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319. ミケランジェリの館 4 (アール) ★

挿絵挿入しました(2/9)

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ミケランジェリは()()()()だ。


サクラは与えられた部屋のソファーで微睡みながら 今日 ミケランジェリに出会ってからの出来事を思い返していた。

凄く難しいことを考えているようで、頭も良いんだろうけど、思い込みが激しいく、とても単純な人物にもみえる。

ゲスで酷いことを平気でする反面、サクラに靴を用意してくれたり、食事を気にしてくれたり、守ってくれたり……

あんなキザなセリフを吐くくせに 女性に対しての免疫は皆無だ。


人の中には本来 二面性が住んでいる。

だから 気分と言ってしまえばそれまでだが、ミケランジェリは一貫性が無さすぎる。


本当は一体どういう人物なのだろう、

本当のミケランジェリはどこにいるのだろうか、、


怒っているのにわらっている、

笑顔なのに泣いている、

尊大なのに怯えている、、

そんな 感情と表情がリンクしない 奇妙な ちぐはぐさがミケランジェリからは感じられた。


「ミケランジェリはね、本当は臆病で寂しがりやなんだよ」


ん?誰?


人の声がして サクラはまわりを見回す。

だが、誰もいない。

はて?

空耳か?


「尊大な物言いも、大げさな飾り立てた言葉も 本で得た知識だから 使い方が間違ってるんだ」


誰かいる!

誰?何処から!?こわっ!!


「人恋しいだけなんだ、許してやってよ」


長椅子に座るサクラのはす向かい、一人がけのソファーから声がした。


「えっ?えっ?」


ソファーの上には 古ぼけたぬいぐるみがあるだけだ。


「しかも 人付き合いが致命的に下手だからね」


(しゃべった!?)


「誰、、ですか?」


「ミケランジェリの唯一の友達さ」


一人がけソファーに座り、ボタンの目をした古ぼけたクマのぬいぐるみが サクラに『アール』と名乗った。





◇◆◇◆◇





ミケランジェリは ゼラニウムの街の小さな貴族の家で産まれた。

父はミケランジェリと同じく研究者で学者肌。

家庭の事にも、領地の事にも、全く興味がなかった。

全て母が取り仕切っていたのだ。


父は研究所へ行ったまま帰ってこず、たまに帰って来ても 書斎にこもりっきりだった。

領地はあまり広くはなかったが、母は父の代わりに領地を切り盛りし、領民達の手助けで忙しく、あまり抱いてもらった記憶はない。

幼いミケランジェリの相手といえば本だった。

父のおかげで本だけは山のようにあったからだ。

たまに母が手作りしてくれるクッキーをつまみながら 本を読むのが ミケランジェリの楽しみだった。


ミケランジェリは『本』に没頭した。

この本を全て読めば父と話が出来るんじゃないか、父が自分をみてくれるのではないか、父が帰って来てくれるんじゃないか……


ミケランジェリは『本』により知識を得、その頭角をすぐに表し始めた。


『神童』そう呼ばれるのに時間はかからなかった。


始めのうちは父も褒めてくれた。

父の書斎の本を読むことを許してくれ、『さすが我が息子』と嬉しそうにしてくれた。


ミケランジェリは父と会話できるのが嬉しくて本を読みあさり、いつの日か、父の知識を超えてしまった。


だが、幼いミケランジェリがそれに気づくことはなかった。


対話が成り立たなくなった。

父がミケランジェリの話についていけなくなったのだ。


次第に父は ミケランジェリを遠ざけるようになり、家から離れていき、まったく帰ってこなくなった。


『嫉妬』


ミケランジェリの父は ミケランジェリの才能に嫉妬したのだ。


ミケランジェリの母はミケランジェリを学校に行かせることにした。

その頃には家にある全ての本を読み尽くしていたし、なによりミケランジェリに『友達』をつくってほしかった。


「ミケランジェリはね、凄く頭がいいんだけど、()()()んだよね」


例えば、


1+1=2


簡単な事だ。

だが、ミケランジェリは何故1の次が2なのか、2の次が3なのかが気になる。


()()()()()()()と覚えてしまえばいいものを、気になってしかたがない。


はたから見れば物事をややこしく考えすぎていると思うだろう。

学業としてはまだいい。

とことん突き詰めて、理解して、答えを出す。研究者向きだ。

だが、人間関係でそれを求めると 破綻する。


しかも、ミケランジェリは父を論破してしまうほどの知識を有している。

同じ年頃の子がミケランジェリの話がわかるはずもない。


間違いを間違いと指摘して嫌がられ、上級生に生意気だと殴られたこともあった。

知識をひけらかしていると疎まれ、ノリが悪いと敬遠された。


だから、ミケランジェリには友達が出来なかった。

教師でさえ、そんなミケランジェリをどう扱ったらいいのかわからなかった。

聞かれても答えられないことが多いからだ。

ミケランジェリはいつも図書室に一人でいた。


そんな孤独の中にあるミケランジェリに 母がプレゼントしてくれたのが クマのぬいぐるみだった。

ミケランジェリはそのぬいぐるみに『伯爵(アール)』と名づけ、会話をし、一緒に勉強した。


「ミケランジェリはさ、難しい本は読めるけど 人の心は読めないんだ」


ミケランジェリは上の中等学年にあがってから友達が出来た。

友達を家に呼び一緒に勉強をした。

願いを聞き、宿題を手伝い、レポートを書き、感謝され、褒められることが嬉しかった。


「でもね、そいつら陰ではミケランジェリの悪口を言っていたんだよ。利用するために近付いてきたんだ」


ある日ミケランジェリはそれを知ってしまう。

「凄いね」「流石だね」と近付いてくる者達の本意を知ってしまったのだ。


「それでも、ミケランジェリはその言葉が欲しくて ()()を突き放すことが出来なかったんだよ」


「サクラ、泣いてるの?」


すっ、と目元を拭うサクラにアールが尋ねる。


「ミケちゃんは、居場所が欲しくて 自分から裸の王様になっちゃったんだね」


自分が服を着ていないのを知ってしまった。

でも『いいね』とちやほやしてくれる()()だけが欲しくて 自ら真実を見ることを止めてしまった。裸で居続けることを選んだ おかしな裸の王様ミケランジェリ。


「僕はずっと、そんなミケランジェリの愚痴を聞き、涙を拭い、抱きしめてきたんだ」


″アール、聞いてくれる?僕が書いたチームレポート、僕の名前が無かったんだよ。書き忘れたって謝ってくれたけど、なんだかやりきれないよ″


″アール、皆が僕の事を『先生』て呼ぶんだ。愛称なのかな?だけど、なんだか距離を感じてあんまり嬉しくないな……″


″うっ、ひぐっ、アール、君だけは、っ、僕の、、友達でいてくれるよね、うぐっ、、″


″アール、もう 学校に行きたくないよ″


″アール……″


ミケランジェリが中等学年を、卒業する頃、母が倒れた。

相変わらず父は帰ってこず、ミケランジェリは高等学年には行かず、領地運営を行ったんだ。


母は寝たきりになり、食が細くなって、身体も痩せ細っていった。


「ミケランジェリは 母親にどう接したらいいかわからなくてさ、領地運営をしながら母親のために研究所に入ったんだ」


母親のための研究?


「もしかして、お母さんの名前って『サラ』さん?」


「うん、そうだよ」


サクラは一気に胸が熱くなった。


完全栄養食品『サラ・ブレッド』は 冒険者のために作られたものではなかった。


あれひとつで一日の栄養がとれるなら 食の細くなったサラでも食べられる。

砕いて、ミルクに入れて、柔らかくすれば 病人でも食べやすい。


『サラ・ブレッド』それはミケランジェリが母親のために開発したもの……

素朴で懐かしい母親の手作りクッキーの味。


サクラは 流れる涙を止めることが出来なかった。


「研究所時代は酷かったよ。ミケランジェリは その当時の『サラ・ブレッド』のもとになる研究原理を一から否定してしまい、同僚からは避難され、間違っている、出来るはずがない、金の無駄遣いだと散々言われてたし、女性からは騙されっぱなしだったからね」


″アール、私が彼女に贈った花がゴミ箱に入ってるのをみつけてしまった″


″アール、『ダサい』ってなんだろう?どの辞書にものってないんだが、研究所の女性達が私によく言うんだよ″


″アール、彼女が私に宝石をねだるんだ。『こんな素敵なのはじめて!』って、先月も同じものを買って贈った筈なんだ。先々月も……どういうことかな″


……それであんなに女性不信になったんだ。


「それでとうとう、研究所を追われるように辞めてしまったんだ。自分が壊れる前にまわりを壊したんだよ」


キレたんだ。


「それであんな性格に……」


「おかげでミケランジェリは意地になって一人で今の『サラ・ブレッド』完成させることが出来たんだけどね。手のひら返しでゴマをすってきた同僚達に嫌気がさして ()()()()()に潜んでるってわけさ」


色々大変だったんだね、ミケランジェリ


「サラさんはいつお亡くなりに?」


「生きてるよ」


「へ?」


「今は元気になって、ミケランジェリの代わりに領地を運営し、『サラ・ブレッド』売りまくってる」


あ、そうですか。

何よりです。


「そんな優しい心のミケランジェリが何故今はあのように?同僚の鼻を明かすことは出来たんだから、復讐は終わったんじゃないの?」


「もう一人、いるからさ」


「もう一人?」


「ミケランジェリの最大の()() 父親がさ」


「お父さん……」


「吸魔装置はさ、ミケランジェリの父親が研究してたんだよ。『サラ・ブレッド』の開発を終えてミケランジェリが手をつけたら、出来ちゃったんだよね」


なんとまあ、それはちょっとプライド傷つきますね、お父様。


「ミケランジェリは小型の吸魔装置を持って会いに行ったんだ、父親に」


「褒めて欲しくて?」


「いいや、()()()()()()に行ったんだよ」


うわっ!性格ねじ曲がった後か!!


「そしたら父上は『そんなの大したこと無い』って、認めてくれなかった。だからミケランジェリは大きいのを作って見返してやろうと……」


いや、小型の方が凄いでしょ。


「まてまてまて、、じゃあ、何?私 親子喧嘩のせいでここにいるってこと?」


アールが申し訳なさそうに肩をすくめた。


「あの二人は結局似た者同士だからね どちらも真っ直ぐ 平行線、交わることは出来ないんだね」


親子喧嘩で街を滅ぼそうとするとは!

恐るべし性格破綻者ミケランジェリ、、お前は間違っている!!


″コン、コン……″


「はいっ!」


ノックの音がして、サクラは返事をする。


「ミケランジェリ様よりお召し替えをとの事で 支度に参りましたが、、お休みでしたか」


「え?」


サクラはソファーから身を起こした。


(あれ?寝てた?)


はす向かいの一人がけソファーを見るも、そこに クマのぬいぐるみなんてなかった。


(夢?)


「失礼致します」


ぼんやりしていると メイド風の女性が三人程入ってきて、サクラを取り囲んだ。


「え?何?着替え?いりません!」


「ミケランジェリ様からの指示ですので」


そう言って、サクラをガッチリおさえ、服を脱がし、着替えさせにかかる。


「自分で、自分でやりますから!!」


「無理でございます」


″きゅ――――っ″


そういってコルセットの紐をきゅうきゅうと引っ張った。


「ぎゃ――――っ!!」




挿絵(By みてみん)









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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回の挿絵とエピソードには……もう、こう、……ぐっと来ました。 昨日から「ミケちゃんはどうしたら幸せになれたんだろう……」ってずーっと考えてます。 人質(鳥質)とってた悪いお兄さんだってこ…
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