表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
342/557

342. ランと山歩き 3 (ランの場合)



川を渡って獣道を進む。


″テクテクテク……″


″サクッ、サクッ……″


細い獣道を サクラが前を歩き、ランは後ろからついて歩く。


″テクテクテク……″


″サクッ、サクッ……″


サクラが三歩歩くとランは二歩。

ちょこちょこ歩くサクラの姿が動物みたいでかわいらしい。

少し、痩せたかな。

リュックを握りしめるてる二の腕が細くなったようだ。

運動してないから筋肉が落ちたのでなければいいけれど……


歩くのはいい。

知らないうちに全身の筋肉を使うから。

足を動かすことでポンプのように身体中に血を巡らせ、活性化させる。


″テクテクテク……″


″サクッ、サクッ……″


不意にサクラが止まり振り向いた。


「ラン」


「ん?」


「前を歩いてよ」


「なんで?」


「追われてるみたいで落ち着かない」


見つめてるのがバレたかな。


「オレが前歩いたらサクラついてこれないだろ」


「うっ、、」


サクラが仕方なく前を向き また歩き出す。


″テクテクテク……″


″サクッ、サクッ……″


春が来た。

森は新しい命を産み、生命力に溢れている。

キラキラと落ちる木漏れ日はあたたかく、光に満ちている。


『ひと冬だけ置いてよ』


ランがイシルに提案した()()()は終わってしまった。


『冬がすぎても 居ていいんですよ』


マリアンヌと……母と会い、ローズの街から帰って来た日、熱を出して弱ったランにイシルがかけた言葉。


(おせっかいジジイめ)


でもその言葉は 熱を下げる薬よりも、苦しみからランを解放し、傷だらけのランの心に あったかく染み渡った。


(呪いが解けなくても サクラといれば……)


サクラといれば 月の満ち欠けに関係なく人化したままでいられる。

サクラがヨーコから加護をもらってからは更に安定している。


(だけど……)


だけどサクラは 次の冬が来たら自分の世界に帰ってしまう。

やはりその前に何としても ランは自分にかかった呪いを解かなくてはならない。

三人でずっとなんてあり得ないのだ。


(ヤるしかねぇ……)


呪いを解くためには『真実の愛』を知らなくてはならない。

それが何なのか……


ランはサクラを森に誘い出す事に成功した。

イシルはドワーフの村に行っている。

邪魔者は いない。

サクラをものにするなら今が絶好のチャンス!!


(今日こそサクラを虜にしてみせる!!)


ランの『サクラとチュー大作戦』

今まで我慢してた分、たまりにたまった濃厚なのを見舞ってやる!

イシルのことなんか忘れてしまうくらいのヤツをな!!


季節は春。

この先のちょっとした原っぱには 今頃レンゲが咲き誇っているはず。

さっきは急性すぎてサクラにかわされてしまったが、満開のレンゲで雰囲気を作り、器用に王冠でも作ってみせれば 乙女がくすぐられる。

サクラの頭に乗せてやり、そのまま……


「うわあ!ラン!見て!」


そらきた!


「フキノトウが咲いてるよ!美味しそうだね!」


「……」


「あっ!タラの芽もあるし、、あれはミツバかな?お吸い物に入れると美味しいよね~ワラビに、、セリ、ナズナ、きっとイシルさんとシズエさんは山菜採りにこの辺りまで来たんだね」


サクラが満開の笑みでランに同意を求めてくる。


「……だな」


「採ってかえって山菜ソバにでもしてらおうよ!」


サクラはいそいそと山菜を摘みだした。


そうだった。

サクラは色気よりも、、食い気だった。


♪ひ~らいた、ひ~らいた

な~んのは~ながひ~らいた~

レンゲの花がひ~らいた~

ひ~らいた~と お~もった~ら~

い~つのま~にか つ~ぼんだ~♪


レンゲの花畑をみたサクラは それでも喜んでいた。

山菜をゲットして満足したサクラは唄いながら蓮華の花をひとつ摘む。


因みにこの唄のレンゲは『蓮』のほうの蓮華だそうだ。


「はい」


サクラが花びらをプツンと引き抜き、小さな花弁の()()をランの口にふくませた。

ささやかに、ほんのりと口の中にレンゲの蜜の香りがひろがった。


「吸うんだよ」


サクラに言われてちゅっ、と吸うと かすかに蜜の味がする。


サクラがレンゲの花弁の根本を口にふくんだままで、花冠を編むランの手元を 身を乗り出して 感心しながら覗き込んできた。


「ラン、器用だね~」


ランが編み上がった花冠を サクラの頭にそっと乗せる。

ぽかんと サクラがランを見上げた。


「……ありがとう」


年甲斐もないけど、嬉しいねと、サクラが照れて笑う。

うん、いい雰囲気だ。

そして、ランは、サクラの柔らかそうな唇に――……


″……ゴクリ″


唇に、、


「っ///」


動けん、、何だコレ、なんでこんな照れなきゃいけないんだ!?おれは!!


「ラン?」


サクラがはてな顔で ちゅっ と レンゲの蜜を吸いながらランを見つめた。


サクラの唇が、ちゅるっと花びらを吸う。


「ぐっ///」


キスなんて今まで散々してきたのに何で緊張してんだ!?

誰とだって、男とだって別に――


「?」


「うっ///」


何でサクラには出来ないんだ!?

なんで?どうやってやるんだっけ!?


ランが己の予想外の胸の高なりに翻弄され、心と葛藤していると、不意にサクラが動いた。


″ふわっ″


サクラからランに抱きついてきたのだ。


「なっ///」


ランはサクラに押し倒され、こてん、と 二人してレンゲ畑に身を沈めた。


「サクラ///」


ランに覆い被さるサクラのカラダ。

土と若い原っぱの草の匂いの中に サクラの匂いが入り交じる。

その のしかかる重みにドキドキする。


「サク――」


(しっ!黙って)


サクラはランの頭を守るように胸に抱えると、地に伏せて 上空を伺った。


″ブーン……″


(でっかい蜂がいるの)


「蜂ぃ?」


(しっ!)


″ブーン……″


(()()は黒いものに反応して攻撃してくるから、ランと私はキケンなのだよ)


ランとサクラの頭は黒。


実際ハチは白黒で物を見るので、濃い色は黒に見えているはずから、黒だから狙われるというわけではない。


蜂なんて、ランの魔法でちょいっとやっつけられるのに、サクラは真剣だ。


敵を伺う小動物のように上空を伺う。

挙動不審も甚だしい。


「ぷっ、くくく……」


力んでいた自分がアホらしく思えてきた。


(しいぃっ!!)


サクラの世界ではそうなんだろうな と 思いながら ランはサクラに身を任せる。


ランは両腕をサクラの頭に伸ばすとサクラの頭を両の手のひらで隠すように包んだ。


(お前の頭も 黒いんだろ)


(すまねぇ、、ランよ)


ランは目を閉じサクラの存在をかみしめ、指に絡まるサクラの髪手触りを愛しく感じた。


(あったかいな……)


心地よかった。

サクラの胸に抱かれて、守られて……


″ぷにっ″


そして柔らかい。


(///)


(よしっ、ラン、羽音がしなくなったよ、今のうちに 原っぱのはしまで行こう!匍匐(ほふく)前進……)


″ツゥーッ″


(って、あれ?)


(なんだよ)


(ラン、頭打っちゃった?)


(え?)


(鼻血出てる)


(うるせぇ///匍匐(ほふく)前進な!頭あげんなよ)


ランは自分の上からサクラをどかし、腕で鼻を拭うと 先陣切って匍匐前進して原っぱを もと来た道へと引き返した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ