361. 豊穣祭 8 (光と風の唄) ★
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″ピ~♪ヒョロ――……″
イシルと並んでバーガーウルフの特製レタスバーガーをたべていると、サクラの耳に 風に乗って澄んだ笛の音が運ばれてきた。
子供達の宝車が組合会館を出発した合図だ。
宝車はここ、門前広場にお披露目にやって来て、その後村じゅうをねり歩き、最後は五ノ道の先祖の眠る聖地(墓地)へ 宝車に乗せた作物を奉納することになっている。
「二日目は光と風に感謝をする日です」
レタスバーガーを食べながら、イシルはサクラに豊穣祭の民話を話して聞かせてくれた。
むかしむかしの物語り――
風の神と光の神は昔あまり仲が良くなかったんです。
ある日、どちらが強いか決めるために勝負をすることになりました。
光の神が風の神にこう提案します。
″あの旅人の帽子を脱がせる事が出来たほうが勝ちだ″
風の神はこの勝負を受けてたちました。
勝負では、まず光の神が旅人を強い日差しで照らします。
しかしあまりの光の眩しさに、暑いのを我慢して旅人はいっそう深く帽子を被り、脱がせることはできませんでした。
続いて風の神の出番です。
旅人に向かって強い風を吹いたところ、帽子を飛ばすことが出来ました。
「この勝負、俺様の勝ちだな!」
軍配は風の神にあがりました。
勝負を持ち出した光の神は 勝負を仕掛けたのに負けた悔しさと恥ずかしさで 岩戸に引きこもってしまいました。
さあ、困った。
大地では光を失ったために作物が育たず、ドワーフの民は頭を悩ませます。
ドワーフの民は、考えた末、自分達の力ではどうしようも出来ず、風の神のところにお願いにいくことにしました。
「風の神様、これが今の私たちの精一杯の食べ物です」
ドワーフの民は奉納物をもって、精一杯の誠意を示しました。
奉納物はいつもの半分、、いや、その半分の半分にも満たない量でしかありませんでした。
「どうか光の神と仲直りしてください、このままでは作物が育たず、死んでしまいます」
風の神だって、ドワーフの民に死なれては困ります。
お供えがもらえなくなってしまいますからね。
そこで 風の神は自分のかわりに風の使者を光の神の元へおくり、歌と踊りで光の神へ 仲直りを申し出たのでした。
光の神はそれを受け入れ、仲直りの印として、自分のかわりにたくさんの豊作物を持った光の使者を地上に使わせてくれたのでした。
仲良くなった光と風。
日の光で風があたためられ、豊作の『春』の時期が生まれました。
――その『春』が 豊穣祭のはじまりです。
「光と風は 今も時々勝負をするそうですよ」
イシルがサクラに話して聞かせる。
「それって、もしかして『次はあの旅人のコートを脱がせる勝負』とかですか?」
「ええ」
「旅人は『暑いから』ってコート脱いで、光の神の勝ちですか?」
「ええ、よく知ってますね、サクラさん」
「あはは……」
かなんだか『北風と太陽』と『天岩戸』のミックスですね!!
北風と太陽、実は一勝一敗の引き分けでしたか~仲良し。
「そろそろ宝車が来ますよ」
サクラとイシルはレタスバーガーを食べ終わると、広場の中央へと出ていった。
◇◆◇◆◇
″ピュルリ~♪シャン、シャラン~″
子供達の引く『宝車』がやって来た。
先頭を歩くのは主線を演奏する笛の奏者シムズ。
いつもぽやっと眠そうにしているシムズが フルート奏者のように横笛を吹く姿は様になっていて今日は五割増し格好よく見える。
「シムズー!!」
「上手いぞ!シムズ!」
シムズの家族がブンブン手をふっている。
シムズは……うん、マイペース。
うっとりと酔いしれるように笛を吹いていて、笛が好きなのがよくわかる。
シムズの後ろではおしゃまな女の子マナが琵琶のような楽器を弾き、おっとりノーラが シムズの笛にハモるかのようにオカリナをあわせていく。
その後ろには花を撒く女の子達。
彼女達の撒く花びらがひらひらと風に舞い、宝車の入場に華やかな春の彩りを添えていた。
宝車を守るように宝車の脇に風の使者役が二名いる。
一人はザムザ。
旗を振り回しているのは 子供達の中でもガタイのいいザムザ。
太陽の印を刻んだ旗は地につきそうなほど長く、旗棒の先が槍になっている。
お調子者のザムザは声援に応えて 勢いよく旗棒を振り回す。
子供だけれどそこはドワーフ、力自慢。
長い旗尻を地につけないよう、風に遊ばせ、その美しい旗を華麗に操る。
「よっ!ザムザ」
「男前!!」
もう一人。
剣舞を踊っているのはトムだ。
身軽に、素早く、勇ましく――
剣を操り舞うトムは、まさに風の使者にぴったりだ。
「いいぞ!トム!」
「かっこいいぞー!」
ギルロスとのチャンバラで鍛えられたのかな?
子供ながらにいつもより雄々しく、頼もしく見え、ほほえましい。
「さすがうちの孫だね~」
あっ、この声はサンミさん!
これは、あれか、子供のお遊戯会を見に来た親の心境か!
宝車の後ろには小さい子達――テトやララ達――が リボンのついた鈴を しゃらしゃらとならしながらついて歩き、しんがりに可愛く着飾ったエイルが 花を撒きながら入ってきた。
エイルはやっぱり面倒見がいいんだね。
「テト~」
「ララ~」
「エイルー!!花嫁さんのようにキレイだぞー!」
サミーとミディーの声だ。
最後の声はお父さんかな?
みんな子供や孫の晴れ舞台を見に来てるんだね。
顔、デレデレですよ~そんなあんたらも可愛いな。
「宝車は子供が引くことに意味があるんです」
「『子は宝』だからですか?」
「ええ」
春の芽吹きのような若い力。
はじけるような子供達の笑顔が、一番の宝物――
「素敵なお祭りですね」
子供達が笑顔でいてくれる事が何よりの宝だ。
行列の中心にある宝車。
宝車にはばかでかいかぼちゃに玉ねぎ、ガブなんかが飾られ、まわりには採れたての瑞々しい春野菜達がてんこ盛りに盛られている。
宝車の上には 豊作物を運んできた光の使者が乗っている。
乗っているのは光の使者役のユーリだ。
光の使者の装いに、きらびやかな首飾りや耳飾りを着けて 豊作物に囲まれて座っている。
(ぶっ、)
ユーリの座る台座には 観音様の後光宜しく、黄金の座椅子が光っている。
なんですか?年末紅白ですか?小◯幸子ですか?きらきらですね!!?
リズとスノーのデコ(馬)車も凄かったけど、これまた違った意味で凄いです。
いや、お祭りの装飾ってのは、どこもそんな感じだな。
そして、その台座に座るユーリは……
(げっ、超仏頂面だ)
ふてぶてしいのはいつもの事だが、ふんぞり返って目がチベットスナギツネみたいになっている。
「今年の光の使者は美人ね~」
「綺麗よね~」
そんなドワーフの御姉様方の声に ユーリはますます不機嫌になって行く。
(あちゃー……)
そこは『格好いい』と言ってくれ!!
カッコつけたい年頃の男の子なんですよ~!!
「光の使者はなんであんな表情してんだ?」
「緊張してるのかしら」
マズイ。
宝車は縁起物だ、なんとかユーリを笑わせたい。
(どうしよう)
叫ぶか?
「ユーリ、ユーリ!」
(あ、レオだ)
ユーリの兄のレオが 忙しい合間をぬって、ユーリの晴れ姿を見に来てくれたようだ。
(これでユーリも笑顔に……)
サクラの予想とは裏腹に ユーリはレオを見ると顔をそらし、ますます顔を強ばらせる。
「あらあら、光の使者はお腹でもいたいのかしら」
「笑うと可愛いだろうに、大丈夫かいねぇ……」
いや、きっと レオに見られて恥ずかしいんだ。
「あ、サクラさん、イシルさん」
レオがサクラとイシルに気がつき近づいて挨拶してきた。
「あんないい服着せてもらってるのに、アイツあんな顔して……」
すみません、とレオが謝る。
「そういう年齢なんでしょうね、無理に宝車に乗せたみたいですから」
イシルがレオを慰める。
「皆はユーリにもっと打ち解けてもらおうと考えてくれてるってのに……」
レオが残念そうにユーリを見つめる。
「でも……」
ふっ、と、レオは顔を緩ませて――
「母さんに、似てきたな……」
ぽつり。一言。
「それだ!」
「え?どれですか?サクラさん」
いや、そんなボケはいらんよ、レオ。
サクラは急いで人混みの前に出ると、近くで舞っていたトムをちょいちょい、と呼んで、ユーリに言伝てを頼んだ。
サクラに頼まれたトムは 宝車の上で仏頂面のユーリに こそっと耳打ちする。
『お前、母ちゃんに似てるってよ』
ユーリはビックリした顔をして レオを見た。
「レオ、笑って」
「え?」
「いいから、笑え!」
レオはサクラに言われて わからないままユーリに笑顔を向けた。
すると、ぱあっ、、と――
「おおっ!」
「あら」
「まあ!!」
ユーリが、笑った。
本当に嬉しそうに、笑った。
その笑顔は光り輝き、さらにまわりの者をも笑顔にする。
子は宝だ――
イソップ寓話より『北風と太陽』
じつはコートの話しは二回戦目だったんですね~
古事記より『天岩戸伝説』
弟のスサノオが海からやってきて「イザナミ(おかあさん)に会いたい」と暴れだし、アマテラスの国はめちゃくちゃになります。
怒ったアマテラスは「もう知らん」と、天岩戸に閉じ籠る。
このままでは国が滅びる、と、困った他の神様達が、アマテラスの気を引くために、呑めや唄えのどんちゃん騒ぎで気を引き誘い出すお話ですね。




