面の笑みで閉じた瞳で出迎えた。
「はっはっは!ババンバだ!サクラ」
「え?何?ババンバ??」
「駄目ではないか、きちんと″ビバノノ″と挨拶してくれないと」
ノリノリだなラプラス、昨日の豊穣祭でのサクラの余興(?)がよっぽどお気に召したご様子だ。
忘れて欲しいのに。
「ビ、ビバノノ……」
うんうん、とラプラスが満足そうに頷く。
「ではサクラ、挨拶も済んだことだし、『ラーメン』とやらを食しに行こうではないか」
「は?」
相変わらずマイペースだな、ラプラスよ。
そして自分勝手。
「いや、アスと打ち合わがあるから」
サクラはすいっ、とラプラスをすり抜ける。
「ラーメン……」
ラプラスがサクラの前に回り込む。
「行ってきなよ、遊歩道に屋台あったでしょ?」
「そんなまがいものではなく ロータスの職人が作ったのを食したい」
ロータスの職人……シャナのことだ。
シャナは確か昨日、テンコやヨーコ様と共にオーガの村へと帰ったはず。
「ははは、行こうぞ、サクラ」
ラプラスがずいっ、とサクラに迫り、サクラは反射的に後退る。
「いや、アスと打ち合わせが……」
「そんなのラーメン食しながらで良いではないか」
グイグイ迫るラプラスに、サクラは後退り続けバルコニーへと追いやられた。
ラプラスがサクラを捕まえる。
「ひやぁ、冷たい!」
「大丈夫だ、もう暖かくなってきたから 我が触れても凍える事はない」
ふわっ、とサクを抱えあげる。
「行こうぞ!サクラ!」
″たかい、たか~い″
この年齢で、、たかいたかいって、、
ラプラスはサクラを抱えたまま、バルコニーからぴょいっ、と飛び降りた。
(ひいぃっ!)
ラプラスの体がまばゆく輝き、その光が大きくなる。
筋肉質な手足に厚い胸板、鋭い鉤爪に大きな翼。
『エンシェントドラゴン・ラプラス(再)』
″バサッバサッ″
ラプラスは鉤爪でサクラを掴んだまま 大きな翼をはためかせた。
″ア″オ″――ン″
バイオリンを逆撫でして弾いたようなすさまじい咆哮。
「ぎゃ――!!助けて――」
″ウギャギャッ♪ヴギャギャッ♪″
叫ぶサクラをよそに、ラプラスは ババンバ♪ババンバ♪とご機嫌な様子で空の旅。
そして、オーガの村へ向けて マッハでGO!
アスの部屋では執務机に肩肘ついたアスが 手に顎を乗せてぽつんとすわったまま。
「アタシ、ヒトコトも発してないんだけど?」




