353. ポークソテー ◎
イメージ写真を後書きに追加しました(3/18)
家に帰ると リビングにランがいた。
サクラとイシルはその姿を見て驚く。
ランはリビングに上半身裸で首にタオルを巻いた姿で座っていた。
無駄のない、均整のとれた美しい細マッチョ。
それは大変おいしいビジュアルだが、驚くべきはそこではない。
なんと、、
ランが、、
自発的に風呂に入った、、だと!?
いつも追い立てられないと入らないランが!?(←猫は風呂を嫌う)
ランはサクラとイシルを見て笑顔を見せた。
「おかえりー、サクラ可愛い格好してんな、パーティーだったのか?」
体からまだほかほか気配を漂わせたまま、濡れた髪の間から蒼い瞳が 無邪気にサクラに微笑んできた。
(うおお///ナイスイケメン!)
危うく声にするとこだった。
……アブナイ
着替えもそこそこに、何をしているのかと手元を見ると、ランはせっせと『青い卵』を拭いている。
「もしかして、卵も洗ったの?」
びかぴか、ツヤツヤに磨かれる青い卵。
「一日外にいて、なんか村人に撫で回されたからな、一緒に風呂に入った」
そう言って、自分の体も拭かずに 前掛けに卵を包み込んできゆっと自分の腹に抱え込んだ。
一緒に入ったって、、湯船に?
ソレ、大丈夫?温泉卵に なってないよね?
「おっ!動いた!」
「えっ?」
「触ってみろよ、サクラ、卵動いた」
ランに呼ばれて サクラはランが抱えた卵にそっと手を当てた。
″ブルルッ″
「ホントだ、動いてる」
良かった、ゆだってはいないようだ。
「ていうか、大きくなってない?卵」
確か 拾った時はランが片手で掴めるサイズだった筈なのに、今では両手で持たないと持てないほどになっている。
ダチョウの卵か?
「ずいぶん大きくなりましたね」
イシルもランのお腹にある青い卵をそっと撫でた。
また、ブルルッと 卵が震える。
イシルはランのお腹にある卵に耳をあて、中の様子を伺っている。
″ふるるん″
「うん、元気に動いてます」
「イシル蹴られてやんの(笑)」
(なんだ、この絵づらは……)
二人ともに温かな笑顔を浮かべ、まるで妊婦とそれを撫でる夫のようで大変微笑ましい。
なんで蹴られたってわかるんだ、ランよ
(いや、そもそも卵って 成長しないだろう!)
成長するのは中身だよ!?
突っ込みどころは満載です。
イシルは卵を撫でた後、立ち上がり、ランの頭も くしゃ、と撫でた。
「なっ///なんだよ、リベラだけじゃなくイシルまで」
「髪、乾かさないと風邪ひきますよ」
「自分でやるからいいよっ///」
イシルはクスリと笑って「じゃあ、ランの着替えを取ってきます」と 2階へ上がっていった。
「サクラ」
ランはサクラについっ、と頭を突き出す。
「はいはい」
(トリミングのおねだりね)
サクラは風邪魔法で温風を出すと ランの髪を鋤きながら乾かしてやる。
ランは気持ち良さそうな顔をして 卵を抱えたまま されるがままに サクラに身を任せた。
「リベラさんにもナデナデされたんだ~」
「なんか知らんが、やたらニヤニヤしやがって」
ランがフンっ、と悪態をついた。
耳、が恥ずかしそうに後ろに引けて、ピコピコ動いている。
「そっか~、いいお姉さんだね」
ランはサクラのからかいにムキになって反論する。
「サクラ、それは違うぞ」
「え?」
「リベラは姉貴なんかじゃない……」
ランがサクラを見上げて睨む。
「乳のデカイ兄貴だ!(どーん!)」
ランは真剣な顔で きっぱりとサクラに言いきった。
「ついてないけどな!(どどーん!!)」
もう、いいよ……
うん、いい人である事は否定しないんだね。
◇◆◇◆◇
「なんか知らねぇけど、村の巡回中にやたら声かけられたんだよな、今日」
ランはがぶりと肉にかぶりつく。
食べてる間も卵を膝に、すっかり親鳥してますね(笑)
今日の晩御飯はポークソテー。
頑張ってるランへのご褒美お肉。
肉厚豚ロースは トンカツ用の厚さ2センチ重量級!
赤身と脂身が綺麗に分かれておいしそう。
肉汁やうまみが流れ出ないように、筋切りしないで、常温に戻した肉をじっくり、じわじわと弱火で焼く。
常温に戻すのは火の通りを均一にするために。
強火で一気にはダメですよ?
時間をかけて焼いていくと 筋切りしなくても肉が反ったりはしないんです。
一度フライパンを熱したら、肉を入れたときに、じゅーっ、と小さな音がするくらいの中弱火で 蓋のかわりにアルミを被せて焼く。
″かぷり″
サクラも肉にかぶりつく。
ぷつん、と弾ける肉の弾力。
噛むと キメ細やかな肉質が むぎゆっ、むぎゅっと口の中を押し返してきて、食べ応えは抜群だ。
「ん~///」
筋切りも、叩くこともしていないからこその肉の力強さと、閉じこめた旨みを存分に感じる。
表面の焼き焦げがまた、香ばしい!
ジューシーな脂が口の中でぶるんと暴れる。
いい肉は 塩コショウは焼き目がついてから。
塩で水分逃げちゃいますし、胡椒は焼きすぎると風味がとんじゃう。
「あむ、はぐん、、」
シンプルな塩コショウが肉の旨味を押し上げて、噛んだときのぶりんぶりんな 締まった赤身の味わいと、じゅわっと、脂の甘みがたまらない!
「くぅ~///」
これぞ豚ロース!!堪らなく、うまい!!
肉、食ってるぜ!!
胃袋にずっしりおさまっていく。
「村の奴らに やたら感謝の言葉を言われるし」
サクラはそのまま食べたが、ランは話を続けながら、三枚目のポークソテーにソースをかける。
つん、と甘いこの匂いは ケチャップソース。
懐かしき 昔ながらの洋食屋さんの香りがする。
付け合わせにサクラにはモヤシ炒めだが、ランには同じケチャップソースで炒めただけの具なしパスタが乗っていた。
ランはパスタをちゅるりと食べる。
シンプルに、パスタの小麦とケチャップソースの甘い香り、炒めた香ばしさをもちもち、もぐもぐ。
皿に残ったソースと、流れ出た肉の旨みもパスタにからめて、更にちゅるりん。
「イシルは何か知ってんだろ?」
イシルも肉にかぶりついている。
三人とも、ナイフなんか使っていない。
家、ですから。
「折角お風呂に入ったのに口の周りソースだらけですよ、ラン」
ランはイシルに言われて 口のはしをベロリと舐めた。
「……服の袖で拭かれるよりいいですけど」
ランの行動にイシルが苦笑いしながらナプキンを渡す。
「なあ、何の卵なんだよ、コイツ、イシルは知ってんだろ?」
イシルはランに微笑みを返すばかりで、教えてはくれなかった。
「産まれればわかりますよ、もうすぐですから」
◇◆◇◆◇
ランは祭までの数日間、毎日指定されたルートを 卵を背負って ハルと二人でまわった。
この数日で ドワーフ村の全ての者と出会ったんじゃないだろうか。
墓守りの魔物、使兎に囲まれた日もあったな。
そんなこんなで時は過ぎ――
明日はいよいよ豊穣祭となっていた。




