325. ミケランジェリの館 9 (イシルとの再会) ★
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ラプラスは『ラ・マリエ』の上空に到達すると、サクラをぽいっと放り投げた。
「ぎやああぁぁ!!」
″ウギャギャギャギャ(笑)″
ラプラスがけたたましく笑う。
何がそんなに愉快なんだ!?
顔か!?顔がそんなに面白いか!?
紐無しバンジーなんてやらされたらみんなこんななるわ!!
牢から出すんじゃなかったよ!このお構い無し野郎!無茶苦茶だぁ~~!!
着地!着地!着地の魔法~~!!
(あ……)
サクラの落ちていく先のバルコニーに佇む人影が見えた。
(イシルさん!!)
と、アスだ。
イシルが空に向かって手を伸ばしてきた。
すると、ふわっとサクラの落下速度が落ちて、ふわふわと滞空するサクラからイシルの顔がよく見えた。
(イシルさんだ……)
イシルは少し疲れた顔をしていた。
(心配、かけたよね、ごめんなさい)
涙目になるサクラを見てイシルが感慨深げに笑った。
(はっ!)
このままでははイカン!今のこの軌道のままいくと、サクラはイシルの元に落ちてしまう!
イシルの唇を強引に奪った上に、失礼にも盛大に『お前より好みのイケメンのところに行くぜ!』と、振り切り、おそれ多くも『あばよ』と目の前で消えてしまった手前、、会わせる顔がないっっ!!
今更どのツラ下げて顔を合わせろと!?
(うっ、くっ、、)
サクラは頑張って空中を泳ぐ。
が、一向に進まない。軌道はかわらない。
″ウギャッ、ヴギャギャッ(笑)″
空中で変な動きをするサクラを見てラプラスが笑う。
ああ、うっさいラプラス!
愉しそうでなによりだね、このすっとこどっこい!
サクラはせめて隣の窓へ降りようと手をバタつかせた。
犬掻き、クロール、平泳ぎ……
が、その甲斐もむなしく、イシルの元へ。
″ぐいっ″
「ひゃあっ///」
イシルがサクラを捕まえる。
サクラは、きゅっ、と イシルにかみしめるように抱きしめられた。
(うっ///イシルさん)
もう、会えないと思っていた。
あのままお別れだと思っていた。
″きゅうっ……″
力強い腕がサクラをつかまえてはなさない。
イシルの匂い、
イシルのあたたかさ、
イシルの存在を思い知る。
サクラの中で占めるその存在の大きさを。
会いたかった……
じんわりと、イシルの存在がサクラの心に染み渡り、胸が熱くなった。
目頭が熱くなった。
(はっ!!)
「イシルさん、放してください、、」
サクラの言葉にギクリとイシルが身を硬くし、サクラは慌てて言葉を続ける。
「いや、あの、着替えないと!このままじゃ神に会えないです!もう、時間がないんです!自分じゃ脱げないから……」
「ああ、そうですね、もうそんな時間ですね」
イシルはサクラを抱いたまま 部屋の中に入るとソファーに座り、膝の上のサクラのドレスの背中のホックを外しにかかった。
″プツン、プツン、、″
(NO――――!!)
「イヤイヤ!イシルさん違います!そうじゃない!外さないでぇ!!」
えっ?と イシルが手を止める。
「見えちゃう、見えちゃいますから!!」
バルコニーにはイシルの他に アスといつのまにやら人型になったラプラスが立っていた。
「あ、すみません、こんなところで、では別室で……」
と、サクラを抱えて立ち上がる。
「それも違います!!」
どちらかと言うとイシルに一番見られたくない。
コルセットでぎゅうぎゅうに締め上げられ、ボンレスハムのようになった姿なんて……
「アス!アス~」
サクラはイシルの腕の中でアスへと手を伸ばし、名前を呼んだ。
「サクラさん!?何を、、」
「何って、着替えるんです!アス、手伝って」
「は?なんで、アス?」
「だってアスは男でも女でもないですから」
アスには着替えも二度ほど手伝ってもらっている。
この中で選ぶなら、、アスだ。
「はあ!?」
「アス、早く、時間がないから」
「はーい♪」
サクラに呼ばれたアスがイシルの腕の中から するりとサクラを奪い取った。
イシルがサクラの言葉に慌てる。
「サクラさん、アスは男でも女でもないんじゃなくて……」
男でも女でもあるのだ。
「さぁ、お着替えしましょうね~♪」
アスはイシルの言葉を遮るようにそう言って サクラをお姫様抱っこすると イシルにみせつけるように、楽しげにくるくるまわった。
「ちょっと、アス、私 自分で歩けるから……」
「ふふふ、だーめっ、靴はいてないでしょう?」
サクラのウェディングドレスの裾がフワフワと華やかに舞う。
「いいわね~ウェディングドレス姿って、白いドレスの意味は『あなたの色に染まります』よね~ステキ♪」
これは、わざとだな、アス。
イシルをあおっている。
何かの、、仕返し?
「悪いわね~イシル。ご指名だから仕方ないの」
「うぐっ、、」
「アタシがちゃ~んとお世話してあげとくから、あんたは大人しく待ってなさいね、イ、シ、ル♪」
「貴様……」
「うふふ、花嫁を奪い去るって、キモチイイ~♪」
「アタシを煩わせた罰よ」とアスが高笑いしながら サクラを抱えて 颯爽と執務室を出た。
その背にラプラスが声をかける。
「サクラ、コロッケは……」
「ごめん、ラプラスー、帰ってきたら~、ご馳走~、するからあぁ~~」
イシルとラプラスを残して、サクラはアスに抱えられ、ドップラー効果を発生させながら サクラの部屋へと着替えに行ってしまった。
「……コロッケ」
しょんぼり、ぽつねんと 爺様が二人。
「コロッケは僕がご馳走しましょう」
しょんぼりに、ぽつねんが……いやいや、
ラプラスにイシルが声をかける。
「本当か!?」
「ええ、サクラさんを助けてくれたんですよね」
「まあな」
運んだだけだけど。
「お礼もかねて、僕が作りますよ、コロッケ」
「よいのか?お主、顔色が優れんようだが……」
「大丈夫です」
イシルはアスの執務机にガツンと拳をおろす。
″バキッ″
頑丈そうな執務机が ぱっきりと真ん中から二つに折れた。
「何かしていないと 気が狂いそうなんです」
「ハハハ!そうか!それは頼もしいな、うむ、世話になる」
何が頼もしいのかはわからないが、イシルとラプラスは連れだって『ラ・マリエ』の調理場へと向かった。
◇◆◇◆◇
「大変だったんだから、イシルを封印しとくの」
こちらは『ラ・マリエ』のサクラの部屋。
アスがサクラのドレスの背中のホックを外しながらぼやきだした。
「如鬼三匹とヨーコとアタシの五人で封印したのに 結界破っちゃうんだもん、勘弁して欲しいわ、まったく、どんだけ元気よ!」
「アスがイシルさんを引き止めておいてくれたんだね、ありがとう」
封印はどうかと思うが、アスはサクラの気持ちをくんでくれたのだ。
今もイシルと顔を合わせづらいサクラのために、こうしてつきあってくれている。
「で?そいつは、、ミケなんとかは何処に住んでんの?」
サクラのドレスのコルセットの紐を緩めながら アスがサクラに質問した。
「わかんないよ、私 土地勘ないし」
ドレスとコルセットを 胸の前で押さえたまま サクラは背後のアスへ答えを返した。
アスはサクラの返答に少し違和感を覚えた。
(言いたくないの?)
「かわいそうに、、こんなにぎゅうぎゅうに締め付けちゃって……苦しかったでしょう?」
サクラの背中は締め付けられた跡が残り、サクラの肌が赤くなっていて痛々しい。
「アスの作ったコルセットの凄さがわかったよ。いつもはこんなに苦しくないもん」
「でしょう?アタシは凄いのよ」
アスにコルセットを緩めてもらって サクラはようやく息が楽にできた。
はぁっ、と深呼吸をする。
″ツイッ、、″
「ひいいっ!」
アスに 締め上げで出来た背中の跡をなぞられてゾワリとし、サクラは悲鳴をあげた。
「治療してあげる♪」
「いらん!いらん!ありがと、アス!時間ないから!」
「え~残念~」
サクラは着替えをひっつかむと 着替えるためにウォークインクローゼットへと駆け込み、カーテンを引いた。
そんなサクラに アスが言葉を投げ掛ける。
「そのドレス、ダリア商会で扱ってる布じゃないわね」
「そうなの?」
ダリア商会はアスが取引している商会で、繊維業界の大手だ。
この辺りでは独占的といってもいい程に。
「でも、宝石はルピナス商会のものね。竜ちゃんが飛んできたのは西。西側でダリアと取引がなくて、ルピナスとはある。そしてこのデザイン、、」
「……」
アスが思考を巡らせていると、着替えを終えたサクラがウォークインクローゼットから出てきた。
アスは拾い上げておいたパーカーをサクラに着せようとして、ポケットに何かが入っている事に気がついた。
「ん?サラ・ブレッド?」
ペーパーに包まれた食べかけの『サラ・ブレッド』
しかも、作りたてのようだ。
珍しい。
「てことは、サラ・ブレッドの生産工場の近くかしら……だいたい絞られてきたわね」
サクラがアスの推測を聞きながら微妙な顔をしている。
アスはそんなサクラの微妙な感情を匂いで読み取った。
「なぁに、して欲しくないの?仕返し」
「……うん」
「あんなことされて!?あんた、バカなの?また来るわよ、ミケなんとか」
「いや、それは私がいなければ……」
「それは言うな」
珍しくアスに怒られた。
おねぇ口調でもなく、本気の殺気だ。
「……はい」
サクラは大人しく頷いておく。
「ミケちゃんはさ、悪い人じゃないんだよね。ただひん曲がっちゃってるだけでさ」
シャナにしたことは許せないけど、サクラが言葉をかわしたミケランジェリは なんだか憎みきれないところがあった。
クマのぬいぐるみ『アール』に話を聞いてしまった事もあって、出来ればそっと見守りたい。
「呆れた、、敵に情をわかせてどうすんのよ、お人好しすぎるわよ」
「だよねー」
「アタシはよくてもイシルは納得しないわよ」
よく考えれば一番の被害者はイシルとシャナだ。
いや、ギルロスも、大怪我をしている。
「う~ん……出来ればミケちゃんには手を出さずに『吸魔装置』だけ壊して欲しいんだけどなぁ……」
「吸魔装置?」
「ミケちゃんが作った 魔力を吸収する装置だよ。大地の魔力をそれで吸い上げて使うことが出来るんだって」
「何ソレ、便利ね」
「便利だけど、使い方を間違うと戦争になっちゃうよ。現にミケちゃんは私を使って お父さんのいるゼラニウムの街を潰そうとしたんだから」
「ゼラニウムの街をねぇ……」
あ、やべ、街の名前言っちゃった。
「とにかく、その『吸魔装置』さえなくなっちゃえば 私は必要ないわけだからさ。私は『故障』させただけで『破壊』まではできなかったから」
「じゃあ今は動かないのね、その装置」
「恐らく」
「わかったわ、アタシがなんとかする」
「本当!?」
「本当よ。その代わり……」
その代わり?
アスとの取引の代償にサクラが構える。
が、それは意外な言葉だった。
「必ず、帰って来て」
「えっ!」
「あんたが帰って来なかったらシャナがいたたまれないわ」
アスがシャナを引き合いにだし、サクラの情に訴える。
「イシルのとこに居づらいなら ここ|にすめばいいじゃない」
ほだして――
「必ず、戻って」
願って――
「じゃないと、ミケなんとかはどうなるかわからないわよ」
結局脅す。
「何より、アタシが困る。」
「アス……」
「アンタがいなかったら、、アタシ――」
アスが切なそうな瞳でサクラを見つめた。
「商売なり立たないでしょ?」
ああ、そうですか。
「……わかった」
「約束よ」
サクラはアスにしっかりと約束させられた。
サクラの体の周りに金色の光の粒が舞う。
時間だ。
神の召還
医者の診察。
「待ってるから」
アスは笑顔でサクラを現世に送り出した。
「待ってるわよ……愛しい人」




