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327. 『結』




(へこ)むわ……」


現世に戻ったサクラは 支払いを済ませ、とぼとぼと神の神殿(病院)を出た。


体重はウォーキングの甲斐あってか、75.9kg→75.3kgと下がっていた。

だがしかし、、


空腹時血糖124→132mg

HbA1c6.2%→6.6%

と、肝心の血糖値はあがっていた。


「はぁ……」


そして、もうひとつ。

サクラを悩ませている出来事、、

それは異世界に戻るかどうか。


「どうすっかなぁ……」


イシルの反対を押しきって、ミケランジェリの元へと乗り込んだ。

その際、イシルをおもいっきり振ったのだ。

イシルを傷つけたのだ。


″私、イシルさんとは恋愛しません″


ミケの顔がイシルより好みだとか、予約キャンセルだとか、追いかけて来たら絶交だとか、散々上から目線でのたまって、挙げ句――


″バイバイ、イシルさん″


自ら決別を告げたのだ。


イシルに会いたい、、でも 会いたくない。

ちょっと、時間がほしい。

心の準備が。


二、三ん日現世にいて、頭を冷やせば 現実を見れるかも。

あれは、おとぎの国の出来事であって、遊びに行っているだけなんだと、夢から覚めるかもしれない。


「……薬」


だがしかし『薬』がない。

薬をとりに薬局に行けば、出た瞬間に異世界へと飛ばされてしまう。

こんなことならきっちり二週間分じゃなくて、前回余分にもらってくるんだった!


「くっ、不覚」


しかし、帰らなければアスが言うようにシャナが気にする。

ミケの命も危ない。

アスと約束したから。


サクラは はたと足をとめた。


(そうか!イシルさんが迎えに来る()に帰れば良いんだ!)


アスは言ってくれた。


″イシルのとこに居づらいなら こ・こ・|に住めばいいじゃない″


そうだ。ずっとじゃなくても、暫くアスのところに置いてもらおう。

仕事の打ち合わせがとかなんとか理由をつけて、イシルと、落ち着いて顔を合わせられるようになるまで居候させてもらおう!


サクラが現世に来ると、帰りはいつも森にイシルが迎えに来てくれる。

イシルとの待ち合わせはいつも午後だ。

今日現世に来て、診察が終わって、まだ30分程しかたっていない。

今帰ればイシルに会わずにアスのところに行けるハズだ。

まさかサクラがこんなに早く帰るとはイシルだって思わないだろう。


(よし、これで行こう!)


サクラはどこにも買い物によらずに、真っ直ぐ薬を貰いに薬局へと向かうと、超特急で異世界へと戻ってきた。


薬をもらい、薬局を出ると、光に包まれ、目の前の風景がかわる。

髪を撫で通りすぎる緑をふくんだ風と葉のざわめき。

タイルでもアスファルトでもない 足元の大地の感触。


明らかに今までいた世界とは別世界。


そして――


「お帰りなさい」


耳に心地良い優しい声。


「……ただ、いま、です」


サクラの正面に イシルが立っていた。


浅はかであった。

サクラの目論みなんて1200年の歴史の前では成り立つハズもなく……

イシルにはお見通しであった。


「早かったんですね」


「いや、、あー……」


(どうしよう!何の言葉も用意していない!!

イシルさんを避けるために急いで戻ったんです、、って、言えるかっ!!)


イシルが再会のハグをするためにサクラに手を伸ばしてきた。


(そんな資格なんてないよ~!!)


サクラが後ろめたくて肩をすくめ身をひくと、イシルは手を止め、少し寂しそうに笑った。


「帰りましょう」


イシルはサクラの様子に 胸に(いだ)くことを諦め、サクラの手をとり歩きだした。


(……また、傷つけた)


サクラはその手を握り返すことも出来ずに 引かれるがままに下を向いて歩きだす。


「検査の結果は どうでしたか?」


イシルが普通に聞いてきた。


「血糖値があがってました」


「そうですか、、また少し考えましょうね」


「はい……」


イシルは 怒ってないのだろうか、あんなヒドイ事を言ったのに。

また かわらず 体質改善につきあってくれるというのだろうか。


サクラはイシルをチラリと盗み見る。

ちょっとやつれた感じがいつもより年齢を感じさせる。

こんな時になんですが、、カッコいいです。イケオジですね。

あれ?前髪がある。


「イシルさん、前髪切ったんですか?」


「ええ、少し」


失恋!?失恋したからってこと!?


サクラが普通に会話をし始めたところで、イシルが切り出した。


「僕が図々しすぎましたね、すみません」


「え?」


しかも、予想外のイシルの言葉。

謝るのは イシルを傷つけたサクラのほうだ。


「サクラさんの好みも考えずに気持ちを押し付けすぎました」


「あ、いや、あの……」


「僕に言ったことは気にしないで下さい」


「いや、私は、、」


サクラはうまく口を挟めない。

何て言えばいいんだ……


「アスから聞きました。あんなことされてもゆるしてしまうくらい、、好みだったんですね、ミケランジェリが」


アスはイシルに何を言ったんだ!?


「そうじゃなくて、、」


「僕は、サクラさんが笑っていてくれればいいんです」


「えっ?」


イシルがサクラに笑いかける。


「サクラさんが元気でいてくれて、笑っててくれれば、僕の隣でなくてもいいんですよ」


「イシルさん……」


(ああ、私はバカだ)


体面なんか気にせずに イシルはこんなにサクラの事を考えてくれてるというのに……


「だから、僕に言ったことは気にしないで、『絶交』なんて言わず、出来れば今まで通り……」


サクラは繋いだイシルの手を ぐいっとひくと、自分の口元まで持ちあげた。


言葉は、うまく出ないから。


そして――


″ちゅうぅ……″


その手の甲に唇を落とし、()がつくほど吸い上げる。


「サ、サクラさん!?」


サクラはイシルの手から唇をはなし、その手を見た。


(あれ?あんまり()()()()な)


思うように行かなくて サクラはもう一度、同じ場所に 湿らせた唇を落とす。


″チュッ″


「サクラさん、、何して……」


″ちゅううぅぅ、、っ″


「えっ///」


イシルがどぎまぎと狼狽える。

サクラは唇をはなし、またその手を見た。


(……薄いかな)


更に、もう一度、サクラはイシルの手の甲の同じ場所に唇を重ねて、舌を手の甲に密着させ――


″ちゅるっ″


「んっ、、」


″ちゅっ、ちゅううぅぅ、、っ″


「っ///」


サクラの行動に イシルが身をよじる。


(出来た!)


三度重ねて イシルの手の甲に出来たのは 赤い痕。

サクラのキスマーク。


「イシルさんは 私に予約されました」


「サクラさん……」


サクラの言葉にイシルが驚きと嬉しさのまざった瞳をむけた。

感極まった様子で 目元が赤くなっている。


「あくまで()()ですからね」


これがサクラのせいいっぱい。


(私もイシルさんに笑っててほしい。健やかでいてほしい。

例え自分の隣にいなくとも)


「今まで通り、私、異世界で恋愛する気は、、なあっ///」


サクラが言い終わる前に イシルがサクラの手を引き、そのままサクラの唇に自分の唇を重ねてその先の言葉を奪う。


「ふゎ///イシルさん、聞いて……」


「聞いてますよ」


返事をしながらも ちゅっ、と、サクラの唇を塞ぐ。


「予約の()()です」


「んっ///何言って……」


「ちゃんと、予約されているか 心配なんです」


″ちゅっ……″


「んんっ///」


イシルが更に深くサクラを求め――


″ちゅっ、、ちゅぅっ……″


サクラの存在を確かめるような、容赦ないイシルの口づけ。


「あぅっ///」


サクラはイシルに飲み込まれる。


こんなの、逃げられない。

イシルが満足そうにサクラを解放すると、そこには――


″チャラッ″


サクラの首もとに あのペンダントがかかっていた。


「これ……」


サクラがオーガの村で落とした イシルからもらった白バラのペンダントだった。

イシルがチェーンをつけなおしてくれたようだ。

うれしい!


「ありがとうございます///」


サクラは胸のペンダントヘッドを握りしめた。


(ん?)


丈夫なチェーンをつけてくれると言っていたけど、チェーンじゃない。


()ですか?」


金の糸で編まれた()のようだ。


「はい、サクラさんを待つ間に編みました」


イシルさんが編んだの?

あれ?これ、もしかして……

サクラはイシルの前髪を見つめる。


「エルフの髪は 簡単には切れません。それに、龍の髭同様魔力が籠ってますからね。これでサクラさんが何処にいても僕の魔力を辿って見つけることが出来ます」


それって……


(G・P・S!?)


GPSとはご存知ケータイやカーナビでお馴染み位置情報を知るもの。

人工衛星(GPS衛星)から発せられた電波を受信し、現在位置を特定するものだが、この場合、人工衛星ではなくイシルの髪に宿る魔力で位置を探るということだ。


どうやらサクラはイシルにGPSをつけられたようだ。


「疲れたでしょう?早く帰って家でゆっくりしましょう」


イシルが再びサクラの手をとり歩きだす。

サクラはその手をきゅっ、と 握り返す。


「私、イシルさんのご飯が食べたいです」


恥ずかしそうにお願いするサクラに イシルが微笑みを返し、握ったサクラの手の指に自分の指を絡ませ、恋人繋ぎに握り直す。


「そうですね、久しぶりのおうちご飯ですね、、何にしましょうかね~」


「お味噌汁はお豆腐がいいです」


「ネギたっぷり入れましょう」


そうして二人でメニューを考えながら家路についた。





◇◆◇◆◇





家につくと、ランがいるのか、玄関が開いていた。


「おう!お帰り」


リビングのソファーに寝そべって本を読んでいたランが陽気に手を上げる。


″ごっちゃあぁぁ……″


「……なんじゃこりゃ」


ランのまわりにはお菓子や酒びん、紙くずが散乱し、ソファーで寝たのか 布団が持ち込まれ、本が積ん読状態で三山程出来ていた。


キッチンも汚れた食器に テーブルに出しっぱなしの酒、つまみ。

ランの部屋も燦々たるものだった。

散らかすだけ散らかして 居場所を移動していったのがわかる。


これは、、

そう

置いてけぼりを食らったペットが 腹いせに 箱ティッシュのティッシュを撒き散らした後のような――――


「「ランっっ!!!」」


″プイッ″


そしてケモノくさい。

部屋、毛だらけだし。


「先ずはお風呂に入りなさいっ!」


イシルがランをおっかけまわし、風呂へとぶちこむ。


″ザバザバザバ……″


「なあ、タオル……」


「濡れたまま歩かないっ!隠しなさい!サクラさんがいるんですよ!」


ぽんっ、と、獣化すると、濡れたカラダをブルブルッと振り水を飛ばした。

しかも、大型黒豹姿で。


「「ランッ!!」」


″プイッ″


部屋中びちゃびちゃ……

また仕事が増えた。


盛大な嫌がらせだ。


ご飯の前に 大掃除するはめになった。






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