328. ポトフ ◎
あとがきに料理写真挿入(2022/1/17)
″トン、トン、トン……″
サクラは台所で大根を切る。
三センチ幅の大きさで輪切りにしていく。
″しゅり、しゅるり……″
大根は輪切りにしてから くるっと包丁でひと剥き皮をむく。
その隣ではイシルがロールキャベツを作っていた。
「大根終わりましたよ、イシルさん」
「では、人参もお願いします」
「はい」
久しぶりのイシルとの夕飯作りだ。
「まったく、何でオレが……」
そしてその隣ではランもイシルと一緒にロールキャベツを巻くのを手伝っている。
「嫌なんですよね?仲間外れ」
「ぐっ、、」
イシルからの口撃にランが言葉をつまらせた。
ランはサクラとイシルが『迦寓屋』に連泊したことで拗ねて部屋を滅茶苦茶にしたのだ。
おかげで帰宅早々大掃除。
お昼は簡単にパスタですませた。
「自分が言ったんじゃない、『キツネの宿なんか行かない』って」
サクラも口撃に参加する。
ランはバーガーウルフにいる 狐の魔物、如鬼のテンコと相性が悪い。
というか、アイリーンと相性が悪いから アイリーンに懐いているテンコとやりあっているだけなのだが。
「連泊するなんて聞いてねぇし……」
自分は平気で飲んで外泊するくせに、文句タラタラである。
「良いところだったよ~温泉も料理も美味しいし、次はランも行こうよ、ね?」
「お、おう///」
サクラに言われてランがちょっとにやけた。
「混浴はありませんよ、君は僕と一緒です」
「うっせーな///わかってるよ!!」
……それはそれで見たいですよ?イシルさん。
「何でにやけてるんですか、サクラさん」
「ナンデモアリマセン」
「まったく、もう」と言いながら、イシルはせっせとロールキャベツを巻いていく。
いつもの、日常が戻ってきた。
今日の夕飯は『ポトフ』だ。
しかし、ポトフなのに大根ですか。
ポトフはいわば洋風おでんですけどね。
根菜類は意外と糖質がある。
特に、かぼちゃ、とうもろこし、れんこんなどは糖質が多い。同じ根菜類でも、にんじんやごぼうは糖質が比較的少ない。
さらに糖質が少ないのは大根やカブである。
だからイシルの作ってくれる料理には大根が大活躍だ。
根菜類は栄養価が高く、食物繊維も豊富なものが多い。
だからまったくとらないというのではなく、食べる量を考えながら食べたいところだ。
下ゆでしたキャベツの葉の根元に肉ダネを置き、両端を折り込みながらくるくると巻いていく。
ロールキャベツをたてて最後の巻き終わりを穴に押し込んだら楊枝いらずの崩れにくいロールキャベツの出来上がり。
「上手いじゃないですか、ラン」
「そうか?」
「ええ、見直しました。器用ですね」
イシルはランが作ったロールキャベツにベーコンを巻くと パスタで端をプツンと差してとめた。
「ランは沢山食べるから沢山作りましょうね」
「任せろ」
上手いじゃないですか、イシルさん、ランの扱いが。
ポトフにはベーコン巻きロールキャベツとウインナーが入るから塩気は十分。
そしてロールキャベツの肉ダネからも旨味が出るので、コンソメで煮るだけで十分だ。
三人で下準備を終えると 具材を鍋に入れ、コトコト煮込む。
待っている間、サクラとイシルとランは 三人で サクラが現世から持ってきたカードゲーム『UNO』を楽しんだ。
◇◆◇◆◇
「「いただきます」」
ほんわか湯気と共に野菜の甘い香りが部屋に広がる。
今日のメインは『ポトフ』だ。
サクラ、イシル、ランの三人で作ったポトフ。
先ずは野菜からと、サクラは大根に箸を入れた。
″ほろっ、じゅわ~″
箸を入れると その感触から味が染みているのがわかる。
柔らかく水分をふくみ、割ったときの中の色もうっすらコンソメ色。
″はふっ、、むぐっ″
熱々を口に入れると、ウインナーの薫製の香りがうつり、なんとも芳しい。
それでいて野菜の優しい味、大根の甘味……
「ん~///」
美味しい!!
ああ、イシルさんの味だ。
ただいま!森の我が家!!
″ぱくっ、もくっ″
じゅん、じゅわあぁっ……ああ、ホッコリする。
和風のおでんとはまたひと味違う。
野菜が、ほんとに甘い。
大根、人参、キャベツの自然の甘み。
玉ねぎは丸ごと入っていて、割るのが勿体ない。
″じゅんっ″
玉ねぎの層がふりゃりと柔らかく崩れ、口にいれると甘みがじんわり。
「むふふ///」
カリフラワーのほろほろ口で崩れるのもいい。
ソーセージはダシをとるだけじゃない。
パンパンに膨らんだガワの中には 野菜の旨味をふくんだスープが閉じ込められている。
気をつけて食べないと スープが弾けて攻撃を食らう。
サクラはスープがとばないように気をつけてソーセージに噛みついた。
″ぱしゅん、、″
口の中でソーセージが破けて スープが飛び出す。
成功だ!熱いけど。
ごろっと粗びきのソーセージの味がスープと合う。
ダシとして入れたので 味が少し抜けているが、それがまたいい。
余分な塩分が抜けだし、脂が溢れ、それなのにプリっとした口当たりは 加工肉ならではの美味しさだ。
そして煮込まれたソーセージには、焼きたて、茹でたてソーセージでは味わえない上品さがある。
「んふっ///美味しい」
おっといかん、ランがこっちを見ている。
これは、自分が巻いたロールキャベツを食べろということだな?
サクラはロールキャベツに箸をすすめる。
キレイ巻かれたロールキャベツは崩れもせず、中身も出ていないが、箸を入れると簡単に割れた。
「凄い、崩れてないね、ラン」
「当然!」
″あむっ、はふっ、、″
これは、、鶏肉だ。
鳥挽き肉のロールキャベツだ。
「ん~///」
あっさりしてる中に香るのは、、胡椒と、、ナツメグ?それが鳥挽き肉と玉ねぎの優しさを引き出すアクセントになっている。
そしてそれをくるむキャベツの優しさよ!
甘い、甘いわキャベツさん。
いつものシャキシャキ千切りとは別の顔。
こんなにとろけられるのね?
ベーコンまで巻いてあるとか、贅沢すぎる!
豪華なのにそれを見せない、控えめで押し付けないこの感じ……
ああ、イシルさんの料理だぁ……
しんみり心に染み入ります。
あ、腹にも。
「そっか~、泣く程うまいかぁ~」
ランが嬉しそうに自分もロールキャベツを口に入れる。
「うん、うめぇ///」
ご満悦だがランよ、君は巻いただけだ。
(あれ?これはなんだろう)
サクラはロールキャベツの中に 見慣れない物体を発見した。
豆腐のようだが、箸を入れると、、硬い?
弾力があり、押すとジュワっとスープが染み出る。
(高野豆腐!?)
イシルさん、こんなものまで作っていたんですね……
″ばくっ、もぐっ″
高野豆腐は すべてをのみこんでいた。
大根のやわらかさも、人参の甘みも、玉ねぎの風味も、、
ウインナーの薫製感も、ベーコンの旨みも、鶏肉の優しさも、、
キャベツの包容力も、キノコのエキスも、ニンニクやナツメグや胡椒の存在も、、
すべてをふくんで、サクラを満たす。
「んんっ///」
完全ノックアウト。
イシルさんのご飯は、世界一。
「はあ///大好き」
イシルが満足そうに笑う。
確実に サクラの胃袋は恋に落ちている。




