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312. イシルの盗賊捕物帖 (下)

前話長すぎたので分けさせていただきましたm(_ _)m

イシルさんのモノローグを捕獲後に加筆しました(2/3)


本日分は後程お届けいたしますね!


話が一段落したところで 先程の門番がお茶をもって入ってきた。


先程の緊張とはうってかわり、打ち解けた様子で 門番が持ってきたお茶を飲みながらイシルはハイドンに盗賊団の情報を流す。


「盗賊は全部で6人です。老人、、これは細工師でしたね。女の踊り子と、男が三人戦士、剣士、シーフです。一番厄介なのが魔法使いでしょう、支援魔法を使うようです。従魔としてトカゲの魔獣『スクアーマー』がいました、、おや?」


イシルはハイドンの腰に下がる御守りに目を止めた。

警備服には似つかわしくない飾りは 一目で手作りとわかる。

ファンシーだが、少し形の崩れた御守りの表面には、子供らしい字で『安全祈願』とやきつけてあった。


「その御守りは子供の手作り、ですか?」


イシルがハイドンに聞くと、お茶を持ち、盗賊の特徴を記入していた門番が『あちゃー』という顔をした。


「よく気がついたな!」


ふにゃあっ と、ハイドンの顔が蕩ける。

満面の笑みだ。


「うちの娘は七歳になるんだがな、裁縫が得意なんだよ!七歳にして、凄いだろう!!」


「凄いですね」


門番が微妙に苦笑いをしている。

この様子では日頃散々娘自慢を聞いているのだろう。


「この中にはな、、」


ハイドンが御守りの中からカサカサと紙を取り出し、開いて見せた。

紙には大きな四角が書いてあり、その中に丸が二つ。

丸の上には()()がはりつき、丸の下には下には三角がひとつ、三角の下には()()()がはりついていた。

そして四角全体を囲む黒いギザギザ、、髪とヒゲ?


その横には『おとうさんがんばって』と書いてあった。

ということはこの奇妙な絵画はハイドンの似顔絵。

どうやらハイドンの娘は絵心はないらしい。


「どうだ?似てるだろう?」


そんなことはおかまいなく、ハイドンは上機嫌でイシルに聞く。


「そうですね、ちゃんと目が二つあり、鼻があって、口があります。髪もヒゲも忘れずに描いてあります……眉がよく特徴をとらえていますね」


「だろう~?」


眉しか誉めてませんよね?と、門番が言いたそうだ。

それでもハイドンはニマニマと愛しそうに似顔絵を見つめ、大事そうにたたんで御守りの袋に戻した。


「そういえば、盗賊団は 子供を使って悪さをしていましたよ」


「何っ!?」


イシルの言葉にハイドンの顔色が変わった。


「保護しましたが、カナルは貴方の娘と同じ七歳でしたね……トトリには殴られた痕もありました」


「許せん……」


子は宝だ。

幼い子供を利用するとは、、


「お前が盗賊団を捕らえたいと言った意味がよくわかったよ」


ハイドンの父性が燃え上がる。


「そろそろ盗賊の馬車が到着する頃ですね」


「おう!俺に任せておけ!絶対にキングサリに送り込んでやる!!調べ尽くして、、刑期も最大限に、、」


ハイドン ヤル気満々!


「お願いします」


イシルはハイドンを焚き付けると、町の外で盗賊の逃げ道を塞ぐために待機する部隊と共に 表へ出た。





◇◆◇◆◇





″はあ、、はあ、、″


マフガインは森の中を逃げる。


アザミ野に入ったとたん、縄をかけられた。

アザミ野の警備隊は自分達の事をよく知っているような戦いかたをした。

一番はじめに女達を仕留め、魔法は封じられ、いつもの強化の力をもらえなかった。

トカゲの支援も得られない。

マフガインは奥歯に仕込んであったとっておきの魔法具を噛んで転送を発動させ なんとか町の外に出ることが出来たのだ。


なんでバレた?

ガキがいねーから旅の家族に見えなかったのか?

くそっ、無理やりにでもガキを一人連れてくるべきだった。

しかし、なんだってあんなに簡単に盗品の隠し場所がバレたんだよ!?

まるではじめから 盗品があるってわかってた風じゃねーか!

しかもあの宝剣はなんだ!?

覚えがねーよ!


とにかく、今は逃げないと……

月も見えない暗がりの森の中をマフガインはがむしゃらに走る。


「仲間を置き去りですか、とことん救えない男ですね」


マフガインのすぐ後ろで声がした。


「ひっ!」


反射的に剣を振り下ろすが 剣はただ空を斬る。

誰もいない。


″ガツッ″


「うっ!」


姿は見えないのに頬を殴られ、マフガインは木にぶち当たり しこたま腰を打った


「いつっ、、」


腰を押さえつつ振り返るが やはり誰もいない。

あるのは暗闇、木の影ばかり。


「だっ、誰だ!出てこい!」


さわっ、と風が草を揺らし、頬を撫でて通りすぎていく。

あまりの静けさに ぞぞっ、と 背筋が凍った。


″ガツッ″


「ううっ!」


背中に衝撃が走り、マフガインはそのまま前に倒れこんだ。

そして、耳にはいる涼やかな声。


「今まで何発殴ったんですか?」


美しいが刺すように冷たい声だった。

瞬間、


腹に激痛――


(ぐわっ、、)


「こんなもんじゃないですよね?」


胸に――


「あの子達の痛みは」


脇に――


「体の痛みも……」


足に――


「心の痛みも……」


顔に――


全身が悲鳴をあげる


(い、いてぇ、、助けて……)


一発で意識を失わせてくれれば楽なのに、相手は弄ぶように 這いずり逃げるマフガインを追いつめ、痛めつける。


(俺は()()の怒りをかったんだ……)


まったく姿が見えず、恐怖そのものに襲われているようだ。


「誰だ、、お、まえ、、」


体も限界だ。

顔が腫れ、目もよく開けられなくなった頃、マフガインの前にぼんやりとした人の影が現れた。


のさばる悪を何とする 天の裁きは待ってはおれぬ

この世の正義もあてにはならぬ 闇に裁いて天誅を下す

(必殺シリーズより)


「名乗るほどのものでは御座いませんよ」


南無阿弥陀仏


″ガツッ″


聞きなれない言葉と共に マフガインは最大の痛みを受け ようやく闇に落とされた。




◇◆◇◆◇




「……そいつが一番ボロボロじゃねーか」


ずるずるとイシルに引きずられてきたマフガインを見て ハイドンは呆れた調子でぼやいた。


「逃げるからですよ」


「俺は何があってもお前さんだけは敵にまわさないと誓うよ」


ハイドンが盛大な嫌みを言ってきた。


他の盗賊達も傷をおっていたが、ボロ雑巾のようになったマフガインを見て 盗賊達は 逃げなくて良かった、早目につかまって良かったとおかしな気分になった。


「お前、アザミ野に住む気はねーのか?」


ハイドンはイシルを気に入ったようで、一緒に仕事がしたいと誘って来た。


「いえ、待っている人がいるので」


「そうだったな、じゃあ酒くらい呑んで行かねーか?メシもまだだろ」


名残惜しそうなハイドンに イシルは笑顔で答える。


「今すぐ会いたいんです」


今すぐ会って抱きしめたい。

無事で良かった、その存在を嫌というほど感じたい。


そして、ちゃんと謝りたい。

サクラがこのペンダントをどんなに大切にしてくれていたか……


サクラと別れてから気がついた ペンダントの後ろのキズ。

そのキズは魔法で故意につけられたものだった。

刻まれた形は『月』

月の通り名はイシル。


後ろの月のマークが何を意味するのか、

考えたら胸が張り裂けそうなほど切なくなった。

愛しくなった。


そしてイシルは最速 最短のスピードをもって迦寓屋(かぐや)へと返ってきた。





「と、いうわけです」


イシルがサクラと並んだ布団の中で 盗賊団捕物の一部始終を話終えた。


「……だから、ルヴァン達が盗賊団に連れていかれる心配はありません、安心してくださ――」


「すかーっ」


「……」


イシルの話の途中でサクラは寝落ちしていた。


「眠れないはずではなかったんですか?」


こうなるとは思っていたけれど。


イシルは 相変わらず開いているサクラの口を閉じさせ、サクラの寝顔に問いかける。


「会いたかったのに」


イシルは布団をめくると サクラの体を引き寄せ、自分の布団の中に迎え入れた。


(安らかな寝顔しちゃって)


きゅうっ、と抱きしめると、心が満たされ、やっと安心を得られた。


「頑張ったんですよ、僕……」


腕の中にサクラがいる。

サクラのぬくもり、匂い、柔らかなその存在をかみしめる。


サクラが暖を求めイシルにすり寄る。

イシルはそんなサクラに満足げに 背を抱き頭を抱いて包み込んだ。


(無事で良かった)


サクラの頭に頬を寄せ 頭を撫でながら 幸せな()に身を委ねた。


そして、心地よい眠りへと。


ずっと こうしていたい


ずっと……


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