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340. ランと山歩き ★

挿絵挿入しました(3/9)

イメージ壊したくない方は画像オフ機能をご利用下さいm(_ _)m




フレンチトーストの朝食を先に終えたイシルが席を立つ。


「スーザンに教えてもらったので 今日は美味しいコーヒーを淹れますよ」


そう言って、ガリガリと豆を挽き、コーヒーを淹れてくれる。


「どうぞ」


イシルが食事を終えたサクラの皿をさげ、絶妙なタイミングでコーヒーを出してくれた。


ボーンチャイナ……骨灰磁器のやわらかな白と深い緑の色合いのカップに琥珀色のコーヒーがうかび、食後の穏やかな空気をさらに優雅なものへと演出してくれる。


「ありがとうございます」


ああ、いい香り、、


「なんでオレだけ片づけ!?」


水場ではランが一人洗い物をしていて、イシルは下げたサクラの食器をランの手元に置いた。


「手伝いもしないで 朝食が出来上がった頃に起きて来たからですよ」


そう言いながらイシルは布巾をとると ランの隣で皿を拭くのを手伝いだした。


「休みの日くらいゆっくり寝かせてくれてもいいだろう」


″クソジジイ″と ランが悪態をつき――


「じゃあ朝食も食べずにもっと寝てれば良かったじゃないですか」


イシルが事もなげに言い返す。


「あんないい匂いの中 寝てられっかよ」


イシルが素直なランの言葉にクスリと笑った。


「それは褒め言葉ですね、ありがとうございます」


文句を言ったはずなのにお礼を言われて ランがきょとんとした顔をし、自分が言ったことを反芻して顔を赤くする。


赤くなったランを見てイシルが更に言葉を続けた。


「そんなに僕の手料理が食べたいんですか~」


「ちっ、ちげーよ///イシルがバナナなんか焼くから……」


そう、ランのフレンチトーストには ランの運動量を考えて シナモンシュガーとバターでソテーされた焼きバナナがついていた。

バナナは焼くと甘~くなる。

イシルが甘~い顔でランに追いうちをかける。


「″オレの好きなもの憶えていてくれてありがとう″て言いたいんですね?」


「そっ///そんな事言ってねーだろ!?」


「困りますね、朝っぱらから口説かれては」


やれやれ、と イシルがランを翻弄する。


「イシル~~///」


からかわれていたランがたまらず洗っていた食器を振り上げた。


「あ、それ割らないで下さいね、わりと高かったんです」


「割らねーよ!!」


イケメンふたりの言い争いはみていて微笑ましい。

朝からいいもの見たと ホクホク顔のサクラ。


(腐)女子スーザンさんはこれが見たいんだろうな~

役得♪役得♪コーヒーがさらに美味しく感じます。


イシルは はいはい、と ランをいなしながら棚に食器をしまい、誰ともなしに話を振ってきた。


「そういえば 村はそろそろ春の祭りの時期ですね」


「何ソレ、オレしらねー」


「ランも見たことないですか?」


「今までドワーフの村は通りすぎるだけだったからなー」


ランも知らないドワーフのお祭りとは?

サクラがイシルに説明を求めた。


「どんなお祭りなんですか?」


「豊穣祭です。一年の実りを願って、三日間行われます。()()は昼過ぎからですが、旅芸人も来るし、屋台も出ますよ」


「儀式って何ですか?踊ったりとか?」


「そうですね。一日目は村人全員で水と土に感謝をし、清め、洗い流し、土の豊かさを讃えます。二日目は光と風に感謝をし、崇め、子供達が着飾って『宝車』を引き、ねり歩きますよ。最終日は火と闇に感謝をし、『宝車』を燃やして静かに終わりを迎えます」


なんだろう、『宝車』は『神輿』みたいなものなのかな?

お祭り、楽しそうだなぁ……


「では、サクラさん そろそろ出かけましょうか」


イシルは今日、 昨日スルーした薬草園へ行く予定で、サクラもウォーキングについて行く予定、、なのだが、洗い物を終えたランが 裾で手を拭いながら イシルの言葉に待ったをかけ、立ち上がろうとしたサクラの肩に手を置きもう一度イスに座らせた。


「サクラは行かなくてもいいんだろ?」


するりとしなかやにサクラにまとわりつく。


「え?あー……運動がてら イシルさんについていこうかな、と」


「別に薬草園じゃなくてもいいんだろ」


ランに言われて サクラはチラリとイシルを見る。


「んー、、まあ……」


「じゃあ、サクラはオレと留守番な」


「え?」


「オレ、今日休みだからさ、運動がてら 山歩き、つきあってやるよ。だからイシルは一人で行ってこい」


「では、僕も――……」


「イシルはお仕事頑張って♪」


ランは同行の意を示そうとしたイシルの言葉を笑顔でぶったぎって イシルを追い出すように送り出した。


やられたら、やり返す。

猫って意外と執念深い。


予定変更、サクラは今日はランと山歩きのようです。





◇◆◇◆◇





イシルはドワーフの村へつくとメイの薬草園へと急いだ。


今日はメイに春蒔きの種の相談をして、魔素濃度を変えた種の様子を見て、苗木を五の道の奥に持って行き――


(さっさと用事を済ませてサクラさんとランと合流しよう)


帰りにマーサの店で明日の朝食のパンを買って帰ろう。


イシルは顔を緩ませる。

こんなふうに 誰かの予定に合わせたり、朝食の心配をしたりするのが 楽しいなんて……


(おや?アール?)


予定を整理しながら歩いていると、ミケランジェリのためにであろうか、今日もマーサのパン屋でパンを買うアールを見かけた。

イシルはアールに挨拶しようと出てきたアールに声をかける。


「おはようございます、アー……」

「あ、おはようございます、イシルさん」


イシルは振り向いたアールを見て驚いた。


「どうしたんですか、アール!その顔は!?」


「……変、ですか?」


振り向いたアールの顔は つぎはぎだらけで、昨日イシルが直したはずの体はまたしてもボロボロであった。


「こっちへいらっしゃい」


イシルは人を避けてアールをベンチへと座らせる。


「ミケランジェリが繕ってくれたんですけどね……」


どうやらアールの顔のつぎはぎは 一応ミケランジェリが修理した跡らしい。

イシルは丁寧に糸をほどいて、なるべく継ぎ目が見えないように アールの顔を縫い直していく。


「一体何があったんですか、こんなになって」


刃物で切られたような痛々しい傷痕が アールの体のあちこちにみられた。


「昨日、イシルさん達と別れた後、お詫びに行ったんです」


「お詫び?」


「ええ、シャナさんに……」


アールは申し訳なさそうにうなだれた。


「お詫びするのに 誠意を見せなければと、ミケランジェリには吸魔装置ははずさせました。それで、あの、、お怒りはごもっともなので受け入れましたが、あまりにも攻撃が強いと生身のミケランジェリでは耐えられそうになかったので……」


ああ、そういうことか。

アールはミケランジェリの()になったんだ。


「許してもらえたんですか?」


「許してもらうだなんて、おこがましいです。許されないことをしたんですから。ただ、お詫びを申し上げたかっただけです」


「アール……」


「いや~、シャナさんが風使いで良かったですよ!縫えばいいだけですからね!これが炎の使い手だったら今頃僕は消し炭ですから!ハハハハ……」


「……またお詫びに行く気ですか?」


「はい、今日も午後にでも行こうかと。イシルさんの怒りも、シャナさんの怒りもマーキスの怒りももっともです。僕たちには 心から謝り続ける事しか出来ませんから……」


マーサのパン屋でアールが買ったのは シャナへの手土産か。


(はぁ……)


イシルはアールの顔を縫いながらため息を吐く。


「シャナへの手土産は、甘いものより()()()()のほうが効果的です」


「……イシルさん?」


「体を縫いましょう、腕を上げてください」


イシルはアールの体を修理していく。


「これ以上傷ついたら 修復が難しくなります。もっと自分を大切にして」


「……はい」


イシルは次に アールの背中側を修復する。


「それから、謝罪は明日にしてください」


「え?」


「少し、シャナと話をしてみます」


「でも……」


「間に人が入った方がいい時もあります。いいですね?」


「……はい」


″終わりましたよ″と イシルがアールの背中を ぽんっ と 優しくたたいた。


「あの、イシルさん」


「なんですかアール」


「なんで、良くしてくれるんですか?」


アールがボタンの瞳でイシルを見上げる。


「ミケランジェリはイシルさんにも酷いことをしたんですよ?なのに、どうして助けてくれるの?」


どうしてかな……


「僕も、、つないでもらいましたから」


「え?」


イシルも サクラにつないでもらったおかげで 再びドワーフ村へと足を踏み入れることが出来るようになった。


「僕も、アールの役に立ちたいんです」


ミケランジェリは余計だけど。


「ありがとう、ございます」


ボタンの瞳でアールが泣く。

涙は 出ないけれど。


さて、今日はサクラとランに合流はできなさそう、、かな……





挿絵(By みてみん)








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