345. 青い卵 ★
挿絵挿入しました(3/26)
イメージ壊したくない方は画像オフイメージをご利用くださいm(_ _)m
「ラン様、なんですか?その背中の……荷物?」
警備隊駐屯所に行くと イシルによって『青い卵』を背中に巻きつけられたランは 早速ハルに声をかけられた。
「……聞くな」
ランがハルと話していると、ランの背中を見て 今度はリベラが声をかけてきた。
「それ、卵?」
リベラは包まれているのが卵だとわかったようだ。
そうか、今年はお前か……と、ブツブツ一人で納得している。
「なんだ リベラ、コレが何か知ってんの?」
昨日の様子ではイシルもコレが何か知っている風だった。
リベラも知ってるってことは、リズの従魔のロバの魔獣バログみたいに この辺に棲息する特種な魔物ってことか?
リベラはランの質問に答えず、質問で返してきた。
「育てるのか?」
「イシルが育てろって言うからな」
「ふ~ん……」
リベラがランの頭をくしゃっと撫でる。
「わっ、なんだよ!?」
「知らないのに育てるなんて、優しいんだな、ランは」
はぁ?と、ランがすっ頓狂な声をあげ、顔を赤くした。
「ちげーよ///でっかくして食うんだよ」
「そうかそうか、でっかくなるまで育てるのか」
ニマニマするリベラ
エライ、エライとランの頭を撫でくりまわす。
「ヤメロ///リベラ!」
バカ力め!と、ランはリベラの手から逃れた。
「非常食だからな、コイツは」
リベラは 昨日サクラとイシルが見せた 感動を含んだ瞳でランを見る。
それは、まるで 子供の成長を喜び、見守る親のような瞳――
「そのほほえましげな目、ヤメロよ、気持ち悪い」
うんうん、と、リベラはうなずきながら ギルロスの方へ歩いていった。
まったく、何なんだ と、ランは気を取り直して黒板の前に立ち、当番表を見る。
(今日は森の第二地区、第三地区の見回り、、と)
アスが来てから村の近くはアスの魔方陣が敷かれていて、よほど危険なことになればアスがなんとかしてくれる。
ラン達が見回るのは 村人の生活の安全のため。
森の変化を見逃さないように見回るのだ。
お給料は村(+イシル)から出てますからね!
警備隊員は村のお巡りさんです。
「ラン様、予定変更みたいだ、ですよ。今日は村の巡回になりました、です」
「何だよ、急に」
ランは教えてくれたハルではなく、大テーブルでリベラと話をしているギルロスに声を投げかける。
「いいから行け、卵、潰すなよ」
ギルロスがニヤニヤしている。
あの目だ。
リベラと同じくほほえましげな目。
リベラがギルロスに何か言ったんだなと、ランはリベラを睨んだ。
リベラはにんまり笑ってそれを受ける。
「卵を守りながらだといい訓練になるからな、ちゃんと守れよ。中身を振るな、大事に扱え」
リベラに言われて ああ、そうかと思い至った。
割らないだけじゃダメなんだ。
ランが強くなりたかったのはサクラを守りたかったからだ。
サクラを背負って、守りながら動く練習になる。
(あいつ、すぐ酔うからな)
サクラをつぶさないように、振り回さないように、大事に……
「行くぞ、ハル」
「はい、じゃあ、行ってくる、、です!ギル、リベラ」
「頼んだぞハル」
ハルは微笑んでギルロスの言葉に答えると、ランの後を追った。
ランとハルは警備隊駐屯所を出て 村の巡回へと出掛けていった。
村の巡回をする時、いつもならランとハルは一の道と二の道の二手に分れてまわり、二の道の最奥で合流する。
そこで一緒にサボ……昼をとり、三の道の広場を二人で見回った後、三の道と四の道を別れて巡回しながら戻ってくるのだ。
五の道は民家がないし、使兎の領域なので、巡回しなくとも彼らが守ってくれている。
「じゃあ、後でな、ハル」
「あ、待って、ラン様!」
「何だよ」
「今日はルートが指定されている、です」
「はあ?」
ハルが紙をランに見せた。
何だコレ?
「祭りの準備に大変そうな所を巡るようにと、ギルから指示が出ていて、、ですね、今日は二人一緒にこのとおりまわれと」
「……ふーん」
何かあるな。
何なんだ?
◇◆◇◆◇
「ほう!今年はラン君ですか」
こちらは薬草園の爺様三人組。
メイが鉢植えから苗を出しながらイシルに渡す。
「ええ、村人じゃないのが意外でしたが」
イシルはメイから苗を受けとると土に移し、丁寧に土をかけながらメイに答えた。
「今年は『青』ですか、、」
その近くではザガンが柵をこさえながら話しに参加している。
「ラン君本人は知らないんでしょう?卵のこと」
「ええ、その方がいいかと思って。素直じゃないので嫌がりそうですから」
メイの質問にイシルがほくほく顔でこたえた。
ランが選ばれたことが嬉しいようだ。
「村の者で改めて言う者はいないでしょうしな、ほい、最後の苗」
「ありがとうございます。秘することを好みますからね、ドワーフは」
「魔方陣はどうするんですかな?」
ザガンも気にしてイシルに質問する。
「昨日のうちにギルロスに渡してありますよ」
「相変わらずぬかりがないですな!イシル殿は」
はっはっは、、と、ジジイ三人の楽しげな笑い声が薬草園に響いた。
ランの拾った『卵』は ドワーフの祭りの始まりの合図。
豊穣祭の『福男』の証。
『福男』は祭りまでの間に 正しい道順を巡り、福を祈願する。
村人全員に会い、感謝と祝福をうけ、一年の恵みと実りを生み出すのだ。
「何が産まれますかねぇ……」
イシルが眩しそうに空を見上げた。
その微笑みは 本当に嬉しそうだ。
『卵』が『福男』に選ぶ者は 村で一番愛に溢れ、愛されている者だと言われているから――




