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360. 豊穣祭 7 (屋台巡り)




サクラとイシルは組合会館を出ると門前広場へと歩いていった。


門前広場は華やかに、そして大変賑わっている。

これ幸いにと店を広げる流れの商人たちや、見物客で所々に人だかりが出来ていた。

こりゃ今日はラン達警備隊は忙しいだろう。


「旅芸人が来てますね」


旅の芸人達は、魔獣使いとその仲間たちによる輪くぐりやお手玉だったり、弾き語り吟遊詩人がいたり、派手な装いの道化師もいる。


「この世界にもピエロっているんですね」


ピエロも獣魔にまけじと、椅子に椅子を高く積み、その上部でバランスをとりながら手品を繰り広げていた。


「うわ、凄い」


道化師をキラキラした目で見るサクラの反応が素直で、微笑ましくて、イシルがくすりと笑う。


「あ、すみません、私ばっかり楽しんじゃって」


ここは現世とは違うんだった。

一般人ならまだしも、強力な魔法を使えて、身体能力の高いイシルからしたら、これくらいの事べつに凄くはないかと サクラは思い至った。


「そんなことないです、僕も楽しいですよ」


サクラと一緒だから、楽しめる。

今のイシルには ()()()よりも、()()()のほうが重要だから。


高級料理よりも サクラと並んで食べるおにぎりのほいが美味しいように、一緒だと何倍にも感じる魔法がかかる。


サクラとイシルは二人並んで しばらく旅芸人達の造り出す空間に浸っていた。

とりわけ、獣魔使いの率いる子犬達が可愛くて、イシルは子犬とのハイタッチに参加まで参加する始末だった。


さて、本命です。


お目当ての屋台はジャガイモ料理が並んでいる。

新じゃがはやっぱりそのままの味を活かしたいですよね~

じゃがバターは外せません!


色々食べるために サクラとイシルは二人で分けて料理を食べる。


「ハッピーファティリティー、サクラ、おまけしといたからね」


「ハッピーファティリティー!ありがとうございます!」


じゃがいも農家のアネッサからじゃがバターを受けとる。

バターたっぷり、たまらん香り。


新じゃがは大きめのものを選んで十字に切れ込みを入れ、皮つきのままふかしてある。


バターのじんわりとけかけの感じが、早く食べろとサクラを誘う。


″はふっ、はぐっ、、″


ほかほかを皮ごと口に入れる。

まだとけきれていないバターの少しひんやりした感じと、じゃがいもの熱々が口の中で混ざってうんまい!


「んふっ///」


とれたてならではの瑞々しい新じゃがは、ホクホクというよりシャッキリした食感で、若々しさを感じる。

ふかしてあるから茹でるより味もぎゅとしていて、濃い!


また、皮つきってのがいい。

新じゃがは皮がうすく、噛むとぷっつりと破れ、皮にあるジャガイモの香りと旨みが味わえる。

少し土臭いような、大地の香りだ。


「次はあれを食べましょう」


「ガレット!」


この間パーティーでサクラが教えたガレットの屋台が出ていた。

勿論、焼いているのは いつもニコニコドゥリムさん(笑顔が消えるとコワイんです)


「あら~サクラちゃん、いらっしゃい、豊穣祭楽しんでる?」


ウフフとドゥリムが楽しそうに笑う。


「いいわね~イシルさんと一緒で」


「ハッピーファティリティー、ドゥリムさん。ガレット出したんですね」


「パーティーで好評だったからね」


ドゥリムに豊穣祝いのハグをして、ガレットを受け取り、出店を離れる。


「サクラさんが教えた料理ですか?」


「ええ、成り行きで、、でも、少しアレンジしてありますね」


フォークで割ってみると……


″サクッ、トロ~″


中からホワイトソースが出てきた。


「おおっ!」


これは贅沢!!


″かりっ、もぐっ″


表面のこんがりサックり焼けたジャガイモに、上品なホワイトソースが絡まり ポテトグラタンのような味わいに。

新玉ねぎもとろっと顔を出し、玉ねぎの甘さを感じられる。


″プツン″


「ん!?」


しかもソーセージ入りですか!!

ジャーマンポテトホワイトソース仕上げガレット!!

やるな、ドゥリムさん。


「ドゥリムらしい ふんわりした優しい味わいですね」


イシルさんもご満悦のご様子です。


「あ、お焼きもありますね」


昨日作ったジャガイモ団子を焼いたヤツだ。

むっちりしてるのに、表面は鉄板で香ばしく焼かれ、中には挽き肉が入っている。

『いももち』ですね!


″はむん″


ん!肉味噌!?

甘辛味噌味の挽き肉はむぎゅっとしていて、その中に、茄子!?


「うま///」


甘辛茄子味噌肉炒めいももち!


″もっち、もっち″


いももちは甘いオヤツ的なものは現世でも食べたけど、これは、主食になりますね!


「これ、イシルさん好きなヤツですね」


中華というより和風よりで、ネギの香りもする。


「中身は僕が教えましたから」


やっぱり。


「こっちも食べますか?」


イシルからもひとくちもらう。


「あむっ、んんっ?」


″みょ~ん″


イシルのいももちお焼きはハムチーズ。


「んんっ!?」


チーズが切れない!?


「あっははは!」


「ん″ー!!!」


イシルさん、笑ってないで助けてよ!

……その笑顔、可愛いですけど。


いももちお焼きを食べていると、ツン、と ソースの香りが漂ってきた。


これはお好み焼きの香り。


オズだ。


「……」

「……」


サクラとイシルの思うことは同じ。


『つかまるとめんどくさい』


お互い示し合わさずとも 無言でこっそり素通りする。

幸いオズは 焼くことに集中していて、気づいていないようだった。


「たこ焼き、はじめたんですね」


通りすぎてからイシルがもういいかなと 先に口を開いた。


「この間たこ焼きプレート渡してから 気に入ったみたいです」


先日のパーティーの後、サクラがオズに渡した ホットプレートについていたたこ焼きプレート。

あれを見本に早速ドワーフの村で真似して作ってもらったようで、今日はお好み焼きではなくたこ焼きの屋台になっていた。


「焼くのに一生懸命でしたね」


「珍しく無言でしたからね」


ぷっ、と、二人して吹き出して笑った。


コロコロ小さめジャガイモと牛肉のスパイシー炒め焼き、トマトとジャガイモとベーコンの煮込みなどガツンと肉々しい料理も並び、マーサのパン屋では()()のカレーパンの他に 季節限定ポテトサラダドッグが発売されていた。


さくらとイシルはマーサのパン屋の行列を見ながら、もうひとつの行列、バーガーウルフへ足を運ぶ。


「いらっしゃいませー、バーガーウルフへようこそ」


バーガーウルフに行くと 天使のほほえみアイリーンが迎えてくれた。


「って、サクラ、、とドSエルフか」


アイリーンはサクラとイシルを見るなり態度をかえる。

ブラックアイリーン、健在です。


「ハッピーファティリティー、サクラさん、イシルさん」


その奥でバーガーを作っていたヒナの 見返りふんわり笑顔、癒しです!

二人がいるのはいつものこと、だが、おかしなヤツがいる。


「サクラ!サクラ!!サクラ!!!」


セイヤがカウンターを飛び越す勢いでサクラに抱きつこうとして、イシルに顔面をがしりとつかまれた。


「……と、師匠」


「元気そうで結構です」


素敵な笑顔と裏腹に セイヤをつかんだイシルの指に力が入る。


「ごめんなさい、師匠……ナハシテ」


アイアンクローを食らったセイヤがあう、あう、ともがいて哭く。


「おっ!サクラ、よく来たな」

「なにっ!!サクラだと?シャナはどうした」


天狐(テンコ)はわかるが、何でオーガの村にいるはずの星夜(セイヤ)月華(ゲッカ)がいるの?


迦寓屋(かぐや)はいいの?たしか、豊穣祭に合わせて営業開始したんだよね?」


疑問に思ったサクラの問いに答えたのはアイリーンだった。


「ヨーコがさ、呼んでくれたのよ。ミディーもサミーも、リズもスノーも今日は豊穣祭で忙しいから」


そこにゲッカがつけたした。


迦寓屋(あっち)白狐(ビャッコ)たちがおるでな、昼間は客も出掛けておるし、何かあればヨーコ様が対処してくださる」


要は管理職の如鬼(ニョッキ)三匹のあんたらが一番役立たず、、いやいや、手が空いてるって事ですね?


「我も明日で最後だしな」


テンコが寂しそうにつぶやいた。


「そっか、迦寓屋(かぐや)がはじまったんだもんね」


テンコのバーガーウルフでのアルバイトも 豊穣祭で終わりというわけだ。


「私も手伝うよ」


「言うと思ったわよ」


サクラの言葉に アイリーンが追い払うように手をヒラヒラさせる。


「手は足りてんの、あんたは用なし」


「でも、、」


アイリーンは手伝おうとするサクラに紙袋を押し付ける。


「ほら、お願いされたバーガーは出来てるから さっさと行って!邪魔よ!次の方お待たせいたしました――……」


サクラとイシルはアイリーンに バーガーウルフからおい出された。


サクラ達と入れ違いに 裏からユーリの兄のレオが ポテトフライ用の小さな新じゃがをかかえて入ってきた。


「新じゃがカットしたの、持ってきました」


組合長のラルゴと組合員のレオは 祭のフォローで大忙し(←雑用)

朝から旅芸人や商人たちの場所の手配やら段取りに追われ、てんてこまい。

アイリーンはレオの疲れた顔を見て声をかける。


「あんたもちょっと休憩してきなよ」


「いや、でも……」


(ユーリ)の晴れ舞台、もうすぐでしょ」


そう言ってアイリーンはレオにハンバーガーを2つ渡した。


「……ありがとう、アイリーン」


アイリーンはレオも送り出すと、遠くに見えるサクラを見つめた。


サクラには純粋に豊穣祭を楽しんでほしい。

それが村人全員の願い。


アイリーンもヒナも、豊穣祭は初めてだが、来年がある。

でもサクラは、多分、今年しかない。

サクラは 来年の豊穣祭にはいないだろうから。


感謝の気持ちをこめて


ハッピーファティリティー!サクラ!





◇◆◇◆◇





アイリーンに渡された袋には、ハンバーガーが入っていた。


しかし、ただのハンバーガーではなかった。


「レタス巻き?」


バンズではなく、レタスではさんである。


「今日は葉野菜を口にするの難しいかと思いまして、昨日のうちに頼んでおきました」


「イシルさん///ありがとうございます」


ああ、ほんとに気が利きすぎですイシルさん!


シャッキリレタスに 甘い春キャベツの粗めの千切り、そこに粗挽きハンバーグ。

スライスチーズと新玉ねぎのスライスオニオン。

厚切りトマトがはさまって、なんてフレッシュなレタスバーガー!!


フライドポテトは今日は皮つき小ぶりの新じゃがを半分にカットして素揚げしたやつですね!?

スパイシー塩コショウでほっくりいただきます!


「これを食べたら 丁度宝車が通る時間になると思いますよ」

















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