348. 豊穣祭へのプレリュード 2 (ミケランジェリの恋愛事情) ★
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パーティーの主催者 アスが広間に到着したので、サクラとミケランジェリは オーガの村のブース、ラーメンの匂いに後ろ髪を引かれながらも アスのもとへと向かう。
その途中、女性に声をかけられた。
「ミケランジェリさん?」
品の良い細身の女性が 瞳をうるうると潤ませこちらに近づいてくる。
「君は……ポレッタ!?」
ミケランジェリは女性に声をかけられて狼狽えている。
(知り合い?)
小声でミケランジェリに聞くも、ミケランジェリは動揺が酷く、サクラの問いが耳に入っていないようだ。
「覚えていてくれたんですね、名前」
ポレッタは控え目で慎ましい印象をうけたが、サクラがいるにもかかわらず、グイグイとミケランジェリに近づいてくる。
今にもミケランジェリの胸に飛び込む勢いだ。
ですよね、今日のサクラは壁の柄ですから。
アイリーンならまだしも、私なんぞ相手にならんてことですね?わかります。
「お久しぶりです。ミケランジェリ様、こんなところで会えるなんて///」
ポレッタは頬を染めて懐かしそうにミケランジェリを見つめている。
元カノか!?
「あ、、う、、」
どうしたミケランジェリ!
いつもの自信満々を取り戻せ!!
俺様ナルシスト様はどこ行った!?
(……しょうがないな)
「申し訳ありません、ミケちゃ……ミケランジェリは体調が優れないようで、また、後日ご挨拶させていただきます、ごきげんよう!」
サクラはポレッタにそう断りを入れると、ミケランジェリの背を擦りながらその場から離れた。
(ミケちゃん、ミケちゃん、大丈夫?深呼吸して)
サクラは近くにある椅子にミケランジェリを座らせると、従業員(悪魔)に水をもらいミケランジェリに飲ませた。
「……ありえん」
「え?」
「あり得ないのだ。彼女が私に話しかけるなど、、まして、名を知っているなど……」
「どういうこと?」
「彼女は……ポレッタは、昔、私がゼラニウムの研究所に居た頃、その研究所の近くにある花屋で働いていた女性だったのだが……」
ポレッタは大きな商会の娘で、ゼラニウムの町の別荘地にいる間、社会勉強のために 知り合いの花屋に働きに来ていたらしい。
ミケランジェリは 一目で恋におちた。
「しかし、私は見ていることしか出来なかったのだ。気持ちどころか、名前すら伝えておらん」
「片想いか……切ないね」
ミケランジェリは遠い過去を思い出し 懐かしそうに目を細める。
「来る日も来る日も、私は彼女を見つめ続けた。朝起きては迎えに行き、お早うと彼女の背に挨拶をして……」
うん?
「夕刻は 危険がないか 後ろからそっと見守り送っていった」
んん?
「か弱い女性が町外れの別荘地まで一人で歩くなど、不審者に狙われるだろう?」
いや、あんたが不審者だよ。
ずっと後ろをついて歩いていたってことでしょ?
「だが、ある日、彼女は帰る途中で道を間違えたんだ。これは大変だと、私は 彼女の後を急いで追い、振り向いた彼女にこう言った……
『もしもし、道が違いますよ?貴女の家はこっちではないはずだ』
と」
「……」
「そしたら急に彼女は叫んで走り出して、それっきり――」
ゼラニウムの町には戻ってこなかった、と。
「だから 彼女が私の名前を知るはずはないのだ」
ああ、ミケランジェリ、現世ではそれをストーキングというんだよ。
君は立派なス◯ーカーだったんだね。
しかし、そんな怖い目をみたのにミケちゃんに声をかけてくるということは、『サラ・ブレッド』を開発して成り上がったミケちゃん狙いか。
既婚者っぽく見えたけどなぁ……
「ポレッタ様は未亡人でございます」
「ひいいっ!!」
耳元で囁かれ、サクラが驚いて振り向くと、そこにはマルクスが立っていた。
「マルクスさん、、びっくりした、読心術ですかぁ!?」
「いえ、疑問が顔に出ておりましたので」
すみませんね、読みやすい顔で。
「始末しますか?」
何でじゃ!極端だなおい、悪魔か!?いや、悪魔だ。
「……物騒なこと言わないで下さいよ、これはミケちゃんの問題だから」
「かしこまりました」
マルクスはするりと影のように身を引き、消えた。
ミケランジェリはというと……
(満更でもないって顔してんな……)
鼻の下、のびのびです。
「そうか、彼女はあの時恥ずかしさのあまりあのような行動を取っただけで、実は彼女も私の事を///」
わかってない。
わかってないよ、ミケランジェリ。
美化された思い出に浸ってやがる。
ポレッタの狙いはどうみたってミケちゃんをとりまく環境だ。
実家は商家らしいから『サラ・ブレッド』ねらい、もしくはローズ商会『アス』狙いかもしれないよ?
「もう大丈夫そうだね、アスのとこに行こうか」
サクラはミケランジェリを立たせてアスの所へと向かおうとした。
ミケランジェリはサクラの隣で顔をあげた瞬間、一点を見つめフリーズする。
ミケランジェリの視線の先には 少し気の強そうな 華やかな女性が 三人の男性と談笑していた。
「ベロニカ……」
何だ何だ?今度は何だ!?また女か!
「彼女は庶民の出で、私がいた研究所の同僚であったのだが……」
「何したの?」
「花を贈ったのだ」
花はいい。
もらうと意外と嬉しいものだ。
「女性とはサプライズを喜ぶものであろう?だから、彼女の荷物入れに花束を仕込んでおいたのだ」
(え?)
「彼女の仕事が終わって 荷物を取るために物入れを開けた時――中にある私が入れた薔薇の花束がお出迎えというわけだ」
得意気にミケランジェリがふふん、と、笑う。
(いや、え?人の荷物入れを勝手に開けて花を入れたってこと?荷物入れって、ロッカー的な?ていうか、そこ、女子ロッカー?)
「彼女は、なんて?」
「いや、私からだと気づかなかったのか、花は捨てられてしまってたよ」
うん、捨てるな。キモチワルイもん。
「やはりそこは自分の手で渡すべきだったな……彼女の部屋の中で待ち伏せてサプライズ……」
それ、不法侵入。
アウトだよ、ミケランジェリ。
「その後ライナスと付き合っていたハズだが……」
ミケランジェリは辺りをキョロキョロと見回す。
ライナスを探しているのだろう。
「ライナス殿は今も未婚のまま研究所におられます」
「「うわっ!」」
サクラとミケランジェリは後ろからマルクスに声をかけられ驚く。
てか、すぐ後ろ壁だよね?
どうやって来たの?マルクスさん。
「ベロニカ様はライナス殿と別れた後、他の六名とも別れ、王家の流れを組むバルガス家に嫁いだのでございます」
「そうか……あの頃と変わらず美しい」
ミケランジェリがまたしてもうっとりと過去に想いを馳せている。
いやいやミケちゃん、よく聞いて?
マルクスさんは今、他の六人て言ったよ?
七股?七股か!?
アッシーくんにメッシーくん、ミツグくんにツナグくんにキープくん(←古い)
バブリーですね!ベロニカさん。
「因みにバルガス伯は御年62歳、只今病床についておられます」
うわ!旦那をほったらかして豪遊ですか!?
玉の輿な上に、陰謀のにおいがいたしますね!?
「始末……」
「しなくていいです、マルクスさん」
御意、とばかりに一礼すると、マルクスはまた影のように消えた。
「ミケランジェリ!」
ベロニカはミケランジェリを見つけると、艶やかに微笑み近づいてきた。
「こんなところで会えるなんて///運命ね」
ベロニカはサクラがいるのもお構い無く、ミケランジェリの腕を 細くしなやかな手で撫でる。
うん、どうせあたしゃ壁の柄ですよ。
「ベロニカ///」
「懐かしいわ……向こうで二人っきりでお話ししない?」
モテ期到来ミケランジェリ。
だがしかし、それは貴方の地位狙いです、ミケちゃんよ。
やれやれ、仕方ない。
今日のサクラはミケちゃんのお目付け役。
このまま壁の柄でいるわけにはいかんのだ。
「バルガス伯爵婦人」
サクラが声をかけると、ベロニカは見下すような冷たい視線をサクラに投げてよこした。
おおっ!絵に描いたような敵意むき出し悪役令嬢的眼差し!
虫けらになった気分ですよ?
これが貴族の世界!ゾクゾクします!!
しかし、怖さ的にはドワーフ村のブースにいるドゥリムさんのさっきの睨みのほうが凄かったよ?
「申し訳ございません、アス様が待っておいでですので 失礼させていただきます」
サクラがアスの名前を出すと、ミケランジェリがピクリと反応した。
「そうだ、アス様の所へ行かねば」
良かった、鼻の下は伸びていても『アス様最上』は健在のようだ。
しかし、ベロニカもただでは引き下がらない。
「ミケランジェリ、じゃあ今晩……」
サクラはベロニカが言い終わる前に、笑顔で言葉を被せる。
「それでは失礼いたします。バルガス伯爵婦人」
あんたは既婚者だ、思い出せ。
「ご病気の伯爵様の早期回復を願っておりますね」
旦那のもとにかえってやれよ、と。
「ああ、結婚したんだったね、ベロニカ、幸せそうで何よりだ、では、失礼する」
ミケランジェリに別れを告げられ、ベロニカが くっ、と 苦々しげな顔をサクラに向けた。
こ・の・ク・ソ・ア・マ!!!
と、その目が言っている。
お里が知れますよ、ベロニカ様。
だめでしょ?そんなに心の声を顔に出しちゃ(←人の事言えない)
貴族社会で生きていけないよ?
″げしっ″
「いたっ!」
サクラはドレスが長いのをいいことに、ミケランジェリを後ろから蹴って歩いた。
″げしっ、げしっ″
「何するんだ、サクちゃん、痛いじゃないか」
「いいから 早よ行け」
懲り懲りだ。
これ以上過去の女に出会う前にアスに引き渡してやる。




