313. 『起』
トトリはなにやら幸せな気持ちで目が覚めた。
ぬくぬく、ぬくぬく、あったかい
もふもふ、もふもふ、やわらかい。
昨日の夜は 白狐達とみんなで大部屋でよりそって雑魚寝をしたんだった。
布団なんてかけなかったような……
(!?)
目をさましてトトリは仰天する。
あったかいはずだ。
トトリのまわりにはかわいらしい狐が丸まってトトリ達をかこんで眠っていた。
もふもふのキツネの毛に埋もれて眠っていたのだ。
あったかい、だけど……
(ケモノくさい……)
「白狐って、寝ると狐に戻るんだな~」
ルヴァンも起きて あくびをしながらトトリに話しかける。
「……こんなにゆっくり寝たの、初めてかも」
「うん、そうだね」
昨日の夜『イシルさん』がやって来て あの盗賊団がアザミ野の町で捕まったと教えてくれた。
『もう心配いりません』
そう言われたら、本当に心配いらないんだと思えた。
″助けてください!お願いします″
トトリの叫び
きっと『イシルさん』が トトリの言葉を聞いて 助けてくれたんだ。
カナルはまだすやすやと夢の中。
ルヴァンとトトリは 気持ち良さそうに眠るカナルの顔を見て、凄く幸せな気持ちになった。
◇◆◇◆◇
″コーン″
″コーン″
迦寓屋の朝は ニワトリの声ではなく白狐達の鳴き声ではじまる。
(う~ん、もうちょっと寝たい)
サクラは布団の中でなんだかとても気持ちよく微睡んでいる。
ぬくぬく、ぬくぬく、あったかい。
ぎゅっと包まれて 凄く安心する。
いい匂いのする布団だな。
大切に 抱きしめられているようで 心地いい。フフフ……
サクラがそのぬくもりに きゅっ と抱きつくと、それに応えるようにぎゅっと抱きしめ返してくる。
人肌、すべすべ、すりすり。
「ずっとこうしていたい……」
「僕もです」
(ん?)
布団が喋った。
サクラは微睡みから覚醒する。
「あれ///なんで!!イシルさん!?」
そこはイシルの腕の中。
隣じゃなくて 何で一緒!?
「何にもしないって言ったじゃないですか!」
「何にもしてませんよ」
「じゃあ何で///」
この状態は何だ!?
「サクラさんが自分で入ってきたんです」
「ウソだ!!」
「ウソです」
嘘かよ!!
「でも今のはサクラさんが自分でくっついてきたじゃないですか」
「それは、、そうですが……」
布団だと思ってましたから。
「眠れないとか言ってた割にはすぐ寝ちゃったし」
「うぐ、、そう、ですが、、」
「だから、僕は悪くありません」
だからの意味が通ってないですよ!?
しかもイシルさん、浴衣、、前、、前がはだけてます///
むっはぁ~目の前ムンムンですわ。
ハリといい艶といい……美肌ですね、思わず生唾ごっくんです。
「つけていいですよ」
イシルの胸元に釘付けのサクラにイシルが囁く。
え?唾ですか?
「キスマーク」
「なっ///」
「サクラさんは僕に予約されています。逆もしかりです。僕はサクラさんに予約されているんです。だから……」
″つけて″とイシルがねだる。
あほか――――っ!!
「つつつつつけませんよ///」
「ん――……残念ですね」
イシルが ふあ、とあくびをした。
「もう少し寝かせてください」
そう言って すう、と 瞳を閉じて 眠りに入っていく。
「イシルさん、寝てもいいです、いいですけど、、」
その前に
「私を離して」
イシルがチロリと目線だけを下げ、艶っぽく流し目でサクラを睨んだ。
「いやだ」
「でえっ!?」
「サクラさんも苦しめばいいんです」
(何を!?)
「毎晩……僕が、、どんなに――……」
イシルはサクラを抱いたまま すう、と、眠りに落ちた。
イシルさん、かわいいです!寝顔。
かわいいですけど、、
(離して~~!!)
サクラがもがけばもがくほど浴衣がはだけていく。
イシルの。
男っぽい首のライン、、からの~鎖骨がとってもオイシソウで……
その下は、もう、、見ちゃイカン!!
イシルの匂いに包まれて……
(クラクラする///拷問だあぁ!!)
◇◆◇◆◇
「コーン」「コーン」
迦寓屋の朝は白狐達の人化の術からはじまる。
お客様を迎え入れる準備をするために、先ずは人の姿にならなくては。
狐の姿の白狐は二本脚で立つと、印を組むため両手を軽く胸の前に出した。
狐の指は四本。真ん中の二本の指をまげ、キツネの形を手で作る。
そして、そのまま 合掌だ。両手を合わせる。
折り曲げた二本の指の背同士が合わさり、耳に見立てた立てた指と指の先端が合わさる。
右手は聖なる大地、左手は不浄なる我ら。その二つが合わさり交わったその時――
「コーン」
ひと鳴きしてくるりと一回転。
″ドロン、パッ!″
人化完了!
※人化には個人差があります。
必ずしも成功するわけではありません。
根気よくチャレンジしましょう。
ミツバは苦手だと言っていただけあり、人化するのに30分以上かかった。
ルヴァン、トトリ、カナルは着物に着替え、身綺麗に支度をすると 朝ごはんを食べる。
朝は焼き魚。鯖の塩焼きだ。
雑穀の飯に 少し甘めの汁物は味噌汁というらしい。
″ふーっ、ずずっ″
中に入っているものは この村で作られる『とうふ』と『お麩』と海の草の『ワカメ』。
柔らかな絹のお豆腐は 舌触りはつるっと、舌の上でふんわり熱々のやさしい食感。
味噌汁をごくりと飲めば じんわりと体をかけめぐって染み渡っていくようだ。
お麩は味噌汁を吸い上げて 噛むとじゅわっと味が染みだし、少し香ばしく、そこにワカメが海の香りを添えていく。
はじめて食べる味だけど、なんだかほっとする。
つけものパリパリ、干した大根とキュウリの浅漬け、素朴だが飯に合う。
鯖の塩焼きは脂がのっていて朝からこってり。
でもつけものを食べると、不思議とさっぱり。
この黄色い四角いのは卵かな?
だし巻き玉子。
これもふんわり、じゅわっと、なんだか体にしみる味。
「トトリ、おかわりするでしょ?」
ミツバがおかわりをよそいに行こうと トトリを誘う。
「いや、もうオカズ食べちゃったし」
「大丈夫!」
まわりを見ると 他の白狐達もご飯をよそいにたっている。
皆 お膳の上にオカズはない。
飯だけ食うのか?
「こうするんだよ」
ミツバはご飯をよそうと隣に異動し、味噌汁の鍋からおたまで味噌汁をかけた。
「これが、ものすごく美味しいんだ」
トトリとルヴァンとカナルは ミツバにならって二杯目の飯を堪能した。
なるほど、美味しい。
お腹いっぱい、食事が終わると少しの休憩のあと、三班にわかれ、膳の片付け、食器洗い、大部屋の掃除をして部屋を出る。
この後夕刻までこの部屋は客用になるからだ。
部屋を出るときは木の札を見て 自分の仕事を確認するのを忘れてはいけない。
今日のトトリの仕事は……
リーダーは『八雲(8)』さん。ルヴァンとカナルとは別だがミツバが一緒だ、よかった。心強い。
客が入れば担当の客の出立のお手伝いをすることになる。
布団をあげ、朝食の膳を運び、送り出し。
今はサクラ達しかいないから手順を習うためにサクラたちの部屋へ ミツバについてゆく。
サクラ達の部屋は 最奥にある『月影の間』
イシルと同じ部屋だというからびっくりだ。
サクラ、頑張ってんな。
モノにするチャンスだよ!
『イシルさん』はライバルも多くてハードルも高いだろうけど。
「僕はセイヤ様のところに朝のご挨拶に行ってくるから、『月影の間』の布団をあげて、机を戻し、朝食を運ぶ準備をしておいてくれるかな?」
「「はーい」」
ヤクモはトトリ達に指示をすると セイヤの元へと挨拶に行った。
各リーダーは朝、ゲッカ様、セイヤ様、の所に行き、ご挨拶(朝礼)を行い、一日の流れを確認するのだ。
12匹いるリーダーは 通常三匹ずつ白狐を受け持つ。
四匹一組のチームだ。
今は『ラ・マリエ』に研修に行っているリーダーもいるから、ヤクモのチームはトトリを入れて六人。
トトリ、ミツバ、ヨミ(43)の三人で布団をあげに『月影の間』に向かい、残り二匹は調理場へと向かった。
「おはようございます!サクラ」
『月影の間』の手前でサクラを見かけ、ミツバとヨミが ニコニコと挨拶をする。
サクラはおはよう、と微笑み、白狐達にアメをくれた。
トトリの手にもアメがひとつぶ。
イチゴの絵の描かれた包装紙に、ちっちゃな三角
「どこに行くの?サクラ 朝ごはんは?」
ミツバがサクラに聞く。
「ちょっとシャナさんの様子を見に『星瞬の間』に、、昨日酔って寝ちゃったみたいだから、ウコンのパワーを差し入れに」
うこんのぱわあ?
なるほど、サクラの手にはなにやら飲み物らしき瓶が握られている。
見慣れない文字の書かれた瓶だ。
「イシルさんはお部屋に?」
「髪を編んでたよ。着替え中かな」
「わかりました、お気をつけて」
トトリ達はサクラを見送ると『月影の間』へと入った。
部屋に入ると、布団を……あれ?布団がない。
軽く部屋を掃除し、テーブルをセットする。
湯を沸かし、お茶の準備をして、隣の部屋で支度中であろうイシルに 襖越しに声をかけた。
「お布団をあげにまいりました」
ミツバが声をかけると『どうぞ』と中から返事があった。
「失礼します」
襖を開け中にはいると イシルが身支度を終えたところだった。
あれっ!布団がここに二組ある。
なんだ、サクラうまくいってんじゃん。
ヨミが窓を開け 外の空気を入れて ミツバとトトリが布団をあげる。
「サクラさん?」
イシルが隣の間を覗いて不安げな声をあげた。
サクラが いない。
「サクラならさっき 星瞬の間へ行きましたよ、シャナさんの様子を見に行くって……」
イシルはミツバの言葉を聞き終わる前に 部屋から飛び出した。
(ここはヨーコの領域、ヨーコの支配下にある、だから、問題ないとは思う。だけど……)
イシルの胸に不安がよぎる。
あまりにも今朝が幸せすぎて……




