368. 豊穣祭 15 (のど自慢大会) ★★
挿絵二枚挿入しました(2021/4/11)
イメージ壊したくない方は画像オフ機能ご利用くださいm(_ _)m
急遽サクラが出ることになったのど自慢大会。
まず始めに テトやララ達5,6歳の年長組の子達の童謡っぽい歌からはじまり、トムやエイル達、7歳~10歳くらいまでの子達による合唱があった。
皆がほほえましく見守り、全員に参加賞の御守りが配られる。
その後が本格的なのど自慢大会だった。
楽しげで陽気な歌からしっとり聞かせるバラードまで、老若男女、飛び入り参加で大盛り上がり。
(みんな、歌、うまっ!!)
音楽にあわせて朗々と歌い上げる。
歌っているのは昔からあるドワーフの歌なのか流行りの唄なのか、観覧席の者は知ってる歌になると皆口ずさんだり、合いの手をいれたりしている。
(この空気の中何を歌えと!?)
サクラにとってはおもいっきしアウェイ。
全然サクラのいた現世の歌と違うし、演奏なんて頼めないだろう。
春らしくて、演奏なくてもいけそうな『春の小川』とかを歌おうと考えていたのに、この大盛り上がりの中、年長組と同じような童謡なんて歌えない。
どっちらけである。
J-POPなんてノリがちがうし、どうしてくれようコノヤロウ!
しかも、審査員席からの圧が凄い。
審査員席ではアスやヨーコ、ラプラスが歌を楽しんで、サクラに期待に満ちた笑顔を向けている。
(超・プレッシャー!)
イシルさん!助けて!と、観覧席のイシルに視線を向けるが サクラの気持ちを知ってか知らずか、ヒラヒラと手を振り応援してくれるばかりなり。
(しかも、トリってどういうこと!?)
みんな嫌がったんだよ、トリになるの~
(旅の恥はかき捨て……)
こうなったらやるしかない。
しかし、出来ればだれか巻き込みたい。
一人で恥を曝すより、分けあって、気持ちを軽くしたい!
(こういう時はアイツしかいない)
サクラはオズに手招きをする。
「ん?どないしはったんですか?姐さん」
サクラは近寄ってきたオズの腕を取ると、がっちりホールド。
子供の背丈のオズをズルズルと壇上に引きずっていく。
「ねっ、姐さん!?」
「行くよ、オズ」
「ええっ!?」
「大丈夫、私と同じように手を左右に振って、ババンバ歌ってれば良いだけだから」
「何でっかそれ~!?」
そう、サクラが歌うのは 風呂場で歌っていたあの曲だった。
だってさ、お笑いに走るしかないでしょ!
全員を巻き込むしかないでしょ!
盆踊りチックにいくしかないでしょ!!
サクラの目論み通り、オズは会場全員を巻き込み、「皆さんご一緒に!」と、手を左右にババンバさせながら歌わせ、サクラがその合いの手ビバノンノを入れ、歌い出す。
いい湯だ、アハハんと 温泉宿 迦寓屋の宣伝を歌詞に織りまぜて歌い、ヨーコはニコニコ。
アスは前屈みに腹をおさえ、声にならない程笑い、ラプラスに至っては大層御満悦で、大笑いで、審査員席で、一緒に手を左右に動かし、ババンバして歌っていた。
ああ懐かしき、ド○フターズの全員集合のフィナーレ的な雰囲気を醸し出し、大盛況のうちにのど自慢大会は終了した。
◇◆◇◆◇
「あ――……う――……」
サクラはのど自慢大会を終え、恥ずかしさのあまり組合会館のテーブルに突っ伏して唸っていた。
コトン、と音がして サクラの目の前に湯呑みが置かれる。
「お疲れ様です」
イシルがお茶をいれてくれたのだ。
緑茶に芳ばしいこの香り、、シズエ殿がくれた玄米茶か。
「いただきます」
ずずっ、と サクラが茶をすする。
あ~、ナイスチョイス、イシルさん、ほっとします。
こういう時は珈琲でも紅茶でもなく、日本茶ですよね。
「サービス精神がすぎるんですよ、サクラさんは」
イシルが笑いながら斜向かいに座りお茶を呑む。
そんなイシルを忌々しげに見つめながらサクラは口を尖らせた。
「助けてくれなかったくせに」
こんな気づかいのできるイシルが サクラのSOSに気づかなかったわけがない。
「聴きたかったんです、サクラさんの歌を」
「だからってなにもみんなの前で……」
ぶつぶつ腐るサクラに、じゃあ、と、イシルが意味深な笑みを向けた。
「お風呂場で聴かせてくれるっていうんですか?」
「ぶふっ!?」
お茶をふき出すサクラに イシルがタオルを取り出して渡す。
「僕は大歓迎ですがね」
「なっ///何言ってんすかイシルさん!!」
からかいがすぎますよ!!
大ウケにウケたサクラのババンバは、優勝には至らなかった。
その後、ポピュラーなのにしっとりと聴かせる曲が流れだし、それまで救護のために脇で控えていた治療師の山羊の獣人メイ先生が とことこっ、と中央へと進み出たのだ。
メイは いつものかる~く優しい声ではなく、低く腹から響くイイ声で『マイウェイ』的な歌を朗々と唄って聴かせる。
(これがメイ先生の癒しの力!?)
メイの本領発揮!
誰もがうっとりと聞き惚れ、癒される歌声。
全てを包み込む、大トリに相応しい堂々とした歌いっぷりだった。
全部、もっていかれた。
「しかし、久しぶりに聴きましたが、やはりメイは上手いですね」
イシルも讃えるメイの歌声。
優勝はだれもが認めるメイだった。
どうやらメイの飛び入りは毎年恒例のようで、これがなくてはしまらない。
皆がトリを嫌がったのは メイの前にイケニエにされるのがいやだったから。
(私、頑張らなくてもよかったってことね(涙)
サクラはオズと二人『お調子者で賞』をもらってしまった。
オズがいなければこんなには盛り上がらなかったからいてくれてよかったのだが、オズと同じカテゴリーに入ってしまった事がなんだかむなしい。
こんなことなら大人しく『春の小川』歌っとくんだった。
「因みにシズエはメイといい勝負でしたよ」
シズエ殿もあの空気の中で歌ったの!?
「シズエ殿は何を歌ったんですか?」
「『黒田節』でしたね。扇を盃に見立てて唄いながら舞ってました」
♪酒は呑め呑め 呑むならば 日本一のこの槍を 呑み取るほどに呑むならば これぞ真の黒田武士~♪
渋いな!シズエ殿!!
民謡、曲の題名は著作なし、ワンフレーズ引用は大丈夫みたいですのでのせました。
基本的に「非営利目的」なら問題なしですのでご容赦ください。
「営利目的」になった場合、著作権の事をちゃんと調べ直します。




