324. バレンタイン特別編『バレンタインデー・キス』★
本編超途中ですが、本日はバレンタインデーなので、ぶったぎってバレンタイン読みきりをお送りします。
ごめんなさいm(_ _)m
後日話数をずらすかもしれません。
ご了承ください。
彼女が小さな唇を開く。
薄くもなく、あつくもない、でも ぷっくりとした柔らかそうな唇を。
化粧っ毛のないナチュラルな薄桃色の唇の間から 濡れた舌がちろりと見えた。
その舌の上に 甘いひとかけら。
「んっ///」
つややかにぬめる彼女の舌の上に乗せられたのは
暗褐色、、暗いブラウンのひと欠片の『チョコレート』
彼女はチョコレートを口にふくむと、ゆっくりと、舌の上で転がしてとかす。
「ん~///」
彼女の熱でとかされたチョコレートが 徐々に彼女を虜にしていく。
じわじわと彼女を攻略しいくのだ。
彼女は舌の先でチョコレートの甘さを感じて身を震わせ、舌の奥でのフルーティーな酸味に酔いしれている。
とろけるような笑顔で。
そして喉の奥で感じる大人の苦味に身を委ねる。
鼻からぬけるカカオの香りに酔いしれ、最終的にその全てをまとめて味わい、彼女はチョコレートの世界に堕ちてゆく……
「はぁ///」
うっとりと 惚けた顔で 僕ではなくチョコレートを見つめている彼女。
もう一粒。
″あむっ″
彼女の唇がチョコレートを迎え入れる。
口の中で まったりと チョコレートとのキスを楽しむ彼女。
ダイエットで糖質を気にしている彼女が食べるチョコレートは ハイカカオのチョコレート。
甘味の少ないチョコレートのわずかな甘味をのがさぬように、 彼女の舌は甘さを探るように滑らかに動き、そのわずかな甘ささに敏感に反応する。
「んっ///」
僕はチョコレートにすら勝てない。
彼女から あんな風に深く求められたことはない。
欲望のままに自らその身を預けて欲してくれることなんてない。
「僕も味見していいですか?サクラさん」
「ど――……」
″どうぞ″と言おうとして サクラはためらい、無言でイシルにチョコレートを一粒渡してきた。
そして にこりと微笑む。
「イシルさんも 食べて下さい」
「……ありがとうございます」
どうやら以前僕がホルムのワインセラーで アイスワインを飲む彼女に味見と称してキスをしたことを覚えていたようで『どうぞ』とは行ってくれなかった。
う~ん、、残念。
キスするタイミングを失ってしまった。
この手はもう使えないか。
何か別の方法を考えなくてはけないな……
◇◆◇
イシルがサクラから手渡されたハイカカオチョコの包み紙をむき、口に入れようとしたところで、サクラが「あ、そうだ」と、イシルを止めた。
「ちょっと、まっててください」
サクラはそう言うと パタパタと階段を上がり、部屋から何やら持って降りてきた。
「本当は明日渡そうと思っていたんですが」
そう言って キレイにラッピングされた箱をイシルに差し向けた。
「現世では2月14日にお世話になった人にチョコを送る習慣があるんですよ」
「素敵な習慣ですね」
「今チョコ食べるなら、美味しいのを食べて欲しいなって思って……その、、1日早いけど、気持ちはこもってますから」
サクラがずいっ、と チョコをイシルに差し出す。
「いつもありがとうございます///(好きです)」
「こちらこそ、ありがとうございます」
イシルはサクラからチョコレートを受けとると 嬉しそうに頬を染め、丁寧にリボンを解き、破らないように包み紙を開いた。
「サクラさんの気持ちがこもっているから リボンも包み紙も 捨てられませんね」
「いや、捨ててくださいよ」
「捨てません」
イシルがチョコレートの箱を開けると 一口大のチョコレートが 宝石のように並んでいた。
チョコレートは全部で12粒。
一つ一つデザインが違う。
ハート型、星形、唇の形をした赤いものもある。
色も 赤、白、ピンク、ダーク、ミルク、キャラメル、、青?
「その青いのは 私の住む現世の惑星『地球』をイメージしてあるんです」
「サクラさんの住む惑星ですか……」
イシルが感慨深げに眺める。
「美しい惑星ですね……」
イシルは12粒のチョコレートをうっとりと見つめる。
「勿体なくて、食べられません」
「今あげた意味がないじゃないですか」
「しっかり目に焼きつけてからいただきますよ」
ありがとうございます、と、イシルはことのほか上機嫌で、サクラが渡したチョコレートを眺めながら、さっきサクラから貰ったハイカカオのチョコレートを口にいれた。
「ん?」
「どうかしましたか?」
今まで上機嫌でチョコレートを眺めていたイシルが、怪訝な顔をした。
忙しいですね、イシルさん、百面相ですか?
「お世話になった人にてことは、他の人にも渡すって事ですか?」
「はい、明日渡しに行こうと思っています」
「ふーん……」
なんだ?急に不機嫌になったぞ?
イシルの眉間にシワがよっている。
いったい今日はどうしたっていうんだ、イシルさん。
「明日、僕も一緒に行きます。いいですよね?」
「……はい」
何故か笑顔で圧をかけてくるイシルに少し戸惑いながら サクラは返事をした。
◇◆◇
次の日、朝食をとったあと、サクラはイシルを連れて村中をまわった。
組合会館でラルゴにチョコを渡し、銀狼亭に寄り、サンミに。
警備隊駐屯所でも、全員に配っていた。
ランにも皆と一緒に渡そうと思って、朝はスルーしたのだ。
そして、やはりイシルは何故か少し不機嫌だった。
「ラン、いつもありがとう!」
「おっ!お菓子か?」
サクラに差し出された箱を見て、ランの瞳が輝く。
「チョコだよ。疲れた時に食べてよ」
「おっ!いっぱい入ってんな、全部味が違うのか!サンキュー」
ギルロスにも、リベラにも、ハルにも。
「か~わ~い~い~」
ハルがチョコを見て目をキラキラさせている。
一つ一つ丁寧に包装された一口チョコ。
手のひらサイズの箱に9粒のチョコが並んでいる。
ランとハルがチョコをみてわちゃわちゃ。
「この牛の白黒模様はミルク味ってこと?」
「じゃあ、このイチゴが描かれてるのはイチゴ味のチョコか~」
コーヒーヌガー、ビスケット、ミルク、アーモンド、ホワイト&クッキー……
変わり種の いちごゼリー、大学芋、ホットケーキ……
それに加えて一番人気のきなこもち。
合計9種類。
そう、これは一粒10円チ◯ルチョコ!
バレンタインデーのばらまきには頼もしい味方!!
安いのに大変喜ばれる!!
銀狼亭にも、これのアソートパックを置いてきましたよ。
27個入って270円!!
大人にも子供にも喜ばれる義理チョコ大先生ありがとう!
バーガーウルフでは アイリーン達に可愛いチョコを。
この時期のデパートチョコ売場は 大変見ごたえがある!!
義理チョコよりも、女の子に配る友チョコの方が気合い入りますよね!
「うわっ、可愛い!」
「ドライフルーツいっぱいですぅ~」
「いい趣味してるわね、サクラ」
「お花が咲いているみたい」
リズ、スノー、アイリーン、ヒナにあげたのは タブレットチョコ。
板チョコの上にイチジク、バナナ、パイナップル、アプリコット、ベリーなどのドライフルーツや、アーモンド、カシューナッツ、ピスタチオなどのナッツがごってりと乗っている。
「いつもありがとう」
最後にモルガンの所によって、森のイシルの家へと帰って来た。
「僕お茶いれてきますね」
家につくと 朝は不機嫌だったイシルが何やら上機嫌になっていた。
お茶をいれにキッチンにはいったかと思うと、ひょっこり顔をだして、、
「コーヒーでいいですよね?」
と、サクラに笑顔を向ける。
(何だ?)
配り終えたチョコレート。
リュックをみると、ラン達に渡したチ◯ルの九個セットがひとつ残っていた。
「一つ余っちゃいました。イシルさん、食べますか?」
コーヒーをいれて リビングに戻ってきたイシルに サクラが何気なく聞いた。
イシルはサクラにコーヒーを渡しながら答える。
「いいえ、僕は昨日いただきましたから、、本命チョコを///」
「え?」
イシルがサクラを見て恥ずかしそうに頬を染め微笑んでいる。
「あれ?」
イシルさん、知ってたの?バレンタインデーの意味……
「あ、、」
それでか!
それで今日1日チョコを配るのについてまわったのか!?
全員にチョコを配るというから機嫌が悪かったの!?
イシルはソファーに座り、昨日サクラからもらったチョコを取り出し うっとりとながめている。
「シズエの奥方に義理チョコは貰ったことあったんですけどね、、サクラさんが僕のために選んでくれたんだとわかったら、もう///」
機嫌が良くなったのは イシルのチョコと 他の者に配ったチョコがあきらかに違ったからだ。
しくった!!
イシルが本命と義理を知っていたなんて!!?
イシルは箱の中のチョコをひとつつまむと、サクラへと向き直る。
「僕からの 逆チョコです」
「へ?」
つまんだチョコを口に含むと――
″チュッ……″
サクラのくちびるに自分のくちびるを重ねた。
(!?)
甘く溶けだすチョコの甘さ
「ふぁ///イシルさん!?」
「んっ、、逆チョコですから――」
″食べ終わらないとダメですよ″と、サクラのくちびるを放してくれない。
″ち、、ゅっ……″
「ふぇっ///」
「ちゃんと、、溶かして……」
「んっ///」
サクラの頬を包むイシルの手が キスしたままでサクラの頬や首を愛しそうに撫でる。
「あうっ///」
耳、弱いんですってば!!
イシルの腕を掴んでいたサクラの手に力が入り、サクラが身を固くした。
「サクラ……」
イシルのさらに輪をかける甘い口づけと イシルのもらす吐息に、サクラは身も心も翻弄される。
″ちゅ、、チュ、っ……″
もうチョコは溶けてしまったよ、、イシルさん。
それでもイシルは放してくれない。
チョコレートは甘い媚薬。
サクラがとろとろにとけて惚けた頃に イシルはようやくサクラの唇を解放した。
くったりとソファーに沈むサクラを見て、イシルは艶やかに、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「まだ、11個ありますね///」
ハッピー☆バレンタインデー!!




