330. 給食 2 (豆ご飯) ★☆
Ichen様が挿絵のメニューを再現して料理してくださいました!
後書きに給食FPがのってますよ~美味しそうです( *´艸`)
しかも昔学校で使われていたアルマイトの給食用食器に盛られています!!
イシルに保護されて ヨーコ様の取り仕切る迦寓屋に来てから トトリはたくさん仕事をすることになった。
掃除、洗濯、食器洗い、草むしりから 障子張り、かご編み、竹垣作り……
『家』というものに縁のなかった前と違って、自分の居場所を綺麗に整えたり、掃除したりと いうのは気持ちのいいものだった。
今まで盗賊団でやらされていた スリやおとり、人を騙すことに比べたらトトリの性格に合っていたようだ。
規則正しい生活だけど 意外と窮屈に感じなかったし、なんだか楽しかった。
毎日くたくただが、くたくたなぶん お風呂が最高に気持ちいい。
三食きちんと食べられるし、遊ぶ時間もある。
友達も沢山できた。
キツネだけど。
そして一番の楽しみは 皆で食べる夕食だ。
今日も楽しい給食タイム。
今日の給食当番のリーダーは白狐No.8の八雲さん。
下の子達に指示を飛ばしながら『中華スープ』をよそっている。
白狐達は全部で48匹いて、数が多いほど年齢が低くなる。
物静かで優しい微笑みヤクモさん。
人間でいえば14歳、中学年くらいかな。
中華スープのふわふわ卵のようなあったかい微笑み返しで、弟狐たちからも人気がある。
「熱いから気をつけて」
かけることばもあったかい。
ヤクモの隣でご飯を盛り付けているのは 最年少末っ子の末(No.48)だ。
カナルと同じ七歳くらいに見える。
″ペタペタ……あむ、、ペタペタ″
こんもり、こんもり、ごはんが山のようになってるよ?
しかも今 口にいれた?スエ。
「スエ、御供えじゃないから、ごはん、そんなに盛らないでいいよ?」
「おぼくさん高く盛ったら鼻が高くなるって、星夜様が言ってたよ!」
スエがふん、と、小威張ってヤクモに力説する。
「うん、そうだね、セイヤ様は沢山食べたいからそう言ったんだよ?騙されないでね、スエ」
口調は柔らかいですが 手厳しいですね、ヤクモさん、バラしちゃいましたね?セイヤ様の目論見を。
「そんなに鼻が高くなりたいならオレが高くしてやるよ」
そう言って、スエの前にお盆を持って立っていた トトリと同じ年頃くらいの珠三颯(No.36)が スエの鼻を きゅっとつまんだ。
「むあっ!?」
「ほ~ら、たかいたか~い」
「むきゅうぅ///」
「やめなさい、タマ!」
スエの鼻をムギュッとつまんで上に引っ張るタマサブローを ヤクモが慌ててとめに入る。
「あぐっ(かじっ)」
「いででっ!噛むなよ、スエ!」
「おやめなさいって、、」
「あ……」
ヤクモの反対隣で から揚げを盛っていた黄泉(43)が 騒ぎのせいで コロンとから揚げを落とし、小さな声をあげ、フリーズした。
そんなヨミに スエとタマサブローを止めながら ヤクモが声をかける。
「ヨミ、フリーズしないで、、反省しないでいいよ、落ちたのはヨミのせいじゃないから……」
ヨミの目にふるふると涙がたまっていく。
「なかないで、ヨミ、、」
ヤクモの右側では今にも泣きそうなヨミがいて、左側では スエとタマサブローの取っ組み合い、そのまわりにはやいのやいのと野次馬が集まり、もう、ぐちゃぐちゃ。
「や・め・ん・かっ!」
「「きゃうん!!」」
ガタイのいい五楼丸(No.5)兄さんの一喝で 騒ぎはおさまった。
毎日が、こんな感じである。
気を取り直して、トトリは夕飯のメニューを見る。
(うまそう)
『豆ご飯』『中華スープ』『鳥のから揚げ』
『豆ご飯』は、どうやら今日サクラが来ていて『あんこ』というものを作ったらしい。
『あんこ』は 豆を甘く煮て作るらしいのだが、どの豆を使うのかわからずに 色々取り寄せたそうだ。
そのあまりが夕飯にまわってきたのだ。
ひよこ豆、レッドキドニービーンズ、白いんげん、青大豆、大豆、金時豆、黒豆、とら豆、青えんどう……
凄い、カラフルな麦飯。
もちもち、つぶつぶの小さなキビが黄色く輝いている。
そこに香ばしいゴマが加わる。
豆はほっくり、飯はもっちり、胡麻がぷちぷち。
中華スープには キノコにタマネギ、赤いのは、、カニ?
それをほわほわの卵が包んでいる。
刻まれたネギの緑が鮮やかだ。
ここにも豆。
グリーンピース。
そして唐揚げ。
カリカリにあげられたコロモが、トトリの食欲をそそる。
大きいのが6個も乗っている。
味はオーガの村で造られた、しっかり醤油味。
これが、ゴハンに合う!!
これにデザートのバナナが一匹一本、牛乳一瓶。
(早く食べたい)
トトリはルヴァンとカナルが来るのを待った。
ルヴァンとカナルはまだ並んで配膳してもらっている。
「おっ、バナナ余ってんな、もう一本もーらいっ♪」
ルヴァンがひょいっ、と バナナを二本お盆に乗せた。
『ラ・マリエ』に研修に行っている者たちの分のバナナが余っていたのだ。
「ダメだよ、バナナは一本だよ、ルヴァン、書いてあるだろ」
ルヴァンの前に並んでいた ジジ(22)が 振りかえってルヴァンに注意する。
なるほど、バナナの前には″一匹一本″と記されてある。
「バナナは一匹一本だろ?オレはキツネじゃないから、一匹じゃねーもん、ほら、カナルももう一本食えよ」
そう言って ルヴァンはカナルのお盆に二本目のバナナを乗せた。
新たな火種の予感……
「そんなの屁理屈だよ!」
ああ、やっぱり。
ジジが反論をし、再び 騒動の始まりだ。
頼みの綱のゴロウマル兄さんは もりもりご飯をかきこんでいて、止めてくれそうにない。
「う・る・さ・い」
食事のおあずけにがっかりしたトトリ。
しかし、新たなる救世主!
ガラッと襖を開けて 騒動を収拾してくれたのは ゴロウマル兄さんではなく、サクラだった。
「原因は何なの?」
サクラはゴロウマル兄さんとは違い、怒鳴っただけでは終わらなかった。
騒ぎの元を取り除くべく、話を聞く。
「ごめんなさい、サクラ、実はバナナが……」
ヤクモが 申し訳なさそうにサクラに原因を説明した。
すると、何故かサクラは懐かしそうな顔をしてうん、うん、と笑みを浮かべた。
「給食デザートの取り合いかぁ~うん、わかるわ~、私もお休みのコがいると牛乳ジャンケンしたなぁ……プリンとか壮絶だったよ~取り合いが。果物や節分の豆、カステラなんかの持って帰れそうな時は家が近いコが 帰りにお休みのコの家まで持っていくように持たされたこともあったなぁ……よし、ちょっと待ってて」
サクラはそう言うと、魔法で目の前に透明なまくの珠体を作り出した。
「ここに全部入れてくれる?ヤクモくん」
ヤクモは サクラに言われたとおり 残ったバナナをむき、牛乳と一緒に シャボンのようなまくの中に閉じ込める。
そこにサクラが魔法で氷を作り出して足した。
「粉・砕」
″ガガガガ……ゴリゴリゴリゴリ……″
「きゃう!」
「うがっ!」
「うにゃっ!」
サクラの魔法と共に大きな音がして、白狐たちが一斉に耳を塞ぐ。
透明なまくの中で 氷を砕きながら全てが混ざり合っていく。
″ウィーン、ウィーン、、″
音が 滑かになった頃、サクラは水の入っていたピッチャーに マクの中身を注ぎ入れた。
″トロ~ン……″
少しとろみがつき、黄色く色づいた牛乳が 甘い香りと共にピッチャーを満たしていく。
「バナナジュースだよ。ちょっとずつだけど、これで全員に配れるよね」
そう言って、ヤクモにジュースのピッチャーを渡した。
「ありがとうございます、サクラ」
ヤクモは嬉しそうにサクラからバナナミルクのピッチャーを受けとると、コップに均等にバナナジュースを注ぎ並べ、わぁーっ、と 白狐達がそれに群がった。
「甘~い」
「バナナ味の牛乳だぁ~」
「冷たくて美味しい」
「もあもあ~」
「氷がないとあわあわになっちゃうし、量がとれないからね。サラッと飲むなら少し水を足してもいいよ」
サクラの説明に ヤクモがふんふん、と、相づちをうつ。
「帰りましょう、サクラさん」
皆がバナナジュースにうっとりし、サクラとヤクモが話し込んでいると、イシルが入り口から顔をだし、サクラを呼んだ。
「あ、はい、ちょっと待って下さい」
サクラはイシルに返事をし、再びヤクモに向き直る。
「バナナがなくても、牛乳と卵で『ミルクセーキ』も作れるから。砂糖やハチミツで甘さを足して……」
サクラが今後のためにと ヤクモに『牛乳』で作るレシピを教える。
サクラが白狐達に人気があるのがわかる気がした。
ヤクモさんも ちょっと頬を染めて、熱心に聞いている。
「サクラさん」
「もうちょっと」
更にイシルが呼び掛けるが、サクラはまだ説明したりないようだ。
「だから、果物以外のプリンやゼリーでもいけるよ?今度温泉にフルーツ牛乳置くから、ヤクモくんも見にくれば……」
しびれを切らしたのか ずいっ、と、サクラとヤクモの間にイシルが割り込んだ。
「近いです、サクラさん」
「……すみません」
ちょっと不機嫌そうなイシルさん。
あれ?サクラがイシルさんを追っかけてたんじゃないのかな?
もしかして、、ヤキモチ ですか?イシルさん。
今日も栄養たっぷり 美味しい給食をいただき、ケンカしても結局みんなで仲良く丸くなって眠りにつくのでした。




