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356. 豊穣祭 3 (誕生)




鉄扇(テッセン)か、面白いもん持ってんな」


ギルロスがシャナを見てニヤリと嗤う。

鋭い目に好奇心たっぷり、ワクワクした色を浮かべて。


「治療師の魔法は禁じられてないだろ?来いよ」


「あら、怪我をさせる気はないわよ?私の仕事が増えるもの」


「言うねぇ、、嫌いじゃないがな」


シャナが走り出し、緑の色玉(いろだま)をギルロスに投げつけた――


開・戦!!


赤と緑がぶつかり合う。


「なんですか?()()


ポカンと見ていたサクラは 後ろからの声に振り向いた。


「イシルさん!」


「何で救護係と警護係が遊んでるんですか?」


「あはは、、色々ありまして……」


元はサクラだが、置いてけぼりを食らっている。


「ていうか、イシルさん、ひとつも汚れてませんね、イシルさんも魔法免除ですか?」


「いえ、僕は……」


イシルはサクラと話しながら、飛んできた色水(いろみず)飛沫(しぶき)をひょいっと避ける。


「全部、避けてるんですか……」


「ええ、まあ」


今度はサクラに飛んできた色玉を はじけて崩れないよう力を受け流しながらとらえ、ゆるりと手をしならせて投げ返した。

オレンジの色玉……テンコがランに投げた色玉が外れ、飛んできた流れ弾ようだ。


イシルが投げ返した色玉は テンコより手前にいるランの後頭部に当たり、バフン、と砕けてランがオレンジに染まった。


「何すんだイシル!!」


「ハッピーファティリティ、ラン」


ふるふると笑顔でランに手を振るイシル。

魔法なんか使わなくても 当たらないってことですね、イシルさん。


「猫と狐が楽しそうにじゃれてますねぇ」


「イシルさん、楽しんでますか?」


「楽しんでますよ」


サクラの顔を両手で包むと、余分につきすぎた顔の色玉の粉を目に入らないよう親指で拭ってやる。


「でも、楽しすぎると、終わった時に寂しくなってしまうので、()()()()にしてるんですよ」


イシルがサクラを見つめたまま遠い目をしている。

昔を懐かしむような、寂しさを含んだ瞳。


「くすっ、ヒゲが描いてありますね、可愛いです」


「イ~シ~ル」


サクラとイシルが声に反応して畑の入り口を見ると、カゴに山盛りの色玉を抱えたサンミが立っていた。


「今年こそは 逃がさないよ!!」


「やれやれ、しつこいですね」


「今年こそその余裕綽々の顔を七色に染めてみせるよ!」


イシルはサンミの投げる色玉をひょい、ひょい、とかわし、打ち返し、やはり色に染まることはない。

色水でドロドロにぬかるんだ足元もなんのその。

ですよね、エルフは雪の上を歩けるらしいですからね。

もしや、水の上も歩けたりしますか?


(折角のお祭りなのに、イシルさんは準備だけして祭の輪の中には入らないのか……)


『寂しくなるから』


そう言うってことは、祭の楽しさを味わったことあるってことだよね?

昔は祭を楽しんでいたんでしょ?


『寂しくなるから』


昔はドワーフの村に住んでいたイシルが 今は村の外に住んでいるのはなんで?


『寂しくなるから』


いつか来るお別れの時に 関わりが強すぎると悲しみが大きいから。

イシルより長く生きるものはこの村にはいないから。


わかる。


自分も同じような理由で イシルに自分の気持ちを伝えないでいるのだから。

一年後に来るお別れを理由に イシルに近づきすぎないように。


だけど、最近思う。


折角同じ時を過ごせるのだ。

限られた時間、どうせなら 思いっきり一緒に楽しまないと 勿体ないのでは?


時間が限られているのだからこそ、その分楽しまなくてはいけないんじゃないか?と。


(一緒に、楽しみたい)


サクラは走り出す。


「イシルさん!」


ぬかるみに足をとられながら、イシルに向かって走り、サクラら思いっきり イシルにダイブした。


色まみれでイシルに抱きつく。


″ズボッ!″


「サクラさん!?」


後ろからサクラに抱きつかれて驚くイシル。


「サンミさん!今です!」


「でかした!サクラ」


サンミはそばに備え付けられている 給水用の大きな水瓶(みずがめ)に色玉を全て投入し――


「ふんぬっ、、」


色水のたっぷり入ったカメを抱えあげる。


「馬鹿力め!」


イシルは その様子を見て サクラを抱え 飛び去ろうとした。


″グッ″


「え?」


だが、何故かサクラが持ち上がらない。

見ると、サクラはぬかるみに足を突っ込んで……抜けない!?


「ハッピーファティリティ♪イシルさん」


サクラがイシルの顔に手を伸ばす。


″キュイッ″


「ひ、げ、♪」


色粉に染まった指で イシルの顔に線を引き、三本のひげをつけた。


「可愛いですよ、イシルさん」


「サクラさん……」


″バシャ――――ン″


次の瞬間、サクラとイシルに大量の色水が浴びせられる。


「あっはっはっはっ!いい色に染まったねぇ、イシル、サクラ、ハッピーファティリティ!」


水瓶をひっくりかえし、ぶちまけ、イシルとサクラに色水を浴びせたサンミの高笑いが響いた。


サクラとイシルは サンミの水瓶攻撃により 仲良くビタビタになり、、


「ぷっ、」

「くくくっ、、」


泥んこ遊びを仲良く楽しんだ。


「ハッピーファティリティ、サンミ、サクラさん」





◇◆◇◆◇





「あ~、やっぱり楽しそうだわ!!」


アスはテラスから 七色に染まっていくドワーフの村を眺めらがら ワインを傾ける。


「良いではないか、ここから眺めているだけでも 色づいていくドワーフの村は美しい。よい花見じゃ」


アスと同じく ヨーコも目を細めて ドワーフの村を眺めている。


「いいのよ?ヨーコは村に行っても」


アスの言葉にヨーコがコロコロと笑う。


「妾はオーガの村の豊穣神のようなものだ。豊穣祭に神が二人もいては困るであろう?」


「そうね」


ドワーフの村に 聖なる気配が集う。


祝福の笑いが最高潮に高まった時、村の一点から光が昇った。

まばゆい光は空へと広がり、生まれでたものが弧を描きながら雨を降らせる。


晴天の中に降りしきる雨は 村中についた色を洗い流し、大地に染み込ませ、豊穣を約束する土をつくる。


村人の願いを聞いたかのように、空にはここかしこに 七色の虹の橋がかかり、それは はたからみているアスとヨーコの目をも楽しませた。


なんとも、美しい景色だった。


「産まれたのね、リンスウィール」


空には 水龍神、リンスウィールが 川の流れのように泳ぎながら、恵みの泉を降らせ、歌っていた。






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