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369. 豊穣祭 16 (キャンプファイヤー) ★

挿絵挿入(4/5)

イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m




門前広場の中央で パチパチとはぜながら 闇の中で火が燃える。


祭の最後はキャンプファイヤー。

安らぎの闇の中に揺らめく清めの炎は今日が終わるまで焚き続けられる。


火の回りでは子供達がマシュマロを枝にさして火であぶっていた。

炙って、こんがり焼けた外側をぺりっ、と食べて、むけて小さくなったマシュマロをまた焼いている。


(……一個だけ食べようかな)


いやいや、マシュマロは八割が砂糖……


(でも、焼きたい)


目の前で焼いてるの、美味しそう~


「半分は僕が食べますから」


食べたそうなサクラにイシルがいいんじゃないですか、お祭りだし、と 促し、串に刺したマシュマロを渡してくれた。


サクラは串に刺したマシュマロを火に近づける。


マシュマロを焼くのは結構コツがいる。

火に近すぎるとすぐ焦げるし、遠すぎると焦げ目がつく前に溶けて落ちてしまう。


″ジリジリ……″


マシュマロを焼いていると、マシュマロ全体がふんわりとふくらんできた。


(もう少し近づけるか)


″ジリジリ……ジュ″


「ふわ!」


燃える!燃える!


サクラはマシュマロについた炎を吹き消し、少し離してまた、ジリジリ。

こんがりなるまで、指先でくるくるまわしながら焼いていく。


(もういいかな)


表面はこんがりときつね色に、ぷにっとさわってみると、表面が少しカラメル状になって硬さがある。

良い感じに焼けた!


サクラが焼き上げたマシュマロをフーフーして、食べようと、口をあけたところでイシルに声をかけられた。


「貸してください、それはこうやって食べるんですよ」


イシルは手にグラハムクラッカーを持っていた。


グラハムクラッカーは全粒粉入りのクラッカーのことで、独特の香ばしさと旨味があり甘みが少ない。


グラハムクラッカーにチョコを載せ、サクラが焼いたマシュマロをのせるとさらにクラッカーをのせてサンドにした。


二枚のクラッカーに挟まれて ふにっ、と マシュマロがつぶれる。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


これは、、スモアだ。

たしかアメリカ、カナダで伝統的な、キャンプファイヤーで人気のデザート。


「割ると崩れて大変だからそのまま食べてください」


サクラはスモアにかじりつく。


″あむっ、、ざくっ″


クラッカーがあるおかげて噛んだ時に口の上側を火傷することはない。

さっくり、軽いクラッカーをかむと、マシュマロの熱で少しとけかけたチョコレートにあたる。

これはビターチョコレートだな。

マシュマロが甘いですからね、ビターチョコでちょい苦に。


焦げ目をつけたマシュマロは、外側は香ばしく、中はとろとろで……あま~い!

熱で中がじんわり、しゅわしゅわと溶けていく。


「んふっ///」


半分溶けたチョコは少し固さを残してコリコリ、そして素朴な味わいとかすかな塩気のクラッカーはザクザク軽く、マシュマロの不思議な食感と絡み合って――


「おいひい///」


あったかデザート!

これぞキャンプファイヤーのデザートです!


「イシルさんも、熱いうちに」


かじってしまったが、イシルに渡し、イシルもスモアにかじりつく。


″ぱくっ、ザク、″


イシルの顔もとろけ出す。


「うん、この味です」


まわりの村人も同じようにマシュマロをクラッカーにはさんで食べている。

焼きリンゴを食べている人もいる。


そうこうしているうちに 二日目に使われた宝車が運ばれてきて、火にくべられた。


「あ、ランだ」


宝車の付き添いをしていたのかな?

ランはサクラとイシルを見つけると近寄ってきた。


「何だよ、オレは仕事だってのに二人で、、むぐっ?」


イシルが文句を言うランの口に、ぽいっ、と スモアをほうり込む。


「もう冷めてるでしょう」


猫舌のランでも大丈夫なくらいに。


「あまっ!……うまいな」


ランの不平も包み込むスモアの甘さ。


「もう仕事は終わりですよね、焼きバナナもありますけど 食べますか?焼きリンゴのほうがいいですか?」


「……バナナ」


ランが『バナナ』に反応する。

バナナ焼くと甘みが増して、トロトロで、また違った美味しさが味わえるよね!


「シナモン、かけてくれよ?イシル」


「勿論です」


何だかんだでランに甘いよね?イシルさん。


″ゴオォォォ……″


役目を終えた今年の宝車が火にくべられると、火は勢いを増し、宝車をのみこんでいく。


″ヒューン、パパパパッ、パア――ン″


宝車から打ち上げ花火のように七色の光が上がり、夜空にパァーンと弾け、花のように広がった。


「ハッピーファティリティ!」

「ハッピーファティリティ!」

「ハッピーファティリティ!」


それを合図にしたかのように音楽が鳴り出し、村人が口々に挨拶をかわし、手をつないでいく。


「行きましょう、サクラさん」


サクラもイシルに手をひかれ、反対の手をランとつなぎ、キャンプファイヤーを囲む輪に加わった。


火のまわりには手をつないだ村人達で二重の輪が出来、ステップを踏みながら、あのマイムマイムのような躍りを踊り出す。


♪~♪♪~♪~


右に八回歩いて蹴って、左に八回歩いて蹴る。


♪~♪♪~♪~


音楽に合わせてつないだ手を上にあげながら 炎を讃えるように前に集まり、その手を下げながら炎に敬意を払うように後ろに下がる。


♪~♪♪~♪~


「「ヘイ!ヘイ!」」


一拍置いて交互に片足をあげながらかけ声と共に手を叩いたら、再び手をつないでスキップ、交差を交えたステップをふみ、左右に動く。


♪~♪♪~♪~


笑顔と共に、みんなが一つになった。


♪♪♪、♪♪~


しばらくすると曲調が変わった。

これは、、フォークダンスのオクラホマミキサー的なやつだ!


「サクラさん」


イシルがサクラの手を取る。


女性が前、男性が後ろで手を繋いだら、音楽に合わせて右、右、左、左、右、左、右、左とステップでゆっくり前進する。


♪♪♪、♪♪~


右足を前、後ろと動かして、サクラがイシルの前で左回りにターン!


お辞儀をしたら終わりで、ペアチェンジなのだが――


″チャ~ラ♪ラッ、チャ~ラ、チャラララ、チャッ、チャッ、チャッ♪″


サクラが離れようとするのをイシルが引き寄せた。


「うひゃあ!?」


どうやらイシルはペアチェンジをしないようだ。


「あ!イシルてめぇ!」


サクラの手を取り損ねて、ランが次の相手の手を取り、イシルに文句を言う。


「アハハ!ランは福男だから全員と踊るんですよ!」


イシルの明るい笑い声に 近くにいたドワーフ達が驚く。


(笑った?)

(今、声だして笑ったよね、イシルさ)

(イシルさんが子供のように声をあげてなんて……)

(聞き間違いじゃろ)


村人が何やらヒソヒソ。


♪♪♪、♪♪~


イシルのリードは優しい。

初めて躍るサクラでも踊りやすいように促して、支えて、包んでくれる。


♪♪♪、♪♪~


イシルは次の節の終わり目にサクラをくるっと一回転させ、お辞儀をし、またサクラの後ろに回り込んでパートナーとなる。


「ちょ、イシルさん///」


「あはは、サクラさんは永遠に僕のパートナーですよ」


(やっぱり笑った!)

(イシルさんが楽しそうに……)

(良い笑顔じゃ)


村人が物凄く珍しいものをみたようにイシルを見て、見ぬふりをした。


村長とモルガンはそれを肴に、脇で静かに酒を酌み交わしている。


サクラとイシルは 村人の優しさと共に(←二人を通り越してペアを組む)延々、チェンジすることなく一曲踊り終えた。





挿絵(By みてみん)





サクラは一曲踊り終えると、広場の脇に座って、楽しげに踊る輪をイシルと並んで見つめる。


ゆらゆらと揺れる炎を見つめているとあったかい気持ちと共に、祭が終わってしまうという、少し寂しい気持ちが沸き上がってくる。


子供達が帰って行き、騒がしいのが少し落ち着いたせいもあるのかな。


酒を飲む村人も同じ気持ちなのか、 今日は焚き火を見ながら静かに呑んでいる。


ランは引っ張りだこで、躍りの輪から解放してもらえず、焚き火の向こう側で踊っているのか見えない。


「サクラさん、ちょっと」


「何ですか?」


「見せたいものがあるんです」


イシルがサクラの手を取り立たせる。


「でも、ランは……」


「ランは今日は火が消えるまで解放されませんよ」


″福男ですから″ と、サクラの手を引いて 二人で祭の輪から離れた。


♪♪♪、♪♪~


祭り囃子を遠くに聞きながら、サクラとイシルは三の道を手をつないで歩いていく。


何だか、既視感(デジャブ)

前もイシルと二人で祭の賑わいを聞きながら こうやって歩いた気がする。


「今日は星が見えにくいですね」


イシルに言われて思い出した。

そうだ、あれはシャモア鍋大会の時だった。

星をみながらイシルにオリオン座の話を聞かせたんだった。


「今日は月が明るいですからね~」


柄杓の形の北斗七星はみえる、、かな?

サクラが月の明かりで消された星の輝きを探していると、ぽつりとイシルが呟いた。


(ほか)を、探さないで (イシル)だけを見て……」


「え?」


イシルがきゅっ、とサクラの手を握る。


「僕も、そうなりたいですね」


月の光でよく見えるイシルの顔が サクラに微笑んだ。


「サクラさんが 僕以外の……まわりが見えなくなるくらいに」


「///」


何言ってんすか!もう十分でしょう!お月様(イシルさん)!!








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